魔王さまの使者イクゼルさまをヤーダマーの塔に迎えて話し合った結果は―
ゲネンドルお父さまとマイテさまは、ヤーダマーの塔に住み続けることになった。
魔王さまは、お父さまが私たちといっしょに魔王城に住んでも問題ないと考えていたらしいけど、お父さまは、「私が魔王城に住むことになれば、元ブレストピア国の貴族たちがブレストピア国を再興しようなどと言い出すかも知れないので、出来るだけ人目につかず穏便に暮らしたいという」とイクゼルさまにお伝えして、それを聞いた魔王さまが、「そう望むのなら、そうすればよい」とお認めになって、一件落着。
ルナレイラお
魔王城――
魔王城は、元マビンハミアン国の皇帝の城だったのを魔王さまが自分の城とされたお城。
以前はアンドゥインオスト城と呼ばれていたこの城は、前に私たちが住んでいたイヴォール城から馬車で十日ほどかかる、けっこう遠いところにある。
魔王城で暮らすことになった私たちと侍女のマルカは、イクゼルさまとエイルファちゃんといっしょに、立派な王室専用馬車に乗って旅行することになった。
私はまだ14歳だし、妹も12歳なので、やはりお母さまが近くにいないとダメだろうし、モナさまの息子のジオンは8歳、娘のキアラはまだ4歳の幼児なので、これも母親なしでは完全にダメだしね。
でも、モナさまはまだ26歳と若いだけあって、何だか魔王城で暮らしたがっていたみたいだったので、今回、正式に魔王城に住みことが決まってとてもよろこんでいるのが分かったわ。
「ちょっとお手洗いに行って来ます」
と言って、席を外したけど、私がお代わりのお茶をマルカに頼むために階下に降りたら、トイレの前で飛び跳ねていたわ。ええ!
モナさまって、若いせいか、それとも性格的なのか知らないけど、気持ちを正直に態度で表すのよ。
それに、彼女は、
あ、そうそう、プリシルさまは、魔王さまの第二魔王妃なのだそうだけど、とても優しい方。
アマンダさまとは大違い... あ、これはあまり書かない方がいいわね。もし、アマンダさまが私の部屋の強制捜索をされ、この日記が見つけられでもしようものなら... 即刻首をはねられかねないわ(冷や汗)。
いよいよ出発の時間になって、私やビアは心ウキウキだったけど、お母さまとキアラちゃんを抱っこしたモナさまは、塔の前にいるお父さまとマイテさまを何度もふり返って、手を振り、涙ぐんでいた。
ルナレイラお
感涙極まる感激的なお別れシーンのあとで馬車に乗ったんだけど、この馬車っていうのが、イクゼルさまたちが乗って来た、普通の馬車の倍以上もある、六つも車輪がついたの馬車なの。
私たちは、出発するまでその馬車に入ったことはなかったんだけど、中はすっごく広くて内装も豪華なの。四人は座れるフカフカした椅子が四列あって、何と私たち全員がイクゼルさまとエイルファちゃんといっしょに、楽に快適に馬車で旅をすることができるのよ!
あとの4台の馬車には、お父さまとマイテさまへのお土産の長持などを除いた荷物が積みこまれている- そう、魔王さまからルナレイラお
持って来た品物をまた持って帰るなんて...
バカみたいだけど、まあ、魔王さまとしては、ルナレイラお
お父さまやマイテさまたちが手を振って別れを惜しんでいるのが見えなくなり、私たちが遠くへ行ってしまうと知った村人たちが手を振っている村を通り過ぎ、深い森の中の道に入ったと思ったら...
突然、黄金の波がうねる大海の真っただ中に出たの!
いえ、大海ってのは、ほら、詩的な表現で...
ほら、私はロマンティックな思春期の少女でしょ?
こういう表現が出来るということを...
あー、面倒くさい。
つまりね、収穫間際の黄金色の穂が、吹き抜ける風で波のように揺れるトリゴ麦畑だかアベナ麦畑だか、わからない畑が見渡す限り続く景色のところに出たの。
もちろん、畑のど真ん中に馬車が出現したわけではなく、その広大な畑の中を通る道に出現したんだけどね。そんなこと、説明しなくてもわかるわよね?
「え... ここどこ?」
「森が消えちゃった!」
「いつの間に?」
「森に入ったばかりなのに?」
「おどろくことはないわ。これはドコデモボードと言う移動魔法陣を使った移動なの。ほら、あそこに魔都が見えるでしょう?」
みんなが、驚いて窓から見たこともない風景を見ているとイクゼルさまが平然と言って前方を指差した。
たしかに、馬車の前方の窓から、魔王城の尖塔らしいものが見える。
「こんなにたくさん実って!今が収穫期なのね...」
「魔王国の民は食べ物に困ることはなさそうですね」
お母さまとモナさまが、見渡す限り広がる畑を見ながら話していると
「これはトリゴ麦ですわ」
さすがマルカ。だてに農民出身じゃないわ。
「何年か前に、マビンハミアン国のアンドゥイン皇帝の甥か誰かの結婚式で来た時は、このあたりは、これほど畑はなかったわ... このあたりは、ただの草原だったのを覚えているわ」
「そうですか。魔王国って、思っていたよりも豊かな国なんですね」
お母さまとモナさまがお話をしている。
「お姉ちゃん、重いっ!」
知らずに窓際に座っていたビアの上に乗っかって目を丸くして景色を見ていた私。
急いで自分の場所にもどったけど、ルナレイラお
あ~あ、その可愛らしい口も、もう少ししたらあの美形の魔王さまのモノになるのね…
そんなことを思いながら、知らず知らずのうちに自分のぷっくらした唇を指先でなでていたら…
ビアが「お姉ちゃん、それなに?気味悪っ」って、言われた(汗)。
ほざくな、妹め!
魔都の近くには大きな川が流れていて、水車とかもあっちこっちにあって、子どもたちが川遊びをしてたりして、いかにも平和って感じ。戦争はまだ続いているっていうのにね。
魔都に近づくにつれて、魔都を敵から守る高い城壁が見えたんだけど、その城壁がまた延々... と続いていて、魔都の大きさが想像できる。
城壁の規模を見ただけでも、イヴォールなんか比べもののならないくらい大きな都市だって、子どもでもわかるわ。
魔都の家並みは城壁の外にも広がっていて、平屋建てや二階建ての家がたくさんあって、門前市みたいなものも開かれていて、けっこうな賑わっている。
魔都は元マビハミアン国の帝都だった都で、マビハミアン国は獣人族国だったためもあってか、
市民たちは、ガバロス親衛隊に護衛された私たちの馬車が通ると、大人は頭を下げたり、手をふったりして、子どもたちは魔王旗を翻して走る馬車といっしょに走ったりしていた。魔王さまって、かなり市民から好感をもたれているみたい。
馬車が城門に近づいて行くと、塔から馬車隊が近づくのを発見したのだろう、城門から数十騎の騎兵たちが走って来た。うむ。魔王さまの婚約者であるルナレイラお
「
出迎えた強面のガバロス族の騎士の中の隊長みたいな人が、馬車の護衛隊の隊長さんに敬礼をしてた。
「おう、 ズドッケンか。出迎えご苦労。無事に任務を果たすことが出来た!」
そのまま馬車隊は城門の検閲も受けずに- まあ、魔王さまの使者が乗っているんだから、フリーパスなのは当然なんだけど- 魔都に入った。
魔都は......
すごく活気のある都だった!
先ほど、お母さまとモナさまが言っていた言葉を実感できたわ。
城門の外にもすでに街並みが広がっていて人通りも多く、かなり活気を感じられたんけれど、城門から入ると様子は一変して、4階建て、5階建ての瀟洒で立派な建物がずらりと広い道の両側に並んでいた。
通りに面したお店は、どのお店もガラス張りの大きな見せ窓があって、そこには色々な商品が飾ってあっ
て、幅広い歩道には緑の街路樹が植えられていて、そこをさまざまな種族の市民たちがゾロゾロと歩いている。
それらはカップルだったり、子ども連れの親子だったり、若い娘に声をかけている男の子だったり、お店を覗いたり、楽し気におしゃべりしたり、肩を組んだり、腕をからめて歩いたりしているじゃない?
ブレストピアの王都であったイヴォールの城下町でさえ、こんなに活気なかったし、建物も立派じゃなかったし、人も多くなかったわ。魔王のお膝元って言っても、魔都の人たちは全然ふつうに平和的に暮らして、庶民の生活を享受しているようだし、何だか私まで魔都で暮らすのが楽しくなっちゃいそう。
「魔都は、魔王さまが治めるようになってから、目覚ましい発展を遂げたのですよ。この町に私たちが住みはじめた頃は、この町もこれほど賑わってなくて...」
イクゼルさまが、昔を少し懐かしむような目つきで賑わいを見ながら話してくれた。
アンドゥインオストと呼ばれていた頃、この町の住民は、せいぜい10万人くらいだったのだとか。
それが、魔王がこの町を魔都と定め、魔王国の経済の中心地として経済を発展させる政策を実施すると同時に、魔都を商業の中心地とすべく、都市計画を作成し―― それには、聞いた時はちょっと信じられなかったけど、あのアマンダさまとプリシルさまが魔都建設の基本計画を作られたんですって!
アマンダさまとプリシルさまが考案された都市開発計画にしたがって、古い街並みは取り壊され、幅広い道がいくつも作られ、街路樹の植えられた洒落た歩道が作られた。
新たに5階建、6階建ての建物が次々に建てられて行き、広場が作られ、緑豊かで池のある公園もいくつも作られ、もはやこの町がマビハミアン国の帝都だった頃の面影はすべてなくなってしまったんですって。
市民たちは、魔王さまが新しく建てられる建物に優先的に住む権利を保証され、商人たちには商店街の区画整理が終わるまで保証金が払われ、商店街が完成すると以前の店舗の広さに応じた面積の店舗があたえられ、商売拡大を望む商人には、より大きい面積の店舗が格安の値段で貸し出されたんだって。
「以前の古い街は、新しい都市として生まれ変わり、魔王さまの経済振興政策もあって働き口は増え、それにしたがって人口は急増し、お金の流通も飛躍的に良くなりましたの。あ、これは主人が教えてくれた事ですわ。おかげで景気はよくて、金回りもいいから、市民もとても満足しているんです」
イクゼルさまの説明はよく理解できたわ。
唯一、マビンハミアン帝国時代の面影を残しているのがアンドゥインオスト城だけど、これも魔王城となってからは、新たに10階建ての宮殿が建てられるなど大改修が行われ、かなり変わってしまっているってイクゼルさまが言っていた。
そして、今や魔都の人口は50万を超し、テルースの世界で最大の都市になったのだとか。魔王さまって、私たちが考えているよりもスゴイのかも?
「ほら、あのお店で、あたしの服とアリシアちゃんとビアちゃんの服を買ったのよ!」
「あのお店のシャーベット、若い娘にとっても人気なの!」
「ほら、あの喫茶店でお茶を飲んでいると、かならず男の子から声をかけられるのよ!」
「あのレストランのピザがおいしいの!」
イクゼルさまが、魔都の発展のお話をお母さまとモナさまにしている間、エイルファちゃんの魔都ガイドが、ますます熱をあげていたわ。
“えっ、シャーベットって何?ピザって何よ?甘いお菓子、それとも食べたことのない果物?”
ルナレイラお
うふふ。エルフって、長い耳を興味ある音や会話の方に向けるから、すぐわかるの。
熱心に魔都の情報を伝えてくれているエイルファちゃんも、カリブ君に関心があるらしく、カリブ君とジオン君の会話を長い耳を時々そっちに向けて聴いているけど、カリブ君は女の子にかけてはオクテらしく、エイルファちゃんに全然興味ないみたい...
それとも、カリブ君って、こう、ルナレイラお
カリブ君とルナレイラお
この歳くらいの男の子って、すっごく女の子に興味があるからね。うんうん。私もよく...... いや、たまに...... 正直言うと残念ながら、あんまり男の子からは見られないけど、わかるよ。
ヤーダマーの塔あたりには、村の男の子しかいないし。それでも、私たちに農作物とか果物とかを届けに来る村人のお父さんやお母さんについてヤーダマーの塔に来た男の子たちは、私を見ると――
「ア、アリシアさま、おはようございます」とか
「アリシアさま、今日の服ステキですね」とか
「今日の髪型はすてきですね」とか
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言っていたんだけど、なぜか胸がキュンキュンとしちゃたの思い出すわ。
とにかく、エイルファちゃん、カリブ君の関心を引きたければ、もっと胸を成長させなきゃね。
でも、エルフのエイルファちゃんは、はたしてどこまで男の子を惹きつけることの出来る胸に近づけるかどうかね...
胸は千差万別で、私のお母さまは、かなり立派な胸を持っているけど、果たして私もお母さま同様、立派な胸になるかって言うと... これだけは大人になってみないとわからないのよね。
でも、妹のビアは、ルナレイラお
これって... やはり、エタナールさまって、不公平なんじゃない?