貞操観念逆転異世界で勇者パーティの性処理係やってるんだけど、仕事してたらみんな勝手に拗らせる 作:ベリーナイスメル/靴下香
カイトという青年は、エリアナにとってまさしく知恵のリンゴだった。
男という性別で全ての男で在る者を括れないと知った。
自分の信念を固く貫こうとすればするほど、唾棄していた存在に近づくことを知った。
あるいは、例外を許し認めることで、自分の弱さを実感できた。
「え、エリアナ、さんっ」
「はい。どうされましたの? おかわりなら、直ぐにご用意いたしますわよ」
「お、おかわりは、だいじょうぶ、です! えっと、ぼくにも、あれ、あれしてほしくて」
「……あぁ」
あれ、と示された指が示すのはカイトが周りに侍る女へとあーんをしていた光景だった。
「よろしくてよ」
「や、った! じゃあ、じゃあっ! あーん」
貼り付けた笑みにひびが割れないよう丁寧に、優しくエリアナは周りに侍る男へとスプーンでリゾット運ぶ。
(なんて、浅ましい……!)
エリアナの内心は苦痛で満ちていた。
カイトを知れば知るほど、例外だと思えば想うほど。
より一層、普通の男はかくも醜いものかと思ってしまう。
「おうおうっ! ちゃんとこっちにもヤれや! 魔法使いさんよぉ? アレで満足できねぇからヤってんだろ? オレならちゃあんと――」
「嫌ですわ、お黙りになって……くださいまし?」
「むぐっ!?」
調子に乗った男の口へと熱いリゾットをスプーンで運び黙らせた。
聞くに、堪えない。
我慢が、できない。
きっと最後までこの男の言葉を聞いてしまっていたら、反射的に周辺一帯を灰燼と化していただろう。
「あっちぃっ!?」
「あら、ごめんあそばせ? ふーふーを、していませんでしたね」
これ見よがしに申し訳ないと言いながら、スプーンで掬ったリゾットへと息を吹きかける。
「そ、それぼくにっ!」
「いいやオレだっ! オレによこせっ!」
そうすれば勝手に男たちは湧いた。
エリアナの美貌に魅せられたのならそれも当然と言えるが、それ以上に何故か己よりも遥かに強い女が自分たちの下に位置し、尽くそうとしている現状に酔っていた。
(……それ、でも)
だが止めることはできない、他ならぬカイトが自然な笑みを浮かべながら慰安を継続しているが故に。
エリアナの中にあるカイトへの恩返しの気持ちは未だしかとある。
それどころかこうして、筆舌に尽くしがたく耐えがたい場へ身を置くたびにより強くなっていく。
「カイト、様……」
思わず自分の特別を口から音に出してしまった。
だが周りはそれに気づかない、異常に順応しようと急く彼らが気づけるわけもない。
「本当にあなた様は……特別、ですわ」
内面は別としても、己の価値は苦痛と共に重々理解できているエリアナだからこそ。
同じく自分の価値を理解しているだろうカイトに、尊敬の念を一層強く抱いてしまうのだった。
「お恥ずかしいところを、見せてしまいましたわね」
「いえいえ、とんでもありませんっ。あれを恥と言うのならば、わたしなどまさしく皆様に顔向けできない恥をかいてしまっていますし、どうかその辺りで恥じ入るのはお止めいただければと」
それぞれの役目が終わり、シアの方針決定を聞き届けた後、エリアナはリリアと共に就寝の準備をしていた。
会議の場で思わず感情を表に出してしまったエリアナをリリアが慰める様子は、傍から見れば仲のいい姉妹かのように見えるだろう。
「わたくしも、カイト様の言を聞き改めた身ですわ。リリアさんは会議の場で、カイト様のご意向を鑑みシアさんへと意見を申し出ていたではありませんか、わたくしにはできませんでした」
「いえ、それこそ恥と言えるでしょう。主の意をしかと胸に刻み切れていなかった我が身の愚かさを悔やんでおります」
リリアの返事は先ほどとは打って変わり、心底悔やむような声色だった。
そんな声の響きに、エリアナは背筋を凍らせる。
(ぞっと、致しますわね。何度味わっても、慣れません。この、狂信者は……)
悔やむような、ではない。
リリアは先の自分を心底呪っている。
我が主、我が神に相応しくなかったその瞬間、その過去の自分を殺せるのなら今すぐにでもと。
「エリアナ様?」
「……いえ、変わらずリリアさんは熱心だなと感心してしまいますわ」
「? そう、でしょうか?」
エリアナの言葉が意味することを掴めず、リリアは可愛らしく首を傾げた。
改めて二人のやり取り、その上辺を見るのであれば仲の良い姉妹のようだ。
しかしその中身はまったく違う、仲の良さに繋がるだろう親愛や、命を預け合う仲間に向けるような温かさは欠片もない。
(あるいは、わたくしも……そう在るべきなのかもしれませんが)
リリアの念はただ一つ、カイトが在るべき形で在れるように、それだけだ。
そのためにシアをはじめとした面々は存在している、存在しなくてはならないと思っている。
それは、見方を変えれば、かつてのエリアナが変わらないまま道を歩んだ先に至った境地なのかもしれない。
「ええ。わたくしは、あなたほど無垢ではいられませんもの」
「無垢、ですか。あまり答えになっていないような気もしますけど」
「お気になさらないで」
「はぁ」
ある種の理想。リリアはかつて自分が抱いた理想に近い形をしているとエリアナは思っている。
だがこうして形を見て、カイトに触れられた今となってはどうにも。
「わがまま……いえ、都合が良すぎる自分が嫌になりますわ」
「はい?」
「何も。さぁ、そろそろ灯りを消しますわよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
怖い、歪だ。
そんな風に思ってしまう、思ってしまうが。
(妬ましい、か……本当に、都合が良い女ですわね、わたくしは)
エリアナの中にあるリリアに対して一番強く思うことは。
自分の全てを捨てて、カイトに全てを委ねられるリリアを、羨ましく思う気持ちだった。