貞操観念逆転異世界で勇者パーティの性処理係やってるんだけど、仕事してたらみんな勝手に拗らせる 作:ベリーナイスメル/靴下香
勇者シアに特筆すべき戦闘能力はない。
素人に毛が生えた程度と言えるだろう、それも技術的な意味ではなく主にモンスターと戦う覚悟を持てた人間と言う精神的な部分において。
魔法に関しても扱えはするが、それこそ素人レベルであり、焚火を起こす程度の魔法しか使えない。
そんな彼女が今もなお勇者を名乗り、パーティの面々が自分たちのリーダーだと認めているその最大の理由は、彼女のずる賢さ、あるいははしっこさ、と言ったものが非凡であるが故だ。
「我が集落にこれ以上何を望む」
「いきなりなご挨拶ですね」
シアの護衛として集落の長についてきたのは正解だった。
他の家屋に比べて少しだけ大きい家の中、長らしき大柄の女性を前に、シアと自分を囲い睨みつける女性たちの敵意を感じながらアリーシャはそう思った。
「エレノーラが最前線であり、今もなお戦いが繰り広げられているだろう場所が重要なものであることも理解している。しているが、これ以上の支援は無理だ。死ねと言われて頷く人間など、いないだろう?」
家に入るなり、長は冷静に、されども隠し切れない苦悩や敵意を滲ませながらシアへと言い切る。
「ひとまず、誤解を解きたく思います」
「誤解、だと?」
そんな面々を前にしてシアは、言葉にするのなら勇者らしい笑みを持って、その場にいる全員を安心させるかのように言う。
「私たちは国命にてこの集落に供出を求めに来た者ではありません」
「……どうだか」
「遅くなりましたが名乗りましょう、私は勇者、勇者シア・ハートネットと申します。こちらの戦士はアリーシャ、皆様を害するために連れてきたわけではなく、安心いただく為に来てもらっています」
「勇者? はっ、ならば我々と変わりない一般人ではないか。偉ぶって戯言を高々と語るんじゃない」
勇者シアの名は確かに広まった。
しかしながらに、そもそも勇者という称号自体に価値はない。
それはそうだ、勇気があると示すための冠言葉でしかないのだ、名乗ろうと思えばそれこそシアに立ち向かわんとする姿勢をもとに、この長であっても名乗れるだろう。
「なるほど、私など未だに勇者と名乗ることができる自分であるなど思っておりませんし、確かにその通り」
「認めるか。ならば去れ、我々は、ただ来るべき日を迎えるまで安らかにありたいだけだ」
「では勇者ではなくただのシアとして申しましょう。どうか、我々にこの村が安らかであるための働きかけをさせてもらえませんでしょうか?」
「何……?」
アリーシャは固く唇を結んだままではあったが、内心シアの会話展開を流石だなと評する。
「申し訳ありませんが、私に今の戦いを直ぐに終わらせるような力はありません」
「……」
「ですが、少なくとも。皆様が求められている安寧、そして平和をより良い形で維持するための環境整備なら行えましょう」
「環境、整備?」
この辺りの思考を巡らせる力。
パーティで誰もがシアほどの思考力は持てず、またそれを否定できないがために彼女はリーダーなのだ。
「資材、食料そういったものはもちろん。ある程度の規模でモンスターに責め来られた場合への備え。万が一前線を下げてこの集落を利用するとなった時への受け入れ態勢。そう言った部分の支援を行わせて欲しい」
「なっ……」
「もちろんこれは打算です。こうしておけば、私はこの集落を今後も含めて間借りしやすくなる。そのための恩を今こうして売ろうとしているのです」
にこやかに、だが秘密の悪事を打ち明けるかのようにシアは言う。
シアは心の中で勝利の二文字を握った。
この交渉とも脅しとも言える場の裏で、カイトによる慰安は既に始まっているだろう、ここで断られたとしてもカイトやエリアナの味を知った人間たちが自分たちを手放そうとしなくなる。
「いかが、でしょう? 私たちに皆様を、助けさせてもらえませんか?」
結局、集落の長は頷くことになる。
それはこの場にいる誰もが、想像できた未来だった。
長の家から出て少し歩いた場所で、シアは小さく息を吐いた。
「流石、だな」
吐かれた息を持ってアリーシャはシアの意識が切り替わったと判断し、唇の結び目を解く。
「あまり、褒められているとは思えないのだけど」
シアは切り替え損ねた笑顔そのままに、アリーシャへと振り向いた。
「当然だ。褒めていると思われても困る」
「でしょうね」
勝利の二文字を握れても、パーティの信頼は握れない。
そんなことは重々理解しているし、どう取り繕っても、言葉を尽くしても得られないだろうとシアは確信している。
いや、だからこそなのだろう。
信頼されないこと、それこそがパーティを繋ぐ鎖となっているのだから。
「オレは……いや、オレたちは。カイトが幸福で穏やかな未来に辿り着くためになら、なんでもやる」
「わかってるわよ。それまでの道筋を私が描く。そういう契約だって」
「……正直、そのためにカイトをも利用するってのには承知できねぇんだ。理解はできるがな」
「感情が納得できないって言うのはよくわかるつもりよ。私だってそうだもの、少なくともそこは、そこだけは信用して欲しいものね」
シアの言葉にアリーシャは肩を竦める。
その部分こそ感情で納得できないと言うものだと。
シアが征こうとしている道筋は、確かに歩みきったのなら間違いなくカイトは幸せな未来へと辿り着くだろう。
そうだ、そうだと信用できる。もっと別の、より良い道があるかもしれないが思いつかない、故にシアを否定できない。
「護衛も、もう良いだろう。オレは周辺環境の確認をしてから戻る」
「わかった」
「全員で集まるまでには、その辛気臭ぇツラなんとかしとけ」
「……それも、わかってる」
そうとだけ言って、アリーシャはシアへと背中を向けた。
これ以上二人きりで向き合っていたのなら、剣を向けてしまいかねないと。
「わかってる、ってば」
背中が見えなくなった時、ぽつりとシアは零す。
賢いから、ずるいから、自分もそう思えるから、アリーシャの背が何を伝えたいかなんて十分に理解できている。
「でも仕方ないじゃない。完全無欠で、誰もが認める絶対的な勇者なんて……魔王を倒すくらいしか、思いつかないんだから」
結局、シアの見据えたモノはそこに行き着いた。
もしかしなくても、あるいは今既に勇者と呼ばれているように、勇者である証明は行えるのかもしれない。
しかし、それこそシアの感情が納得できないのだ。
「とりあえず……下準備はできそうね。前線への足掛かりはここで作れそうだし、あとは情報収集してからの判断になるか。この場で決戦をってノリにならないようにだけは気を付けないと」
ぐっと下唇を噛み締めて、これからの動きを考える。
魔王を私が倒す。
そのために必要なものは何かを検討し、揃え、実行する。
「カイト……ごめんね、まだまだ我慢してもらわなきゃだ。本当に、何もできない私で、ごめん」
必要なことは何でもする、その覚悟がある。
たとえパーティから卑怯者と罵られようが、呆れられようが。
「ちゃんと、全部。あなたに捧げるから」
名誉も、称賛も、富も、自由も。
魔王を倒すことで得られるだろう真の勇者という称号と、引き換えに。