貞操観念逆転異世界で勇者パーティの性処理係やってるんだけど、仕事してたらみんな勝手に拗らせる 作:ベリーナイスメル/靴下香
方針が決定されてから少し。
「おー……こりゃまた」
「ある意味最前線近くにもかかわらず、この集落が無事な理由がよくわかりましたよ。周りの森林は、天然の迷路でした」
「迷路って言うくらい森林が広がっていた、ってか」
「はい。シアが嬉しい誤算だって笑っていましたよ」
アリーシャの近くでカイトが屈託なく笑い、つられてアリーシャも自然に笑う。
二人の前に積まれた防柵用の木材たちは、想定よりもずっと早く用意できた。
早く用意できたが故に、アリーシャとエリアナが想定よりも早く交代してしまったことで、エリアナはカイトと過ごす時間が削られたと少し不満げではあったが。
「前線は、どんな感じですか?」
「そう、だなぁ……まぁ、良いとは断じて言えねぇな」
詳しくカイトに説明するべきかと少し悩むアリーシャだったが、全てとは言わずとも伝えるべきだろうと判断した。
「損耗って意味じゃそこまで悪くねぇ。悪くねぇが、精神的な摩耗がつえぇな」
「いつまでこの戦いは続くのか、っていうような、ですか」
「ああ、そうだ。終わりの見えない戦い、積み重なる疲労、満足な休息も得られない状況で、よく踏ん張ってると思うぜ」
そんな危ない場所だと伝えたのなら、己は行きたくないと言ってくれるかもしれないと思ったからだ。
「……なら、尚更ここの準備をしっかり終わらせて、一刻も早く前線でパーティの合流を果たさないと、ですね」
「……ああ。その通りだ」
期待は淡くも泡と消え去った。
カイトを守ると心に規するアリーシャが故に、危険な場所へとカイトを連れて行くのには抵抗がある。
「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いしますね、アリーシャ」
「当然だ。オレはカイト、お前の盾だ。お前だけのって言えねぇオレを許してくれな」
「許すも何も、ですよ」
だがカイトの言葉は言外に行くと言っているかのような返事だった。
「そう、か」
カイトを無理やりにでもこの集落に押し込めて少しでも安全な場所へ置いておくという発想はアリーシャにない。
その身を、心を守ると決めたのなら、カイトがどういった選択をしてもその意思を尊重し、その上で守ればいいのだと心に規しているからだ。
「さ、それじゃ俺はこの木材を柵用に加工しますので、打ち付けの方お願いしますね」
「良し来た任せろ。けど、慌てんなよ? ケガしねぇようにな」
「あはは、ご心配ありがとうございます。けど、これくらいしか俺は役に立てませんから、お任せください」
「……ああ、頼んだ」
敵わねぇな、と。
何度も何度も、数えることを止めた想いを胸に感じながら。
「やるか」
大きな木槌を握りしめた。
カイトと合流し、僅かではあったが穏やかなやり取りを経たアリーシャではあったが。
(う、く……や、止めろ、カイトに、近寄る、なぁ……!)
木材を地面に打ち付けながらも、そのマゾヒズムを疼かせていた。
「えーカイトさんって、器用なんですねぇ」
「っていうか筋肉、すごっ。うちらのとこにいる男でこんな人いないよぅ」
「そうなんですか? や、何か照れますね。ありがとうございます」
集落の防衛拠点化の進捗が順調を越え、迅速に行われている理由は現地の女達による協力があったからだ。
そしてその元を辿れば、カイトに行きつく。
「ふ、ぅっ!」
こぉんともどぉんとも響く音と振動がアリーシャの下腹部に奔る。
さもすれば早々に前線へ自分と交代で向かったエリアナを羨ましくも思う。
「でもでも、何でそんなに慣れてるの?」
「そりゃあ、俺は勇者パーティの性処理係で、役目がないときは大体こういう雑用と言うか、そう言うことをメインにやってるからですよ」
カイトだ、カイトの存在だ。
慰安の効果とも言えるだろうが、集落の女たちは急速にカイトとの距離を縮めた。
いや、縮めようとしていると言うべきか、より親密になるべく行動していると言うべきか。
性処理係という言葉と実態、そのイメージの悪さから掬い上げることで自分のモノに出来ないかと狙っている。
「えー、ひどぉい! そんなの、体のいい使いっ走りっていうかぁ」
「うちなら、うちらなら絶対そんなことしないのになぁ」
つつっと、カイトの引き締まった腕に何処の馬の骨とも知れない女の指が這わされた。
「あはは、かも、しれませんね。皆さんとてもお優しいですし、何よりこうして手伝ってくれてるおかげで、随分と手早く進められていますから。改めてありがとうございます」
「っ……あぁ、もうっ! う、疼くようなこと、いうなしっ」
「ていうか当たり前、てーの? だって、うちらが住んでるトコ、だし?」
「そう言う気持ちもまた嬉しいんですよ」
カイトの対応は百点満点どころか、それ以上だ。
こうなってしまえば少なくとも集落長は、勇者シアたちのパーティを受け入れる以外の選択肢はまず取れない。
追い払おうとしてしまえば最後、それこそカイトを新しい長にと言った動きすら出てきてしまうだろう。
(わかってる、わかってんだよ、オレは、さぁ……! 飲み込んだ、飲んだんだ、でもっ!)
何処までもシアの見立て通り、筋書き通りだ。
感情的に納得は出来なくとも理解できる、目的の最短距離を走っていると実感もしている。
ただ、何よりも許せないことが一つあった。
(どうしてこんなことで……オレは気持ちよくなっちまうんだよっ……!)
カイトに女が侍る、媚びる。
まるで、自分の存在を忘れられてしまったかのように、隅に置かれてしまったまま。
そんな状態が、そんな風に思うことが、何よりも。
「う、んっ……!」
再び甘い痺れがアリーシャを貫いた。
進歩はした、進化もした、成長だってきっとしている。
カイトのことを守ると決意したアリーシャはもう相手の攻撃をわざわざ自分から受けに行くようなことはしなくなった。
受けた結果、カイトを守れなくなる可能性があると認識したからだ。
その認識が、決意が彼女の悪癖を矯正した、一歩足りない最強の戦士という汚名を返上した。
だが、引き換えに、代償に。
「く、そぉ……!」
こんな醜いとも哀れとも言われかねない状態に興奮するようになってしまった。
「こんなんで、オレ……オレはっ……!」
守れるのか、カイトの盾となれるのか。
かつてのように、こんな状況に焦がれてカイトを敵に差し出したりしてしまうのではないか。
「アリーシャ?」
「っ!?」
うなだれるアリーシャへと、首を傾げたカイトが近寄って来て。
「大丈夫ですか? 疲れましたか?」
「い、いやっ、大丈夫だぜ? あ、あぁでも、やぁっぱ帰って来て直ぐは結構堪えた、のかもしんねぇ」
「っ! それは大変です。すぐ一緒にテントへ戻りましょう」
「へ? あ、お、おいっ!?」
アリーシャの腰を引き寄せ問答無用に。
「すみませんっ! 手伝ってもらって申し訳ないのですが、続きはまた明日にでも! お礼はその時に」
ちらりとカイトは自分に侍っていた女達へ声をかけ、そのまま足早にアリーシャを連れて行く。
「……すまねぇ」
「何の謝罪ですか? わけわかりません。拠点化も大事でしょうが、パーティの皆以上に大切なものなんてありませんよ。無理しないで下さい」
そういうカイトの目は真剣で、本当にそう思っていることを疑えなくて。
「ありがとう、な」
「お礼の意味もわからないです。さ、いきますよ」
「あぁ……」
いつだって、本当に。
「お前にゃ、敵わねぇよ」
小さく、カイトに聞こえるか聞こえないか、そんな声がアリーシャの口から漏れた。