魔王がヤーダマーの塔を電撃降臨してから一ヵ月後。
華麗な軍服に身を包み、馬に乗った20人ほどの護衛騎兵さんたちが堂々と数台の馬車を先導してヤーダマーの塔の門から入って来た。
馬車の数、数えたら5台もあった!5台の馬車って、スゴクない?
それも先頭の馬車は、お父さまが王国で使われていた馬車の三倍くらい大きくて、車輪も六つもあるのにはビックリしたわ!?
そして、馬車を護衛している騎兵さんたちの、あまりのカッコよさに、私もビアもお花畑の手入れ作業を中止して、ぼーっと見ていた。
「わ――い、カッコいい兵隊さんだ!」
「ワ―――イ、カッチョイイ、ヘンタイさん!」
敷地内で遊んでいた、モナさまの子どもで8歳になるジオン君と4歳になったばかりのキアラちゃんが目を輝かせて、叫んで走り出した。
「あれは兵隊でもヘンタイさんじゃないの。親衛隊と言うのよ」
モナさまがあわてて子どもたちのあとを追いながら訂正していた。
その護衛の親衛隊の方たちは...
体格がすごく大きく、尖った高い耳に犬を思わせるような顔をしていて、後ろには太いシッポがあった。
「あれは、ガバロス族というコボルト族の一種よ。とても恐ろしい種族って聞いているから、くれぐれも偏見の目で見たり、批判などをしないようにね」
お母さまが、私とビアにそっと耳打ちをした。
でも、心配する必要はないわ。
だって、私たちのお父さまは
それにマイテさまはエルフだし、ルナレイラお
だから、異種族に対して偏見とか持ってないし、批判する理由もないの。
怖い顔の獣人族とかシッポがある異種族とかって、見慣れているのよね。
って、お父さまは立派なシッポ持っているし、お母さまも私もビアもシッポあるし。
モナさまは、丸っこくて短いシッポ持っていて、キアラちゃんも丸っこいシッポだもんね。
シッポ持ってないのは、エルフのマイテさまとルナレイラお
ガバロス親衛隊の人たちは、ひととおり敷地内を鋭い目で調べてから、問題がないとわかったのでしょう。
馬から降りると、親衛隊の人が先頭の馬車に近づいてドアを開けたの。
誰が馬車から降りて来るのか、興味津々で見ていると―
一人の女性が親衛隊さんに手をとってもらって降りた。
その女性は、ステキな飾りの入った鍔のある白い帽子を上品にかぶり、足首まである白いドレスに同色で腰の下まである長いコートを着ていた。
コートには黒糸の刺繍が襟と裾にはいっていて、黒い縁取りと合っていて、とっても上品な装いだった!
そして、衣装に合わせた白と黒の造花のある鍔広帽子の下からは、だらんと大きな耳が!
なんと、その女性は
きっとこの女性が、魔王さまの電撃降臨から十日ほど経ったころに、塔の警備隊長さんが、「魔王城からの知らせでは、ルナレイラ王女さまたちをお迎えするために、魔王城から使者を寄こすと連絡して来ております」と言っていた魔王さまの使者に違いないわ。
そして、こちらに向かって来ようとして、石に躓いて転びそうになった!
「あぶないっ!」
「きゃっ、転ぶ!」
私たちが、声を上げるよりも早く、そばにいたガバロス親衛隊の人が咄嗟に支えてあげたので、ステーンと転んで恥を晒すことがなくてよかったわ。ほっ。
ようやくバランスを立て直したあとで、なんだかすごく気まずそうな顔で私たちを見たんだけど、顔が真っ赤になっていた。きっと恥ずかしかったのね。
でも、そんなふつうの表情がなんだか可愛らしくて、私たちは
「だいじょうぶだって!一人で降りられるわっ!」
その時、馬車の中から声が聞こえた。
ドアから顔を出した若い女性がエルフであることは、その長い耳を見ると一目瞭然だった。
その娘は私たちとあまり年が変わらないみたいで、馬車から降りるのを助けるために手を差し伸べようとしたガバロス親衛隊の手を払って、タラップを降りようとして...
「きゃ―あ!」
ズデ――ン!
タラップを踏み外して、見事に転げ落ちちゃたわ
(キャハハ――!笑い出しそうになって、必死で我慢した。涙が出たよ)。
それも両足を開いたブザマな恰好で!
あらあら、エルフっ子さん、恥ずかしいところが丸見えですわよ?
「ひぇ―――ん...」
そう、若いエルフの女の子、口を大きく開けて泣きはじめたの。
そ、それに、何っ、あの服?
転んだくらいでおみ足の奥が見える。信じられないほど短い…
あれでもドレスなの?
エルフっ子は、ドレスからはみ出た白くきれいな足を投げ出したまま、大声を上げて泣いている!
親衛隊の人が、起こそうと手を差し伸べるんだけど、イヤイヤと首をふって。
それより早く、お母さまとモナさまが猛ダッシュで駆け寄った。
遅れて私とビアも。
お母さまとモナさまは、助け起こすためだけど、
私とビアは好奇心から。
エルフっ子が着ている服とかすごく興味あるしね。
私たちは
モナさまもラビットディオ《ウサギ人族》なので、けっこう速いの。
お母さまとモナさまが駆けつけたことで、その下着が丸見えの短いドレスを着たエルフっ子は、ようやく助け起こされたけど、あれあれ、膝をすりむいたみたいで、可哀想に血がにじんでいるわ。
それにドレスも土で汚れちゃって...
「ザロッケン!キサマ、そばにいながら、なぜエイルファちゃん、いや、エイルファさまをお支えしなかったのダ!?」
ひときわ体格が大きくて、キラキラした装飾が付いた帽子と軍服を着ている親衛隊の人が、ビアが飛び上がるような声で若い親衛隊の人を叱った。
「も、申し訳ございません。
ザロッケンという名前らしい若い親衛隊の人は、敬礼をして平謝り。
いや、あれは、誰が見ても下着が見えるほど短いドレスを着たエルフっ子が悪いんだけど、言い訳をしないなんて、ザロッケン君て、ス・テ・キ!
「マルカ、この
「はい!」
お母さまとモナさまが、エルフっ子を両側から支えて、急いで塔に向かい、初級の治癒魔法を使える侍女のマルカが、小走りで後に続いた。
マルカはマイテさまと同じエルフ族で、治癒魔法が使えるので、マイテさまが、ルナレイラお
塔の中の私たちの寝室に連れて行かれたエルフっ子は、ルナレイラお
マルカの治癒魔法は初級なので、治るのに10分ほどかかるんだけど、軽傷なら少しその部分が赤くなる程度で治るの。その赤くなったところも三日もすればふつうになるの。
そこに
寝室は、塔の三階だから、慣れない人が急な階段を急いで上がると息が切れるのよね...
「あ―あ... せっかくのおめかしが、台無しね!」
そう言いながら、
「え?えっ?ここで... ここで着替えるの?」
「何を言っているの?私たちは、魔王さまの使者として来たのよ? ったく、もう!到着早々に粗相をしてから!泥に汚れた格好で、正式な使者の役目を果たすことなんてできないでしょ!」
ピシャリと言われて、黙って脱がされたわ。
もちろん、お母さまもモナさまも着替えのお手伝をしたわ。
私たちが、エルフっ子の治療と着替えをしている間、ルナレイラお
お父さまも、久しぶりにおめかしして、お着替えをしているみたい。
そういう訳で、私たちの寝室には、エルフっ子と
このエルフっ子、恥ずかしいところが見えそうな短いドレスを着ていて、私たちをとてもおどろかせたんだけど、何と、泥で汚れた黄色いドレスを脱がせたら...
下にはドロワーズもコルセットもペチコートも着てなかったの!
ま、まあ、ドロワーズを履いてないってことは、両足を広げて転げ落ちた時にわかってはいたのだけどね...
あんな短いドレスの下にドロワーズを履いていたら、それこそ“ちんちくりん”になっちゃうわ(汗)。
エルフっ子は、ペチコートの代わりに乳覆いみたいなモノを付けていた!
エルフ族の女の子って、種族の特徴というか、オッパ◯はそれほど大きくないんだけど、それでも、その控えめなオッパ◯を覆っているかわいい下着にみんな注目した。
それとドロワーズの代わりみたいな、お股を覆う小さな下着!
あれ、本当にドロワーズの代わりになるのかしら?
って、あれ、ただの小さな布切れじゃないの!?
もう、何と言うか…… 隠すべき大切な場所の、本当にギリギリ限界までしか布がないのよ、あれ。オシリなんて、半分くらいはみ出しちゃっているもの!
お母さまとモナさまは――
「何と可哀想に。あのような小さな布切れを穿かされて!」
「魔王城ではエルフの女の子に穿かせるドロワーズの布地すら買えないほど、財政が逼迫しているかしら?」と、あらぬ勘違いをして驚いているし、
ルナレイラお義姉さまは「は、破廉恥ですわ! そんな紐みたいなもので……!」
と顔を真っ赤にして両手で目を覆いながら、指の隙間からガッツリ凝視していた。
私とビアにいたっては、「ねえ、これ動いたら絶対ズレるよね?」「絶対に食い込むわよ!」と、未知の超極小下着の構造に興味津々。よくあんな恥ずかしい、心もとなすぎる下着を穿いていられるわね、このエルフ娘?
マルカなんて、治癒魔法をかけながら、「……これが、魔王城の若い女性が穿いている下着!」と、ショックのあまり目を真ん丸にして硬直していたわ。
「みなさま、この慌て者のために順序が遅れてしまいましたが、わたしはイクゼル・ベルジオンと申します。魔王さまのご命令で使者としてやって参りました」
「わたくしは、 ラーニア・セリナーユ・アイヴァーと申します。ゲネンドルさまの第二夫人です」
「わたくしは、 モナ・シベーレ・ジェニヴィエルブと申します。ゲネンドルさまの第三夫人です」
お母さまとモナさまも丁寧に自己紹介された。
「わたしはルナレイラ・ジュリエッテ・ゲネンドルです」
「おお!やはり、あなたがルナレイラ王女さまだったのね?最初、お目にかかった時から、そうではないか思っていましたわ」
「アリシア・ セリナーユ ・ゲネンドルです。よろしくお願いいたします」
「ビア・エレオラー・ゲネンドルですわ」
「うふっ。かわいい
イクゼルさまに“かわいい”と言われて、私は真っ赤になった。
ビアはエヘン!と威張っていたけど?
でも、この前の魔王降臨の時に、魔王さまの目に留まった私の美貌が、すでに魔王城では噂になっていたとは......。
魔王とやら、おぬし、なかなか優れた部下を持っておるな!
ビアはオマケでしょ。そう、姉だけをかわいいって言ったら、ビアがいじけちゃうものね。