ハリー・ポッターと玄武(ガメラ)の少女 作:フォレス・ノースウッド
・浮き足の罠
一年生初めての『飛行訓練』の翌朝、大広間にて朱音は前日に念じて注文しておいた『スィートポテトサラダのライ麦サンドイッチ』をメインにした朝食を味わいながら、ハーマイオニーからの話を聞いて。
「ん?……《三つ首の巨大犬》?」
——噛み込んだ分を飲み入れてから、彼女の発言の一部をおうむ返ししていた。
どうやら昨晩、スリザリンの談話室で自分がドラコたちを雑談している間に、ハリーたちは思わぬ冒険劇を繰り広げていたらしい。
「そうなの!」
ハーマイオニー本人は、朝から身を乗り出すくらいのハキハキさで、苦笑いするハリーとロンをよそに、朱音に昨日なにがあったかを改めて話し出す。
グリフィンドール寮に帰る途中、いつもながら勝手に動く階段でルートが変えられてしまい、階段たち気がまた変わる前に急いだ結果、よりによって『立入禁止の右側の三階』に入ってしまったらしい。
しかも引き返そうとした矢先のタイミングで、管理人のフィルチの飼い猫にして城内の監視者でもあるミセス・ノリスに見つかってしまい、三人は三階の奥の奥へと逃げ、一時の隠れ場所に選んだ鍵がかかった部屋にハーマイオニーが魔法で開錠して入ったところ―――そこには大人のゾウよりも巨大な頭が三つある漆黒の犬が眠っており、ハリーたちが入ってきた弾みで起きて彼らを見止めると、喰い殺してやろうとする気満々で襲ってきて、どうにか脱出して部屋を施錠し直してことなきを得たと言う。
さらにハーマイオニーの目は部屋の床に仕掛け扉があることを見抜き、『何かを守っている』と推測したとのこと、ちなみに他の二人は頭三つ分の牙からどうにか逃れるだけで精一杯だった。
「とんだ災難だったね……三人とも無事でよかったけど」
「うん、怪我一つしなかったの不思議なくらいだよ」
「それより聞いてよ朱音、ハーマイオニーが寮にどーにか帰れた時になんて言ったと思う?」
朱音は数秒の間に、一連のアクシデントを経験したハーマイオニーが言いそうなことを咄嗟に纏め。
「『じゃあお休みなさい、あなたたちに付き合ってたら命がいくつあっても足りないわ、もっと最悪な展開があるとするなら退学よ!』……とか?」
「そーそー!死ぬより退学の方が悪いとか、どっちにしたって勉強できなくなるじゃん!!」
ロンたちの証言を元に脳内でそのやり取りを想像し、思わず吹き出して口を抑えてしまった。
「ちょっと朱音まで……」
「ごめんごめん~~それぐらい怖かったのは想像つくよ」
詫びて息を整え直した朱音はミルクティーで一服し。
「それで、ハーマイオニーの見立て通り番犬(ガードドッグ)かもしれないね」
「番犬?」
ハリーが朱音の発言の一単語を抜き出す。
「マグルの創作でも三頭犬(ケルベロス)は大概、大事なものを守る『番犬』役で出てくることが多いからさ、元々ギリシャ神話では冥界の門を護衛する怪物して知られてるんだよ」
「じゃあハーマイオニーの言う通り、『何かを守る」ためにあの三階の部屋にいるってこと?」
「さすがのダンブルドア校長も、番犬役でもない限りルビおじさんの趣味を校内に持ち込まないでしょ……あ~おじさんのペットかどうかは先走り過ぎか」
「ルビおじさん?あ、ハグリッドのことか……ってなんでハグリッドがそこで出てくるの?」
ロンがここでハグリッドの名を出した理由を尋ねた。
「ルビおじさんったら昔からああいう珍しくて巨大な魔法生物好きなんだよ、プロの学者でも飼育を断念しそうな危ない子たちであろうとね」
「なんか……分かる気がする」
「チャーリー兄貴とのあの意気投合とか思い出したら、確かに……」
先日のお茶会での話題の一つになったウィーズリー家次男のチャーリーがホグワーツ在学中の頃のハグリッドとの魔法生物絡みのエピソードを思い返したのもあり、ハリーもロンもあの『ケルベロス』があの番人の飼い犬である可能性が大いにあり得ることに納得させられた。
「ルビおじさんのかどうかはともかく、あのケルベロスがなにを守っているか……」
「朱音はなんだと思う」
「さあ~」
肩をすくめる朱音に、ハリーとロンはその場から転げ落ちかけた。
「気になんないの!?」
「なるけど……わざわざケルベロスに見張らせるくらいの代物を守ってるなら、その子ら以外にも先生たちが泥棒対策にトラップを色々仕込んでるぐらいは想像つくよ、でも他にどんな仕掛けがあるか考えるくらいなら、私は勉強に使いたいね」
「どうして?」
「ああいう魔法界のたくさんある危険との付き合い方を学ぶ為に、私たちはホグワーツで学生してるんでしょ?」
「「ああっ~……」」
ミルクティーを気品よく嗜む朱音のこの言葉にはっとさせられるハリーとロンと、その通りよねと言いたげに笑顔でうんうんと頷くハーマイオニーであった。
マイペースに朝食を取る朱音自身、そのケルベロスがいる部屋の隠し扉の向こうになにがあるのか――。
〝どうだ?グリンゴッツの厳重さ具合は、魔法界じゃ他に安全なとこはそうねえぞ~~まあホグワーツほどじゃないがな〟
ダイアゴン横丁の買い物の日、ハグリッドが極秘でグリンゴッツの七一三番金庫に入っていた『大事なもの』を引き取った後の彼の発言と、その関連性も大いに気になっていたが……その好奇心は胸の奥に控えておくくらいの理性が彼女にはあった。
◇
ハリーに朱音たちがホグワーツに入学してから約二か月、それぐらい経つと入学式の夜にマクゴナガル先生が言っていた通り、本校の寮がもう一つの家としての感覚が定着していた。
授業の方も各々の差はあれ、基礎と要領が掴めてきたのでむしろ総合的に面白さが勝って毎日が発見も同然の日々。
その間も――。
朱音とハーマイオニーは読書に興じてちゃっかり他の同級生よりも知識を身に着け。
ハリーも週に三回あるクイディッチの練習で忙しくなったが、一部除き大半の授業は楽しめていた。
四寮同士で特に仲が悪いと評判のグリフインドールとスリザリンの垣根を超えた朱音たちの勉強会も、そこそこの頻度で行われ、日々の授業の助けにもなっている。
「ウィーズリー、そこは三行目だ。君は数字も読めないのか?」
「読めるさ! お前が横からうるさいんだよマルフォイ!」
「パーキンソン、そこは教科書に載っている方法と違うわ」
「知ってるわよ、グレンジャー。だから別の参考書も読んでるんじゃない」
「だったら先にそう言ってくれればいいでしょう!」
「あなたが最後まで話を聞かないんじゃない!」
毎度大概ロンとドラコ、ハーマイオニーと追加で参加したパンジーとの間で口論こそ起きるも――。
「今日も仲良しだねぇ」
「「「「違う!」」」」
ハリーは四人のリアクションに手元の羽根ペンを止めた。
「……今の、すごく揃ってたね」
ネビルが小さく頷く。
「うん、練習したみたいだった」
「「してない!」」
この通り朱音から『仲良しだね』と言われると見事なシンクロ具合で『違う』と異を唱える程度なくらいには、微笑ましいものだった。
ただ、それとは別に……十月に入るとめんどくさがりのロンが、生真面目過ぎてお節介なところがあるハーマイオニーに煙たがる頻度が増えてきた。
「ロン、宿題は終わったの?」
「まだだけど」
「明日提出でしょう?」
「分かってるよ……」
「じゃあどうして今やらないの?」
グリフィンドールの談話室のソファーにて、こんな二人のやり取りをよくハリーが目にするくらい。
「君さ、僕らの母親と同じこと言ってるぞ」
「お母様が正しいことをおっしゃっているからじゃない?」
「そーいうとこだって!朱音も勉強ができるのに、いちいち僕の宿題に口を出したりしないぞ」
「朱音は言われなくても勉強するもの!」
両親がマグルで手紙が届くまで魔法使いの資質を持っていたことを知らなかったハーマイオニーからすれば由緒ある魔法族の出なのに不真面目に見えるロンが我慢ならず、対するロンも実母を思い出させる彼女の世話焼きと小言に少なからずうっとおしさを覚えていたのだ。
「ロン、そこ、また間違えてるわ」
「分かってるよ!」
「分かっているなら、どうして直さないの?」
その日の図書館での勉強会でも、また始まった。
「今から直そうとしてたんだ!」
「さっきもそう言っていたでしょう?」
「だから君は僕のママかよ!」
ハーマイオニーの眉が吊り上がった。
「お母様だって、あなたがちゃんと勉強していれば小言を言わずに済むでしょうね!」
「ほら! そういうところがママそっくりなんだ!」
向かいの席で、ドラコが呆れたように鼻を鳴らす。
「まったくウィーズリー。宿題くらい自分で片づけたらどうだ?」
「お前まで口を挟むな、マルフォイ!」
「僕はとっくに終わっているぞ」
「だから何だよ!」
ハリーは額に手を当てた。
ネビルも困ったように二人を見比べる。
そんな中、朱音は静かに本を閉じた。
「「朱音!」」
「はい?」
ロンとハーマイオニーが同時に振り向いた。
「君からも言ってやってくれよ!」
「朱音なら分かってくれるでしょう?」
翡翠色の瞳は、二人の顔を交互に見つめ、困ったように眉尻を下げる。
「ごめん……どっちの気持ちも分かるから、下手に肩入れできないんだよねぇ」
「「ええっ!?」」
「ロンは、自分で考えて進めたいんでしょう? いちいち横から指摘されると、集中できないのも分かるよ」
「そうそれだよ!」
「でも、ハーマイオニーはロンが後から困らないように今の内に間違いを教えてあげたいんだよね?」
「そうなのよ!」
「だから二人の言いたいこと自体はどっちも分かる」
朱音は小さく息をついた。
「ただねロン」
「何?」
「ハーマイオニーが教えてくれたことまで、全部小言として片づけちゃうのは、ちょっと勿体ないと思う」
「うっ……」
「ハーマイオニーも、ロンが自分で気づけることなら、少し待ってあげてもいいんじゃないかな。間違えることだって勉強のうちだからさ」
「でも明日提出なのよ?」
「だからそれはロン本人が責任を持って間に合わせることだよ」
「え?そこは僕に任せるの?」
「もちろん。君の宿題なんだから、ただし分からないところを聞いてくれれば、私も一緒に考えるよ」
ロンは何か言いかけて口を閉じるもありがたいと言いたげな表情で頷き、ハーマイオニーも少し考え込む最中、沈黙を破ったのはドラコだった。
「つまり、ウィーズリーが怠けなければ済む話じゃないか」
「ぐっ……黙ってろデコスケ!」
「誰がだ赤天パー!」
「ほら、また騒いでる!」
「グレンジャーも少し静かにしたら? 図書館なんだから」
今度はパンジーまで口を挟んできた。
「私だけじゃないでしょう!」
「しーっ……それ以上音量を上げると、マダム・ピンスから雷が落ちるよ……」
「「「「…………!」」」」
四人の動きがぴたりと止まり、油の切れた蝶番のような動きで、全員が図書館の奥へ顔を向けた。
書架の陰から、マダム・ピンスがこちらをじっと睨んでおり、その手には分厚い蔵書目録。表情は、まるで今にも誰かを図書館から永久追放しそうな険しさである。
「「「「……はい」」」」
四人は揃って小声で返事をした。
ハリーは口元を押さえ、ネビルは慌てて教科書へ視線を落とす。
「朱音、気づいてたんならもうちょっと早く言ってよ……」
ロンからの苦言が、朱音の耳元で囁かれる。
「いやぁ、みんなの息があまりにぴったりだったから、つい」
「つい、じゃない!」
そのツッコミをよそに、朱音は紅茶のカップを持ち上げ飲み干したところで――。
「……あ、ここ飲食禁止だった」
「やっと自分でお気づきですか、見物だったわよ」
「面目ない……」
パンジーからのジョークに、朱音はそっと空になったカップをそっと置いた。丁寧に飲んではいたので書物はおろかテーブルにすら一滴も零してはいないが、問題行動であることは変わらず。
「……ミス・クサナギ。そのカップを今すぐ片づけなさい」
「はい……すみません」
さらにマダム・ピンスに見つかり、素直に頭を下げてカップ一式を片づけに一時図書室を後にする朱音の後ろ姿に、ロンとドラコが顔を見合わせる。
そして、声を出さずに、にやりと笑っていた……家同士で不仲なのが広まっている両家の実状を踏まえると、ある意味でそれを覆した瞬間が図書館の片隅で起きていた。
「……あいつでも、あんな失敗するんだな」
「まったくだ。人に注意しておいて、自分が飲食禁止を忘れるとはね」
「しかも、マダム・ピンスに見つかってやんの」
「実に間抜けな話だ」
二人はもう一度、声を出さずに笑いを共有し合い――そして。
「…………」
互いに顔を見合わせて状況を自覚する。今、自分たちは誰と一緒に笑っていた?その事実に気づいた途端、二人の笑顔がぴたりと止まった。
「……ふん」
「……けっ」
ほぼ同時に顔を背けた様に、ハリーは一部始終を見ていた。
「今二人とも笑ってたよね?」
「笑ってない!」
「笑ってなどいない!」
またしても声が揃った。ネビルすら思わず吹き出し、ハーマイオニーは呆れたように首を振り、パンジーはにやにやと二人を眺めていた。
そして書架の奥から、再びマダム・ピンスの鋭い視線が飛んできた。
「「……すみません」」
今度は謝罪まで揃ってしまう、魔法族純血家系出身のお二人なのだった。
◇
十月最後の日、ホグワーツでも毎年この日はハロウィーンでお祝いムードになる一方、授業自体は普通に行われる。
その日の朱音とハリーたちが受けた授業は《呪文学》――生物や物体に性質付与や変化を齎す《チャーム》系の魔法を習う科目である。
担当教授兼レイブンクロー寮監でもある茶色のカイゼル髭が特徴的フリットウィック先生は、先祖にゴブリンの血を継いだ身の上か人間より小柄な体格な為、今日も机の上に積み上げた書物たちを足場にして教鞭を振るっており。
「今回は《浮遊の術》を練習いたします、すなわち物を浮かせて飛ばすことです、大切なのは杖の動きと正しい発音です。いいですか? 手首を柔らかく、ビューンと振って、ヒョイと下ろす!」
実際にフリットウィック教授が杖を動かしてお手本の動きを見せてからの。
「そして、ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
続いて詠唱とセットで机上の羽根へ呪文を披露すると、ふわりと見事に浮遊させ、杖で高度を巧みに操作させていた。
「おお……!」
朱音は翡翠色の瞳を輝かせ、回りの生徒の集中を害さない程度に教授へ拍手を送る。
「さあみんなで!」
「「ヒューン~ヒョイ!」」
「はい、それでは皆さんやってみましょう」
「なるほど……」
初心に帰る――改めて杖の動きと、呪文の抑揚その二つを、頭の中で組み合わせるコツを反芻し。
(……これ、合唱の時にやってたことに似てる)
日本の小学校に通っていた頃、朱音は合唱隊に所属していた。
指揮者の動きに合わせて呼吸を整え、音の入り方と強弱を揃える練習。
音程だけではない。拍子、発音、呼吸、そしてタイミング。
何度も繰り返したあの練習――級友たちと合唱する時も、実際に指揮棒を手にして振るっていた経験も込みで、思いがけない形で役立とうとしていた。
「ヒューンとしてヒョイ」
朱音は杖を構え、杖を握る手首を柔らかく動かし。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
と、唱えると……羽根が、机から静かに浮かび上がった。
そのまま朱音の目の高さまで上昇、集中力を維持したまま杖の先を羽根に向けて動かすと、彼女の動作に合わせて羽毛も景気よく飛び回る。
「……できた♪」
「おおおおっ!!」
これにはフリットウィック教授も。思わず声を弾ませる出来栄えだった。
「素晴らしい! ミス・クサナギ! 初めての挑戦で見事な浮遊呪文です!」
「ありがとうございます、先生♪」
「杖の動きも、呪文の発音も、とても滑らかでしたね!」
さすがにここまでストレートに褒められると、朱音も照れくさくなる。
「日本の小学校で合唱隊に入っていたので、リズムを合わせるのは少し得意なんです」
「ほほう! 合唱隊ですか!なるほど、なるほど! 呪文の詠唱と音楽には、確かに通じるところがあります。呼吸や発音の制御は、呪文学でも大切な要素ですよ!」
そして、教授は嬉しそうに手を叩いた。
「スリザリンに五点!」
「ありがとうございます♪」
朱音もにっこりと一礼して、点数と賛辞を受け取った矢先――。
「うぃんがーどられびおーさ~」
BOMB!杖で羽根を小突いていたシェーマスから小さな閃光が迸る。フリットウィック教授が立つ書物(あしば)が今の爆音でバランスを崩して教授ごと転倒、シェーマスの髪の一部が燃える事態に。
「ヴェンタス!」
朱音は咄嗟に杖をくるっと回して起こしたごく小さな渦巻をシェーマスの髪へと飛ばしてどうにか消火させた。勿論今のも、ハーマイオニーとの日頃の読書タイムでちゃっかり覚えて密かに練習していた呪文の一つである。
「はぁ……今のもナイスでしたミス・クサナギ」
机の上に立て直したフリットウィック教授は、鎮火してくれた朱音にもうひと賛辞を提供した。
◇
先に成功させた朱音に続こうと他の生徒も呪文を唱えるも、羽根は卓上にへばりついてびくともしない……なまじフリットウィック教授の説明が分かり易かった分、魔法自体の難易度の高さが際立つ。
「ウィンガディアムレヴぃおさー~~」
「ちょっと待ってストップストップ!!」
ロンなどやけになり、先のシェーマスの災難を見たばかりなのに乱暴に杖を上下に振り、隣のハーマイオニーから待ったがかかった。
「そんな危ない振り方で成功するわけないでしょ!?そもそも発音も違ってる!正しくは『ウィン・ガー・ディアム~レヴィ・オー・サ』よ、あなたのは『ウィンガディアムレヴィオサァ~』、『ガー』と『オー』を長ーくきれいに言わなくちゃ」
案の定、ハーマイオニーの小言(ちゅうい)にロンはムカッときたらしく。
「そこまでご存知なら自分でやってみろよ!どーぞどーぞ!」
ロンからの売り言葉になんとやら、ハーマイオニーがすまし顔で買いかけたが――。
「ストップストップ」
今度は朱音からストップがかかった。
「ロン、それなら君の特技のものまねで一緒にやってみたらいいと思う」
「ものまね?」
「よく君って魔法生物含めた動物の物真似するけど、クオリテティ高いじゃん」
「~~♪」
「ほら今のモスラの鳴き声も、ボイチェングミ使わずに本物そっくりだし」
ロンも大概褒められ慣れてないからか、授業中に調子よく新たな物真似レパートリーを披露し、ハーマイオニーがジト目を向けてくる。
「そこまで自信がおありなら、真似してみなさいよ~ヒューンとしてヒョイだからね」
「言われなくても――ごほん」
二人は同時に杖を構え、ロンはハーマイオニーの杖に目線を向けた上で。
「「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」」
すると、二人の呪文を聞き受けた羽根が、ほぼ同時に浮き上がり出した。ロンのは彼の赤毛より高く、ハーマイオニーのは彼女の精密な操作下で、頭上から大体一.三一ヤードくらいまで立ち上っていった。
「お見事!皆さんご覧ください!今度はミスター・ウィーズリーとミス・グレンジャーがやってくれました」
ロンは嬉しいやら、自分より羽根を高く飛ばして操るハーマイオニーの杖捌きを間近で見せられて悔しいやらが入り混じった表情を浮かべ、その混在した心境は授業後もムカムカ~と尾を引いたらしく。
「な~にが――『正しくは『ウィン・ガー・ディアム~レヴィ・オー・サ』よ、あなたのは『ウィンガディアムレヴィオサァ~』、『ガー』と『オー』を長ーくきれいに言わなくちゃ』~~ほんと嫌味で悪夢みたいな奴だよ全く、そんなんだから朱音以外に友達だ~れもいないんだよ」
人ごみ溢れる廊下で最悪なご機嫌で特技も用いた悪態と愚痴を零しまくっていたが………誰かがハリーたちを押しのけ、追い越していった。
「今の、聞かれちゃったみたい……」
その主はハーマイオニー、しかも喧噪の中でもハリーたちの耳に入るくらい、すすり上げる声を発していた。
「それがなに?他に友達いないのとっくに気づいてたってことだろうさ」
「あらそう……」
刹那、二人の背後から背筋を凍らせて強制的に伸ばしてくる威圧的な冷気が押し寄せた。
「あ、朱音さん……?」
ゆっくり振り返った先にいる相手を、思わず『さん付け』で呼ぶハリー。
「ロナルド・ウィーズリーくん……パーティーの前に……ツラ貸せ、いいね、ハリーくんもちょ~っと付き合って」
「は、はい……」
「お、仰せの通りに……」
ハロウィーンに仮装を行う起源は、その日に開かれたあの世とこの世の扉を通じてご先祖様たちの霊と一緒にやってくる悪霊対策の一環だったのだが……この時のロンからしてみれば、長く艶やかな葡萄色の長髪をギリシャ神話のメデューサよろしく逆立てて……満面の笑みで睨みつける朱音の方が、悪霊よりも遥かにおっかない相手に他ならなかった。
つづく。
授業の時点で浮遊呪文は成功できたロンくんですが、昔から優秀な兄貴たちに比較されがちな境遇のせいで素直に喜べず、結果、原作同様ハーマイオニーを泣かせてしまいました(汗