ハリー・ポッターと玄武(ガメラ)の少女 作:フォレス・ノースウッド
八時間に及ぶ長旅の末、ホグワーツ特急はようやく速度を落とした。
窓の外には、闇に沈む山々と、白い靄に包まれた小さな駅が見える。車輪が甲高い音を立て、深紅の列車がホームへ滑り込むと、車内のあちこちから安堵と期待の入り混じった歓声が上がった。
『お荷物は車内へ置いたまま、ご降車ください。後ほど校内へお届けします』
案内を聞き、ハリーは慌てて制服の上からローブを羽織った。
向かいではロンが袖へ腕を通そうとして、なぜか二度続けて同じ穴へ手を入れている。
「ロン、そっちは袖じゃなくて内ポケットだよ」
「分かってるよ。暗いから間違えただけだ」
「さっきも同じことを言っていたねぇ」
草凪朱音が楽しそうに笑った。
葡萄色を帯びた長い黒髪を整え、首元の琥珀色の勾玉をローブの内側へ収める。その姿は、自分たちと同じ十一歳とは思えないほど落ち着いていた。
「二人とも、置いていかれるよ」
三人がホームへ降りると、冷たい夜気が頬へ触れた。
白い蒸気。頭上を飛び交う梟たちの声。初めて親元を離れた生徒たちの、不安そうなざわめき。
その全てを押し退けるような大声が、ホームの端から響いた。
「イッチ年生! イッチ年生は俺んとこに集まれ!」
人垣の向こうに、誰よりも大きな姿が見えた。
ルビウス・ハグリッドである。
ランタンを掲げた彼は、ハリーたちを見つけると、髭に覆われた顔をほころばせた。
「よお、ハリー! 朱音も無事に着いたな。ようこそ、ホグワーツへ!」
「こんばんは、ルビおじさん」
「こんばんは、ハグリッド!」
「でかっ……」
ハグリッドとはこれが初対面のロンは、その巨体に圧倒され、他の生徒の大半も似たようなリアクションで彼の巨躯を見上げている。
「足元に気をつけろよ。こっから先は暗いからな!」
一年生たちはハグリッドを先頭に、細く険しい道を進んだ。
木々の枝が頭上で絡み合い、夜空を覆っている。湿った土を踏む音と、誰かが転びそうになるたびに上がる短い悲鳴が、暗い森へ響いた。
やがて一行は、鏡のように静かな黒い湖へ辿り着く。
ハグリッドがランタンを高く掲げた。
「あそこを見ろ!」
生徒たちが一斉に顔を上げ、言葉を失った。
湖の向こうの切り立った崖の上に、無数の塔と尖塔を備えた巨大な城がそびえていた。
窓という窓に黄金色の明かりが灯り、それらが水面へ長い光の帯を落としている。夜空を背負って立つ姿は、建物というより、山そのものが意思を持って目覚めたかのようだった。
「……すごい」
ハリーの口からも自然と声が零れた。
写真でも、映画でも見たことがない。
自分がこれから、あの城で暮らす……そう思うだけで胸が高鳴った。
「一艘に四人までだぞ!」
ハグリッドの指示を受け、ハリー、ロン、朱音、それにネビル・ロングボトムが同じ小舟へ乗り込んだ。
櫂を持つ者はいない、それでも新入生を乗せた舟はひとりでに岸を離れ、波一つ立てずに湖上を進み始めた。
「ねえ、朱音」
「うん?」
「あんなに大きな城なのに、マグルには見つからないの?」
ハリーの問いに、朱音は城を見上げながら答えた。
「城全体へ、マグル避けの魔法が掛けられているそうだよ。魔法を使えない人の目には、今にも崩れそうな廃墟にしか見えないんだって」
「廃墟?」
「近づこうとすれば、《ここにいてはいけない》《何か大切な用事を忘れている》と思い込んで、自然に引き返すようにもなっているらしい。グランパが教えてくれた」
「へえ……」
あれだけの巨大な建造物がマグルに見つからない仕掛けを聞いてハリーは感心していたが、隣のロンは膝を抱え、顔色を悪くしている。
「ロン、船酔いかい?」
「違うよ~」
「では、どうしたの?」
「思い出したんだよ。フレッドが言ってた。組み分けの時、新入生はトロールと取っ組み合いをさせられるって……」
向かいに座るネビルが大きく息を呑んだ。
「ト、トロール?」
「勝った奴から好きな寮を選べるらしい」
「僕、絶対無理だ……」
二人の声が震えている。
朱音は数秒黙った後、困ったように眉を下げた。
「ロン。そのお兄さんの話、嘘八百だよ」
「へ?」
「組み分けに使うのは、意思を持つ魔法の帽子だ。被った人の資質を見て、どの寮に入るか決めるんだって昔ホグワーツに通ってたグランパも言ってた」
「……帽子?……被るだけ?……それだけ?」
「うん、フレッドとジョージだったね、モリーおばさんを相手にしても、息を吸うように冗談を吐く二人だろう?」
ロンの顔が、恐怖から怒りへ変わっていく。
「じゃあ、あいつら……」
「君をからかったんだろうねぇ」
「あの……クソ兄貴どもぉ~~……」
わなわなロンは拳を握り締めた。
「絶対いつか、とっちめてやるぅぅぅ――!!!」
少年の叫びが夜の湖を渡り、岸壁の間で何度も反響した。
◇
地下の船着き場へ着いた一年生たちは、ハグリッドに導かれ、石造りの階段を上った。
その先に待っていたのは、見上げるほど巨大な扉だった。
壁を照らす松明。
遥か上方まで続く石柱。
長い年月に磨かれた床。
どこへ目を向けても、城そのものが積み重ねてきた年季(れきし)を物語っている。
「……すごいところだね」
朱音も、楽しそうに周囲を見回している。
「お城そのものが、昔話を覚えているみたいだ」
「朱音は緊張しないの?」
「していないわけじゃないよ」
朱音は胸元へ手を添えた。
「でも、それ以上に楽しみなんだ。これから何を学べるのか。誰と出会えるのか」
その言葉につられ、ハリーの肩からも少し力が抜けた。
やがて重厚な扉が開き、深緑のローブを纏った女性が姿を現した。
背筋を真っ直ぐに伸ばし、細い眼鏡の奥から厳格な眼光を発して新入生たちを見渡す。
本校の副校長でもあるミネルバ・マクゴナガル教授だった。
「ようこそ、ホグワーツへ」
ざわめきが一瞬で消えた。
「まもなく大広間で歓迎の宴が始まります。しかし、その前に皆さんには、組み分けの儀式を受けていただきます」
ロンが、ごくりと唾を飲んだ。
朱音に真相を聞いていなければ、今頃逃げ道を探していたかもしれない。
「本校には四つの寮があります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリン。ホグワーツで学ぶ間、寮は皆さんにとって家も同然です」
同じ寮の者と生活し、授業を受け、困難と喜びを分かち合う。
優れた行いは寮の得点となり、規則違反は減点の対象になる。年度末、最も多くの得点を獲得した寮には、寮杯が授与される。
「減点もあるのか……」
「当然でしょう」
小声でぼやいたロンへ、少し離れた場所からハーマイオニーが即座に答えた。
マクゴナガル教授が準備のため大広間へ戻ると、一年生たちは堰を切ったように話し始めた。
その最中、階段の上から、よく通る少年の声が降ってきた。
「汽車で聞いたんだが、この新入生の中にハリー・ポッターがいるそうだね」
案の定『生き残った男の子』の名でざわめきが新入生たちの間で走る中、淡い金髪をきれいに撫でつけた少年が、二人の大柄な少年を従えて立っている。
新品のローブには皺一つない少年は、ハリーたちより一段高い場所で足を止めた。
「その傷、君がポッターだろう?」
「……そうだけど」
「僕の名はドラコ、ドラコ・マルフォイ」
少年が名乗った途端、ロンが吹き出した。
ドラコの眉がピクリと動く。
「何がおかしい?」
「いや、別に」
ロンは口を押さえたが、肩の震えまでは隠せなかった。
ドラコは彼の赤毛と、少しくたびれたローブを眺める。
「赤毛に、お下がりのローブ。聞くまでもなくウィーズリー家だな、父上から聞いているよ。子どもばかり多くて、ろくに金もない家だとね」
「何だって?」
自分の家を侮辱されたロンの顔から笑みが一瞬で消え、苛立ちで赤く染まる。
ドラコはその反応を一瞥し、改めてハリーへ右手を差し出した。
「魔法族にも、付き合うに値する家と、そうでない家がある。友達の選び方は考えた方がいい。必要なら、僕が教えてあげよう」
ハリーは差し出された手を見て、次にロンを見る。
汽車の中で初めて会い、一緒に菓子を食べた少年。
ハリーの名を聞いて驚きはしたものの、すぐに普通の友達として話してくれた。
誰を選ぶべきかなど、教えられるまでもなかった。
「大丈夫、友達はなら自分で選ぶから」
ハリーは静かに答えた。
ドラコの顔から笑みが消える。
「後悔するぞ、ポッター」
「それでは、ドラコ君」
横から、柔らかな声が割り込んだ。
朱音が二段上がり、ドラコと同じ高さに立つ。
「……君は?」
「初めまして。草凪朱音だよ」
「クサナギ?」
「日本の名前だから、馴染みがないかな」
朱音はドラコの右手へ目を落とした。
ハリーに拒まれ、まだ所在なげに差し出されている手。
「おや」
彼女は何のためらいもなく、その手を握った。
「――っ!?」
ドラコの目が見開かれる。
ハリーとロンも固まった。
「君の友達の選び方を参考にした上で、私は私なりに選ぶよ」
朱音は握手したまま、穏やかに微笑んだ。
「よろしくね、ドラコ君」
「き、君……僕が誰だか分かっているのか?」
「ドラコ・マルフォイ君だろう?」
「そうだ!」
「よかった。聞き間違えてはいなかったね」
完全に調子を崩されたドラコへ、朱音はさらに尋ねた。
「ご両親から贈られた名前へ敬意を表して、ドラコ君と呼んでみたんだけれど――苗字の方がよかったかな?」
「……名前でいい」
「そうかい。それなら、改めてよろしくね、ドラコ君」
「あ、ああ……」
今の流れに、頭に血が昇りかけていたロンが再び噴き出した。
「あのマルフォイとこの子が、普通に挨拶してる……!」
「何が悪い!」
怒鳴り返したドラコに、今度はハリーまで笑い出した。
朱音も口元を緩める。
「最初の挨拶は大切だからねぇ」
「笑うな!」
「馬鹿にしているわけじゃないよ」
朱音は握っていた手を離した。
それから、少しだけ声音を改める。
「ただ、さっきのロンへの言い方は感心しないな」
声こそ穏やかなものだったが、それでもドラコは無意識に姿勢を正した。
「家柄や持ち物だけで相手を判断するのは、もったいないよ。それだけでは、その人のことをほとんど知れないからね」
「家柄は、その人間が何者かを示すものだ」
「大切な一部ではあるのは私でも分かるよ、家の名前を誇りに思うのは悪いことじゃない。でも君だって、《マルフォイ家の御曹司》という理由だけではなく、ドラコ君自身を見てほしいんじゃないかな?」
虚を突かれてドラコは息を呑んだ。
自分が生まれたこの家名は誇りだ。父と母から受け継いだ、自分の一部だ。
だが、自分自身を見てほしいかと尋ねられれば――答えは、考えるまでもなかった。
「もちろん、私たちは今日会ったばかりだ。私は君をよく知らないし、君も私を知らない」
朱音はドラコの返答を急かさなかった。
「だから、これから知ればいい。君が何を好きで、何が得意で、何を大切にしているのか。その前から友達になれないと決めるのは、少し早いだろう?」
「……君は変わっているな」
「今日だけで二度目だよ、それを言われたのは」
「汽車で僕も言った」
ロンが不承不承ながら認める。
「褒め言葉として受け取っておこうかな♪」
朱音が笑うと、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。
ドラコは改めてハリーを見る。
「それでも、君はウィーズリーと付き合うのか?」
「うん。ロンは僕の友達だから」
ハリーは迷わなかった。
ロンが照れくさそうに俯く。
「そういうことだね。ハリーにはハリーの選び方がある」
「朱音は、マルフォイとも友達になるの?」
「なれたら嬉しいよ」
朱音はドラコへ向き直った。
「もちろん、友達になるかどうかはドラコ君の自由でもある。私一人で決めることではないからね。まずは知り合いからでもいい」
ドラコはしばらく黙り込んだ。
拒絶されることはあっても、選択を返された経験は多くない。
「……好きにすればいい」
やがて彼は、わずかに視線を逸らした。
「僕も、君がどんな奴か見てやる」
「それなら、お互い様だね」
朱音の笑顔を正面から受け、ドラコの頬が僅かに赤くなる。
その時、大広間の扉が開いた。
「皆さん、組み分けの儀の準備が終わりました、整列なさい」
戻ってきたマクゴナガル教授の声に、新入生たちは慌てて列を整える。
ドラコは朱音から離れながら、胸中で一人呟いた。
――何なんだ、この女の子は――と。
◇
大広間へ足を踏み入れた瞬間、ハリーたちは再び言葉を失った。
四列に並ぶ長い食卓。
金色の皿と杯。
宙に浮かぶ無数の蝋燭。
そして天井には、雲一つない夜空と満天の星々が広がっている。
「さしずめ、魔法のCGだねぇ」
「シージー?」
「コンピューター・グラフィックス略してCG、機械で本物さながらの映像を作る、マグルの新しい技術だよ。映画でも使われ始めている」
ハーマイオニーが、少し呆れたように眉を上げる。
「それって、ちょっと夢のない説明じゃない?」
「逆だよ」
朱音は星空を見上げた。
「空想を現実の画面へ映し出したくて、マグルの作り手たちは新しい魔法を磨いている。ここまでのものを再現するには、まだ時間がかかるだろうけどね」
「……新しい魔法、か」
ハリーはもう一度天井を見上げた。
魔法使いの城にいながら、魔法を使えない人々の技術に感心する。
いかにも朱音らしい考え方に思えた。
壇上には、古びた三脚椅子と、継ぎはぎだらけの帽子が置かれている。
先ほど歌を披露したその帽子が、これから一人ひとりの寮を決めるのだ。
「これより、名簿の順に名前を呼びます」
マクゴナガル教授が羊皮紙を広げる。
「呼ばれた方は前へ出て、組み分け帽子を被ってください」
ロンはグリフィンドールの卓で手を振る双子の兄たちを見つけると、思い切り舌を出した。
「あいつら、絶対許さない」
「愉快なお兄さんたちだねぇ」
「笑い事じゃないって!」
その会話を、既に気持ちを落ち着けていたドラコが横目で見ていた。
草凪朱音。
ハリー・ポッターの隣にいた、奇妙な少女。
自分の家柄へ怯えず、否定もせず、それでいて言うべきことは言った。
そんな彼女は、どの寮へ入るのだろう?
組み分け帽子は彼女をどこに入れる?
本人へは絶対に言わないが――スリザリンへ来ればいい、とドラコは思っていた。
◇
「ハーマイオニー・グレンジャー!」
「はい!」
自分の番が来たハーマイオニーは弾かれたように緊張感を醸し出した様子で前へ進み、椅子へ腰を下ろした。
帽子が頭へ被せられる。短い沈黙の後、裂け目のような口が大きく開いた。
「グリフィンドール!」
赤と金の卓から歓声が上がる。
席へ向かう途中、ハーマイオニーは朱音と目を合わせた。
朱音が小さく拍手すると、彼女も嬉しそうに手を振り返す。
「ネビル・ロングボトム!」
ネビルの時には、帽子は随分長く迷った。
「ハッフルパフでお願い……」
本人はハッフルパフへの入寮を望んだようだが、最後に響いたのは「グリフィンドール」という宣告だった。
「ドラコ・マルフォイ!」
名を呼ばれたドラコは、当然の結果を受け取りに行くような足取りで前へ出た。
帽子は、彼の金髪へ触れただけで。
「スリザリン!」
――と即決、ほとんど間はなかった。
スリザリンの卓から盛大な拍手が起こる。
ドラコは満足げに帽子を返し、自分の寮へ歩き出した。
それでも途中で、新入生の列へ一度だけ目を向ける。
翡翠色の瞳を持つ少女は、まだそこにいた。
「ハリー・ポッター!」
大広間がざわめいた。
囁きが波のように広がり、あらゆる視線がハリーへ集まる。
ハリーは俯きそうになるのを堪え、椅子へ腰を下ろした。
帽子が視界を覆う。
『ほう~これまた難しい、難しいぞ~~』
頭の中へ、声が響いた。
『勇気に満ち溢れておる、頭も悪くない、才能もある、おお~自分の持つ力で大きな何かを成し遂げたいという強い意志もある~さてどこに選んだものか……わしとしてはスリザリンへ行けば、偉大になれる道が開けると思うのだが……』
ハリーの脳裏へ、ドラコ・マルフォイの姿が浮かんだ。
ロンを家柄でウィーズリー一家ごと見下した態度。
だが同時に、朱音の言葉も思い出す。
寮が違っても、その人自身を見ればいい。
スリザリンに入る者が、全員同じとは限らない。
それでも――。
(僕は、ロンたちと一緒にいたい)
ハリーは強く願った。
(できれば、グリフィンドールに……)
『なるほど~~お前自身が、そちらを選ぶか』
帽子はしばし考えた末、大広間へ向かって叫んだ。
「グリフィンドール!」
爆発したような歓声が上がる。
フレッドとジョージはグリフィンドール寮の生徒一同を勝手に代表して『ポッターを取った!』とハモらせて叫んでいた。
ハリーは帽子を返し、ロンたちの待つ卓へ駆けた。
その途中、朱音と目が合う。
「おめでとう、ハリー」
「ありがとう、朱音!」
それから他の生徒たちに続いて、ロン――ロナルドの出番。
『またウィーズリーの子か、君の行き先も迷うまでもない』
「グリフィンドール!!」
「よかったぁ……!」
心底安堵した顔で走っていくロンへ、朱音は惜しみなく拍手を送った。
友人たちが希望した場所へ決まり、彼女自身も嬉しかった。
同時に、いよいよ自分の番が近づいていることも分かっていた。
◇
「ゼイン・クサナギ・アヤネ!」
「はい」
朱音は静かに席に向かう。祖父エヴァンダー・ゼインの姓によって、苗字のABC順の名簿では必然的に最後の一人になっていた。
葡萄色を帯びた長い黒髪が背中で揺れる。
大広間を進むその凛々しい姿に、上級生たちからも小さなどよめきが起きた。
朱音は三脚椅子へ腰を下ろし、マクゴナガル教授が、古びた帽子を頭へ載せた。
『……ほう』
『おや?』
『これは……』
組み分け帽子の声が途切れた。
勇気がある。
危険を知らない無謀さではない。恐怖を理解し、それでも誰かの前へ立とうとする覚悟。
グリフィンドールへ入れれば、その勇気は大いに輝くだろう。
だが、知性もある。
鋭い観察力と旺盛な好奇心。知らないことを恥じず、異なる考えを受け入れ、自分の知識を更新できる柔軟さ。
レイブンクローにも申し分ない。
勤勉で、忍耐強く、公平。
血筋や立場で他者の価値を決めず、見捨てるという選択を最後まで疑い続ける。
ハッフルパフなら、きっと多くの者から信頼される。
そして――強い意志。
目的を見失わず、必要とあれば回り道も選ぶ慎重さ。力を見せびらかすより、最も多くを守れる結果を選ぼうとする現実感覚。
スリザリンの資質も、疑いようがなかった。
『……困った』
『そんなに難しいのかい?』
朱音は組み分け帽子の特性を逆手に取り、自分から帽子へ語りかけていた。
『難しいとも。お前さんは、どの寮へ入れても不思議ではない』
『それは光栄だね』
『いや、待て』
帽子の意識が、朱音のさらに奥へ触れた。
そこに、何かがいた。
炎に包まれる都市。
荒れ狂う海。
空を覆う巨大で禍々しい翼。
逃げ惑う人々と、絶望の声。
そして、その全てを背負うように立つ、巨大な亀の姿。
『これは……亀……いや、怪獣……?』
魔法生物ではない。
魔力だけでは測れない、途方もなく巨大な生命の記憶。
数多の戦い。
滅びの光景。
守れなかった命への悲しみ。
それでも再び立ち上がり、子どもたちの前へ盾となろうとする意志。
帽子が触れているのは、少女へ取り憑いた異物ではなかった。
草凪朱音自身を形作る、もう一つの生だった。
『お前さんは、自分の内に何があるか知っているのか?』
『I know(知ってるよ)』
『怖くはないのか?』
『そう思ったことがないわけじゃないさ』
朱音は偽らずに答えた。
『でも、それも大事な私自身だからね』
『……ほう』
『昔の私が何者だったとしても、今の私がどう生きるかは、私自身で決めたいんだ』
帽子は黙った……組み分けに時間がかかるこの現象は『ハットストール』と呼ばれており、大体五十年に一度しか起きない極めて希な事態。
大広間では表向き帽子は沈黙する形で、内心は大いに悩み、大広間内の大時計の秒針が刻まれていく。
かつてホグワーツの生徒だったマクゴナガル教授も『ハットストール』を直に経験したことがあり、久々にそれを目にして固唾を飲んでいる。
新入生たちも在校生たちもざわめき始め、ハリーも心配そうに身を乗り出した。
「ずいぶん長いね」
「帽子、壊れたんじゃないだろうな……」
ロンも落ち着かない。
スリザリンの卓では、ドラコもそわそわとした様子で何度も立っては座り直していた。
「……まだなのか?」
隣にいる女子――ドラコのマルフォイ家と同じく純血の家系の子であるパンジー・パーキンソンが、怪訝そうに彼を見る。
「あなた、あの子を知っているの?」
「少し話しただけだ」
「ふうん」
「何だ、その顔は」
「別に?」
十一歳と言えどパンジーの『女の勘』は少し話した程度で収まらない関心を、ドラコから嗅ぎ取った。
一方、まだ大いに悩んでいる帽子は、最後の問いを朱音に投げかけた。
『グリフィンドールなら勇気を磨ける。レイブンクローなら知性を存分に伸ばせる。ハッフルパフなら志を共にする友人に恵まれるだろう。そしてスリザリンなら―――その意志と判断力はさらに鋭くなる』
『なるほど』
『ゆえに改めて問おう―――お前さん自身は、どこを望む?』
どうやら自身の組み分けが余りに難儀らしく、テレパシーで帽子の方から最終判断を問いかけられた朱音は思案に耽る。
ハリーやロンと同じ寮(グリフィンドール)へ行ければ、きっと楽しいだろう。
だが、別の寮へ入ったからといって、汽車で結べた彼らとの縁が失われるわけではない。
そしてどの寮にも、朱音すらまだ知らない未知なる出会いが待っている。
『どこへ行っても、私が私であることは変わらないだろう?』
『……!』
『なら、君が一番相応しいと思う場所へ入れてくれればいいよ』
帽子は長く沈黙し――やがて笑った。
『そうか、なばら君の相応しき場所をいざ――』
組み分け帽子の裂け目が大きく開く。
「スリザリン!」
宣告が、大広間へ響き渡った。
◇
「……スリザリン?」
ハリーは目を瞬かせた。
「えええっ!?」
ロンの声に、周囲の生徒たちが一斉に振り向く。
ハーマイオニーも驚いた顔をしていた。
渦中にいる朱音当人だけは、微塵も動じなかった。
帽子を丁寧に脱ぎ、椅子の上へ戻す。
「ありがとう。お世話になったね」
『どうか、その優しさを忘れんでくれ』
他の誰にも聞こえない声で、帽子が囁いた。
『もちろんさ』
帽子からのエールを受け取った朱音は、ハグリッドにはサムズアップを送り、彼もその巨体を構成する一部で大きな手で同じハンドサインを送り返し、彼女は景気よくスリザリンの卓へ向かう。
途中でハリーと目が合う、彼はほんの一瞬迷った後、すぐに笑顔を浮かべた。
「おめでとう、朱音!」
「ありがとう、ハリー」
ロンはまだ戸惑っている。
「本当に……スリザリンなんだ」
ハリーが、その肩を軽く叩いた。
「でも、朱音は朱音だよ」
「……あ」
汽車の中で話したことを、ロンも思い出した。
寮が違っても、友達でなくなるわけではない。
「そうだよな……おめでとう、朱音!」
「ふふっ。ありがとう、ロン」
ロンからの祝福にも朱音が手を振り返す。
そしてスリザリンの卓では、ドラコが立ち上がりかけていた。
(来た!)
胸中では快哉を叫びながら、どうにか表情を取り繕う。
腕を組み、顎を上げた。
「ふん、まあ当然だな」
「にしては随分嬉しそうね、ドラコ」
パンジーが横から言った。事実鼻で笑う仕草の割には、心底嬉しそうな口元である。
「嬉しくなどない!」
「私、まだ何も言っていないけど」
「今言っただろう!」
「おや、ドラコ君」
朱音がやって来て、丁度ドラコの真向かいの空席に腰掛け。
「同じ寮になったね、これからよろしく」
「あ、ああ……当然だ」
同じ寮生としての改めての朱音からの挨拶に、ドラコの頬がまた僅かに赤くなる。
パンジーは朱音とドラコの様子を交互に眺めた――何、この子?
そして、もう一つの疑問が浮かぶ――あのドラコが、押されている?
「それでは、新入生と在校生の皆さんに、ダンブルドア校長からのお言葉があります」
組み分け帽子が新入生の選定に難儀する『ハットストール』で予定よりも長引いた新入生歓迎会は、ダンブルドアのスピーチタイムにやっと移り、貫禄たっぷりな自身の御姿を椅子から立たせた。
「新入生の諸君、この度は我が校の生徒なった記念すべき日に、心から祝福を申し上げたい、おめでとう!このまま歓迎会に移りたいところじゃが……二言、わしから生徒全員に注意事項を言っておこう、まず――『禁じられた森』は名前の通り立入禁止じゃ、生徒は決して入ってはならん、それと校舎右側の三階の廊下も近寄らぬこと、そこには恐ろしい苦痛と死が待っておるでな~~注意事項終わり――」
仮にもまだあどけない十一歳の新入生を出迎える場としては、些か以上に物騒な報告を大広間にいる全生徒に通達する校長。
(『森』は規則違反の罰則(ペナルティ)でもない限り、踏み入れる機会は無いってグランパは言ってたけど………『右側の三階』ね、余程の貴重な品でもあるのかな?)
関心が無いと言われればこの通り嘘になるが、色んな要因で年相応以上に分別のある朱音は、この時は『例の右側の三階』に関する件は深入りしないことにした。
「――と、言いたいとこじゃがもう一つあったの忘れておったわい、わしとしたことがうっかりさん、では改めて―――そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!」
命にも関わると言う注意事項から一転、校長は『三三七拍子』のリズムで賑やかな祭りでも開催させそうな勢いで大広間中に轟かせたかと思うと。
「では諸君、召し上がれ♪」
――と、生徒と各教師陣一同の拍手を合図に、大広間の長いテーブル上の大皿に突如としてご馳走が召喚され、食べ盛りな少年少女たちは景気よく食し始めた。
(校長になる前からお茶目な方だったとグランパも言ってたけど……今でも健在みたいだね~♪)
確実にこの場で、校長本人以外に『三三七拍子』の意味と起源を唯一知っている日本人な朱音も、大皿一杯の御馳走を大いに堪能するのであった。
◇
歓迎の宴が終わる頃には、夜も随分更けていた。
金の大皿には、できたてほやほやな料理と菓子が次々に現れ、新入生たちを驚ろかせて生徒一同の腹を満たした。
「皆の衆、よく食べよく飲んだじゃろう~~明日からの学業本番に備え、よく眠ることじゃ、以上!」
ダンブルドア校長の締めの挨拶が終わると、各寮の監督生が一年生を集める。
「スリザリンの新入生はこちらへ!」
朱音たちは上級生の後に続き、複雑な城内を歩き始めた。
長い廊下、曲がりくねった階段、松明に照らされた動く肖像画、すれ違う残留思念(ゴースト)たち。
歩きながら朱音は、校内の風景を味わいつつも、分岐や扉の位置へ目を配っていた。
「何を見ているんだ?」
隣を歩くドラコが尋ねる。
「城の構造を覚えているんだよ。迷子になると大変だからね」
「初日から覚えられるわけがないだろう」
「動く階段もあるんでしょう? 楽しみだねぇ」
「面白がるところか?」
「変形する建物なんて、面白いじゃないか」
後ろを歩いていたパンジーが、朱音へ声をかけた。
「あなた、クサナギ……アヤネだったわね」
「ああ、朱音でいいよ」
「私はパンジー。パンジー・パーキンソン」
「よろしくね、パンジー」
朱音が自然に笑いかけると、パンジーは僅かに目を瞬いた。
「日本から来たの?」
「日本生まれの日本育ち、祖父と父はイギリス人だけど」
「そう……綺麗な髪ね」
「おやありがとう。パンジーの髪も可愛らしいよ、ボブカットがよく似合っている」
「そ、そう?」
「うん」
パンジーは少し嬉しそうに、自分の髪へ触れた。
その後ろでは、クラッブとゴイルが並んで二人を眺めている。
「なあ、ゴイル」
「何だ、クラッブ」
「スリザリンって、いいところだな」
「ああ、入れてよかった」
「ああ、よかったよかった」
妙に締まりのない、完全に鼻の下が伸びた顔で頷き合う二人へ、ドラコが振り返る。
「お前たち、しゃきっとしろ」
「どうして?」
「どうしてじゃない。スリザリン生として、少しは品位を保て!」
「でも、ドラコも朱音が来た時、嬉しそうだったぞ」
「――っ!」
図星を突かれたらしいドラコに、パンジーが楽しげに笑う。
「やっぱり嬉しかったんじゃない」
「違うと言っているだろう!」
「おや?」
朱音が首を傾げた。
「私は嬉しいよ、ドラコ君。同じ寮になれてよかったね」
「…………!」
ドラコが完全に言葉を失う。
パンジーは堪え切れず噴き出し、クラッブとゴイルも肩を揺らした。
「わ、笑うな!」
ドラコの必死めいた抗議が、地下へ続く廊下に響いた。
◇
やがて監督生は、何の変哲もない石壁の前で足を止めた。
合言葉を告げると、壁の一部が音もなく開く。
「ここがスリザリン寮だ。合言葉は定期的に変わる。忘れないように」
開かれた先には、青緑色の光に満たされた談話室が広がっていた。
深緑のソファ。
重厚な黒檀の家具。
銀色の装飾。
低い天井から吊されたランプ。
壁の一部は大きな窓になっており、その向こうには暗い湖水が揺れている。時折、魚の影がゆっくりと横切った。
「……おお」
朱音は思わず感嘆した。
「綺麗だねぇ」
パンジーも窓へ近づく。
「ここ、湖の底なのね」
「水族館みたいだ」
「水族館?」
ドラコが尋ねた。
「マグルの世界にある、水の生き物を観察する施設だよ」
「ふうん。まあ、悪くないな」
「ドラコ君も気に入った?」
「当然だ。スリザリンの談話室だからな」
朱音は笑いながら、青緑色の光へ手を翳した。
「これから毎日、この景色を見られるんだね」
城へ来たばかりなのに。
初めて足を踏み入れた場所なのに。
その声を聞くと、この地下室が本当に自分たちの家になるのだという実感が湧いた。
◇
監督生から規則や設備の説明を受けた後、一年生たちは男女それぞれの寝室へ向かうことになった。
階段の前で、朱音が男子たちへ振り返る。
「それじゃあ、今日はここまでだね。おやすみ、ドラコ君」
「……おやすみ」
「クラッブ君とゴイル君も」
「おやすみ、朱音!」
「ああ、おやすみ!」
パンジーと並び、女子寮への階段を上っていく。
「ねえ、朱音」
「何かな?」
「あなた、本当に面白い子ね」
「そうかい?」
「あのドラコが、あんなに調子を狂わされるなんて」
朱音は不思議そうに首を傾げた。
「私は普通に話しているだけなんだけど?」
「だから面白いのよ」
パンジーが笑う。
「それなら、これからもよろしくね」
「ええ、よろしく、朱音」
二人の姿が階段の奥へ消える。
それを見送ったクラッブが、ぽつりと言った。
「朱音って、綺麗だよな」
ゴイルも深く頷く。
「パンジーも可愛いし」
「ああ。やっぱりスリザリンに入れてよかった」
「ああ」
「お前たちなぁ……」
ドラコはやれやれとオールバックにしている額へ手を当てた。
そう言う彼も彼で取り巻きの二人に呆れながらも、朱音が消えた階段へ、つい視線を向けてしまう。
家名を恐れない。
家名を嘲りもしない。
自分をマルフォイ家の跡取りとしてだけではなく、一人のドラコとして知ろうとする。
こちらの思惑などお構いなしに、まっすぐ笑いかけてくる。
「……悪くない」
「何が?」
「何でもない!」
「ドラコ、顔が赤いぞ」
「うるさい!」
少年たちの声が、地下の廊下へ賑やかに響いた。
◇
女子寮の寝室には、深緑色の天蓋を備えたベッドが並んでいた。
銀糸の刺繍。
磨かれた木製の収納箱。
窓の外で揺らめく、湖底の淡い光。
朱音たちの荷物も、既にベッドの傍らへ運び込まれていた。
着替えを済ませた彼女は、天蓋の内側へ腰を下ろした。
首元には、いつもの勾玉。
荷物の中には、イングリッシュオークとユニコーンのたてがみで作られた杖。
朱音は杖の箱へ触れながら、今日一日の出来事を思い返した。
ハリー。
ロン。
ハーマイオニー。
ネビル。
ドラコ。
パンジー。
クラッブとゴイル。
生まれ育った場所も、家族も、考え方も違う子どもたち。
まだ互いのことを、ほとんど知らない。
それでも今日、同じ列車へ乗り、同じ城へ辿り着いた。
「面白くなりそうだねぇ」
窓の向こうを、一匹の魚がゆっくりと泳いでいく。
青緑色の光が、その鱗で揺れた。
水の底で眠りへ落ちていく感覚を、朱音は知っている。
遠い昔、人として生きるより遥か以前の前世にて――巨大な甲羅に身体を包み、深い海の静寂へ身を委ねた記憶。
けれど今夜の自分は、怪獣ではない。
明日から魔法を学ぶ、一人の新入生だった。
朱音は枕へ身体を横たえ、天蓋を見上げる。
「よろしく、ホグワーツ」
小さな声は、湖底の静けさへ溶けていった。
こうしてスリザリンの地下寮に、一人の少女が加わった。
四つの寮、そのいずれへ入っても不思議ではなかった少女。
勇気も、知性も、誠実さも、野心も備えながら、どれか一つの価値によって自分を定めることを拒んだ少女。
彼女がこれから、ホグワーツで出会う者たちの価値観をどれほど揺さぶることになるのか、この時、まだ誰も知らなかった。
しいて言えばただ一人。ドラコ・マルフォイだけは、入学初日の握手一つで、その片鱗を既に味わっていたのである。
◇
EX——ルームメイトとの夜。
深緑色の天蓋を備えた寝台。
窓の向こうには、ゆっくりと泳ぐ魚の影。
朱音は寝間着姿で窓辺に腰掛け、湖底の景色を眺めていた。
「……朱音?」
隣の寝台から、パンジーが声をかける。
「まだ眠らないの?」
「うん。もう少しだけ、この景色を眺めていたくてね」
「そんなに気に入ったの?」
「ふふっ。とっても♪」
パンジーは不思議そうに首を傾げた。
「地下にある寮なんて、最初はどうかと思ったけど……あなたは全然気にしないのね」
「そうだねぇ……むしろ落ち着くんだ」
「落ち着く?」
「水の中って静かでしょう?」
朱音は窓の向こうへ目を向けた。
「深い海の底ではね、地上の喧騒も遠くなる。聞こえるのは水の流れる音や、そこに生きるものたちの気配だけ……」
「……まるで、実際に住んでいたみたいな言い方ね」
「おや?」
実はあながち間違ってないパンシーからの言及に朱音は少しだけ目を丸くしてから、悪戯っぽく微笑んだ。
「そう聞こえたかい?」
「聞こえたわよ」
「ふふっ♪」
はにかも朱音。
その笑顔を見て、パンジーもつられて笑った。
「……変わった子ね、あなた」
「今日だけで何回目かなぁ、それを言われたのは」
「きっと、これから何度も言われるわよ」
「それは一層楽しみだね♪」
やがて朱音は立ち上がり、寝台へ戻った。
天蓋の内側へ身体を横たえる。
窓の外では、青緑色の光が静かに揺れていた。
(……懐かしいな)
かつて、幾度となく身を委ねた深海の静寂。
だが、今夜は違う。
ここには、明日から共に学ぶ友達がいる。
朝になれば、授業が始まる。
まだ知らない魔法が、まだ知らない出会いが待っている。
「……おやすみ、パンジー」
「おやすみ、朱音」
朱音は瞼を閉じた。
(……ここも、私の帰る場所になる)
その唇に、小さな微笑みが浮かぶ。
かつて海の底で眠っていた守護者は、今、新しい人生の夢を見る。
そこは、過去を閉じ込める地下牢ではない。未来へ向かう少女を優しく包む、時のゆりかごだった。
つづく。