開演まで、残り一分。
第4スタジオ『グランドステージ』では、司会進行の生徒が場繋ぎのトークを終え、「それではいよいよ、本日の最終演者――新入生首席、花海咲季さんのステージです!」と紹介のアナウンスを入れようとしていた。
上手側の舞台袖では、駆けつけた嘱託ピアニストの白川先生がステージピアノの前に座り、いつでも鍵盤を叩けるよう指先を構えている。その隣で、花海佑芽が祈るように両手を握りしめ、搬入通路の奥を何度も振り返っていた。
「まだなの……!? 一条さん、早く戻ってきてぇ……っ!」
「フン、無駄だと言っただろうが、花海妹。ホールのPA卓と照明ブースは客席の一番後ろだぞ。あんな落ちこぼれの雑用係が何を喚こうが、現場のベテラン職人が素人の指示で動くわけがない!」
壁際で壊れたノートパソコンを抱えたままの桐生颯太が、忌々しげに吐き捨てる。
自分の保身のために棄権届を出そうとした桐生だったが、咲季がサインを拒否したため、もし本番で失敗すれば「担当プロデューサーの指示を無視してアイドルが暴走した」と言い訳するつもりで袖に残っていたのだ。
「いいか花海、今からでも遅くない! マイクを置いてステージに出るな! クリックもイヤモニのガイドもないまま歌うなんて、ピッチもリズムも崩壊して大恥をかくだけだぞ!」
「黙りなさい、桐生P」
ステージの出入り口に立つ花海咲季は、振り返ることすらなく言い放った。
だが、強気な言葉とは裏腹に、真紅の衣装に包まれた背中はわずかに強張っている。耳にはめ込まれたままの特注イヤモニは、相変わらず無音のまま。いつもなら計算されたカウントが聞こえてくるはずの場所で、自分の荒い鼓動の音だけがやけに大きく響いていた。
(私は新入生首席よ。どんな状況だって、負けるわけにはいかない……。でも、本当にガイドもなしで、私の声は客席の最後まで届くの……?)
すぐ後ろを走る妹・佑芽に追い抜かれる焦り。少しでも失敗すれば「首席のくせに」と失望されるかもしれない重圧。これまで「8割に抑えろ」というマニュアル指導で蓋をしてきた不安が、開演直前の咲季の胸を締め付ける。
まさにその時だった。
「――お待たせしました、咲季さんっ!!」
激しい足音とともに、非常通路の扉がバンッ! と勢いよく開く。
飛び込んできたのは、一条護だ。
ホール後方のオペレーションブースから舞台袖まで、通路を全力疾走してきたのだろう。シャツは汗で背中に張り付き、黒髪の短髪からは汗の雫が飛び散っている。足元の履き慣れた靴は靴底がさらにすり減り、白く埃にまみれていた。
「一条さんっ!!」
佑芽がパッと顔を輝かせる中、護は膝に手をつくことすら惜しむように咲季のもとへと駆け寄る。
そして、舞台袖のラックから黒い太いケーブルが繋がった一本のマイク――どんな大声量でも音割れせず、歌い手の声をダイレクトに拾い上げる「有線のダイナミックマイク」を掴み取った。
「咲季さん、その耳のイヤモニは外してください。もう機械のガイドはいりません」
「え……?」
「代わりに、これを持ってください」
護は咲季が耳からイヤモニを外すのを確認すると、彼女の両手に、ずっしりと重みのある有線のハンドマイクを握らせた。
そのまま自分の両手で咲季の手を包み込むように強く重ね、至近距離から彼女の赤い瞳を真っすぐに見つめる。
「はぁ、はぁ……っ。いいですか、咲季さん!」
目の前の少女を縛り付ける迷いを断ち切るため、普段は誰に対しても丁寧な護の口調が、力強い言葉へと変わった。
「今日まで君が、どれだけ早く起きて、どれだけ遅くまで一人でスタジオに残って練習してきたか、俺は全部見てきた! 君のサビ前のブレスも、床を踏み抜くみたいな強いステップも、絶対にノイズなんかじゃない! それが、花海咲季というアイドルの最大の武器だ!」
「……っ!」
咲季の赤い瞳が、大きく見開かれる。
護の手のひらは、驚くほど熱かった。自分のために会場中を走り回り、ピアニストの先生や職人たちに頭を下げてステージを用意してくれた青年の体温が、マイクを握る指先から全身へと伝わってくる。
「減点なんて気にするな! 8割に抑える必要なんかない! 君が一番輝く瞬間は、俺と職人のおっちゃんたちが全部照らすから――120%の気合で、会場を殴り倒してこい!!」
舞台袖の空気を震わせる、渾身の檄だった。
自分の孤独な努力も、誰にも言えなかった焦燥も、そして「本当は全力で歌いたい」という渇望も、目の前の青年だけは最初からすべて見抜いていたのだ。
それどころか、自分が全力で歌えるように、たった十数分でホール中のプロフェッショナルを味方につけて最高の舞台を整えてくれた。
ここまでされて、まだ減点や失敗に怯えている自分がいるものか。
咲季の胸の奥で燻っていた迷いが、一瞬にして吹き飛んだ。
「……ふ、ふふっ! あなた、担当でもないくせに、私にずいぶん偉そうな口の利き方をするじゃない!」
咲季の口元に、自信に満ちた勝ち気な笑みが浮かぶ。
頭の左右のお団子と鮮やかな赤髪を揺らし、咲季は有線マイクを片手でギュッと強く握りしめた。
「いいわ、そこまでお膳立てされたら、8割なんてケチな出力で歌えるわけないでしょ! 見てなさいよ、あなた! この超天才美少女アイドル花海咲季の本当の力を、その目に焼き付けてあげるわ!!」
『――それではお迎えしましょう! アイドル科一年、花海咲季さんです、どうぞ!!』
ステージ上から響く司会の呼び込みと同時に、咲季は黒いマイクケーブルを颯爽と翻し、光り輝くグランドステージの中央へと飛び出していった。
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「おおっ、花海咲季だ! 今年の新入生首席だぞ!」
「どんなステージを見せてくれるんだ……って、あれ?」
拍手と歓声で迎え入れた観客と、一階席中央の音楽業界関係者たちが、ステージ中央に立った咲季の姿を見て一斉にざわめき始める。
今のアイドルライブといえば、ヘッドセットやワイヤレスマイクを使い、華やかなデジタル音源に合わせて踊るのが一般的だ。
ところが、ステージ中央に立つ咲季の右手には、黒いコードが長く伸びた有線マイクが握られている。バックスクリーンのLED映像も消されており、天井から落ちる一筋の白いスポットライトだけが彼女を照らしていた。
「なんだあの有線マイクは? 桐生Pのやつ、最先端のデジタル同期ステージをやるって言ってなかったか?」
「おい見ろよ、上手の袖に白川先生が座ってるぞ……まさか、ピアノ一本で歌う気か!?」
下手側の舞台袖や見学エリアから見守っていた一年生の同期たちも、予想外の光景に息を呑む。
中野仁や佐藤健太、鈴原良治、木下誠二たちが目を見張る隣で、金髪のおさげを揺らす藤田ことねが思わず声を上げた。
「ちょ、ちょっと手毬! あれってさっき裏で騒ぎになってた機材トラブルのせい!? 生ピアノ一本であの激しいロックを歌うなんて、いくら咲季でも無茶苦茶だよぉ!」
「黙って見てなよ、ことね」
腕を組んでステージを見つめていた月村手毬が、黒い瞳を細めて呟く。
誰よりも歌に厳しい手毬には、今の咲季の立ち姿が、これまでの練習のときとは別人のように変化していることが一目で分かったのだ。
「今の咲季には、迷いもブレーキも一切ない。……誰かが、咲季の中のストッパーを完全に外したんだよ」
そして、二階の特別招待ブースでも、生徒会長の十王星南が長い金髪を揺らし、ステージと上手袖から顔を出している一条護の姿を交互に見つめていた。
「父の効率主義マニュアルでは絶対にあり得ない、有線マイクと生ピアノ一本のぶっつけ本番……。ふふ、佑芽の言っていた通りね。見せてみなさい、一条P、咲季!」
会場中の視線が一点に集まる中、ステージ中央の咲季はゆっくりと目を閉じ、袖の白川先生へと小さく頷いて合図を送る。
クリック音はない。カウントを告げる電子音もない。
ただ、咲季が吸い込んだ一息の気配だけを合図にして――白川先生の十本の指が、ステージピアノの鍵盤を力強く叩いた。
ジャアアアアンッ!!
重厚で荒々しいピアノの低音コードが、PA卓の源さんの絶妙な調整によって、ロックバンドのギターリフのような迫力でホール全体に轟き渡る。
直後、咲季が赤い瞳を見開き、マイクを口元に引き寄せて第一声を解き放った。
『――ッ、燃え上がれ、私の鼓動(ハート)ぉぉーーっ!!』
空気を震わせる、凄まじい声量のロングトーンだった。
客席の審査員や学生たちが、一斉に目を見張る。
これまで「ピッチが乱れるから8割に抑えろ」と命じられ、綺麗に整えていた優等生の歌声ではない。芯が太く、熱く、剥き出しの感情が乗った120%の歌声だ。
咲季は有線マイクの黒いケーブルを自在に捌きながら、ステージの端から端へとダイナミックに躍動する。
クリックに縛られないからこそ、ステップは自由で鋭い。咲季が一歩強く踏み込めば、袖の白川先生がその呼吸に合わせてピアノのビートを加速させ、咲季が感情を込めてフレーズを溜めれば、ピアノもまた絶妙な間で呼応した。
「す、すげえ……! ピアノ一本なのに、フルバンドより音が分厚く聞こえるぞ!」
「咲季ちゃん、かっこいい……っ! わたしも、あんなふうに歌ってみたい……!」
袖で見守る佐藤とリーリヤが、圧倒されたように声を漏らす。
だが、一条護が仕込んだ本当の勝負所は、ここからだった。
曲は一番のAメロ、Bメロを駆け抜け、最大の山場であるサビ前のブレイク――0.8秒の空白へと突入する。
客席後方のPAブースで、轟源治は卓の上に広げられた護の『観察ノート』を睨みつけ、二本のフェーダーに太い指をかけて待ち構えていた。
(来るぞ……護のノート通りなら、あの嬢ちゃんはここで一度、深く膝を沈めて息を吸う!)
ステージ上の咲季が、ピタリと動きを止める。
静まり返ったホールに、マイクが拾った咲季の深く鋭いブレスの音だけが鮮明に響き渡った。桐生が「ノイズだ」と切り捨てたその呼吸音が、今は観客全員の視線と意識を一点に引きつけるトリガーとなっていた。
次の瞬間――咲季が床板を踏み抜かんばかりの勢いで、右足を強く踏み込む。
「今だァッ!!」
源さんが吠え、ボーカルとピアノのメインフェーダーをコンマ一秒の遅れもなくグッと押し上げた。
『――どんな嵐も、越えてみせるわぁぁーーっ!!』
踏み込みの衝撃と、源さんが押し上げた音圧、そして咲季の100%を超えた歌声が完全に重なり合い、圧倒的な音の塊となって客席へと突き刺さる。
ホールの空気そのものがビリビリと振動し、客席のあちこちで息を呑む声が上がった。
「お姉ちゃん、すごぉぉいっ!!」
袖で見ていた佑芽が、ぴょんぴょんと飛び跳ねて歓声を上げる。その隣で、護は自分の拳を強く握りしめ、瞬きすら忘れて咲季の姿を追い続けていた。
(いいぞ、咲季さん! そのまま、二番の最後まで突き抜けろ!!)
ステージの上で、咲季はかつてないほどの高揚感に包まれていた。
歌えば歌うほど、足元のモニタースピーカーから最高のバランスで自分の声とピアノが返ってくる。どれだけ激しく動いても、白いスポットライトが寸分の狂いもなく自分を追い続けてくれる。
自分が積み重ねてきた努力を、裏方の職人たちと、あの袖にいる一人の青年が全力で肯定し、支えてくれているのが肌で分かった。
(楽しい……っ! 私が歌いたかったのは、私が勝ちたかったのは、このステージよ!!)
曲は二番のクライマックスへ。
転調を伴うラストサビの最高音、音程を外すのを恐れて声を細めてしまいがちな難所のフレーズが迫る。
照明ブースの灯里照美が、インカムに向かって鋭く叫んだ。
「来るよ若い衆! 護くんのコンテ通り、咲季ちゃんが右拳を突き上げた瞬間、バックの真紅とピンスポットを全開にしな!!」
ステージ中央で、咲季が全ての迷いを振り切るように、右拳を天へと真っすぐに突き上げる。
バアンッ!!
照明が一瞬にして切り替わった。ステージの背後から真紅のバックライトが鮮烈に放たれ、二階席からの純白のピンスポットが、逆光の中に立つ咲季の姿をくっきりと照らし出す。
『――私が、一番星よぉぉぉーーーっ!!』
地声の芯を保ったまま、天井を突き破るような圧巻のロングトーン。
一ミリのピッチの揺らぎもない力強い歌声が、グランドステージの隅々まで響き渡った。
やがて、ピアノの最後の残響がホールに溶けて消えていく。
肩で大きく息をしながら、汗に濡れた赤髪を揺らして立つ咲季。
一秒、二秒と続いた静寂のあと――。
ドォォォォォォッ!!
ホール全体が揺れるような大歓声と、割れんばかりの拍手が爆発した。
一階席の生徒たちだけでなく、厳しい目で採点シートを見ていた外部の音楽関係者たちまでが次々と立ち上がり、会場中を巻き込んだスタンディングオベーションが巻き起こる。
「す、すげえ……なんだ今のステージは!!」
「鳥肌が止まらない……あれが今年の首席、花海咲季の実力なのか!?」
客席の熱狂の真ん中で、咲季は眩しそうにライトを見上げ、それから上手の舞台袖――自分を誰よりも真っすぐに見つめている黒髪の青年の方を向いて、誇らしげな勝利の笑みを浮かべた。
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鳴り止まない拍手の中、咲季は深々と一礼をして、熱気の渦巻くステージから上手袖へと降りてくる。
白川先生がピアノの前から立ち上がって「見事な歌だったよ、花海さん!」と拍手を送り、佑芽が「お姉ちゃん、世界一かっこよかったよーっ!!」と飛びつこうとした。
だが、それよりも早く、壁際から一人の男が満面の笑みを浮かべて咲季の前へと割り込んでくる。
プロデューサー科三年生の桐生颯太だ。
「いやあ、素晴らしかったぞ、花海! さすが俺が見込んで指導しただけはある!」
さっきまで青ざめて「棄権しろ」「大恥をかくぞ」と喚いていたのが嘘のように、桐生はジャケットの襟を正し、周囲のスタッフに聞こえるような大声でまくし立てた。
「実はな、お前の潜在能力を限界まで引き出すために、俺が日頃から徹底的に基礎を叩き込んでおいたおかげなんだ! 機材トラブルにも動じず、あえてアコースティック編成に切り替えるという高度な判断が功を奏したな。これで五月のフレッシュアイドル公演のMVPは、俺たちのタッグで決まりだ!」
あまりの手のひら返しに、周囲のスタッフや佑芽が呆気に取られて言葉を失う。
桐生は得意げに頷きながら、咲季の肩に手を置こうと腕を伸ばした。
しかし――その手は、咲季の冷たい一言によって空中で止まる。
「……気安く触らないでちょうだい、桐生P」
咲季は一歩も引くことなく、鋭い瞳で桐生を真っすぐに見据えた。
「な、なんだと……? おい花海、俺は担当プロデューサーとしてお前を褒めてやって――」
「担当プロデューサー? 笑わせないで。機材が壊れた瞬間に自分の成績のことばかり心配して、アイドルの最初のステージに棄権届を突きつけた人間が、どの口でプロデューサーを名乗るの?」
凛とした咲季の声が舞台袖に響き渡る。
集まってきていた中野Pや佐藤P、そして手毬やことねたち一年生も、息を呑んでその光景を見守っていた。
「私のステージから逃げた臆病者に、用はないわ。今日の歌に、あなたの力なんて一ミリも入っていない。二度と私の前にプロデューサー面をして現れないでちょうだい!」
「くっ……お、お前、三年生の俺にそんな口を利いて、ただで済むと――」
『おい桐生コラァ! まだそこにいやがったのか、てめぇ!!』
逆上しかけた桐生の頭上から、連絡用スピーカー越しにPAチーフ・源さんの怒鳴り声が落ちてきた。
『バックアップも持たずに回線を飛ばして逃げたくせに、よくもまあ自分の手柄みてぇなツラができるな! 今すぐ運営本部に、てめぇの機材管理ミスと職務放棄の報告書を叩き込んでやるから、首を洗って待ってろや!!』
「ひっ……!?」
さらに周囲の照明スタッフや音響サブの職人たちからも、冷ややかな視線が一斉に桐生へと突き刺さる。
現場全員を敵に回したことを悟った桐生は、顔を青ざめさせながら「お、覚えてろよ……!」と捨て台詞を残し、裏口から逃げるように姿を消した。
「……まったく。せいせいしたわ」
咲季がふうっと息を吐き出し、くるりと踵を返す。
視線の先にいたのは、舞台袖の隅の機材ケースに背中を預け、すり減った靴を投げ出して床に座り込んでいる一条護だった。
極限の緊張が解け、全身の力が抜けたのだろう。護は汗だくの前髪をかき上げながら荒い息をついていたが、咲季と目が合うと、目の下の隈も忘れて「……最高のステージでしたよ、咲季さん」と、心から嬉しそうに笑った。
コツ、コツ、とステージブーツの音を響かせて、咲季が護の目の前へと歩み寄る。
床に座り込む護を見下ろすように立ち止まると、咲季はさっきまでの毅然とした態度から一転して、耳の先までみるみる赤く染めた。
「あ、あのね……! 私はもともと超天才なんだから、一人でだって歌えたのよ!」
「え……? は、はい、そうですね。咲季さんの実力なら……」
「で、でもっ! あなたが勝手に走り回って、ピアニストの先生や音響、照明の人たちに頭を下げて……『120%の気合で殴り倒してこい』なんて私の背中を叩いたから、あんなに気持ちよく声が出ちゃったんじゃない!」
咲季は照れくさそうに一度だけ視線を逸らすと、すぐに再び護の瞳を真っすぐに見つめ返し、右手をビシッと差し伸べた。
「ふんっ、そこまで言うなら、自分の言葉に責任持ちなさいよ! 私のアイドル人生の始まりを守った責任、ここで終わりなんて思わないでよね!」
「せ、責任って……俺はただ、運営サポートとして……」
「うるさいわね、雑用係なんかで終わらせるわけないでしょ! 今日この瞬間から――あなたが、私・花海咲季の専属プロデューサーになりなさい!!」
舞台袖に響き渡った、新入生首席からの熱烈な「逆指名」。
周囲にいた同期のプロデューサーやアイドルたちが「えええええっ!?」と驚きの声を上げ、護が目を白黒させて固まった――まさにその直後だった。
「ちょちょちょちょちょ! ちょお~~~っと待ったぁーーっ!! お姉ちゃんばっかりズルいよぉぉーーっ!!」
すぐ隣で一部始終を見ていた妹・花海佑芽が、ふんわりとした茶髪を弾ませ、全力疾走で二人の間へと飛び込んできた。