貞操観念逆転異世界で勇者パーティの性処理係やってるんだけど、仕事してたらみんな勝手に拗らせる 作:ベリーナイスメル/靴下香
重ねて言えばこの世界の貞操観念はカイトが知る世界のモノと逆転している。
正反対、鏡映しのような正確な反転や逆転とは言えないだろうが、少なくとも女性が男性に対して積極的であると言う面は揺るぎない事実の一つだろう。
そう言った文化が根差している世界で育ったものの一つに、信仰というものがある。
「――今日も良き、救済でした」
目の前で繰り広げられていた饗宴、肉欲の宴をにこやかにリリア・フローランスは見届けた。
彼女にとってこの宴は儀式である。
自分には価値がないと思い込んでいる女たちを、男がその身を使い救済し、魂の浄化を図ると言った。
そう、この世界における宗教、信仰とは、男性崇拝とも言えるモノだった。
特に、見目が優れず一生自分は男を知らぬまま生きていくのだと失意の下覚悟していた女性は、聖者とも性者とも呼ばれる男によって救われたが故に、男という生き物を崇めている。
「あら、お加減が、優れませんか?」
「あ、あぁ……違う、違うのです、リリア様、私が、私なんかが、男性様に抱かれたことが、信じられなくて、それでも心が、身体が満たされていて……!」
すっきりと、憑き物が落ちたかのように大部屋を後にしていく女たちがいる中、たまにこういった初体験の感動に打ち震える者がいる。
「いいのです、いいのですよ。あなたは今、救済されたのです。女として生を受けただけにもかかわらず、縛られていた心が、抑圧されていた魂が、男性様によって、解放されたのです。今は、その感動を噛み締めて、良いのです……!」
「り、りりあ、さまぁ……っ!」
先ほどまで信じられないと言った顔のまま、男の腕の中にいた女が、今はリリアの胸に縋りつき、涙を零す。
(あぁ、なんて、素晴らしい……男性とは、救われぬ魂の救済者……!)
こういった機会を得るたびに、リリアは己の信心を更に深める。
自身に行為の経験はないにもかかわらず、こうにまで救われた気持ちになれるのだ、かくも男という生き物は素晴らしい、と。
それが例え、機会が得られないだろう女性をターゲットに絞った、搾取的な機構を持つ宗教団体の下行われたものであっても。
リリアはこれが、これこそが女の幸せ、世界の幸せであると狂信していた。
だが、そんなある種満たされていた日は、唐突に終わりを告げることになる。
「リリア」
「はい、司祭様」
司祭と呼ばれた女性の表情は、リリアが良く知るものと変わりない。
しかし、その柔和に見える笑みの裏では、煮詰まった憎悪が隠されていた。
「シア、と呼ばれる女が勇者と認められたのは知っていますか?」
「はい。何でも初めて男性様をパーティ加入して頂くことに成功した方とか」
「そのシア率いる勇者パーティが、治療魔法の心得がある神官を望んでいるのです」
「まぁ……!」
つまり自分を求められていると理解したリリアの表情は咲き綻んだ。
対してやはり司祭の裏は猛々しく憎悪が燃え盛っている。
シアは司祭に対して言ったのだ、お前たちの客を奪う準備があると、手出しされたくなければお前たちが囲っている神官リリアを寄こせと。
「拒否されても、いいのですよ?」
「とんでもありませんっ! 初めての試み、初めての状況。きっと参加を決意された男性様の御心は安寧には程遠い事でしょう。わたしでよろしいのであれば、是非喜んで!」
一縷の望みを抱いた上での言葉だったが、やはり司祭の予想通りリリアに拒否の言葉も発想もなかった。
これからだ、これからだったのだ。
リリアの持つ類まれなる治療魔法の技術を利用して、男の機能を継続的に高め、衰えれば回復し、一層の儲けを手にできるのは。
「……わかりました、勇者シアにはそうお返事致します。ですがリリア?」
「はい、司祭様」
「辛くなれば、いつでも帰って来て良いですからね? 私達は、いつだってあなたの無事と幸せを祈っていますから」
故に、懇願にも似た感情を持って最後に届けた司祭の言葉だったが。
「ありがとうございます! ですが、ご安心ください! わたしにとって、男性様にお尽くしすることは、至上の幸せですからっ!」
純真無垢な笑顔によって、心へ届くことはなかった。
神官リリアが勇者シアのパーティへと加入して少し。
リリアがその特徴的な腰元にまで届く金色の髪と、幼さを感じさせる風貌であっても多くの人を癒すだろう柔和な笑みをずっと携えていることから、金色の癒し手と呼ばれるようになったころ。
パーティの練度を確認するため、シアは近隣で発生の予兆が観測されたモンスターパレードの処理という依頼を請け負った。
当然ながらシアには勝算があった。
自分の実力は別に換算しても、守りの強固なアリーシャ、殲滅力の高いエリアナ、よしんば誰かに命の危険があったとしても、リリアの治療魔法ならば不測の事態には陥らないと。
だが果たしてその依頼は実力試しにそぐわぬ事態を引き起こした。
順調にモンスターパレードを処理していった中、観測しきれなかった別のモンスターパレードが同時に同箇所で発生してしまったのだ。
――わたくしが、処理しますわ。
パーティだけで処理できなくなったと悟った時、エリアナが静かに、それでいて覚悟の表情を浮かべて、自身の魔力を全開放し、パレードを一掃した。
結果的にその功績を持って、勇者シア、ひいてはそのパーティが本物であると認められたわけだが、それとは別に切実な問題が発生した。
すなわち、消費しきったエリアナの魔力をどうやって回復させるかという問題である。
「……なんて、声」
カイトとエリアナがいるテントの中から、獣の声にも似た音が響き渡る様をじっとリリアは聞いていた。
確かにエリアナの有する魔力量は膨大だ、その分一般的な魔法使いよりも遥かに自然回復には時間がかかる。
エリアナはわかっていた、理解していた。魔力の全開放などすれば、自分の打ち立てた理想には至れないと。
しかし、しかしカイトは別だ、別でなければならないとつい最近理解したばかりだ。
その理解が、エリアナの覚悟を決めた。カイトにならば、カイトだけは、例外なのだと。
「う、あ……こ、こんなの、こん、なの……しらない、しりま、せん……」
テントの中から聞こえる肌と肌が水気を交えながらぶつかる音も、エリアナだろう吠えるように上がっている声も。
リリアの知る、救済の場では一つも聞くことの無かった音だ。
「ら、乱暴なことを、されて、いるので、は?」
リリアの頭に過った思考はそう。
だったが、その中に初めて自分の欲望を交えた。
見てみたい。
自分が知る救済ではない、ナニカ、その光景を。
「だい、じょうぶ、です、よね?」
見るだけだ、邪魔をするつもりはない。
儀式のときもそうだった、周りなど見えていない、気にする余裕もないと耽っていた男女しかしなかった。
だから、自分に気づかれることはない、そもそも儀式だって自分の目の届くところで行われていたじゃないか、大丈夫だと。
そう信じて、テントの入り口からこっそりと中を伺えば。
「ひ、ぁ……」
開けた瞬間むせかえるような匂いがリリアの鼻をついた、覗いた光景に膝の力が抜けた。
あぁ、確かに思った通り、自分という存在に気が付かれることなどない。
だって、そう。
「カイト! カイト様っ! あなただけ、あなただけ、えぇ! ごめんなさい! おんっ、おんぅっ! 返さなきゃ、なのにっ! まだ報いて、ないのにっ! 特別だからと言い訳してっ! あなた様を利用するっ! ずるいわたくしをお許しになってぇ!」
エリアナの瞳はずっとカイトに固定されていて、それ以外必要ないと言わんばかりだったから。
そうして、翌日。
「――あら? リリア? どうか致しましたか?」
「あ、ぅ……おはよう、ございます」
その場で尻もちをついたリリアは、何かに縫い付けられたかの如くその場から動けず、テントから出てきたエリアナを迎えた。
「おはようございますわ。夜番してくださっていたのですね、ありがとうございますわ」
「い、いえ、これもわたしのお役目、でしょうから」
そのエリアナの顔は、自分が良く知るものに似ていた。
充実感や感動を、そうだと噛み締めて満たされたかのような表情。
だが、似ているだけで何かが違うともリリアは思った。
「あ、の、エリアナ、様?」
「はい、どうされましたの?」
故に、素直に、純真無垢に。
「何故、そんなに……幸せそう、なのですか?」
問うた、教えて欲しいと思った。
そして、自分もそんな顔をしてみたいと、その表情がもっと広まるべきだと、思ったから。
「何故、って……他の誰でもない、カイト様に抱いていただけたから。それ以外に答えがありまして?」
あぁ、と。
「……ありがとう、ございます」
「いいえ? 構いませんでしてよ。では、失礼致しますわ」
遠ざかっていくエリアナの背を見送って。
「わた、しも……」
初めて自分も味わってみたい、カイトに救済されたいと、願ったのだった。
投稿開始三日目にして、何か日間ランキングにちらほら乗ってる……
こんな気持ちで投稿するの初めて、怖いです>< うそ、もう何も怖くないっ!
貞操逆転、みんな好きなんやなって。ありがとナス!
本作は10万字RTAじゃなく、長編にする予定なんで応援よろしうにです!