貞操観念逆転異世界で勇者パーティの性処理係やってるんだけど、仕事してたらみんな勝手に拗らせる 作:ベリーナイスメル/靴下香
形成される人格と言うものは、育つ環境に大きく影響を受ける。
物的なもの、経済的なもの、人的なもの、多くの要因を持って一つの人格は成熟していくものだ。
その上で当然と言うべきか、残念ながらと言うべきか。
人格を育てる側に悪意があれば、悪意に染まった人間へと成長する。
「これ、は……」
今では金色の癒し手と呼ばれるリリア・フローランスは違法風俗店の前に捨てられていた孤児であった。
何故捨てられたのかの全てはわからない、わからないがその理由の一つに、物覚えがつく前……すなわち人格の種が芽吹く前より、治癒魔法に関しての異常な才を有していたことが挙げられる。
「や、やばいっ……とまん、ねぇ……!」
回復効果が高い、という意味ではない。
リリアが持つ治癒魔法の効果、それは男性的な消耗を回復するという意味で異常だったのだ。
拾った風俗店の経営者は思ったものだ、使えると。
隠れて、こんなちんけな商売で自分の生を終えずに済むと、まさしく広いものだと。
結果、リリアは発語より先に己の治癒魔法技術を磨かされた。
通常の治癒魔法技術の腕が磨かれれば、拾い主が期待している方面の効果も高まると判明してからようやくだ、文字と声の意味を学ぶことが出来たのは。
「は、ぁっ、はぁっ! も、もう、無理、これ以上、デねぇ……!」
今、リリアの前で一人の男が膝をついた。
彼が救済を施した女はこれで三人目、十分な働きと言って良いだろうそもそもモノが役に立たない男だったことを考えればなおさらだ。
しかし。
「まぁっ! それは大変ですっ、すぐに癒して差し上げますね!」
「っ!? まてっ! 待ってくれ! お、おれは、もうっ――」
「ご安心くださいっ! わたし、リリアは男性様をお手伝いすることことが使命ですからっ! 負担など欠片も思いませんよ!」
「ちがっ! や、やめっ! やめてくれぇええぇっ!?」
リリアの表情は笑顔のまま変わらない、こうして彼女曰くのお手伝いはこれで10人目を越えたが、治癒魔法を行使すればするほど、疲労感以上の充足感に包まれる。
「わたしは、救済を行えません……わたしも、救いたい、皆さまの心の支えとなりたいのに、できません」
「う、うぅううぅっ!?」
「ですが、救済を行える皆様のお手伝いをすることで、皆様を通してわたしは救済を行える……」
「まてっ! ま、ってぇええぇぇっ!?」
見る見るうちにリリアの前で腰を抜かした男のモノが、治療魔法によって再び活力を取り戻していく。
「さぁ、これで大丈夫ですっ。どうぞ、救済を、お願いいたします」
「う、ぁ、あ、あぁぁ……」
彼女は無垢に救済を願う、己の役目は救済を施せる男への奉仕心で満ちている。
「あぁ……本日も、よき救済でした」
それでいい、これがいい。
これが正解であると、正しき世界でシステムという名の巡りだと固く信じている。
そうだと彼女の人格は形成されたから。
しかし、同じくをして。
時に己の全てを塗り替えてしまうような、出会いや出来事があることを。
――こ、んなっ! わ、わたしが、まったくご奉仕、できない方が、必要とされない方が、いる、なんてぇっ!?
リリアはカイトと出会い、初めての夜を過ごすことで。
――す、ごいっ! そ、そうだ、この方だ、この方こそが救済そのものですっ! わたしが何をせずともっ! カイト様は多くを救われるっ! か、かみっ! 我が主、わたしが真に信仰すべき、おかたっ!!
見た事も感じたこともない想いと共に、知ったのだった。
「少々お時間、よろしいでしょうか?」
シアによる方針の決定が下され、それぞれがテントへ戻った後。
リリアはその場に残り、笑顔のままシアへともう少しいいかと言った。
「……何、かしら?」
薄々と、というよりは確信を持って。
そう言えばそろそろ確認されてもおかしくないと、シアは気を緩めないままリリアの前へと立った。
「ここが、そう、と。認識してもよろしいでしょうか?」
表情は笑顔のまま、しかしながら開かれた目の色は漆黒に塗り潰されている。
シアは己の中にあった確信へと修正を加えた。
定期的にリリアはシアへと確認を行うのだ、その時期かと思ったがどうにもよりその先を見ていたらしい、と。
「そうね、そう考えていいと思うわ」
「いいと、思う?」
「確定とは言えないのよ、この集落は好条件の下にあると思う。最前線が近い、要するに救いの手を求める人間が多い。だからカイトの存在、その重要性は高く需要も高い。けど、相手がモンスターと言うか、魔王軍だからね。予想がいまいちつかない」
「……」
きゅっと、リリアの眉根が顰められた。
「だからこその回り道、と言えるかな。ここを防衛拠点として発展させる、活動拠点候補の第一候補として揺るぎないものとして地盤を固めるため、この集落への支援を優先させるなんてのは」
「では、並行して実施してもよいのでは?」
「布教ってものは良くも悪くも負担よ。環境の変化って言うのは順応を必要とするだけに負担なの。それこそ、焦らず順に行うことこそ、ここの住民に加えて、カイトの負担を減らすことにもつながるわ」
我が主、カイトが神として在られるために。
リリアにとってはそれが最優先なのだ。
魔王などどうでもいい、シアの功績への貢献などどうでもいい。
集落の民など……カイトに触れられぬが故の不幸に塗れていればそれでいい。
その方がより一層カイトが神であると強く信じられるだろう、彼の救済を間違えないだろう。
「お話は、わかりました。ですが」
「現に、カイトにも言われたんじゃない? 急ぐなって」
「っ……」
「わかるわよ、って言うか見えたもの。結界神殿は、やり過ぎと言うより早すぎると、私も思うわ」
シアは頭がいい、そしてずる賢く、はしっこい。
そして戦う力も技術も拙い、故に全てのモノを材料として好循環を齎す。
予想でしかなかったが、リリアの浮かべた苦しそうな表情を見て今回は自分の押し切り勝ちだとシアは確信した。
「今まで散々、カイトが座する場所を見つけられるまで待てと言った。私自身も苦しかったけど、ようやく手に入りそうなの。勝ちを目の前にして緩んだ結果、全てがご破算って言うのは、何より避けたい。わかるわね?」
「……はい。わたしも、同じ気持ちです」
「ごめんね? また同じことを言っちゃう。もう少し、待ってって」
「承知、致しました」
シアのこれで終わりと言った言葉を受けて、リリアは悔しさを滲ませながらとぼとぼとテントを後にする。
「ふ、ぅ……狂信者、ここに極まれり、ねぇ」
――わたしは、奉仕するもの、尽くすものです。そのわたしがカイト様、主様にできることがないなどど、あってはならないのです。
シアだけは、見抜いている。
彼女がカイトに向け捧げる尊崇の念に疑いはない、真実だとも思う。
だがそれと同じほど、あるいはそれ以上に。
「あそこまで自分を絶対視なんて、私には無理ね。少し、羨ましいかも知れないけど」
そこに自分の居場所があると、危うい依存していると、見抜いている。