ちょっと原作を大事にしている人には申し訳ないですが、少し違和感がある設定があります。
その点はご容赦ください。
ここに五騎のサーヴァントが出そろったが、誰も動き出そうとしない。
いや、正確には動き出すことができない。
下手に先走ってしまえば、残りのサーヴァントに狙われてしまうかもしれないからだ。
「誰の許しを得て我をみている。この狂犬が……!」
「え、僕?」
が、そんな定石など知ったことかと言わんばかりに、アーチャーがバーサーカーに敵意を向け始めた。
どうも、バーサーカーが雁夜と共にアーチャーのことを馬鹿にしていた空気を感じ取ったのだろう。
もはや言いがかりレベルで敵と認定されてしまったバーサーカーは戸惑うばかり。
しかし、そんなバーサーカーの事情など、アーチャーには関係がない。
アーチャーの左右の空間が歪む。
そこから、施されている装飾や感じ取れる魔力の量から明らかに宝具だと分かる剣と槍が現れ、バーサーカーの方へとむけられた。
「せめて散りざまで我を興じさせよ。雑種ゥ!!」
「うおっ!?」
歪んだ空間から現れたアーチャーの剣と槍が、バーサーカーに向けて射出された。
その場にいたマスターには視認ができないほどの速度を伴った流星のごとき攻撃が、今バーサーカーの命を奪おうと迫りくる。
『なんてでたらめな攻撃なんだっ!?』
雁夜がその規格外の攻撃に驚く。
アーチャーと言えば、確かに遠距離攻撃ではあるが、あれほどの宝具を弾の代わりに飛ばすなんて成金趣味もいいところだ。
だが、その成金趣味だろうがなんだろうが、その攻撃は単純ゆえに強力だ。どう取り繕おうとその事実は変わらない。
どのようなサーヴァントでも、アーチャーのあの攻撃が直撃すればリタイアは必至だろう。
だというのにバーサーカーは自分に迫ってくる宝具をよけようとしない。
それどころか、彼の視線はわずかにライダーの方へと向けられていて、手に持っている『何か』に回転を加え始める。
そして、あと数瞬で被弾するそのギリギリのタイミングで自分に向かってくる流星に『何か』を投げ放った。
瞬間、金属同士のぶつかり合う轟音が響いた。
その衝撃によって舞い上がった粉塵が、バーサーカーの周りを覆い隠す。
視界が遮られ、バーサーカーの様子が見えない。それでも周囲のマスターたちの見解はほとんど一致していた。
『あの攻撃を受けてはひとたまりもないだろう』と。
「……ふぅ、なんとかこれくらいはできるか」
『なっ!?』
全員が、バーサーカーの早々の脱落を予期したとき、砂塵の中からバーサーカーの声が聞こえた。
その声に驚き、全員がそこに目をやると、バーサーカーはいまだ健在の姿で悠然と立っていた。
彼らは、バーサーカーがどうあがこうと、黄金のサーヴァントの裁きは覆らない。そう結論付けていた。
しかし現実には、そんな攻撃などものともせずに、バーサーカーは『無傷』で立っている。
その右手には、奇妙な回転をしている『鉄球』が握られて、バーサーカーの足元には剣と槍が落ちていた。
「奴め、本当にバーサーカーか?」
サーヴァントたちには何が起こっていたのか理解できたらしく、ライダーが感心したように言葉をこぼす。
「な、何が起きたんだ……?」
「見えなかったのか?バーサーカーは、あの鉄球でもって迫りくる剣を弾き飛ばし、その弾かれた剣が狙ったかのように槍とぶつかり、両方がバーサーカーに届くことなく地面にたたき落とされたのだ」
「はぁっ!?」
ウェイバーの疑問にライダーが答えを返す。
つまりバーサーカーは、見かけでは大したことのないような鉄球を投げただけで、アーチャーの凄まじい攻撃を迎撃したということになる。
見るからに異常な攻撃を、別の方向に異常な防御で跳ねのけたバーサーカーにウェイバーは呆れたような声を挙げた。
「お前さん、狂戦士という割にはえらく芸達者な奴だのぅ」
「まぁ、あいつほどは上手く投げられないけど、僕に向かってくると分かっているならどうにでもなるさ。待ち構えていればいいんだからな」
「な、なぁバーサーカー、それがお前の宝具なのか?」
ライダーの言葉に、冷静に返事するバーサーカー。
そして、ウェイバーが多少は話の通じるサーヴァントと判断したのか、その鉄球が宝具なのかと尋ねる。
案外、こうやって物怖じしないあたり、ウェイバーは相当肝が据わっているのかもとバーサーカーは考えながら、正直に答えた。
「いや?『鉄球』自体は、多少魔力を通しただけで、素材は本当にただの鉄だ。宝具でも何でもない」
「嘘だろ!?」
「本当さ。何なら見てみるかい?」
そのままバーサーカーはウェイバーに今しがた使った鉄球を投げてよこす。
即座にウェイバーがいろいろ解析してみるが、本当にそれはただの鉄球だった。
「じゃ、じゃあバーサーカーは、ただの鉄球であんな宝具を防いだってことかよ!?」
「……『鉄球』というよりは『回転』だけど、まあその認識でいいよ」
バーサーカーの武器は、『技術』によりもたらされた『回転』であり、真球であるならなんでもいい。
本来の武器もあるにはあるが、あちらの方は弾数が制限されるので、予備として鉄球を持っていたに過ぎない。
が、そんなことなど問題ではない。問題なのは『鉄球』で『宝具』を防いだことだ。
この結果は、ある引き金を引くのに十分である。
少し思い出してみよう。
その宝具を放ったのは一体誰だったのか。
どうしてその人物はバーサーカーに攻撃したのか。
そして――その理由で攻撃できるような人物が、この状況を許しておくことができるのか……!
少し穿った見方をされたというだけで処断しようする人物が、自らの宝具をたかが鉄球で防がれて、なんとも思わない訳がないっ!
「……その塵芥に等しい玩具で、我が宝物を傷つけるとは……そこまで死に急ぐか、狗ッ!」
『死に急ぐも何も、そうしなかったら死んでたっての』
『よせよカリヤ、傲慢な人間には理屈は通じないんだよ』
雁夜との会話もよそに、アーチャーが深紅の双眸をはっきりとした殺意を持ってバーサーカーに向ける。
アーチャーの背後から後光のように新たなる宝具が出現した。
その数16、槍や剣はもちろん斧、槌、矛……挙句の果ては用途の知れない奇怪な刃を持つ武器まである。
「そんな……馬鹿な……っ!」
ウェイバーの驚きも当然だ。
本来宝具は英霊を象徴するものであり、中には複数の宝具を持つ英霊も存在するのは確かだ。
しかし、数も種類もまるで統一性のないものを宝具にしている英霊がいるなんて想像の埒外なのだから。
そんな絶望的な光景を前に、バーサーカーが思うことはただ一つ。
(生前でも、ここまで上から目線&気が短い人間は見たことがないなぁ)
もはやアーチャーに対して感心する段階に至っていた。
彼の知り合いには、一癖も二癖もある人物が大量にいたが、このアーチャーのように天上天下唯我独尊じみた性格の人間にあったことがない。
強いて言えばジョッキーとしてのライバルの彼くらいか。
だが、そんな彼でも目の前の金ぴかに比べたらとんでもなく謙虚に見えてくるから驚きだ。
『で、バーサーカー、あの攻撃は防ぎきれるのか?』
『問題ないな。なんせ的が大きすぎる。数が多ければ多いほどこっちの方が有利だ』
『普通のサーヴァントだったら、あんな攻撃されたらひとたまりもないだろうに』
『どれだけ宝具が強かろうと弱かろうと、当たれば消滅するのに違いはないからな。数多のナイフを投げられるのと変わりないよ』
バーサーカーは弱いサーヴァントだ。ゆえに、攻撃力が10だろうが10000だろうが当たれば死ぬことに違いはない。
攻撃力なんかより、防ぎにくい宝具の方がバーサ-カーは苦手としている。
その点で言えば、アーチャーはバーサーカーにとって相性がいい。
「その粗悪な玩具でもって、どこまで凌ぎきれるか……さあ、見せてみよ!」
アーチャーの号令によって16の宝具がバーサーカーに殺到する。
ミサイルの集中砲火のような武具の投擲に倉庫街は爆撃を受けたかのような有様になっていく。
すさまじい光景にその場にいた者は皆唖然とするが、そんな中、動いたのはバーサーカーだけだった。
バーサーカーは己に向かってくる武器の群れに対し、手にある鉄球でもって対処するらしい。
先ほどと同様に奇妙な回転を始めた鉄球は、最初に飛んできた矛の柄の部分にぶつかるとそのままバーサーカーの手の元へ戻っていく。
その後は、先ほどの焼き直しとなる。
弾かれた矛が『鉄球』からの回転を受けて妙な回転を始め、バーサーカーを抹殺せんとする他の武器の軌道を大きくそらす。
そして矛の『回転』を受けた他の武器もまた、それに倣ったかのように『回転』し始め、また別の武器へとその『回転』を連鎖的に伝えていく。
最後には、アーチャーの射出した武器はすべて、バーサーカーのいる方向とはまるで見当違いな場所に着弾していった。
16の武器が投擲されつくした後には、最初と変わらぬ様子で立つバーサーカーと、その周りに散乱している武器たちが残る。
結局、アーチャーの憤怒は、バーサーカーを害することもできず、多少周りの景観を変えるにとどまる程度に終わった。
「どうやらあの金色は宝具の数が自慢らしいが、だとするとバーサーカーとの相性は最悪だな……」
バーサーカーの所業に驚きを隠せないセイバーやランサーと違い、どこか余裕そうな表情でライダーは一連の光景を振り返った。
「多くの武器を射出するのは普通であれば強みであろうよ。だが、それがバーサーカーを利することになっておる。奴の防御は相手の武器を利用して防いでいるのだからのう」
しかもアーチャーは、宝具を飛ばしているだけ。言ってみれば、手でぶん投げているのと変わりはない。
であれば、それらの宝具は外部からの力の影響を受ける――要は、掴んだり、弾き飛ばしたりが可能であるということ。
もしもアーチャーが担い手であるなら、宝具の特性を引き出せていたかもしれないが、現実として『回転』が通用しているので、そう言ったこともないだろう。
「…………」
そして、バーサーカーは無言で指をアーチャーに向ける。
その行動の意図が読み取れるものがいるはずもなく、訝し気にバーサーカーを見やるばかり。
そして、次の瞬間。
『なっ!?』
アーチャーの立っていた街灯のポールが、『何も当たっていない』のに破壊された。
街灯はそのまま崩れ落ちるが、アーチャーは何事もなかったかのように降り立つ。
(……「射程」がギリギリだったか)
「痴れ者が!天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるか!」
内心舌打ちしつつ、アーチャーの怒りのお言葉を受け流す。
今の一撃、バーサーカーはアーチャーを葬るつもりだったが、相手の運が良かったか外れてしまった。
「その不敬は万死に値する。そこな雑種よ、もはや肉片一つ残さぬぞ!」
アーチャーの背後の空間が再び歪む。
そこから現れた武器の数はさっきほどの倍以上、数で押し切るつもりのようだ。
(……これは少しまずいか)
いくらバーサーカーといえど、絶え間なく延々と射出されていたら防ぎきることは不可能だ。
今ので一発『爪』を使ってしまったし、鉄球も親友ほどうまく使えないので数回投げたら壊れてしまうだろう。
覚悟を決めて、再び鉄球に手を伸ばし、迎撃しようと待ち構える。
しかし、アーチャーの宝具がバーサーカーに向けて放たれることはなかった。
「きさまごときの諫言で、王たる我の怒りを鎮めろと?大きく出たな時臣……」
どうやら、彼のマスターに呼び出されたらしい。
雁夜曰く、その人物は遠坂時臣らしいが。
『このままやれば勝てるのに、どうして撤退させるんだろうか?いや、僕からすれば助かったからいいけど』
『時臣のやつは勝てる勝負しかしない奴だからな。宝具が防がれたってだけで不安がってるんだろ』
『……おいおいおいおいおい、なんだよそれ?100%勝てる勝負なんてあるわけないだろ?そいつは頭が凝り固まってるんじゃあないのか?』
『それありうるな。あいつFAXが使えないんだ』
『え?FAXって電話みたいに文字を送る機械だろ?なんでそれくらいのものが使えないんだ?』
『あいつ曰く『なにも新しい技術に頼らなくても、われわれ魔術師はそれに劣らず便利な道具を、とうの昔に手に入れている』とのことだ』
『カリヤ、実際それってコストパフォーマンス的にはどうなんだ?』
『……魔術的にやるにはインクだの宝石だのが必要になってくる。この意味が分かるな?』
『はぁっ!?トキオミは馬鹿なのか!?便利なものがあるならそっちを使った方がいいだろっ!』
『俺の知る限り、この傾向は魔術師なら大体そうらしいぞ』
『……いやさぁ、僕のこの技術も、親友曰く先祖代々受け継がれたらしいものだけど、あいつ普通に使えるものは何でも使ってたよ?』
『そういうものなんだよ、魔術師ってのは』
そのことを聞き、少しだけバーサーカーは、自分を召喚した人間が雁夜でよかったと胸をなでおろしていた。
少なくとも、サーヴァントの行動を制限してくる時臣との相性は最悪だ。
バーサーカーは、そうだと決めたことは間違いなくやりとげる人間なのだから。
「雑種ども。次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」
雁夜と雑談していると、向こうも話がまとまったのか撤退する運びになったようだ。
そう言うと黄金のサーヴァントの姿がそのきらめきだけを残して消えた。
「……なあウェイバー君といったか。君だったらあのサーヴァントが怒り狂ってるときに撤退しろって命令って出来るかい?」
「な、なに言ってるんだ!?そんなのできるわけないだろっ!!そんなことさせるくらいなら好きにやらせた方がましだ!!」
「だよなぁ……」
バーサーカーがそばにいたライダーのマスターに尋ねると、期待した通りの答えが返ってきた。
もしかしたらトキオミって実はとんでもない器の人間なのではないか。そういう疑念すら出てくる。
が、多分トキオミには人の心が分からないんだろう。と結論付けることになった。
Q
なぜジョニィが『鉄球』を使っているのか。
A
十発撃ったら弾切れになる『爪』だけじゃ、サーヴァント同士の戦いにおいて不利だから。
原作でもジョニィが『鉄球』を回転させることはできる描写はありましたし、使えないことはないのかなと。
ジャイロほどは使いこなせないので、確実に命中させられる距離は『爪』よりも圧倒的に短いです。
『鉄球』は防御、『爪』は攻撃と分けています。
あと、作者的に『ジャイロの力を引き継いだジョニィが見たかったから』です。
正直に言うと私情です。本当に申し訳ありません。