虎杖成り代わり、縄文時代に立つ【幸せ酒寄一家ルート】   作:夕暮れの家

10 / 10
10話

 視界の端を白い影が横切る。その影は俺が金棒に仕込まれた銃口を構えるよりもずっと早く。唯一残っていた相手プレイヤーを粉砕し、そのままの勢いで天守閣へ勝負を決める一撃を叩き込んでみせた。

 

 変わらず、素手で。

 

「…遠いなぁ」

 

 ガチャ、と肩に担ぎ直した金棒が重い金属音を立てる。久しぶりに見たその背中を眺めながら、未だに近づけている実感が乏しい、と一つため息を付いた。

 

✿

 

『ブラックオニキス、快進撃!!』

 

 そんな最近頻繁に目にする様になった広告から目を反らしながら、ツクヨミの街並みの中を歩く。隣を歩いていた身に纏う衣装におにぎりやメロンパンという食べ物が様々にあしらわれている少女が、飽きもせずその広告をパシャリと写真に収めた。

 

「またぁ?同じ広告さっきも撮ってなかった?」

 

「何枚あってもいいの、こういうのは。写真フォルダが潤うんだよ〜」

 

「そういうもの?」

 

 そっちのフォルダの中だってヤチヨだらけでしょ、と言われて言葉に詰まる。そう言われると何の反論も出せなかった。そんな私を尻目に更に数枚写真を追加する様子を見ながら何度目かの悩みに頭を痛める。

 

 言うべきだろうか。横の友人が様付けまでして熱を上げているそのプロゲーマーは、自分の兄であること。彼女は兄の事を神格化している毛があるが、当の本人は数年前まではゲームで自分のことをボコボコにしては他所様に見せられないような煽り顔を披露していた畜生であることを。

 

 数秒考えて、やっぱり無理かなぁとまたも同じ結論に達する。別に隠し事をしたいわけでは無いのだが。自分の抱いている兄の人物像と真実の抱いているプロゲーマーとしての帝の人物像にかなりの乖離が存在することに加えて、その事を明かしたところで自分に出来ることがあまりなさそうだからだ。せいぜいがサインを貰ってこれるかどうかくらいだろうか。

 

「昨日の大会はさ〜、初めて“スクナ”が参加してるところリアルタイムで見れたんだよね」

 

 なんで毎回でないんだろ、と無邪気に首をひねる真実の言葉に頭の上についた狐耳がピクリと反応した事を自覚する。確かに昨日のKASSENの大会には、珍しくブラックオニキスの普段表にでてきている三人だけではなく、控えとして登録されているもののめったに出てこないもう一人が参加していた。

 

 曰く。帝の師匠だの、帝は今まで一度も勝ったことがないだの、挙句の果てには人力で空を歩いて見せたなどと色々好き放題言われている彼だが、極稀に顔を見せたときにはそれも真実なのかもと信じさせられてしまうような衝撃を毎回残していっている。

 

「凄かったよ〜、彩葉も見ればよかったのに…。彩葉?」

 

 しゅばーんって。ばこーんって。と全身を使ってその時の感動を表現しようとする真実の様子に笑いながら。よく知ってるよ、と口の中だけで呟く。強いよ、勝てたことがない。

 

 プロゲーマーとして最前線に立つ兄でも未だ勝てたことがない。それに人生を賭けているわけでもない自分が勝てるわけがないと知っている。それでも、全く勝てる未来が見えない現状には思うところがあるのだ。スマコンを手に入れてから何度も挑んで、その度に簡単に転がされてついでとばかりに兄に笑われた記憶が蘇ってくる。

 

「お〜い」

 

 眼の前で手を振られて、は、と気がつく。いつの間にか思考の海に潜って立ち止まってしまっていたようだ。

 

「彩葉のお陰で赤点回避出来たから〜、今日は私と芦花で全部奢るからね」

 

「はは〜、お大尽様〜」

 

 芝居がかった会話をした後、顔を見合わせて笑う。でも、と指を立てて言葉を続ける。

 

「どうせなら現実の方でなにか奢ってほしかったな〜って」

 

「き、金欠で…」

 

「…じゃあしょうがないか」

 

 人差し指を突き合わせながら眼をそらす真実に対して、此方は腰に両手を当ててため息をつく。グルメ系インフルエンサーとして少なくないリスナーを抱える真実は、ただの一女子高生である私の何倍も稼いでいるだろうが、その殆どは両親からの“無駄遣いしないように”という厳命と共に口座に封印されているらしい。

 

 それでも尚それなりの収入はあるはずなのだが。大方彼氏さんと遊びに行くために使ったんだろうなぁと白い目を向ける。それを感じたのか、ワタワタと両手を宙に彷徨わせながら此方が何も行っていないのに言い訳を始めてしまった。

 

「て、テスト期間中は遊んでないしっ!」

 

「…いや知らないよ」

 

 流石にテスト期間中にまで遊んでたら次からノート作ってあげないからね、と釘を刺すと、ははーっ、という言葉と共に平伏する真実。そんな阿呆なことはしていないだろうし、どうせ次のテスト期間になったらまた作るんだろうな、と半ば確定している未来図を描きながらもう一つ笑った。

 

 

「彩葉はさー」

 

「ん?」

 

 味がしない豪華なパフェを口に運んで頬張りながら、対面に座った芦花の声に反応して顔を上げた。あまり頻繁にこんな豪華なものを食べる機会の無い私にとっては、食べた気になれる、というだけでも中々に嬉しいもの。少し前に食べたパフェの味を思い出しながらゆっくりと口を動かす。

 

「駄菓子屋さんでバイトしてるんだよね」

 

「うん」

 

「入学式にいた人のやってるお店だっけ」

 

「そうだよ?」

 

「え、何その話。私知らない」

 

 言ったことなかったっけ、と芦花と顔を見合わせる。そう言えば悠仁くんと会ったことのあるのは、芦花だけだったか。高校生活が始まってもう既に一年がたった。その間ずっと私はあの店で働かせてもらっている。

 

 入学式の日の話。私が芦花と友達になった日の事を真実がへー、ほー、などと声を出しながら聞いている姿をぼぉっと頬杖をつきながら見つめる。無造作にパフェに突き入れたスプーンからほんの少し、掬った分のそれがこぼれ落ちた。

 

「あー…」

 

 こんなところは再現しなくて良いのに、などと思いながらテーブルに置いてあった布巾でこぼれたそれを拭き取る。拭いた後に薄い線となってその場に残った。仮想空間なんだから指の一振りで消せれば良いのに、とすこしムッとしながらも一度力を込めて拭き取った。

 

「い〜ろ〜は〜」

 

 と、横から急に肩を組まれる。突然のことに驚いて横を見ると、芦花の隣に座っていたはずの真実が席を移動して私の横にまで来ていた。

 

「なんでそんな話私に教えてくれなかったのさ〜」

 

「いや、隠してたとかじゃないんだけど…」

 

「話してないのは隠してたと同義!」

 

 びしぃっ、と人差し指を突きつけられて言葉に詰まる。なまじ他にも話していないことがあるばかりに強く出れない。そんな私の様子を見た真実が勝ち誇ったように息を吐いた。

 

「じゃあ今度そのお店行ってもいいよね?」

 

「えぇ…、それは…」

 

「なんでさ〜っ」

 

 明確に嫌なわけではないのだが、なんとなく気が引ける。行きたい行きたいと私のことを拝み倒し始めた真実の勢いに押されながら両手を控えめに前に出して防御の姿勢。芦花は知っているけどあまり行きたいなどと言ってこなかったし、真実にはいつの間にか話した気になっていたから此方も気が抜けていた。

 

「う〜ん…」

 

 バイトと称しても、あまりやることの多くないあの店での時間を思い出す。店の仕事というよりも子供たちの相手の方が主な業務ではないかと疑ってしまうほど、毎日パワフルな小学生たちに振り回されている。

 

 確かに大変な時間だ。それでも他の仕事と比べてみれば確実に楽しい、という感情が入り込む余地がある。お店に遊びに来る子供たちの笑顔が見れて、すぐそこには悠仁くんがいて。別に仕事と言われなくても私はあの空間にいたいと思うのだろう。

 

 長い時間あそこにいるからか、段々と増えていく自分の口座の中身の数字を思う。喜ばしいことなのにな、ともう一つため息をついた。

 

「あの、…彩葉?」

 

 ごめんね、そんなに嫌だった?と恐る恐るといった様子で聞いてくる真実の言葉に、は、と我に返る。そしてもう一つ出そうになったため息をすんでのところで飲み込んだ。

 

「ううん、ちがうの。別に来ても良いんだけど…」

 

 面白いもの何も無いよ?と首を傾げると、真実よりも早く対面に座った芦花が眼を輝かせた。

 

「えっ?いいのっ?」

 

「うん…。芦花も来たかったの?」

 

「行きたかったっていうか」

 

 ダメなのかなってなんとなく思ってたから。そう言われて、首を傾げる。話にはでていなかったはずなのだが、どこでそんな事を思われたのだろうか。

 

 そんな私の疑問が伝わったのか、芦花は視線を一瞬彷徨わせて、言葉を選びながらゆっくりと口を開く。

 

「なんとなく、だよ?」

 

「そんな顔してた?」

 

「うん、してたしてた」

 

 そうかな、と斜め上に視線をすべらせて思い返してみる。自分じゃ分からないかな、とおもいはじめたところで、ぱん、と手を合わせた音でそんな思考は断ち切られた。

 

「せっかくテスト終わったんだしさ〜、どこか遊びに行こうよ!」

 

 もう少ししたら外出るのも億劫になるんだよ〜、としたり顔で真実が言う。ツクヨミは常世の世界だ。この世界に日は昇ることはなく、いつ訪れてもその世界が変わることはない。しかし、その外では。着々と夏の足音が聞こえ始めていた。

 

「もう暑いのは嫌なんじゃ…」

 

「そんなこと言って、水着新調してたじゃん」

 

「海は無罪っ!」

 

「なにそれ」

 

 笑い声が響く。京都とは随分違うこの場所で、この一年と少しで色んなものを見た。違う場所、違う人。それでも、私の前を歩く人はいつも変わらなかった。記憶の中の姿のまま、変わらない声と、変わらない表情だった。

 

「いいね、どこ行こうか」

 

「パンケーキ食べに行こうよ!」

 

「もうすぐ新しい店が出来るから我慢するって言ってなかった?」

 

「はて…?」

 

 わざとらしくとぼけて見せる真実の様子に、芦花と揃って笑い声を上げる。そのあと直ぐにスケジュール帳に書き込まれた文字がほんの少し増えることとなった。

 

 

✿

 

 

 確かめる、一つ。もう一つ。指差して照らし合わせてみて。

 

 常世の世界の何処かで、期待しちゃうよ。なんて小さな呟きが誰にも届くこと無く地に落ちて消えた。

 

 

✿

 

『NEWS TSUKUYOMI!!みんなのためにわんわんお!忠犬オタ公です!』

 

 ツクヨミ内に多数存在する巨大スクリーンに一斉に同じ映像が映し出される。その画面の中には、ツクヨミの広報関係を一手に引き受けているライバーの忠犬オタ公の姿が映し出されていた。

 

『今日は何と言ってもこれ!先週末行われたcrazy MOON CUP!劇的な結末を見せたこの大会の事を振り返っていくぞぉ!』

 

 オタ公が手を振りかざすと、彼女の背後にどこからとも無く画面が現れ、暗いKASSEN場の様子を映し出した。所々で派手な火花が上がるその会場のある1点に段々と焦点が合い、ズームされていく。

 

『大会直前のメンバーの雷の体調不良により棄権が予想されていたブラックオニキスでしたが、蓋を開けてみればなんと!今まで公式戦に一度しか顔を出したことのないメンバーを引き連れてのド派手な登場となりました!いや〜驚いたっ!私は二度見しました』

 

『ヤッチョは〜、あんまり驚かなかったよ〜?』

 

 ぽん、という軽い音と共に煙が上がる。その煙が晴れるとその場所にはツクヨミの管理人である月見ヤチヨの姿があった。

 

『驚かなかったというのは?』

 

『だって一応メンバー登録されてるからね、予想してましたっ』

 

『でもこれまで公式戦には最初の一度以降不参加。配信にもほとんど顔出したことなかったんですよ?一部じゃ“ツチノコ”なんて言われてるのに…』

 

「いやツチノコってなにさ」

 

 思わず漏れた声に、隣に立って同じスクリーンを見上げていた真実がぐりんっ、と勢いよく此方に顔を向けて反応した。

 

「だってレアキャラだよっ!?配信だって自分から出てきた事無いし、ほとんど喋らないし。だから大会に出てるところみれるなんて思って無くてさっ!」

 

「…随分入れ込んでるね」

 

 顔も出てないのに。そう続けると、眼をぱちくりさせた真実が何を言っているんだ、というような顔をして首を傾げた。

そんなおかしな事を言ったか私は。

 

「見えなくても分かるよ、私には」

 

「…そう」

 

 深く触れないでおこう。そう決めてそっと真実から視線を外してスクリーンに再び目を向けた。

 

 

『あれだけやれるのに、何で全然でてこないんですかねぇ』

 

『ヤッチョ的にももっと見たいのです〜。ヨヨヨ〜』

 

 そういう2人の背後には大会中の戦闘映像が流されている。派手なエフェクトを纏う刀、銃、弓、棍棒。その他多種多様な武器が入り乱れる中に一人、無手で戦場を駆ける一体の鬼がいた。

 

『そう言えば彼のアバターの色合いはヤチヨそっくりですね。ファンなんでしょうか』

 

『そうなのです。ヤチヨの数少ない自慢の一つだよ〜?』

 

 え、と声が重なる。同じように声を上げていた真実と視線がぶつかって、二人とも何も言わずにそのまま視線を戻した。

 

『えっと…、話したことがあるんですか?』

 

『?うん。キャラメイクのときにね。だから顔も知ってるよ?』

 

『ぐぎぎ…、管理人としての特権…っ!』

 

 映像の中で、帝アキラのサポートに徹してた彼が最後に、勝負を決める一撃を叩き込む瞬間が流される。この短期間で何度も見たその映像をもう一度、目に焼き付けるようにじっと見て。

 

 遠いなぁ、と。口の中で小さく呟いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

超かぐや姫!輪廻なんて壊しちゃえ(作者:鶏ぴっぴ)(原作:超かぐや姫!)

8000年前。▼まだ「英雄」という言葉すら存在しなかった時代。▼一人の少年が、月から来た少女――かぐやと出会った。▼共に過ごし、笑い、時には喧嘩をして。▼彼には死と老化の概念がなかった。▼やがて少年は、かぐやにとってかけがえのない存在になっていく。▼しかし、二人の日々は永遠には続かなかった。▼ある日を境に少年は消えたーー▼名を残すこともなく。▼誰にも知られる…


総合評価:383/評価:8.78/連載:11話/更新日時:2026年10月29日(木) 07:00 小説情報

鴉と行く八千年(作者:かしわくん)(原作:超かぐや姫!)

▼今は最近、令和でバチバチ高校生やっていた青年が八千年前に飛ばされて銀魂の吉田松陽に成り変わり、ウミウシとよろしくやっていく話です。ハッピーエンドにはなります……たぶん▼百合に挟まる罪人を許せる方はご覧ください


総合評価:1069/評価:8.21/連載:10話/更新日時:2026年10月25日(日) 10:30 小説情報

二番目ならまぁ耐えっしょ(作者:ラトソル)(原作:超かぐや姫!)

「二番目に仲良いと思ってくれたらまあいいだろ」と思いながら特大のキズを遺して消える、色々あって数百年生きてる系男子の話。▼※本作は『超かぐや姫!』と『呪術廻戦』のクロスオーバー作品です。呪術側のキャラは本編に関わってくるのはまあ一人ぐらいかなと思いますが、出ない可能性もあります。▼※百合の間に男をぶち込む大罪な作品です。百合こそ至高なんだよ!!という方は今す…


総合評価:1282/評価:7.39/連載:3話/更新日時:2026年10月21日(水) 22:35 小説情報

気づいたら月の住人になっていた件(作者:新月)(原作:超かぐや姫!)

ひょんなことから月人になってしまった男が綴る、いたって普通の日記である。


総合評価:555/評価:8/連載:6話/更新日時:2026年10月29日(木) 20:00 小説情報

百合を背後から見守る──そんな存在に、俺はなりたい(叶わぬ願い)(作者:百合の間に男を挟めたい男)(原作:超かぐや姫!)

タイトル通りです(重大なネタバレ)▼百合を見守りたい男が、気づけば百合の間に挟まる話。


総合評価:2785/評価:8.08/連載:4話/更新日時:2026年10月22日(木) 22:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>