Fate/Zero ゼロに向かう物語   作:俊海

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ちょっとだけ続きました。
また気が向けば書きたいと思います。

ただ、原作のイメージを大事にしている方は読まないほうがいいかと思います。
……ジョニィって私生活だと、どんな性格なんだろう。


雁夜を縛るものはなくなった。

「それで、こうしてゾウゲンもいなくなったわけだけど、次の行動指針はどうする?」

 

 

 なんでもないかのように、バーサーカーは『臓硯であったもの』から、視線を雁夜へと向ける。

 どうも、桜の体内にいた蟲が本体だったらしく、バーサーカーの攻撃によって臓硯はこの世から消え去っていた。

 

 

「……ははは、何だったんだろうな、俺が臓硯に怯えていたのがバカみたいだ。あっさりと終わっちまった……」

 

 

 雁夜の言うように、臓硯はあっさりこの世から姿を消してしまった。

 しかも、バーサーカーが、少しの間指を向けていただけで。

 ようやく、間桐の呪縛から解放されたのはいいけれど、自分が恐怖していた存在が消えてしまったせいで、何か心がぽっかり空いたような感覚になってしまった。

 

 

「そうやって感傷に浸るのはあとにしてくれ。僕にも父親との関係には後ろめたいところはあるけど、今は聖杯戦争中だ」

 

「そうだな……。いや、それよりも先にお礼を言わせてくれ。お前のおかげで俺達は救われたよ」

 

「別に感謝されるようなことじゃあない。僕の目的のために、最善だと思ったからやっただけだ」

 

「それでも、救ってくれたのには変わりないさ。本当にありがとう」

 

 

言うと、雁夜はバーサーカーに向かって頭を下げた。

 

 

「バーサーカーさん、おじさんと私を助けてくれて、ありがとうございます」

 

 

 それに倣ったかのように、桜もまた、バーサーカーに頭を下げる。

 この二人の行動を見た、バーサーカーはというと――

 

 

(……どうしよう、すごくむず痒い)

 

 

 どう反応すればいいのか分からず、ひたすらに困っていた。

 

 

(生前だと、あんまり人から感謝されることってなかったからなぁ……。こうやって手放しに感謝されると、嬉しいような、恥ずかしいような……)

 

 

 バーサーカーは、人生の半分以上が信用できる人間が存在しない環境にあった。

 自分のせいで亡くなった(かもしれない)兄や、かけがえのない友人、そして、最後に出会えた女性と、その間に生まれた子供。

 自分が心から信用できる人間が、この四人しかいなかった。

 その上、結構利己的な性格であり、『誰かのために行動する』ことが非常に稀である。

 それはつまり、元から感謝されるようなことをする人間ではないし、極稀に他人を助けたとしても、ほとんどが礼をしてくるような人間ではないことが多かったのだ。

 むしろ、恩を仇で返してくるような人間しかいない。

 

 

(……僕自身も大概だと思うけど、周りの人間も非常識な奴ばかりだったな。僕の人生)

 

 

 おそらく、それでもバーサーカーの方が、いろんな意味で非常識な存在ではあると思うが、彼自身にはそんな自覚は存在しない。

 

 

「そうやって頭を下げないでくれないか?いや、君達が感謝してくれるのはありがたいけど、居心地が悪い」

 

「……そうか、分かった。でもそっちも分かってくれ。俺達は、お前にそれくらい救われたってことを」

 

「あ~!分かった!OK!だからそれ以上言わないでくれッ!」

 

「どうしたのバーサーカーさん?少し顔が赤いよ?お熱?」

 

「僕のそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ!!」

 

 

 そこには、あの化物を打倒した英雄の姿はなく、ただただ照れているだけの青年がいた。

 

 

 

 

 

 

――――…………

 

 

 

 

 

 

 

『俺としては、お前のやりたいようにやったらいいと思う。あ、桜だけは巻き込むなよ?』

 

『そんなの当たり前だろ。これでも僕にだって子供がいる。無意味に子供を巻き込む心算はない』

 

『お、お前子持ちだったのかよ!?』

 

 

 そんな作戦会議とは名ばかりの会話を交わしてから数日後、サ-ヴァント同士の激しい戦闘の気配を感じ取ったバーサーカーは単独で倉庫街にやってきた。

 かといって、そこに乱入するつもりは毛頭ない。

 なにせお世辞にもバーサーカーのステータスは高いとは言えない。なるべく他の陣営の情報を入手して、互いに消耗してくれるのを待っていないと、この聖杯戦争では生き残れない。

 

 

「それにしても皮肉なもんだな。理性を奪われるはずのバーサーカーが頭を使ってサバイバルしないといけないなんて」

 

 

 そんな状況をバーサーカーは自虐しながら苦笑する。

 しかし実際、バーサーカーはそういう戦い方に向いているともいえる。

 バーサーカーは近代の英霊だ。他の英霊に比べて素のスペックは低いが、その分消費魔力が異常に低い。

 そのうえ、『この世界』には彼の名はどこにも残されていない。

 同姓同名の別人ならいるかもしれないが、この世界の歴史において『スティール・ボール・ラン』が開催されたという文献がどこにもない。

 つまりこの世界は彼にとってパラレルワールドと言える場所で、歴史上にバーサーカーの名前を探し出すのは不可能だ。

 知名度補正はないが、そのおかげで世界の修正力も低く、維持魔力さえ弱り切った雁夜でも余裕で賄える。

 貧弱な代わりに、突かれて困る弱点がなければ、スタミナの問題もない。長期戦になるほどバーサーカーは有利になる。

 

 

「これだと、キャスターで召喚されてたらカリヤも一瞬でお陀仏だっただろうし、結果オーライだな」

 

 

 ちなみにこのバーサーカーがキャスターだった場合、とんでもない代物を宝具として持ち込んだ状態で召喚されていた。

 おそらく世界中に広まっているとある宗教の関係者であれば、目の色を変えてでも欲するであろう代物を。

 

 

「それはさておき、あいつらの情報を探るとするか」

 

 

 気持ちを新たにしてバーサーカーは倉庫街に視線を向ける。

 そこではセイバーとランサーが交戦している。

 凄まじいという言葉でさえ生ぬるく思えるほどの攻防が繰り広げられ、その一太刀ごとに必殺の威力が込められている。

 おそらく、バーサーカーでは彼らの攻撃に二、三回直撃するだけで現界すら危うくなるだろう。

 

 

『……大昔の英霊ってのは、あんな化け物だらけなのか?しかも一人は女の子だぞ』

 

「……僕に聞かないでくれ。正直僕でさえ常識外れとしか思えないんだ」

 

 

 神秘というのは古くなればなるほど強くなり、知名度が高ければその分人々の理想を体現しやすくなる。

 彼らはその極みに存在する英霊たちだ。バーサーカーとは比較にならない。

 雁夜がパス越しに尋ねてくるが、バーサーカーにとっても彼らは規格外すぎる。

 

 

『でも、女で武勇に長けてる英霊って……ジャンヌ・ダルクとかアマゾネスくらいじゃないか?一説によれば上杉謙信も女だったらしいって説もあるけど眉唾物だし』

 

「残念だがジャンヌの武器は旗だし、アマゾネスの時代にあんな立派な鎧はない。その上聖杯戦争では基本的に西洋の英霊しか召喚されない」

 

『う……じゃあお前は分かるのかよ?』

 

「今は互いに宝具を見せていないし正確なことは分からないけど、一つ言えることがある」

 

『そうなのか?それってなんだ?』

 

「あの二人は多分紀元後の英霊だ。互いに騎士って言ってるしな」

 

『なるほど……』

 

 

 騎士が現れたのは、おおよそその時代にあたる。

 正確に言うなら古代ローマでもエクィテスという騎士の階級はあったが、彼らのどこか気品のある立ち振る舞いから、おそらく古代の英霊ではないだろうとバーサーカーは踏んでいた。

 

 

「なんにせよ、強力そうなサーヴァントがつぶし合ってくれているんだ、僕たちは高みの見物と行こうじゃあないか」

 

『ま、俺にできることは何もないけどな』

 

「そういうなよ。こういう時に話し相手がいるっていうのはありがたいもんだぜ?一人だとただ見張ってるだけで退屈になっちまうんだから」

 

『そう言ってくれると助かるよ』

 

 

 そんな会話を続けていたら、突如暗闇を雷光が迸る。

 そしてその稲妻がセイバーとランサーの間に落ちると、牡牛に引かれた戦車が現れた。

 

 

「双方、剣を収めよ!王の御前であるぞ!」

 

 

 そのチャリオットから大柄な男が降りてきて、高らかに謳いあげた。

 内心バーサーカーは、『片方は剣ではなくて槍じゃあないのか?』とか思ったが。

 

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した!」

 

(……何を言ってんだ…………?……こいつ……)

 

 

 自ら自分の真名をバラすなんて自殺行為にしか思えない。

 バーサーカーは、イスカンダルの行動が何一つ理解できずにいた。

 そしてそれは雁夜も同じで、こんなバカに世界は一度征服されかけたのかと呆れていた。

 

 

「何を考えてやがりますか、この馬鹿はーー!!」

 

 

 やらかしたライダーの横で激昂しているマスターと思しき少年。

 常識はずれな行動をするライダーに振り回されているのであろうことがうかがえる。

 そんなマスターの怒りなどどこ吹く風と、ライダーは次の言葉を発した。

 

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交える前に先ず問うてみたい。うぬらの聖杯へのその願望は天地を喰らう大望に比してもなお重いものかどうか」

 

「貴様、何が言いたい?」

 

 

 何か妙なことを言い出したライダーの真意を問うために、セイバーが尋ねる。

 

 

「うむ。噛み砕いて言うとだな。一つわが軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦をともに分かち合う所存である」

 

 

 そしてライダーはさらにやらかした。

 しかもそんなたわけたことを真面目な顔で言い放つのだから始末が悪い。

 ただでさえ白い目で見ていたセイバーとランサーが、もはや底冷えするような冷たさを伴って視線を向けて返答する。

 

 

「……先に名乗った心意気に、まあ感服せんでもないが……その提案には承諾しかねる。俺が聖杯を捧げると決めたマスターはただ一人。それは断じて貴様ではないぞライダー」

 

「……そもそもそんな戯言を述べ立てるために、貴様は私とランサーの勝負を邪魔だてしたというのか?戯言が過ぎたな征服王。騎士として許しがたい侮辱だ!」

 

 

 残念でもなく当然だろ。

 バーサーカーと雁夜の思考がシンクロした。

 

 

「……正直に言うと、聖杯を使わせてくれるならあいつらの仲間になってもいいとは思ったけど、ともに征服するって言ってもなぁ」

 

『え、お前それ本気で考えてるのか?』

 

「そりゃあ当然だろ?僕たちの戦力は弱いんだ、強力な陣営を仲間に引き込むのは悪くないよ」

 

『……じゃあ、一回聞いてみたらどうだ?自分の願いに聖杯を使ってもいいかって』

 

「あー……でも、あの状況下でか?それはただの自殺行為ってやつだろう?」

 

 

 そもそも、ライダーが声をかけたのはあの二人が強力なサーヴァントだからであって、自分のような弱いサーヴァントは歯牙にもかけない可能性の方が高い。

 それで相手にされなかったら、自分も正体をバラしたうえで強力なサーヴァントに囲まれるリスク付きだ。

 

 だが、ライダーの陣営と協力できるなら、これ以上なく心強い。

 もともとバーサーカーは目的のためなら誰かの仲間になることに抵抗はない。

 バーサーカーが会いたいと願っている親友との共闘自体が、技術を会得するという目的のために付きまとっていたことから始まったのだから。

 

 

『なんだったら令呪で撤退をサポートしてもいいぞ』

 

「いいのか?」

 

『俺には聖杯戦争の知識なんてそんなにないし、バーサーカーが正しいって思うならやってみる価値はあるんじゃないか?』

 

「……そうか。じゃあ、試しに……」

 

 

 マスターの了承を得て、バーサーカーは戦場へと走り始めた。

 こういうとき、バーサーカーは考える。あの時はこの足のために親友と共にいたのに、今では親友のために足を動かすことになるとはと。

 

 

「むぅ……待遇は応相談だが?」

 

「「くどい!!」」

 

 

 なおも引き下がるライダーを二人そろって切って捨てた。

 その返事に、本当に残念そうな顔をしてライダーは頭を掻いた。

 

 

「こりゃー交渉決裂かぁ。勿体無いなぁ。残念だなぁ」

 

「へぇ、待遇は応相談だったのか。だったら僕なんかはどうだ?」

 

 

 ちょうどいいころ合いに、バーサーカーが戦場に乱入した。

 突然の乱入者に、その場にいた全員の視線がバーサーカーに注がれる。

 

 

「ほう!余の求めに応じるものが現れるとはな!どうだ坊主!余の『ものは試し』というやつも捨てたものではないではないか!」

 

「『ものは試し』で真名をバラしたんかいっ!?」

 

 

 なにやらライダーの主従が漫才をし始めているが、バーサーカーには関係ない。

 

 

「それで、僕は仲間にしてもらえるのかい?」

 

「構わぬぞ!余は来る者は拒まずだからな!ところでお前さんはどのクラスだ?」

 

「……バーサーカーだ」

 

 

 少し、バーサーカーは早まったかと頭を抱えた。

 仲間にしてからクラス名を聞くとは、どこか抜けているとしか思えない。

 

 

「ほうほう!理性があり会話もできるバーサーカーとな!それはまた珍しい!して、待遇について聞きたいらしいが、どういった内容だ?」

 

「簡単なことさ、あんたが願いをかなえた後でいいから僕にも聖杯を使わせてほしい。あんたの願いをかなえても、それだけの余裕はあるんだろ?」

 

「なぜそう思う?」

 

「あんたは『余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦をともに分かち合う所存』と言った。ということはつまり、ライダーの目的は世界征服で、そのためには僕たちを受肉させないといけないってことじゃあないのか?だったら僕達の分も聖杯の容量を残そうとしているはずだ」

 

「おいおい、そんなことをしたらお前さんを受肉できないではないか」

 

「安心しろ。僕は現界するのに魔力はほとんど食わない。その分の願いを僕の願いに回してくれってだけさ」

 

「……喋ることができるどころか、それなりに思考もできるとは、お前さんは本当にバーサーカーか?」

 

「ああ、まぎれもなく、僕はバーサーカーさ」

 

 

 この段階で、別段バーサーカーの考え方は間違ってはいない。

 ライダーは受肉して、仲間になったサーヴァントと世界征服しようとしているのは間違ってはいないし、ライダーのマスターも雁夜も叶えたい願いがあるわけではないので、実質一組分の願いをかなえるだけで済むというのも間違ってはいない。

 

 ただ、ライダー組もバーサーカー組も知らないことがあった。

 聖杯は願いをかなえるのに六騎分の魂が必要であること。

 そして、実は『あるサーヴァント』が脱落してしまえば、その問題はクリアーできてしまうということを。

 

 

「あいや分かった!そういうことなら問題ない、余の配下になれ!」

 

「ちょ、ちょっと待てよライダー!こんな奴を仲間にしていいのかよ!?」

 

「どうした坊主、何が不満だ?」

 

「不満だらけだーー!!」

 

 

 さっきから変動しまくる状況に、ようやくツッコミを入れられたのはライダーのマスターであった。

 なんせ戦いに横やりを刺されたと思ったら、そいつがいきなり勧誘してきて、その勧誘に乗ったサーヴァントが現れ、挙句の果てにそのサーヴァントがバーサーカーなくせに意思疎通をしてくるという、常識はずれにもほどがある展開なのだから。

 

 

『いったい何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば……よりにもよって君自身が聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ。ウェイバー・ベルベット君』

 

 

 そのライダーのマスターによって、ようやく調子が戻ったのか、男の声が倉庫街に響く。

 どうやらウェイバーというのがライダーのマスターの名前らしい。

 そして、その声の主は、ウェイバーにとって出会いたくなかった人間であることが、顔色からうかがえる。

 

 

『致し方ないなぁウェイバー君。君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺し合うという本当の意味……その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげるよ。光栄に思いたまえ』

 

 

 つまり、男の言葉を要約すると二人は師弟関係にあり、そして弟子であったウェイバーがイスカンダル召喚のための聖遺物を盗んで冬木市に来たということらしい。

 そして今、男はウェイバーを明らかに見下している。

 だが言い返せない、ウェイバーが言い返そうとしても恐怖がその口を閉ざしてしまう。

 

 

「おう、魔術師よ。察するに、貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターとなる腹だったらしいな」

 

 

 だが、代わって言い返す者がいた。ウェイバーのサーヴァントのライダーだ。

 

 

「だとしたら片腹痛いのぅ。余のマスターとなるべき男は余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸さえない臆病者なぞ、役者不足も甚だしいぞ」

 

 

 多分、ライダーは本気で言っているのだろう。

 本心から、共に肩を並べないものはマスターの資格なしと思っているのだろう。

 その言葉に続いて、バーサーカーが口を開く。

 

 

「よかったなあんた、ウェイバーってやつに聖遺物を盗まれて。間違いなくあんたじゃライダーとはうまくやっていけなかったと僕は思う。……もしかしたら、今のサーヴァントでもぎくしゃくしてるんじゃあないか?」

 

 

 多分に皮肉が混じっている。

 『お前が馬鹿にしている奴のほうが、お前なんかよりもよっぽどサーヴァントとうまくやってるぞ』と。

 バーサーカーにも思うところはあるのかもしれない。自分の成し遂げた成果が認められない、認めようとしない人間に対する悪感情というのが。

 

 

『……貴様まで私を馬鹿にするつもりか?』

 

「そんなことを言ったつもりはない。ただ、そういう事実を上げてるだけさ」

 

「おお、よく言ったバーサーカー!全く、この戦争には腰抜けばかりが多くて困るのう。おいこら、他にもまだおるだろうが。闇にまぎれて覗き見をしている連中は!」

 

「……どういうことだ?」

 

 

 バーサーカーが聞き返すと、ライダーは若干どや顔しながら言い放つ。

 

 

「セイバー、そしてランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、真に見事であった。あれほどの清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人ということはあるまいて」

 

 

 確かにそれもそうだ。

 バーサーカー自身も、勧誘がなければ出てくるつもりは一切なかったのだから、他にも隠れていてしかるべきだろう。

 

 

「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

 

 ……バーサーカーはすごく不安になってきていた。

 やはりこいつと組むのはやめた方が良かったのではとさえ考え始めた。

 今見てるやつは、情報収集のために観察しているのであって、ライダーにどう思われようと出てくるわけがない。

 そんな挑発で出てくるような奴は、最初っからライダーのように乱入してきただろうし、そんなことを言って何の意味があるんだと思い悩む。

 

 が、そんなやつがいるあたり、聖杯戦争というのは非常に奇妙なものなのだろう。

 

 

「我を差し置いて”王”を称する不埒者が一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

 

 第一印象は『黄金』だった。

 もはや目が痛くなるほどに輝いている黄金の鎧を身にまとっている。

 しかも一目でわかってしまうほどの傲岸不遜さ。いよいよもってバーサーカーは聖杯戦争はこんな魔境だったのかと激しい頭痛とともに思い始める。

 

 

「難癖付けられたところでなぁ……イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王にほかならぬのだが」

 

 

 あのライダーでさえ、自分以上に突飛な性格をしているサーヴァントがいることに呆気を取られた。

 それでも、誰よりも先に黄金のサーヴァントに反応するところはさすがといったところか。

 

 

「戯け、真の英雄たる王は天上天下に我ただ一人。後は有象無象の雑種にすぎん」

 

「そこまで言うならまずは名乗りをあげたらどうだ?貴様も王たるものならばまさか己の偉名を憚りはすまい」

 

「問を投げるか、雑種風情が、王たる我に!我が拝謁の栄に欲してなお、この面貌を見知らぬと申すならそんな蒙昧は生かしておく価値すら無い!」

 

 

 とんでもないことを抜かす王もいたもんだな。

 バーサーカーは一人ごちて、それに雁夜が反応した。

 

 

『あれってサーヴァントだよな、バーサーカー』

 

『確かにそうだ、サーヴァントだ。……なんでそんなことを?』

 

『素朴な疑問。サーヴァントって召使いって意味だよな?あんな奴をサーヴァントなんてのにしたら間違いなく上手くいくわけないのになんであいつを召喚したんだ?100%相性悪いだろ、どんな奴がマスターでも』

 

『確かに……言われてみればそーだね』

 

『そもそもあのサーヴァントって時臣の奴のサーヴァントだし、なんであいつあんな扱いにくそうなサーヴァントを選んだんだろーな』

 

『……ああ、分かった。あんな奴を狙って召喚しようとするマスターなんて、『私ならうまく扱える!』なんて思ってそうで相当傲慢だからとかァーー?』

 

『なるほど!確かに時臣はそういうやつだった!!傲慢同士惹かれ合ったって訳かよーー!!』

 

『『アッハッハッハッハ!!』』

 

 

 今のでだいぶ気が楽になった。

 やはり話し相手がいるのは素晴らしい。そう再認識したバーサーカーだった。


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