貞操観念逆転異世界で勇者パーティの性処理係やってるんだけど、仕事してたらみんな勝手に拗らせる 作:ベリーナイスメル/靴下香
「くっ、う、こ、このやろっ!」
作戦通り、アリーシャは襲ってきたモンスターのヘイトを受け止めながらじりじりと拠点まで後退している。
傍から見れば、重ねて作戦通りで、作戦を知らなければやむを得ず退いていると見間違うほどの演技力だ。
致命傷を避け、あたっても問題ない攻撃を選び受け、いつでも後方の味方と合流できるよう余力を保持したまま退いていく姿は、あるいは軍の殿を受け持つものが見習わなければならないほどだろう。
ただ、あえて言うのであれば今そう言った見事な撤退を見せているのはアリーシャだと言う事。
(あ、あぁっ! もうっ! たまん、ねぇなぁっ!)
この、受けて下がる、受けなければならないという理由を彼女は満喫していた。
かつて師の攻撃を選び受けその欲望を満たそうとしていたころを思い出すとも言えるか、マゾヒストの面目躍如である。
「だ、が――オレをトばすほどじゃねぇん、だよなぁっ! オラァッ!!」
「ギッ!?」
アリーシャのツーハンデッドソードが奔った。
剣閃の後、ずるりとモンスター何体かの身体が二つに滑る。
「ギギッ!」
「ガァッ!」
モンスターのくせに一丁前の警戒心は持っているらしい。
アリーシャを前にして、その寄せのスピードが僅かに落ちる。
「ちっ……!」
わざとらしい舌打ちを一つした後、アリーシャは作戦内容を思い返していた。
作戦における自分の役割、それはモンスターの数を間引きながら拠点への誘導である。
対しているモンスターの群れは残り20体ほどか。
一人で捌ける量ではないだろうが、アリーシャにとっては難なくこなせる量でしかなく。
(……ここで、全部ヤっちまっても)
何度目になるかの葛藤だ。
当たり前にこの、モンスターを自分がカイトの下へと引き連れているという構図には反吐が出る想いだ。
守ると決めた相手を窮地に晒すなど、あってはならないどころか、二度と守るなど口にできなくなる行為でしかない。
「ふ、うぅううっ……!」
だがそれがヨかった。
鬱屈したアリーシャの性癖がこれを快楽と捉えた。
カイトに負ける、ではなく。カイトのために負けろと言われる事が、異様なほど彼女に熱を迸らせた。
(ったく、オレってヤツはとんでもねぇメスだ。イヤになる)
アリーシャはシアが導く道筋を信じている。
そのシアが必要だと言ったのなら、感情を封じて受け入れるのみ。
これほどまでに言い訳が用意されているんだ、アリーシャが全力で作戦に従事しないわけがない。
ただ、何よりも。
(カイト、カイトォ……すまねぇ、すまねぇ……!)
一歩下がるたび、退くたび、どうしようもなく身体が快楽で痺れる。
もしも、作戦が上手く行かず、カイトがダンジョンの奥深くへ拉致されてしまったのなら。
急ぎ救援に向かった先で、モンスターたちにぼろぼろになるまで犯されているカイトの姿を見てしまったのなら。
「――ハハッ! オレって、女は最低だなぁああぁっ! オラァッ!!」
理性と本能の天秤が揺れる。
いつだって、いやいつからか。
アリーシャの戦いはいつだって自分の中にある。
敵を屠れば達成感とやってしまったなんて思いが同居した。
カイトを傷つけられないようにを誇りとし、カイトを傷つけてしまったのなら己の不甲斐なさに快楽を覚える。
(――あぁ、どうしてこう、オレって、奴は……)
アリーシャの心が、弱いほうへと流れた、流れ切りそうになった、その時。
「こおおんの負けたがりのメス豚っ! さっさとこっちにきやがりなさいましっ!!」
「っ!? お、おおっ! すまねぇっ! 助かったっ!!」
飛行魔法でアリーシャの身体をかっさらう、エリアナが文字通り飛んできた。
「ほんっとうにっ! あなたの性癖には呆れ果てる以外の言葉がありませんわっ!」
「だ、だからわりぃって言ってんじゃねぇかよ……ほんとに、助かった」
助かったに多くの意味を込めて、テントから少し離れた場所でアリーシャはエリアナに頭を下げた。
「まったく……あなたが負けるのはカイト様にのみ。己に負けるなど、わたくしは認めませんわよ」
「わぁってる、つもり、なんだがな」
アリーシャは苦く笑った。
笑って済ませられる問題でもないのだが、少なくともエリアナの前では少しだけ気楽に居られるが故だ。
「……あまり、わたくしに甘えるのも、認めたくはないのですが」
「そう言うなよ、パーティ内での誰とでもギスギスなんて、したくねぇんだよオレは」
アリーシャとしては、だが。
「カイト様が守られるなら、盾は多ければ多いほど良い……ええ、頷けますわ。その言葉にだけは」
「オレの性癖がわかんねーってんなら、お前のだってわっかんねぇんだからさ。お互い様だろ」
「うぐっ……知りませんわっ! カイト様が特別すぎるのですっ!」
「はは、同感だよ」
ある種の結束が二人の中にはあった。
パーティ内での役割として、敵対者の撃破を担うが故のと言った理由もあるが、何より一番最初にぶつかり合い腹の底にあるものを曝け出しているからだろう。
「……アリーシャ」
「わぁってる。最近のシア、だろう?」
「ええ」
周辺を警戒し、シアの合図を待ちながら二人は小さく意見を交わし合う。
「ちと、エレノーラに入ってから外すことが多いとは思ってる」
「それだけこの地域が読みにくいからとは思っておりますが」
「大筋自体は外してねぇ。が、それをフォローしてるのがカイトって構図になってやがる」
「カイト様のご心労とご負担を思えば……ええ、胸が張り裂けそうですわ」
そう言いながら、カイトに抱いてもらう機会が増えていることを喜んでもいるのだろう。
その部分がアリーシャには透けて見えるため、口をツッコミはしないが、負担と心労を気にしているのは確か。
「今回の作戦、ミスは許されねぇぞ」
「承知しております。わたくしの全てにかけ、必ず無事に」
「それはもちろん。んで」
「シアの限界を見極める、ですわね?」
エリアナの返答にアリーシャは頷いた。
現状、シアの道標は上手く機能してしない。
裏目に出る、とまでは言わないが、少なくとも自分たちがシアに従う理由を薄めていることは事実で。
「いざとなりゃあ」
「ええ、わたくしたち、だけで」
「リリアは?」
「彼女を嫌っているわけでも信頼していないわけでもありませんが……」
アリーシャの目が、エリアナの言葉の先を促した。
「宗教に、興味御座いませんので」
「はっ。同感だ」
カイトの幸福で安寧の日々を、自分たちこそが。
かつて共有した志しは今もなお胸に強くある。
あるからこそ。
「……っし、合図だ」
「急行致しますわよっ!」
「おうっ!」
眩き理想に目を曇らせて。
カイトを犠牲にしたという事実と、お互いの持つ理想が少し違うことに、触れないでいられる。