転生!!奇妙な冒険   作:パス太郎

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愛と憎しみの引力①

ベッドでうなだれながら、俺は特に見てもいなかったテレビの方に視線を送る。テレビの中では、朝のニュースが報道されていた。特に面白味もない普通のニュースだ。アナウンサーは、にこやかに新学期について語っている。しかし、俺の気を紛らわせるような内容ではなかったのでチャンネルを変えていく。朝のドラマ、教育番組、天気予報、どのチャンネルもこれと言って興味を引かれる番組はやっていない。俺は再びテレビから視線をはずす。

 

そして、俺は枕元に置いてあった手帳を取り、『4月7日限界』と書きなぐった。

 

 

 

 

「やっぱり、しっかりと食べないと元気が出ない!」

 

俺は新鮮そうなニンジンを手に取りながら、そう言った。周りを歩いていたおっさんが、いきなり大声を出した俺のことをじろじろと見てくるが、テンションの上がった俺は特に気にしない。

 

にんじんを買い物袋に戻し、かなりハイな気分で、道を歩いていく。

 

矢と出会ってから、今日まで俺はずっと家にこもりっぱなしだった。理由は、矢を持っているあの男に出会わない為である。もしあの男と再会してしまえば、当然のごとく戦闘になり、そして今度はどちらか一方が戦えなくなるまで戦闘は続くだろう。俺が勝ったとしても、負けたとしても物語が変わり、目的が果たせなくなってしまう可能性が出てくる。それは何としてでも避けたかった。

 

だがしかし、家に引きこもった俺に厳しい試練が待ち構えていたのだ。

 

その試練とは食糧難。なんと、我が家には、500mlのコーラが一本しか食料がなかったのである。

 

波紋のおかげで、普通の人よりも空腹を我慢できるとはいっても、俺は男と戦って疲れていたし、何よりも俺の体は成長期なのだ(精神的に生きた年数はもうすでにおっさんと言っても差し支えないが)。そんな食べ盛りな俺の体が厳しい断食に耐えられるはずもなく、学校開始まであと2日と迫った今日、ついに、外に出てきてしまった。後悔はしていない……少ししか。

 

スタンド使いはお互いがお互いを引き付ける性質を持つ。ゆえに外を歩いたらスタンド使いと出会ってしまう可能性があるのだ。よってこの外出はかなり危険だろう。

 

「すみませーん!」

 

いきなり後ろから声が聞こえ、若干不安になってきていた俺は聞き覚えのない声に驚き、少し体がびくっとなった。

 

「足元よろしいですか?」

 

俺は自分の足元に視線を落とす。そこには一枚の紙が落ちていた。どうやら危うく踏んでしまうところだったらしい。俺は足元の紙を拾い上げ、紙を持ったまま声をかけてきたやつを見る。

 

俺に声をかけてきたのは、金髪の外国人っぽい顔つきをした男だった。

 

身長は大体180かそこらで、年齢はおそらく俺と一緒か少し上ぐらい、整った顔立ちをした、まさに好青年といった感じだ。男は俺が拾った紙と同じものをいくつも持っている。きっと、チラシ配りか何かをしているんだろう。

 

「あ、よかったら1枚どうですか?」

 

やはりチラシ配りをしていたようで男はそう言った。

 

「じゃあ、もらいます」

 

もらえるものはもらっておこうと思い、俺はそういってから、その紙に意識を向けた。

 

内容はどうやらスーパーの特売情報とか、怪しい宗教団体への勧誘とかではなく、人探しのようだ。

 

紙には情報求む!!とでかでかと書かれており、探し人の大雑把な情報と、とても丁寧な似顔絵が描かれていた。思いっきり手書きであったため、目の前の外国人風の男が描いたのであろうかと思ったが、きれいな字の日本語で書かれているので違うのかも知れない。そんなことを考えながら、俺は内容を読んでいく。

 

 

 

 

 

俺の思考が一瞬凍りついた。

 

 

 

 

 

俺は紙をたたんで買い物袋に入れると、その場から離れていく。とにかく今は、ここにいるのはまずい。

 

家路とは違う曲り道を曲がり、俺は歩くスピードを速めるのであった。

 

 

 

「くそッ!!覚悟はしていたが早すぎるだろう!!!」

 

誰もいない公園でベンチに座りながら俺は焦りといら立ちを感じてそう言った。

 

男が配っていた紙にはこう書かれていた。

 

情報求む!!名前 ディオ・ブランドー。特徴 身長195㎝程 金髪で首の付け根に星形のあざがある。

 

名前から判断はできないが、特徴と似顔絵からはっきりとわかった。男が探しているのは、物語の登場人物、それも最重要人物の一人と言っていい男だ。そんな男が、チラシ配りなんかで捜索されている。これは、俺が最も恐れていたことの一つが現実となってしまったことを物語る、確固とした証拠だった。

 

紙に書かれている男―――ディオ―――に因縁の持つ人間が数多く集まるこの町であんなものを配れば、誰かしら接触してくる可能性はほぼ100%だ。例え、だれも接触してこなくても、俺の知る物語での話題に上がらないことはありえない。むしろ、ディオを直接殺した男なんかは最優先でチラシについて調べるだろう。

 

よってこのチラシは、俺の知っている物語には存在していなかったもの。つまり、イレギュラーである。そう俺は結論付けた。

 

はっきり言って、この状況はまずい。まずすぎる。

 

このイレギュラーが、1カ月、2か月後に起こってくれれば俺もうまく対応することができていただろう。しかし、時期が早すぎた。何の対策もとれていない上に、このタイミングでのイレギュラーは、物語の歴史を、大きく変えかねない。最高に最悪のタイミングであるといえよう。

 

何としてでもチラシを配るのをやめさせなければならない。どんな手段を使っても、俺の目的のために、たとえ人を………

 

「ヤァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

俺が決意を固めようとした寸前。耳をつんざく奇声が発せられる。それを聞いた瞬間、俺はベンチから離れる。

 

ブォンという風を切る音と共に青い物質が俺の体をかすめるが、何とか逃げ切った。

 

またベンチで襲われるとは……前世で小学生の時バス停のベンチに落書きしたのが悪かったのか?

 

そんなことを考える俺の目に明らかに普通ではない物質が映る。

 

人型だがあまりに青すぎる体、まるでバッタの様な顔と体にくっついている大小合わせて10個ほどの円盤。間違いなくこれはスタンドだ。そしてそのスタンドは、今度は先ほどの奇声ではなく、ちゃんと意味を持った言葉を発した。

 

「躱した?まさかテメェ見えてやがるのか?俺の『ヘイト・オン・ミー』が!!」

 

ヘイト・オン・ミーと名乗ったスタンドは俺の方を見ながらそう言った。いかにも悪党って感じの声だ。しかし、悪党っぽい声という印象以上に俺は気持ち悪いという印象を強く受けた。考えてみてほしい、人の頭と同等の大きさの青いバッタっぽい顔の口のところが言葉に合わせて開閉しているのだ。そこまで虫が好きではない俺にとってこれはきつい。

 

「その表情…どうやらマジで見えてるみたいだな!!!」

 

「だったらどうだっていうんだよ、この偽ライダーが!!!」

 

ヘイト・オン・ミーもとい偽ライダーは何か楽しそうに叫んでいるが、俺はその気持ち悪さに叫んだ。ていうか、もうマジでしゃべらないでほしい、見ているだけで吐き気がしてくる。

 

「いやぁ、ただよ。いつもより楽しくやれんなと思ってな」

 

「いつもだと?」

 

偽ライダーはにやっと笑う(気持ち悪い)と口を開いた。

 

「いつものわけわかんねーって顔でくたばるゴミよりも、こうやってどんなものにやられるか見えてるゴミの方が表情が数倍おもしれーんじゃねぇかと思ってたんだよ。俺は」

 

「……なるほど。吐き気がすんのは顔だけじゃねーってことだな。このくそバッタが」

 

俺は偽ライダーもといくそバッタに対して戦闘態勢を取った。

 

「こいよ。ぶちのめしてやるぜ」

 

「そいつは楽しみだなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

くそバッタは叫びながら突進してくる。だがその動きは直線的でしかも遅い。おそらくこいつの本体は喧嘩慣れすらしていないのだろう。

 

おれは突進を悠々と躱すともっていた買い物袋に手を突っ込んだ。そこから取り出したのは油。ちょうどさっきスーパーで買ってきたお徳用だ。

 

俺は油をくそバッタにぶっかけた。そして、素早く呼吸をする。

 

「波紋疾走オーバードライブ!!!」

 

波紋は油にしっかりと流れた。しかし、

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

くそバッタには効いていないようだった。

 

俺は一度舌打ちした後、くそバッタの攻撃を避ける。

 

「なんだぁ!?その花火はよぉ!!痛くもかゆくもねえぜ!!!!」

 

「そうかよ!!じゃこれはどうだ!!!」

 

俺は買い物袋をくそバッタに向かって放る。買い物袋は中の野菜たちが生命磁気への波紋疾走によりお互いが強くくっついていることから、中のものが外に出たりすることなく、宙に舞ってくそバッタの視界をふさいだ。

 

山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!!」

 

俺は買い物袋ごとくそバッタを殴る。メメタァという音と共にくそバッタの方だけに波紋とダメージが行くはずだったが、くそバッタは全く気にした様子もなく俺に腕を伸ばしてきた。

 

バックステップでそれを回避しながら、買い物袋を回収する。

 

「(やっぱりどうやっても波紋だけじゃダメージは通らないか)」

 

スタンドには触れるがダメージは入らない。スタンドはスタンドでしか倒せないということを、今更ながら、俺は実感した。

 

「きかねーつってんだろうがッ!!」

 

「……そうみたいだな。じゃあ作戦を変えさせてもらうぜ」

 

俺はくそバッタを睨みつける。くそバッタは余裕そうに構え、俺の攻撃を待っているようだった。

 

しかし、俺はそんなくそバッタを無視して一目散に逃げ出す。

 

「なッ!!きたねーぞ!!!」

 

「汚くて結構!!あばよ、くそバッタ!!!」

 

俺は高らかに笑いながら走り続ける。バット・カンパニーには普通に追いつかれたが、スピードのないくそバッタが俺の鍛え抜かれた逃げ足に敵うはずもなく、くそバッタとの距離はみるみるうちに開いていった。後ろで、ずっとくそバッタが何か叫んでいたが、完全無視で俺は近くの林へと入っていく。

 

「ゴミが、どこいきやがった!!!!!」

 

林の奥に潜む俺までもが、耳をふさぎたくなるような大声で、くそバッタは叫んでいる。近所迷惑な奴だ。まあ、スタンド使い以外には聞こえることはないのだが。

 

10分か15分ほどした後に、くそバッタの声は聞こえなくなった。

 

「(やっと行きやがったか。あと少し経ったらこの林から出よう。そんで、またひきこもるか……くそ!スタンドさえつかえりゃあのくそバッタをぶっ倒せるのに!!)」

 

もっとも、俺にスタンドはまだ使えないし(たぶんいつか使えるようになるはず)、使えたとしても戦えない場合もある。ないものねだりはやめよう。

 

2分ほどその場にとどまり、辺りに注意を払っていたが、くそバッタらしきものは来なかったので、俺は立ち上がる。いや、立ち上がろうとした。

 

「うげっ!」

 

俺は、いつの間にか足に絡まっていたロープに足を取られ、転んでしまう。

 

「いてて……なんでこんなところにロープが?」

 

ロープを足から取ろうとした瞬間、ロープは逆に思いっきり俺の足に絡みついた。その力は明らかに普通じゃない。これはおそらく、

 

「くそバッタの能力か!!」

 

ロープはまるで蛇が獲物を絞め殺すときのように強く俺の足に絡まっている。まるで、ロープが自らの意思を持ち、俺を殺しにきているようだった。

 

このまま足の骨が折れるのは勘弁してもらいたい。俺は右手の人差し指と中指に、波紋を集中させる。

 

波紋指突疾走(スタブオーバードライブ)!!!」

 

指先に一点集中させた波紋は、まるで達人の手刀のごとくロープを断ち切った。そして、切れたロープを素早く俺は放り投げ、様子を見る。どうやら少なくとも、元の大きさの半分以下にしてしまえば、動かなくなるようで、分断されたうちの、長い一方だけが、再び俺に向かってきた。

 

そこにすかさず、俺はもう一発波紋指突疾走を入れて、ロープをまた断ち切り、放り投げる。どうやら、もう動かないようだ。

 

「めんどくさい能力だな、あのくそバッタ」

 

俺がため息をついたその瞬間、油断した俺の首にさっきよりもずっと太いロープが巻きついた。

 

「うぐッ!!」

 

首を絞められ、呼吸ができなくなる。

 

「(しまった、息が…波紋の呼吸ができない!!)」

 

ロープをどうにかしようともがくが、とても腕の力だけで切れるような太さじゃない。体に蓄積されている波紋は、首の骨を折られないようにするのが精いっぱいだ。

 

「(まだ何もできてないのにこんな所で終わっちまうのか?)」

 

俺の頭に、さまざまな記憶がよみがえる。前世の記憶、逆手の男、家族、じいさん、修行の日々。

 

まだ終われない、終わってなどたまるものか。

 

死が間近に迫ったその時だった。

 

 

 

 

 

『お選びください』

 

 

 

 

 

そいつはいつの間にかそこにいた。だが、いつもそこにいたような気もした。

 

 

 

 

 

『どれかお選びください、サカエ』

 

 

 

 

 

そいつは紛れもなくスタンドで、そして紛れもなく俺だった。しかし、

 

「(ス、スタンド。おれのスタンド……でも、だめだ。だめだった)」

 

スタンドが発現し、そしてそれを認識したからこそ、理解できた。目の前に立つ俺のスタンドは、あまりに小さく、そして力もない。また、その黒い体は人型で、鋭い爪があるわけでも、剣を持っているわけでもない。首に絡みつくロープをこのスタンドはどうすることもできないということを。

 

俺の全身から力が抜け始め、意識が朦朧としてしてくる。どうやら本当にここまでのようだ。目の前にいたはずの人影もいつの間にかいなくなっている。もうどうすることもできない。

 

「(ごめんな…みんな)」

 

死の覚悟を決めた俺の右腕が、突然跳ね上がる。まったく意図しない行動に、朦朧としていた俺の意識が一瞬覚醒する。

 

そして、どういう訳か首にまきついたロープの力がなくなった。

 

俺は激しくせき込みながら、酸素を取り込む。まさに、九死に一生を得た気分だ。

 

咳をしながら辺りを見回すが、スタンドらしきものはいない。

 

代わりに俺の右手に真っ黒なナイフが一本握られていた。どうやらこのナイフが俺を助けたようだった。そしてこれが、俺の力であることを、俺は何の疑問もなく理解する。

 

強く念じるとナイフは先ほどの小さなスタンドに変わった。そして再び念じればナイフになった。

 

俺は手の中のナイフを見つめ、それを強く握りながら、笑みを浮かべる。

 

さあ、反撃開始だ。

 

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