私が駆けつけた時、お父さまとマイテさまは、花壇の土の上にひざまずいて頭を下げていた。
「魔王さま、わたしたちは、ここで平穏に毎日庭の手入れをして過ごしています。ブレストピア国を再興しようなどという気持ちも、盟主国の加護を求めて亡命しようという気ももはやありません... ですから、わたくしはどうなっても構いませんから、なにとぞデルンさまとルナレイラとカレブにだけは何もしないでくささいっ!」
マイテさまが、必死にルナレイラお
「お父さま、お母さまっ!?」
「!」
ルナレイラとカレブは茫然としていたけど、次の瞬間、ルナレイラお
「お願いです!私はどうなっても構いませんっ。お父さまとお母さま、それに弟のカレブとお父さまのほかの家族を処刑なさらないでくださいっ!」
そう言うと、ルナレイラお
カレブはびっくりして、ルナレイラお
そこへ駆けつけたお母さまも、身を張ってお父さまとマイテさまとルナレイラお姉さまを守ろうとした。
「お願いですっ!デルンさまとマイテさまとルナレイラとカレブのお命をお救いください!」
「この私を代わりに処刑してくださいっ!」
私も、どういうわけか、反射的にそう叫んでお母さまの横に並んだ。
直後に、“あれっ、やっちゃた―!これで、わずか14歳の乙女は花と散るのね…”なんておセンチな考えが頭をよぎった。
「いえ、みなさまの代わりに、私を処刑してください!」
すると、今度は遅れて来たモナさまが、みんなを守ろうとしているじゃない?
「わ――ん!誰も処刑しないで――っ!」
何が何だかわからなくなって、私は大声を上げて泣きだして
「え――ん!お母さまもお姉ちゃんも誰も殺さないで――っ!」
ビアも私とお母さまにしがみついて泣き出した。
「みんな静かになさいっ!」
魔王一行の先頭にいた、騎士の恰好をした見るからに怖そうな女性が叫んだ。
その女性は、紫がかった青い髪をもつ美女で、騎士のように全身鎧を着ているけど、明らかに高貴な方だというのが、美しい装飾がされたすごく高そうな鎧やマント、それに腰に下げている立派な剣などからわかった。
種族はエルフみたいだけど耳が短い。変異エルフなのかしら?
「ひっ!」
「きゃっ、アマンダさまが怒った?」
ほかのやはり高貴そうな女性たちが驚いている。
いかにも怖そうな女性は、アマンダさまという名前みたい。魔王もツノを生やした鬼人貴族も、みんな驚いていた。
それほど、その女性の声は迫力があったの。
それにしても、魔王って...
頭から黒く長いツノを生やし、真っ赤な目と口からはみ出る鋭いキバを持ち、その顔を見ただけで大の男でも震えて動けなくなり、女はおもらしをしてしまうとか聞いていたけど?
目の前にいる魔王って――
肩まである金髪にすみれ色の瞳。
ピンクの唇に白い肌の色。
エルフにしては短い耳。
なに、これが本当に魔王?
すっごく美男子なんですけど?
この人が魔王ってウッソでしょ――!?
同行の鬼人族の貴族の方が、よっぽど魔王らしいんだけど?
まさか、本当の魔王は後ろにいるその鬼人で、金髪美男子のこいつは魔王の影武者じゃないの?
魔王の後ろにいる女性たち―― いずれも、すごく美しい女性たちだけど、彼女たちも鎧をつけたり、男みたいなトラウザーを履いたりしている。
ドレス姿なのは、鬼人貴族に腕をからめている鬼人族の女性をふくめて数人だけ。
「みんな、落ち着くがいい。私がここにやって来た理由は、ゲネンドル王の処刑でも、ましてや王妃や王子、王女たちの処刑でもない。私はここにいる誰も処罰するつもりはない!」
魔王は、厳然と言った。
それを聞いてみんな安心した。お母さまは気が緩んだのか、地面にペタンって座りこんでしまい、同じく座りこんでしまったモナさまと抱き合っていた。
そして、私も緊張が解けたからか、またお腹がキュ~グルグル…と鳴りはじめ、便意を催した。魔王の前で粗相でもしようものなら、頭を(いや、オシリか?)を、あの怖そうなアマンダさまに剣で切られそうなので――
「し、失礼!ト、トイレに行って来ますっ!」て叫んで、
魔王もつきそいの高貴な女性たちも、護衛の兵士たちも、私が土埃をあげて塔の中に駆け込むのを茫然として見ているのを背中に感じた。
あ~、恥ずかしかった...!
それにしても、魔王、いえ、処刑されてもおかしくない、お父さまと私たちを処刑しないと言ったのだから、これからは敬意を表して“魔王さま”と呼ぶことにするわ。
トイレから出て、今度はちゃんと手を洗って、何でもなかったようなすました顔でお庭にもどった。
そして、あらためて魔王さまをよく見たんだけど――
魔王さまって少しも怖い感じがしないのね。聞くのと見るのとでは大違いね。アマンダさまの方が“魔王”って感じ。
あ、これ、アマンダさまに知られたらヤバいわ(汗)。
とにかく、魔王さまって怖そうなのは名称だけで、とにかく美しい男性なの。
女性のような美しい金髪。
すみれ色の澄んだ瞳。
ピンク色のやや薄い唇...
あのピンクの唇でキスされてみたい...
ゲゲっ!とんでもない妄想をしちゃったわ。
魔王さまご一行を塔の中にご案内して――
と言っても、とても魔王さまやごいっしょの高貴な方たちをお迎えできるような場所ではないのだけど、ほかに適切な場所もないしね。
塔の中の質素だけど、けっこう広いリビング兼ダイニングで魔王さまに、あらためてヤーダマーの塔に住んでいるゲネンドル家の全員が紹介がされた。
元ブレストピア国王 デルン・リッグラム・ゲネンドル 34歳 (
元第二王妃 マイテ・タイース・ラドリン 33歳 (エルフ族)
長女 ルナレイラ・ジュリエッテ・ゲネンドル 17歳(エルフハーフ)
長男 カレブ・リッグラム・ゲネンドル 16歳(エルフハーフ)
元第三王妃 ラーニア・セリナーユ・アイヴァー 32歳 (
長女 (私)アリシア・マリーナ・ゲネンドル 14歳(
次女 ビア・エレオラー・ゲネンドル 12歳(
元第四王妃 モナ・シベーレ・ジェニヴィエルブ 26歳 (
長男 ジオン・リストエル・ゲネンドル 8歳 (
長女 キアラ・ノアステラ・ゲネンドル 4歳 (
ほかに侍女3人と使用人が2人。
「そう... ここには、ゲネンドル王と第二王妃、第三王妃、第四王妃とその子どもたちが、いるわけですか?ならば、第一王妃はどうしたのですか?」
当然とも言える質問をアマンダさまがした。
そこで、マイテさまが、お父さまには五つ年下のクレメアという美しい王妃がいたけど、三人目の子どもを産む時に難産で母子とも死んでしまったこと。その後、クレメア王妃の遺児で長男のジルド王子と次男のクリュード王子を相次いで病気で亡くなったことを話した。
「わたくしは、クレメア王妃さまを失くされて悲しまれていたデルン陛下をお慰めする役目―― つまり愛妾となることを申しつけられた侍女でした。出身は中級の貴族でございます。その後、娘のルナレイラが生まれた時に、デルン陛下のご温情により、王妃に取り立てられ、現在にいたっております」
「わたくしも、侍女から陛下の愛妾になり、デルン陛下のご温情から、第三王妃に取り立てられた身で、出身はマイテさまと同じく中級貴族でございます...」
お母さまも出自を明かした。
「わたくしも、マイテさま、ラーニアさまと同じく、陛下の愛妾から第四王妃となった者でございます。出身は、男爵家でございます」
最後にモナさまが出自を明かされた。
まあ、王が侍女に手をつけるっていうのは、王族の間ではごくふつうにあることって聞くし、侍女って言うのも家柄がよく、顔だちがよくないと王宮に上がれないので、王宮には美女がそろっているというのも事実だし。
そんな“美女に囲まれた生活”をしていると、王でなくても男なら美女の一人二人は抱いてみたくなるってものよね...?
まあ、お父さまは、けっこう人がよくて優しいから、自分の子ども(ルナレイラお
お母さまが以前お話してくださった話では、
その後で、お母さま、モナさまとも結婚式をされて、第三王妃、第四王妃になったって。
「よくお話してくださいました」
マイテさま、お母さま、そしてモナさまにお礼を言ったアマンダさまの声、なんか涙声みたいだった? 何か似たような経験のある女性でも知っているのだろうか?
「ゲネンドル王と王妃さまたちの身上は、よく理解できました。そこで、わたくしたちも、今日魔王さまがここにいらした本当の目的についてお話します」
そう言って、魔王さま降臨の理由を話しはじめたアマンダさま。
「......というわけで、魔王さまは、ゲネンドル王の王女さまにご関心がおありになのです。そこで、もし、ゲネンドル王と王妃さま方がご同意されるなら、王女さまを魔王城に迎えたいと考えているのです」
一通りの説明をし終わってから、紫っぽい青色の髪を持つ怖そうな美女・アマンダさまは、ルナレイラお
「.........」
「.........」
「.........」
唐突な話に、お父さまもマイテさまもルナレイラお姉さまも、ほかの者も沈黙してしまった。
そりゃそうでしょ。魔王さまが、ルナレイラお姉さまに関心がある?
それって... 魔王さまの側女したいってことでしょ?まあ、没落王族の元王女だから、側女にしてくれるって言うだけでもお父さまにとってもマイテさまにとっても願ってもない話なのだろうけどね......。
「ルナレイラ王女さま、あなたは魔王さまの15番目の妻になる覚悟はありますか?」
単刀直入にアマンダさまが訊いた。
「え、15番目?.........」
ルナレイラお
私は、魔王さまが、ルナレイラお
「それは、つまり...... 魔王さまの第一王妃はこの私。プリシルが第二王妃でリリスが第三王妃。ハウェンが第四王妃で、あとは省略して...... 一番端にいるヴァスマーヤが第十四番目の王妃なのです。だから、もし、あなたが魔王さまの求婚を受け入れて、妃となった場合は、あなたは魔王さまの第十五番目の王妃になるというわけです!」
「アマンダさま、ヒドイ!あとは省略なんて!」
「そうですわ。ちゃんと序列を紹介してください」
「そうですわ。わたしは4番目のアンジェリーヌ...」
「私が5番目のジョスリーヌ...」
「静かになさい!」
水色の髪の、いかにも姉妹らしいエルフの高貴な女性たちが、口を尖らせて文句を言ったけど、アマンダさまにピシッと言われて黙ってしまっちゃったわ。アマンダさまって、本当に怖い方。
ルナレイラお
もう一人若い鬼人族の女性がいたけど、その女性は鬼人の若い貴族―― デュドル公爵という方だそう―― にベッタリなので、どうやらその貴族さまの夫人のようなので、魔王さまの王妃のうちの一人は来ていないということなのだろう。
“ルナレイラお姉さま、魔王の奥さんになんてならないで...”
心の中で懸命に祈った。お
「お父さまの家族の安全を保証してくださるのなら、私は15番目でも20番目でも構いません」
何とルナレイラお
信じられない!お
「いや、あなたは15番目よ。20番目は......」
アマンダさまが訂正しかけた時、魔王さまが遮りました。
「20番目まではいかないだろうが、もしかすると18番目くらいは行くかも知れないな」
そして、目を細めて、ドアの近くにいた“私”とビアを見たの!
「え?」
「ええっ?」
お母さまとモナさまが、私たちを見た。
“え? 魔王は何を言っているの?”
お母さまとマイテさまとモナさまは、魔王さまの言葉の意味がわかったみたい。
だけど、私も妹のビアもキョトンとしていたわ。キアラちゃんはとなりに座っているジオン君と肘をつつきあって遊んでいた。
お父さまもお母さまたちの反応を見て理解されたらしく唖然としていた。
え――っ、なに、なに?
なにがどうなっているの?誰か早く教えて!
「よろしいですわ。それでデルンさまとマイテさまの安全が保証されますのなら!」
お母さまが、魔王さまの目を見てきっぱりと言った。
すると、おどろいたことに、モナさまが突然話し出した。
「アリシアさんとビアさんの身代わりに、わたくしを連れて行ってくださいませんか? この二人はまだ若すぎます。二人の代わりに、わたくしで宜しければ、魔王さまにお仕えいたします!」
ええええ―――?
これには、本当にびっくりしたわ。モナさまが、身代わりを申し出るなんて考えもしなかった!
「モナさん、それは駄目です。あなたには、デルンさまと可愛い子どもがいるでしょう?」
お母さまが少し慌ててモナさまの翻意を促した。
「モナ王妃さまの申し出は保留しておきます。あとで別の提案があるやも知れませんので、モナ王妃さまは心の準備はしておいてください。アリシア王女さまとビア王女さまは、ゲネンドル王さまとラーニア王妃さまがご了解されたと言うことで、移り住む準備が終わり次第、魔王城に住むことになります」
アマンダさまが、そう結論されて...
オ ・ ワ ・ リ 。
この時に、私とビアの運命も決まってしまった。
魔王のヤーダマーの塔に降臨の理由は、お父さまや私たちを処刑しに来たのじゃなくって、どうやら美女の噂が高いルナレイラお姉さまを魔王の後宮に加えるために、確認に来たのだとわかった。
「ルナレイラ王女はたいへん美しい。私の妻にふさわしい美貌と教養をもっているようだ。それに、アリシア王女とビア王女も、それぞれ母親に似て結構美人だ。将来、私のよき妻になれるやも知れない」
それまで、アマンダさまがだけが話していたんだけど、すべてが決まった後で魔王さまがしゃべった。
“え? えええ―――っ?! 私も魔王のオヨメさんに?”
魔王の許嫁として魔王城に住むことになるルナレイラお
まったく、青天の霹靂とは、あのことね。
魔王の言葉は、まったく寝耳に水だったわ。
そりゃ私だって、お父さまが見初められたほどの美貌の持ち主であるお母さまの娘だから、ルナレイラお
まあ、100パーセントが政略結婚のプロポーズだったみたいだけど(汗)。
それに、ルナレイラお姉さまの魅力がエルフ耳なら、私はネコ耳が魅力だし、胸だって... 私はまだ14歳だから、あと数年したら、もっとこう、大きく...
(思わずお母さまの胸を見て、それから自分の胸のふくらみと比較しちゃったわ...... これは... あまり、期待しない方がよさそう...)
お父さまは、何も言わなかった。
魔王さまを相手に文句でも言おうものなら、瞬殺されかねないし。
魔王さまの顔をそっと伺ったら...
なんだか締りのない顔をして私と妹のビアを見ていたわ?
“ははーん... 魔王さまって、とてつもなく恐ろしく強いかも知れないけど、けっこう美女に弱いのね?”
そこで、私は精いっぱい媚をこめ目で魔王さまを見返してあげたわ。
ちらっとビアを見ると、彼女も私のマネをして、身を少しくねらせて魔王さまを見ているじゃない?
何と末恐ろしい12歳!
こうして、魔王さまの15番目だか20番目だかの魔王妃になることが決まったルナレイラお
そして将来、16番目だか21番目だかの魔王妃になる予定の私と、17番目か22番目になる予定の妹のビアもいっしょに魔王城で暮らすことが決まったわけ。
“ヤッター! これで、また贅沢な王女さまの生活ができる―――ぅ!”