虎杖成り代わり、縄文時代に立つ【幸せ酒寄一家ルート】   作:夕暮れの家

8 / 8
8話

 

✿

 

「ヤチヨも一緒に行こう」

 

 仮想空間ツクヨミの管理人である月見ヤチヨのプライベートルームの中、普段は彼女以外に人影などないその空間に、額に長い一本角を生やした鬼のアバターを身に纏う男が一人いた。その男が口にした言葉に対して、横に座った長い白髪を二つ結びにして流しているヤチヨは困ったように笑ってみせた。

 

「うーん。厳しいんじゃないかな〜?流石にウミウシを頭に乗せて入学式は目立ちすぎるとヤッチョは思うのです」

 

 ただでさえ目立つんだから。と冗談めかして言う。現実世界でも今の姿と色の変わらぬ男の白髪は、春の陽気の下ではさぞ人目を引くであろう。そこにさらなる要素を加えて自分から目立ちに行く必要は無いと笑う。

 

「それなら、懐でも、袖の中でも。隠せる場所なんていくらでもある。大丈夫だ」

 

「彩葉のお母さんに見つかっちゃったら大変なんじゃないかな〜?」

 

 めでたい場で変なことして怒られたら、彩葉にも迷惑がかかるよ?と人差し指を顎に当てて、小首を傾げる。現実でやるものがいたのならば、子供っぽい、あざといなどの感想が先にくるであろうそんな仕草も、彼女が行えば何処か絵になっている。

 

 ヤチヨに指摘されたことは虎杖にとっても十分承知の上で。3年前の同時期、そしてつい数週間前にも断念した理由もそこにある。しかし、それでもと思い直してここに来ているのだ。

 

「…なら、スマホのカメラ越しならどうだ。それなら変じゃない」

 

「お、名案だねぇ」

 

 でも、それだと録画で見るのと変わらなくなっちゃうのです。ヨヨヨとコミカルな調子で目から涙を落としながら視線を外す。もちろんその長い袖で涙を拭う仕草も忘れずにだ。

 

 そんな配信でよく見せるような姿。遠回しな意思の伝え方に、隣に座る虎杖はほんの一瞬眉尻を下げて。それでもそらされたヤチヨの視線が戻される前にその表情を消し、悟られることの無いように隠してみせた。

 

「俺が一緒に行きたい。駄目か?」

 

 隣に座る彼女の手を取って言う。8000年来の相棒のそんな珍しい所作に、言動に。ヤチヨの目がほんの少し驚いたように見開かれて。

 

 それも一瞬のこと。すぐにその表情はいつものニコニコしているものに切り替わった。

 

「ヤッチョ的には〜。ここで大っきい画面で、一緒にお喋りしながら見たいなぁ。そっちの方が楽しいよ!」

 

「…そう、か」

 

 それは3年前の入学式と同じ事が繰り返されるという意味で。“彼女”が酒寄彩葉と出会う前の最後のチャンスを逃すという意味でもある。

 

「そんな残念そうな顔しないしない!卒業式は彩葉と一緒に行けるよ!」

 

 立ち上がって。手を広げて。口にするのは未来の話。今も世界の何処かでファンを増やし続けている電子の歌姫がいつも配信で浮かべているような笑みを見せる。

 

 彼女のファン。それこそ酒寄彩葉であれば至近距離で見れたことを数日かけて羨ましがるであろうそれを見ても欠片の動揺も見せず。

 

 代わりにヤチヨに向けられていた視線は下に落ちた。

 

「ヤチヨ、あと2年もない」

 

 教えてくれないか、詳細を。そういった虎杖に対し、ヤチヨは手を広げてぱっと笑う。何が起こるまであと2年もない、かは聞き返すことはしなかった。

 

「だいじょーぶ!悠仁のお陰で彩葉は此方に来てくれたし、ちゃんと同じアパートだよ!」

 

 その言葉の通り、彩葉の住むことになったアパートは、彼女の記憶の中のそれと同じ場所。彼女が生まれる予定の電柱もすぐ目の前にある。

 

 このまま行けば順当に2人は出会ってくれるだろう。

 

「そうか…」

 

 よかった、と息を吐く相棒の姿を見て目を細めて。その視線が上に戻る前にすぐに表情は素に戻す。

 

「そんなに難しく考えなくても良いんだよ〜?心配性なんだから」

 

 身体を小さくして、ぽすりとあぐらをかいたその足の間に身を収める。そのまま上をむいて、自分の方を向く視線と目を合わせた。

 

「大丈ー夫!ちゃんとハッピーエンドになるよ!ヤッチョが保証しちゃう!」

 

「それは、心強いなぁ」

 

 ぐ、と拳を胸の前で握って見せたヤチヨを見て、今日初めて笑みを見せた虎杖は自分の顔のすぐ下にある小さな頭を一撫でした。

 

 そうでしょう、と胸を張るヤチヨの姿を見て。なんとはなしに窓の外を眺めてみる。窓の外を走る輝く列車の光が彼の網膜を焼く。

 

 ぴょん、とぴったり収まっていた体勢から一息に抜け出したヤチヨが外を指差して笑う。その指の先には今まさに打ち上がった花火があった。

 

 それを皮切りに、どんどんと音を立てながら色とりどりの花火が打ち上がる。その中には、管理人であるヤチヨの顔をデフォルメしたものもいくつかある。 

 

「綺麗だねぇ〜」

 

 今年もどこかの花火大会は一緒に行こうねぇと笑うヤチヨ。外を見つめる彼女の瞳の中には輝く花が咲いていた。

 

「ヤチヨ?」

 

「なんだいなんだい?」

 

 振り返った彼女が笑う。いつの間にかその姿はいつものものに戻っていて。楽しげに笑う彼女に、先に声をかけたにも関わらず虎杖は言葉を次ぐことができなかった。

 

「どうしたの〜?呼んでみただけなのですか〜?」

 

 ぴょんぴょんと周りを跳ねて見せる彼女の楽しげな様子を見て。ずっと座っていた虎杖も立ち上がって自分の近くに来たその頭をもう一度撫でて。目を細めて笑った。

 

「絶対、ハッピーエンドさ」

 

 彩葉がいるしな、と口にする虎杖に対してヤチヨももう一つ笑って。彩葉なら間違いないねぇ、と小さく口にした。

 

 

 

 

✿

 

 自分の名前が呼ばれてから一泊置いて立ち上がる。数年前にも同じことをやったな、とか。そのときは悠仁くんをみつけて手を振っちゃって怒られたんだったかなとか余計な事をあれこれ考えながら、表情は真面目そのものを保ちながら歩く。

 

 壇上に上がって、台本が書かれている紙を開きながら自然な動作で会場全体に目線をすべらせる。

 

 その中に一際目を引く白の輝きが、そしてその隣にいる自分の母親の姿を認めて、緩みそうになる頬を気合で抑えた。

 

 約束してから悠仁くんは卒業式、入学式だけと言わないで行事ごとにはそれなりの頻度で顔を出してくれるようになった。

 

 一番驚いたのは体育祭の保護者席にいたときのことだ。全く聞いていなかったから綺麗な二度見を披露してしまった。それを見て笑い転げているお兄ちゃんも横にいたので、きっと私に知らせないという選択肢を取らせたのは彼だろう。許さん。

 

 努力で勝ち取った新入生代表という立場を誇るように胸を張って。お母さんに添削してもらって及第点をもらった台本の一行目を見ること無く口を開いた。

 

 

 

 

「うまいこと隠してたやないの」

 

 でも視線はよう分かるし、もっと気ぃつけやと言うお母さんの言葉に、そんなに見てないと思うんだけどなぁと目を反らしながら自分の視線がそちらに向いた回数を記憶の中からさらってみる。

 

 1回、2回、3回…。うん、やめよう。有益な時間ではないことは分かった。そんな私に追撃を加えようとするお母さんをまぁまぁとなだめに入った悠仁くんに矛先が移った隙にもう一歩後に下がって。

 

 辺りを見回すと、周りに知っている人はそれなりにいた中学の入学式とは違い、周囲に知り合いなど一人もいない。当然だ。かなり離れたところにある学校なのだから。

 

 それに加えて、周囲の雑多なざわめきから拾い上げることのできる言葉はすべてあまり耳馴染みのない言葉遣いのものばかり。京なまりの話し方をする人間など、母以外に一人もいなかった。

 

 急になんだか自分が違う世界に迷い込んでしまったような気分に陥ってしまう。耐えかねて人のいない真上を見上げると、

 

 

 

 桜が、舞っていた。

 

 変わらぬ姿で、変わらぬ色で。真っ青な雲一つ無い空に滲み出すように一つ、二つゆらゆらと右に左に揺れながら私の視界を埋めていく。

 

「ねぇっ」

 

 視界を落とす。もう一つの桜が揺れていた。風にさらわれて流れるそれは、淡く儚い彩の中にあってとても鮮烈で、周囲から浮き上がっているように見えて。

 

「…綺麗」

 

「へぇっ!?」

 

 あ、と勝手に動いた口に手を当てて塞いでも時すでに遅し。声を掛けてくれた女の子は頬を紅潮させて驚いた顔をしている。

 

「ご、ごめんなさい。急に」

 

「…ううん。私も急に声かけてごめんね」

 

 敬語じゃなくていいよ、と笑いながら言うその子のことをもう一度見てみる。背が高い子だった。私も小さい方ではないが、それよりもずいぶん高い身長に、小さい顔。そして、おろされているピンクがかった明るい髪の毛は、桜舞う春の陽気の中で風に流されて輝いているようにも見えた。

 

 綺麗な娘だな、と改めて思う。

 

「新入生代表の人だよね?私おんなじクラスになった綾紬芦花って言います」

 

 声かけたかったんだけどすぐに教室出ちゃうから、と笑う名前を聞いて、すぐに思い出した。確かに入学式後にほんの少しの時間滞在した教室にいた娘だった。

 

 なんだか知らないうちに近寄りがたいキャラクターが定着してしまっていた中学時代を思い出して、今度はもう少し上手くやろう、と決意しながら笑顔を見せた。

 

「私、酒寄彩葉。よろしく、綾紬さん」

 

「うん、よろしく、酒寄さん」

 

 差し出された手を握って、友達できた、とほわほわしていると、後から彩葉、と声を掛けられた。

 

「何してるんだ、行くぞ?…お友だちか?」

 

「うん、そうだよ」

 

 振り返って目に入った悠仁くんの姿に思わず方言が出てしまいそうになるのをぐっとこらえて。標準語で答えた私のことを一瞬不思議そうに見てから良かったなぁと目を細めて。

 

「もう少し話していくか?」

 

 紅葉さんと少し話すことがあるんだ、と言ってくる悠仁くんの気遣いをありがたく受け取って。ぽかんとした表情を見せているあや、綾紬さんに向き直った。

 

「ごめんね、時間大丈夫だった?」

 

「…ううん。なんとういうか、凄いお兄さんだね」

 

「?お兄ちゃんは今日きてないよ?」

 

 何を言っているんだろうと首をかしげると正面の綾紬さんも同じように首をかしげている。少し考えてから、ようやく悠仁くんのことを兄と間違えられたのだと気がついた。

 

「あの人は兄じゃないよ」

 

「え、…それじゃお父さん?」

 

 見えないね、ととぼけたことを言う様子に思わず吹き出してしまう。どう見たって親子には見えないだろう、と。そのままちゃんと説明しようと口を開きかけて、止まった

 

 なんと言えば良いのだろう。3年前の入学式では、一応悠仁くんはお父さんの弟という建前を持って来てくれていた。

 

 でも、今はそんな建前は無くて。それならば、私たちの関係は何なのだろうか。家族だとは思っている。でも、それは私が勝手に言っているだけであって、外から見たら私たちに血のつながりなど無い。

 

 そう気がついてしまった瞬間、今まで硬く結ばれているように見えていたその関係が、なんだかふわふわとした不安定なものに見えてしまう。名前のつかない、曖昧なものだ。

 

「えぇっとね、お父さんじゃないよ」

 

「…じゃあ叔父さん?」

 

「違う」

 

「従兄弟?」

 

「違う」

 

「再従兄弟?」

 

「違う」

 

「…弟?」

 

「いやいや」

 

「血の繋がり、ある?」

 

「…ない」

 

 じゃあ誰なの!?と驚く綾紬さんに、私も困ってしまう。説明するだけなら簡単だ。近所の、ずっと昔から中の良いお兄さん。それだけ。でもなんだか淡白すぎて、軽すぎて。口にだすことを足踏みしてしまった。

 

「でも、家族だよ」

 

「そうなの?」

 

 そう、と頷いて。これではなんだか複雑な事情があるようでないか、と思うが時すでに遅し。眼の前の綾紬さんはなんだか難しそうな顔をして考え込んでしまっていた。

 

 しかし、何で悠仁くんは兄に間違えられたんだろうと現実逃避気味に思考を飛ばしてみて。初めて気がつく。

 

 そういえば悠仁くんの容姿は昔からずっと変わっていない。小さい頃は全く気にしていなかったが、今になるとなんとなく分かってくるものがある。

 

 ずっと、20代前半くらいの若々しい姿のまま。今お兄ちゃんと並んだら同い年くらいに見えるのかな、なんて考えて。確かにそれなら私と兄弟というのも間違えないことは無いのか、と勝手に納得した。

 

 悠仁くんが変なのは今に始まったことではない。今までに違和感を感じたことなど何度もある。

 

 私は悠仁くんの年齢を知らない。いつ聞いてもはぐらかされてしまうから。誕生日を知らない。いつも自分も知らないなんて変なことを言うから。昔の、私と出会う前の悠仁くんを知らない。話して、くれないから。

 

「…うん、でも目元とかそっくりだよ?」

 

「ほんとっ!?」

 

 初めて言われたなぁそんなこと、と自分の目元に手をやってみる。触っても分からないな、悠仁くんの目元はどんなだったかな、と首を捻っていると、前から吹き出すような音が聞こえてきた。

 

 見ると、綾紬さんがお腹を抱えるようにして震えながら笑っていた。そんなに面白い顔してたかな、ともう一度自分の顔を触ってみても何も分かるはずもなく。もう一度首を傾げて見ると、そんな私を見た綾紬さんの笑いが更に悪化する。

 

「ごめっ、ちょっ、待ってもらって、いい…?」

 

「い、良いけど…」

 

 お腹痛い、と身体を震わせる彼女が落ち着くまであたふたしながら数十秒。ようやく落ち着いた彼女がもう一度ごめん、と謝って、目元に浮かんだ涙を拭った。

 

「酒寄さんって、なんだか思ってたよりもずっと面白いねぇ」

 

「え、きゅ、急になに…?」

 

 ねぇ、彩葉って呼んでも良い?と綾紬さんが笑う。下に降りていた私の片手を両手で握って、私のことは芦花って呼んで、と一歩近づいた。

 

「うん、じゃあ。…芦花」

 

「うん、彩葉っ」

 

 近づいていたところから一歩離れて、ぱっと満面の笑みを浮かべる。そうするとまた、綺麗な娘だな、という感想が頭を占めた。

 

「あ、お兄さん!ごめんなさい時間取ってしまって」

 

「いや、…もう良いのか?」

 

 手を振られたことに気がついた悠仁くんがまた此方に近づいてくる。そのまた向こうでは先程まで少し眉間に皺がよっていたお母さんがすっかり機嫌の治ったような顔をして学校の写真を取っている。お父さんに見せるのだろうか。

 

「はい、仲良くなれました」

 

「そうか、ありがとうなぁ。彩葉の友達ならうちの店の商品は安くしとくよ」

 

 ホントですか?と手を合わせて笑う。3年前の入学式の日、私は桜の舞う中に立つ悠仁くんの姿を、一枚の絵画みたいだななんて思ったのだ。舞い散る淡い桜色のなかに光る白が、どうにも眩しくて。

 

 今、2人が並んで見るとどうだ。身長の高い悠仁くんと私が並んでも頭二つ分近い差ができてしまうけど、モデルさんみたいにスタイルの良い芦花とならそこまでの差は無くて。

 

 桜の木の間から差し込む光に照らされて笑う2人の姿はどうにもその場だけ違う世界のように見えて。

 

「悠仁くん。これからお昼ご飯、行くでしょ?」

 

 一歩踏み出して、腕をぐい、と引っ張った。お母さんが待ってる、と指を指して。

 

 お、そうか。などと言って、芦花に挨拶してから悠仁くんが一歩離れた事を確認してから息を一つついて。ごめんね、と芦花に向き直った。

 

「また明日ね」

 

「うん、…またお話聞かせてね?」

 

 にこりと笑う。片手を振って家族らしき人たちの方に向かった彼女の後ろ姿に此方も手を振って。少し先で待ってくれていた悠仁くんと合流した。

 

「…悠仁くん、髪の毛の色変えたりせんの?」

 

「なんだ、急に」

 

 行こうか、と笑った背中にそんな質問を投げかける。綺麗な白髪は昔から好きだけど、なんだか今は少し違う色に変えてみても良いのではないか、と思ってしまう。

 

「私とおんなじ色は?似合うと思うんやけど」

 

 顔の横に垂らしている自分の髪の毛を一房手にとって持ち上げて見せる。ほんの少し見つけづらくなるかもしれないけど仕方がない、と思いながら見比べていると、悠仁くんは少し困ったように笑った。

 

「それは、出来ないなぁ」

 

 ごめんな、と謝る悠仁くんの視線に、いつかの京都から離れると決めたときのものと同じ温度を感じた。笑ってるのに、何処か泣いているようで。

 

「ごめんな、悠仁くん。もう言わんから」

 

 私、その髪の色が一番好きや。と、そう言って、離れないようにその手を掴む。そうなのか?と首を傾げる悠仁くんの様子はもう既にいつもと変わらなくて、

 

 何であんな目をするんだろう。なんで、あんな消えてしまいそうな笑い方をするんだろう。

 

 悠仁くんの満面の笑みを、私は見たことがあっただろうか。どうしたら心の底から楽しそうに笑ってくれるだろうか。

 

 なぁ、悠仁くん、と。一歩踏み込む事はまだできなかった。もっと小さな頃の私だったら何の躊躇もなく踏み出すことが出来たのだろうか。

 

 まだ、自分の大切な人がずっと自分のそばにいてくれると無邪気に信じていることが出来た私なら。

 

「悠仁くん、何が食べたい?」

 

 まだ、今の私には。

 

 

✿

 

「バイト先も決めないとあかんのやで」

 

「せめて食べ終わってから言うてぇな。お母さん」

 

 学費は出してくれるけど、それ以外の生活費は自分で稼いでみせろ、というのがお母さんの出してきた条件だった。

 

 最初は学費も自分で、という話だったが、それは流石に、とお父さんが止めに入った事でそれは無しになった。それでも一ヶ月の生活費を学生に稼げ、というのはとお父さんは渋っていたが。

 

「目星はつけとるんやろうね」

 

「それは、まぁ…」

 

 そもそも高校生でも大丈夫というアルバイト先はそう多くなく。その中で比較的行き帰りに時間がかからず、それでいてシフトを沢山入れて稼げるバイト先となると更に絞られる。

 

 この時点で既に片手の指に収まるくらいの数にはなってしまっていた。

 

「休みの日に面接受けにいくんやから。ちょっと待ってな」

 

 生活費を稼ぐとなるとそれなりの時間をそちらに割かなければならない。八月にいける時間もそこまでとれないかな、とため息をつくと、その会話を聞いていた悠仁くんが不思議そうに首を傾げた。

 

「うちで働けばいいだろう?」

 

「いや、あんた。それは…」

 

「良いのっ!?」

 

 反応は両極に分かれたと言っても良い。お母さんは少し渋い顔をして、私は多分表情を輝かせていた。

 

「近くて、沢山入れて、何より安全だ。十分だろう」

 

「いや、まぁ、確かにそうやけど」

 

 ホントにええん?と首を傾げる母。最初の反応からてっきり反対されるものだと思っていた私からすると以外な仕草だ。

 

 良いのかな、いいのかなと余計な口を挟まずにソワソワしながら視線を2人の間で往復させていると、ため息を付いた母がなら、お願いするわと頭を下げた。

 

「彩葉はそれでええん?」

 

「うんっ、良いっ!」

 

 じゃあ面接からしないとな、と冗談めかして笑う悠仁くんを見て私も笑って。

 

 途端に変わった未来の展望に思いを馳せた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鴉と行く八千年(作者:かしわくん)(原作:超かぐや姫!)

▼今は最近、令和でバチバチ高校生やっていた青年が八千年前に飛ばされて銀魂の吉田松陽に成り変わり、ウミウシとよろしくやっていく話です。ハッピーエンドにはなります……たぶん▼百合に挟まる罪人を許せる方はご覧ください


総合評価:1061/評価:8.21/連載:10話/更新日時:2026年10月25日(日) 10:30 小説情報

超かぐや姫!輪廻なんて壊しちゃえ(作者:鶏ぴっぴ)(原作:超かぐや姫!)

8000年前。▼まだ「英雄」という言葉すら存在しなかった時代。▼一人の少年が、月から来た少女――かぐやと出会った。▼共に過ごし、笑い、時には喧嘩をして。▼彼には死と老化の概念がなかった。▼やがて少年は、かぐやにとってかけがえのない存在になっていく。▼しかし、二人の日々は永遠には続かなかった。▼ある日を境に少年は消えたーー▼名を残すこともなく。▼誰にも知られる…


総合評価:357/評価:9/連載:10話/更新日時:2026年10月27日(火) 07:00 小説情報

二番目ならまぁ耐えっしょ(作者:ラトソル)(原作:超かぐや姫!)

「二番目に仲良いと思ってくれたらまあいいだろ」と思いながら特大のキズを遺して消える、色々あって数百年生きてる系男子の話。▼※本作は『超かぐや姫!』と『呪術廻戦』のクロスオーバー作品です。呪術側のキャラは本編に関わってくるのはまあ一人ぐらいかなと思いますが、出ない可能性もあります。▼※百合の間に男をぶち込む大罪な作品です。百合こそ至高なんだよ!!という方は今す…


総合評価:1278/評価:7.39/連載:3話/更新日時:2026年10月21日(水) 22:35 小説情報

百合を背後から見守る──そんな存在に、俺はなりたい(叶わぬ願い)(作者:百合の間に男を挟めたい男)(原作:超かぐや姫!)

タイトル通りです(重大なネタバレ)▼百合を見守りたい男が、気づけば百合の間に挟まる話。


総合評価:2741/評価:8.09/連載:4話/更新日時:2026年10月22日(木) 22:00 小説情報

この幸福には名前がない(作者:上条@そぉい!)(原作:超かぐや姫!)

復活上映で初めて超かぐや姫を見ました。そしたらインスピレーションが溢れてきたので自分がスッキリするとこまで書きます。


総合評価:1278/評価:8.88/短編:10話/更新日時:2026年10月08日(木) 11:40 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>