イタチは必死に意識をつなぎ止めていた。作り出した水はとうに蒸気へ変わり、増え続ける二酸化炭素のせいで、息をするたび前より苦しくなる。耐え難い熱から目を守るため、瞼を閉じた。全身に浮かぶ汗は何の役にも立たず、息を吸うたび熱気が喉を焼いた。もう時間がない。
せめて、腕の中の少女は何も感じずに済んでいる。その呼吸は体越しにも伝わり、刻一刻と速くなっていた。幻術で眠らせたのは正しい判断だった。苦しむ代わりに、楽しい夢を見ている。もし二人とも死ぬとしても、幻術が解けないほどゆっくりか、たとえ解けても苦しむ暇がないほど一瞬のはずだ。そう確信していた。
イタチはよろめいた。呼吸が勝手に速まり、意識が遠のき始める。二人とも窒息しかけていた。考え得る状況も、脱出する方法も、頭の中ですべて検討した。何もない。どの策も同じ行き止まりへたどり着く。シスイの術がなければ、このゴムは破れない。自分の技はここでは何の役にも立たなかった。打つ手は尽きた。ただ待つことしかできない。
だが、チャクラの制御を失いかけたイタチが膝をついたそのとき、緑のチャクラをまとった折れた刃が右側の泡の壁を貫き、ゴムを切り裂いた。裂け目から手が突き出され、イタチの腕をつかむと、二人まとめて外へ放り出すように引き抜いた。
森の地面へ落ちた途端、激しい咳が襲った。片腕で少女を抱えたまま身を折り、呼吸を整えようとする。もう片方の手の指を土に食い込ませ、どうにか体を支えた。周囲では森が燃えている。立とうとしたが、脚が体重に耐えきれず震え、また地面へ崩れ落ちた。もう一度立ち上がろうとする。
肩にそっと手が置かれた。
シスイ。
「終わったぞ、イタチ。もう休んでいい」
何が終わったのかは分からなかった。それでも、シスイの言葉に安堵した。イタチはその場へ腰を下ろし、木々の隙間に浮かぶ銀色の月を見上げてから、目を閉じた。頬へ一滴、水が落ちた。もう一滴。さらにもう一滴。
雨か?
空に雲があった覚えはない。重い瞼をどうにか持ち上げ、周囲を見渡す。十二人の暗部が木々の間に散開していた。水流が空へ噴き上がり、森へ降り注いで、戦いの傷跡を少しずつ洗い流している。
イタチは腕の中でツユの体を返し、その身にも水が当たるようにした。ゆっくり息を吐き、雨へ身を預ける。ひりつく肌を冷たい雫が伝った。
少しして、右へ顔を向け、友の姿を目にした瞬間、体が強張った。シスイも上着を失っていた。だがイタチと違い、その胸は生々しく、水ぶくれの浮いた火傷に覆われている。煙が晴れると同時に、焼けた肉の臭いが鼻を刺した。
「そんな顔で見るなって。死にはしないさ」
シスイは疲れた笑みを浮かべた。
「それに、お前だって相当ひどいぞ」
仮面をつけた暗部が二人のそばへ降り立った。細いアーモンド形の目穴と赤い紋様の狐面。その上には灰色の尖った髪が伸び、左目には一つの写輪眼が輝いている。
はたけカカシ。
カカシが敵を威圧して退かせただけで命拾いしたのは、これで二度目だった。カカシは傍らへしゃがみ込み、少女の額に手を当てた。しばらくして手を離すと、安堵の息を小さく漏らした。
「何があった?」
イタチとシスイは顔を見合わせ、シスイが報告を始めた。
近くでは、二人の暗部が茂みの残骸から最初の敵を引きずり出していた。イタチが動きを封じたあと火が回り、体の大部分がひどく焼けている。ここからでは、まだ生きているのか分からなかった。あの女が死んでいることを願った。これから連れて行かれる先を知っているだけに、哀れまずにはいられなかった。
背後では、別の二人がしぼんだゴムの泡から男を引きずり出している。今度は、死んでいることは確かだった。残る二人は逃げおおせたらしい。
軽い足音が近づき、イタチは顔を上げた。梟の面をつけた女がそばで足を止める。先ほど茂みから敵を引き出していた暗部だった。
「診てもよろしいですか?」
シスイは上の空でうなずき、そのまま報告を続けた。
女は緑に光る両手を、焼けただれた胸の上へかざした。シスイの体が一度強張り、傷んだ皮膚が塞がり始めるにつれて、ゆっくり力を抜いていく。シスイに比べれば、イタチの傷は軽いものだった。浅い火傷と、いくつかの擦り傷や打撲だけ。すぐに手当てが必要なものはない。
最後の炎が消えると、六人の暗部がカカシの周囲へ集まった。カカシは全員に見えるよう片手を上げ、鋭く二つの合図を送る。
追跡。交戦するな。
六人の忍は即座に姿を消した。
「ここでできるのは応急処置だけです」
梟面の女が言う間に、手を包む緑の光が薄れていった。
「傷を残したくなければ、病院へ行ってください」
それから女は、猿の面をつけた暗部とともに倒れた敵を担ぎ、森へ消えた。里へ戻るに違いない。
ツユはまだ腕の中で眠っていた。イタチの上着の高い襟が、目のすぐ下まで届いている。そろそろ起こしたほうがいい。今日の出来事など何一つなかったかのように、穏やかな顔をしていた。現実へ連れ戻さなければならないのが、少し気の毒に思えた。イタチは額へ手を置き、チャクラの流れを乱した。
「解」
何も起きない。
「ツユ」
肩を揺する。
反応はない。
「ツユ」
今度はシスイの報告を遮るほど大きな声でもう一度呼ぶ。
「ツユ!」
「あと五分……」
カカシが歩み寄り、ツユの頭をはたいた。
ツユは飛び起き、わけが分からない様子で辺りを見回した。そのとき、風が木々の間を吹き抜ける。
くしゃみをした。
「な、何があったの?」
イタチの上着から抜け出そうともがきながら尋ねる。
「ツユを病院まで連れていってくれるか?」
イタチが上着を脱がせるのを手伝う横で、カカシが言った。
無視されたことが不満らしく、少女の頬がぷくりと膨らむ。だが、その目には疲労が隠しきれていない。あくびをしようとしたものの、またくしゃみに遮られた。
「はい」
ツユがイタチの胸へ頬をすり寄せる中、シスイが答えた。
「ですが、里では何が?」
「陽動だ」
シスイの顎に力が入った。それでも、ただうなずく。それ以上言葉を交わさず、残る暗部も姿を消した。
「どこへ行ったの? あの人たち誰? なんでお面してるの? それに、どうして僕の名前を知ってるの?」
今にも再び現れるのではないかというように、ツユは左右を見回した。
イタチは微笑んだ。暗部が去った途端、こんなにも早く強気を取り戻すのがおかしかった。
「ええと……」
シスイが口を開いた。
「名前を知ってるのは、あの人たちが暗部だからだ。正体を隠すために面をつけてる。それから、オレたちの……」
一度言葉を切る。
「客人たちがちゃんと帰れるよう、見送りに行ったんだ」
ツユは目をしばたたかせ、ゆっくりイタチを見上げた。その瞳は、驚くほど青かった。
「こいつはイタチ。オレの親友だ。お前を助けてくれたんだから、ありがとうって言わないとな」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
「ああ、忘れるところだった」
シスイが首を傾け、笑った。
「誕生日おめでとう」
ツユの目に涙があふれた。突然、息もできないほど激しく泣き出し、イタチが止める間もなくシスイへ飛びつく。シスイが痛みに悲鳴を上げた。あまりにもおかしな光景に、イタチは堪えきれず吹き出した。
笑いが収まるまで、思いのほか時間がかかった。ようやく落ち着いたと思えば、今度はツユをシスイから引き剥がすのに同じくらい手こずった。もっとも、里へ帰るためイタチの背に乗るよう説得するのは、少しも難しくなかった。
「ねえ、僕も今日、ちょっと忍者みたいだったよね?」
森を進みながら、ツユが尋ねた。
「最後には、あの変なクナイも見つけたんだよ!」
「そうなのか? 本当に?」
シスイは目を丸くした。
「うん! あれでワシを刺したんだ。そしたら、あいつが僕を落としたんだ」
「戦いがあったのも、その辺りだったんだろうな」
シスイは少し考える。
「どっちにしても、本当に勇敢だったぞ。そうしてくれなかったら、お前を取り戻すのはもっと大変だった。なあ?」
「ああ」
イタチもうなずいた。
「お前のおかげで、ずいぶん助かった」
ツユは満面の笑みを浮かべた。だが、その笑顔はすぐ消え、考え込むような表情になる。
「あのね、あいつを刺したとき、変な感じがしたんだ。体の中で火が燃えてるみたいだった」
イタチはシスイと不安げな視線を交わした。
「ネコも、僕には特別なチャクラがあるって……」
まずい。火影が定めた規則により、九尾について、ことにツユとのつながりについて話すことは禁じられている。
「なあ」
シスイの口元に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「そのネコって女の言うとおりかもしれないな。明日、忍者ごっこをするとき、お前の特別なチャクラに何ができるのか試してみよう」
「本当!?」
ツユがイタチの耳元で叫んだ。
「本当だ」
イタチが痛みをやり過ごすように瞬く横で、シスイが答えた。
「でも、イタチは忍者ごっこをしたことがないみたいなんだ。お前が教えてやらないとな」
「そんなの、かわいそう……」
まるで何かひどく大切なものを知らずにきたと、シスイから聞かされたかのように、ツユは大きな目でイタチを見つめた。
イタチはシスイへ咎めるような視線を送った。友が面白がっているのを隠そうとすらしないのを見て、さらに目を細めた。かえって友を調子づかせたらしい。
「修業で忙しかったんだ」
イタチはとうとう諦め、ため息交じりに言った。
「修業?」
「ああ」
ようやく笑いを止めたシスイが答える。
「立派な忍になるには、一生懸命修業しないとな」
ツユはしばらく考えた。
「僕も、立派な忍になりたいな」
イタチの背中にしがみついたまま言った。
「じゃあ、代わりに修業をしたほうが――」
シスイは言葉を止め、その笑みを柔らげた。
もう眠っていた。
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ランプの明かりが灯る薄暗い部屋で、ヒルゼンは煙管から深く煙を吸い込んだ。報告を終えたうちはの少年二人はつい先ほど退出し、外では、激動の一日を経て里がようやく静けさを取り戻していた。
こんなことをするには、もう年を取りすぎた。
椅子に深くもたれ、疲れたため息とともに煙を大きく吐き出した。
部屋の隅から、顔の半分を白い包帯で覆ったダンゾウが睨んでいる。昔から、この古い仲間はヒルゼンの煙草を嫌っていた。だが人生で一つくらいは、悪癖を許されてもいいはずだとヒルゼンは思っている。ダンゾウの考えは違う。
「さあ、言ってみろ」
煙管を脇へ傾け、促した。
「これは戦争行為だ」
ダンゾウの声は冷たい。だが、その奥に潜む怒りをヒルゼンは聞き取っていた。
「どう対処するつもりだ?」
ヒルゼンは、またため息をつきたい衝動を抑えた。そんな仕草をダンゾウが快く思うはずもない。二年前、雲隠れが日向の跡取りをさらおうとしたときにも、ほとんど同じ話をした。あのときは、事件が戦争の火種とならぬよう解決することができた。ダンゾウは、その解決に納得していなかった。
「すべてを考慮すれば、被害はごくわずかじゃった――」
「つまり何もせぬのだな」
「そうは言っておらん」
「だが、そうするつもりだ」
長い間、二人とも口を開かなかった。沈黙を破るのは、壁に掛けられた新しい時計が時を刻む音だけだった。ヒルゼンはその時計が気に入っていない。だが古い時計は壊れ、取り替えるほかなかった。
その下では、歴代火影の肖像が二人を見下ろしていた。ヒルゼンの視線が四代目で止まる。ミナトが火影であったのは二年にも満たない。それでも、その死が残した傷は、ようやくかさぶたになり始めたばかりだ。若々しい顔には、かすかな笑みが浮かんでいる。
ダンゾウは立ち上がり、杖で鋭く床を打ちながら机へ歩き始めた。
コツ。
「最初は、重要な一族の者をさらおうとした」
コツ。
「次は人柱力を狙った」
コツ。
「今度は何を企むのだろうな?」
近づくダンゾウをヒルゼンは見つめた。その言い分にも一理あることは否定できなかった。抑止せねば、敵はさらに大胆になるだけだ。
「ワシにどうしろと言う?」
ダンゾウのただ一つ見える目を、まっすぐ見返した。
「新たな戦争を招く危険は冒せん。それはお前も分かっておるじゃろう」
「お前が備えを拒み続けるかぎり、戦争が来たとき、我らに迎え撃つ用意はない」
そう言いながら、ダンゾウはヒルゼンとミナトの肖像の間に立った。
「娘をワシに渡せ」
ヒルゼンは目を閉じた。これも以前に交わした会話だった。数え切れぬほど、何度も。
「いまだかつてない兵器へ育て上げてみせる」
この子を、お願いします……。
クシナ。長い赤髪。血に染まった唇。その最期の言葉は、あの日から一日として絶えることなく頭の中に響いていた。暗闇の中では、まるで目の前に立っているかのように、その姿が見え、声が聞こえる。ヒルゼンが目を開くと、クシナは消えた。
「ならん。ほかにすることを見つけろ」
若いころの二人なら、ダンゾウは殴りかかってきたに違いない。
「お前はすでに失敗している。里の者は娘を同胞として受け入れておらぬ」
「何者かがあの子の正体を漏らさなければ、里に受け入れられる機会もあったかもしれん」
「噂が広まるのは、ワシにもお前にも止められぬ。それに、その噂が望ましくない結果ばかりを生んだとは言わせん。敵は、九尾が今なお木ノ葉の手にあると知っている」
「ワシらも年を取った。近頃は二人とも、務めを果たすのに苦労しておるようじゃな」
ダンゾウの口が細い線になるのを見ながら、ヒルゼンは続けた。
「ツユを狙った今回の企てには、何か月もの計画と準備が必要じゃったはず。まして里の中に築かねばならなかった活動基盤を考えればな」
背後では、時計がなお時を刻み続けていた。
「言うまでもない。一人残らずあぶり出す」
ダンゾウは目を閉じた。顔からわずかに緊張が抜ける。だが再び開いたとき、眼差しは一段と鋭くなっていた。
「娘の時間を無駄にし続けると言い張るなら、それもよかろう。だが、うちはイタチの力量が十二分に証明されたことまでは否定できまい。暗部へ入れろ」
ヒルゼンは煙管を深く吸った。うちはイタチ、十歳。幼い。あまりにも幼い。ヒルゼン一人で決められたなら、今もアカデミーに通わせていただろう。だが以前と同じく、今回もダンゾウの言い分は正しかった。里にはもっと忍が必要であり、あの少年はすでに力量を証明している。
「戦功による特進か?」
「まさか。あの少年はまだ下忍だ。中忍試験を受けさせろ。天才の火がいまだ木ノ葉に残っていると、世に示させるのだ。そのあとで暗部へ入れればよい」
ヒルゼンは椅子へ深くもたれ、もう一度煙を吐いた。
「よかろう。フガクへ知らせる」
ダンゾウは小さくうなずき、杖を握る手に力を込めて出口へ向き直った。
「今回の企てを知らせたのは、フガクじゃったと聞いたが……」
ダンゾウは足を止め、振り返った。片目には、むき出しの敵意が宿っていた。
「雲隠れに九尾を奪われれば、うちはも我らと同じく失うのだ」
そう言って、再び扉へ向き直る。
「何の証明にもならぬ」
こんにちは! 作者の森ノアです。
小さいころから、『NARUTO』の世界とキャラクターたちに夢中でした。十年近く作品から離れていたのですが、あのキャラクターたちがたまらなく恋しくなり、その寂しさを少しでも埋めたくて、この物語を書き始めました。執筆は本当に素晴らしい経験で、彼らを生み出してくださった岸本先生には、これからもずっと感謝し続けると思います。
うちはイタチは、初登場から間もないころに好きになって以来、ずっと一番好きなキャラクターです。矛盾に満ちた人物であるところに、とても惹かれます。優しさと非情さ、真実と嘘、強さと無力さ。その間の危うい境界を歩いているような人です。そんな彼を揺さぶり、原作では決して直面しなかったような状況に置く主人公を作りたいと思いました。
この物語では、岸本先生のキャラクターたちをできる限り原作に忠実に描くよう努めています。もちろん、うまく描けていないところもあるかもしれませんので、気になる点があれば教えていただけるとうれしいです。
オリジナルキャラクターたちにも、書いているうちに愛着が湧いてきました。中でもジロウは特にお気に入りです。あのおかしな口調や、ほかの子供たちに偉そうに振る舞う姿には、いつも笑ってしまいます。
この物語は長くなる予定なので、シリーズものの小説のように、いくつかの部に分けています。現在の第1部は全25〜26章ほどになる予定で、すでにほぼ書き終えています。あと少しで完成というところで、なんと日本旅行のために作業が中断してしまいました!
これからは第1部が完結するまで毎週1話ずつ公開し、その後は少しお休みをいただく予定です。
ちなみに、私は日本人ではなく、日本語もまだ勉強中です。それでも日本の『NARUTO』ファンの皆さんにもこの物語を届けたくて、英語で書いた原文をAIの力を借りて日本語に翻訳しています。登場人物の口調や性格をまとめた資料を用意し、英語への訳し戻しも行いながら、何度も調整しています。
それでも、間違いは残っていると思います。特にイタチをはじめとする原作キャラクターの言葉遣いに違和感がありましたら、ぜひ教えていただけるとうれしいです。できる限り修正していきたいと思っています。
また、ネタバレにならない範囲でしたら、コメントやメッセージでのご質問にはいつでも喜んでお答えします! 何語で書いていただいても構いません。必要に応じて翻訳しながらお返事しますので、どうぞお気軽に話しかけてください。
なお、英語版(原文)はこちらからお読みいただけます。
https://archiveofourown.org/works/95273771/chapters/254452546
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。物語を楽しんでいただけていたらうれしいです。それでは、また来週!