本幕間の銀騎士に関わる会話・戦闘は、本作独自の二次IFです。
* 黒騎士
銀騎士が目を覚ます、少し前のことだ。
黒騎士は、本部の一室で余計なものを見せられていた。
「お前ら、変身するたびに並ぶ必要あんのか」
「そこから!? さっきの話、まだ続けるの?」
「好きであの台詞まで言うてると思わんといて。省いたらマスクで警報鳴るんやで」
「何だその嫌がらせ」
「そう言ってるの、私たちも!」
「並ぶのとは別の話。あの口上を省かせない仕様なの。苦情は社長へ」
「まともな機能つけろよ」
「戦闘はまともだから、そっちも見よう。はい、資料」
ブルーが端末を机に置いた。
資料と呼ぶには、再生ボタンが大きすぎる。
街頭で撮られた過去の戦闘をつないだ、ファンの動画らしい。
画面では三人が敵を押し返し、その横へ銀の剣が走っていた。ところが、三人の攻撃が決まる寸前に映像が切り替わる。
次は、銀騎士が倒れかけた支柱を受け止める場面だった。
「待って。私たちも助けてるよね?」
「今、こっちのええとこ切れたで」
「編集に偏りがある。資料選定を間違えた」
「お前が出したんだろ」
言い終わる前に、画面が黒と銀へ変わった。
怪人へ拳を振り抜く黒騎士。その脇から、敵の腕を斬り払う銀騎士。
大きな文字が重なる。
「止めろ」
映像が止まった。
文字は消えなかった。
「そこで止めんな」
「難しい注文」
「何がそんなに嫌なん? かっこええやん」
「俺を勝手にそっちへ入れんな」
「でも、銀騎士とは並んで戦ってるでしょ。私たちとも。もう仲間みたいなものじゃない?」
「立つのと所属すんのは別だ」
「じゃあ、並ぶところまではいいんだね」
「勝手に話を進めんな」
レッドは少しも困らず、隣の空いた椅子を引き寄せた。
ブルーが動画の説明を少しだけ下へ送った。
銀騎士の紹介には、当然のように『四人目の戦士』と書かれている。
「ネットの人事部、働きすぎ」
「一人目から数え直せ」
「私たちまで取り消さないで」
レッドが机へ身を乗り出したので、黒騎士は端末を指した。
「……少し戻せ」
「正義の最強コンビ?」
「文字じゃねえ。その前だ」
巻き戻った銀の剣が、怪人の腕を外へ流す。
空いた場所へ、黒い拳が入った。
「俺がどいつを殴るかくらい、あいつは分かる」
黒騎士は画面から目を離さなかった。
「邪魔な腕が、先に落ちてる。いちいち振り返らなくてもな」
「そういうところ、あるよね」
「戦いやすいって言えばええのに」
「今そう言っただろ」
「字幕をつける人がいたら、また長くなりそう」
「つけんな」
ブルーは笑いながら、端末を伏せた。
レッドが、まだ何か思い出した顔をしている。
「でも、振り返らなくても分かる二人が、向かい合った時もあったよね」
「……あれか」
「銀騎士に止められたやつ」
黒騎士は顔をしかめた。
あの場面まで動画にされていなくてよかった、と考えてしまった時点で、既に少し負けている。
* 黒騎士の回想
あの日、怪人は倒れていた。
路地から出てきた三人を見て、黒騎士は拳を握り直した。
言葉がぶつかり、レッドが一歩、前へ出る。黒騎士も足を動かした。
その間に、銀色が入った。
「待った」
銀騎士だった。
剣先を地面へ向け、空いている手をこちらへ見せている。
攻撃する構えではない。その気なら押し退けられる距離に、わざわざ自分から立った。
「どけ」
「どいたら、殴るだろ」
「お前には関係ねえ」
「関係あるよ。どっちも、一緒に戦った相手だ」
銀騎士の肩越しに、赤い装甲が見えた。
レッドも、すぐに飛び出そうとはしなかった。
街の向こうから、救急車の音が近づいてくる。
「黒騎士。そっちの人たちを助けたの、見てた」
銀の仮面が、今度は三人へ向いた。
「三人が、避難の最後まで残ってたのも知ってる」
それから、もう一度こちらを見る。
「今、その拳を向けなきゃいけない相手か?」
「説教かよ」
「止めてる」
返事は短かった。
銀騎士は、剣を持った手をさらに下げた。
「二年近く隣で戦ってきたんだ。あんたを止める時くらい、俺が前に立つ」
拳ひとつ分も、下がらない。
受け止められるつもりなのかと思い、違うと気づいて、余計に腹が立った。
こいつは、殴られないと思っている。
黒騎士が止まると信じて、この距離にいる。
「……勝手にしろ」
黒騎士は腕を下ろした。
銀の肩が、目に見えて少し落ちる。
「私も、ここで戦いたくない」
レッドがそう言って、足を戻した。
銀騎士は両側を確かめてから、ようやく間を空ける。
「よかった。じゃあ、向こうの瓦礫、手を貸してくれ。まだ道が塞がってる」
「お前な……」
「俺一人だと時間かかる」
悪びれない声だった。
黒騎士は銀騎士を追い越し、瓦礫の山へ向かった。
後ろから三人の足音もついてくる。
その日の拳は、最後まで人へ向けずに済んだ。
* 黒騎士
「俺が止まると思って、前に立ちやがった」
黒騎士は腕を組んだ。
「信用しすぎなんだよ。あの馬鹿」
「でも、止まったやん」
「うるせえ」
「そのあと、みんなで瓦礫を片づけたんだよね」
「戦闘から共同作業への切り替えが早かった」
「俺まで働かせやがって」
「自分から歩いてったの、覚えてるで」
記憶力のいい連中だった。
黒騎士が黙ると、レッドが笑いながら端末へ目を落とす。
「さっきの動画、こっちが助けたところも、ちゃんと入ってればいいのにね。銀騎士だって喜ぶと思う」
「自分が助かった時は、うるせえぞ」
「怪我してないか、って?」
「見りゃ分かるだろ。終わるたびに聞いてくる」
「見ただけじゃ分からないこともあるよ」
黒騎士は言い返しかけて、やめた。
その一瞬を、ブルーは追いかけなかった。
「銀騎士が来ると、よし、ここからだってなるんだよね。助けてもらって終わりじゃ、つまらないし」
「こっちが狙ってるところは取らないからね。……それ以外を、勝手に増やすけど」
「港で黒騎士が戦ってた日も、そうやったね」
黒騎士は三人を見た。
その日の港なら覚えている。岸壁を走り回り、別の怪人を殴り倒していた。
別の通りで三人が何をしていたのかは、知らなかった。
「あれ、話したことなかったっけ」
「今、聞いてる」
「うん。じゃあ、編集で切られてない方の話ね」
* レッドの回想
三人が守っていたのは、避難所へ続く通りだった。
レッドは正面を押さえ、イエローは逃げる人を横道へ導く。ブルーは敵の動きを追い、攻撃が人の列へ向かうたびに牽制を入れた。
それでも、退けなかった。
背後には、まだ走れない人がいた。
怪人の腕から伸びた鞭が、街灯へ巻きつく。
金属が軋んだ。
「倒して、道を塞ぐつもり!」
ブルーの声に、レッドが踏み込む。
その進路へ、もう一本の鞭が走った。
受ければ次が来る。避ければ、街灯が避難の列へ倒れる。
レッドは武器を上げた。
鞭が、途中で切れた。
張っていた力を失い、黒い先端が路面へ跳ねる。
その向こうで、銀白色の装甲が止まった。
外縁を覆う銅赤の補助装甲。近接戦に備えたエッジの姿で、長剣を握っている。
「そのまま行ける、レッド!」
レッドは足を止めなかった。
空いた道を踏み抜き、自分の一撃を怪人へ叩き込む。
敵が後退した分だけ、三人の前に余白ができた。
「銀騎士!」
「遅くなった。港の方は黒騎士が押さえてる」
銀騎士は剣を返し、まだ街灯へ絡んでいた鞭の先端を断った。
イエローが人の列を通し終えるまで、敵との間を保つ。
「俺もいる。ここからは、四人で押し返す」
「待っとったで! 後ろ、もう空いた!」
「右腕、戻す時だけ遅い。そこを作れる」
「頼む」
銀騎士は、すぐに走った。
ブルーの牽制で鞭が外へ振れる。イエローが斧を横から叩きつけ、逃げようとした怪人を正面へ押し戻した。
「そっちは通さんで!」
「よし、こっち!」
レッドが正面へ踏み込み、上がった腕を弾く。
銀騎士は、その横を抜けた。
鞭の根元へ剣を滑らせ、まず一本を落とす。返ってきたもう一方は刃で外へ流し、足を払って敵の姿勢を崩した。
人のいない側へ、怪人の身体が傾いた。
赤い影が離れる。青と黄も、剣の通る場所を空けた。
銀騎士の右手が、左手首へ伸びる。
中央のボタンを、長く押し込んだ。
銅赤の補助装甲から、刃の縁へ光が集まる。低い充填音が、路面を伝った。
エッジブレードを握り直した銀騎士が、足裏を路面へ据えた。
刃が、怪人の胴を斜めに抜けた。
一拍、怪人の動きが止まった。
銀騎士の両足も止まる。振り抜いた肩の反動を沈めてから、ようやく剣先が下がった。
背後には誰もいない。敵が崩れる音の向こうで、避難を終えた人たちの声が聞こえた。
銀騎士は剣を下げ、まずその声の方を見た。
次に、三人を一人ずつ確かめる。
「三人がいてくれてよかった」
「それ、こっちの台詞だよ」
「じゃあ、お互い、いてよかった」
「うん! 今の、きれいにつながったよね!」
レッドはまだ弾んだ声のまま、剣を持たない手を上げた。イエローがその手へ自分の手を合わせる。
銀騎士も笑って、二人の向こうの避難路へ目を戻した。
* 黒騎士
「ほら、あの話だと分かるでしょ。銀騎士が全部やって、私たちが後ろで拍手してるわけじゃないの」
「誰もそこまで言ってねえ」
「動画が言いかけとったやん」
「反証を提出します」
ブルーが端末を起こした。
また動画だった。
「資料を間違えたんじゃなかったのか」
「こちらは本人の発言を集めた方。文字が大きい」
「信用できる理由になってねえぞ」
画面の端には、少し前の戦闘を撮影した日付がある。
公開済みの映像だけで作ったまとめらしい。そこに映る銀騎士も三人も、まだ今回の傷を負っていなかった。
横断歩道の手前で、銀騎士が通行人を止めていた。
敵は倒れている。だが、戦いで曲がった信号機が車道へ傾いていた。
銀騎士が根元を押さえ、レッドが通れる道を示す。その先ではイエローとブルーが人を誘導していた。
「あ、これ。ちゃんと最後まで入ってる」
「敵が倒れるところより長えな」
「そこも見てくれるなら、嬉しいよ」
レッドは少しだけ画面に顔を近づけた。
「勝ったー、って喜んでたら、銀騎士がまだ走ってたの。あれは悔しかったなぁ。次は私が先に気づくからね」
「お前らだって、普段からやってるだろ」
「見ててくれたんだ?」
「現場で見えるんだよ」
「うんうん。じゃあ、次も見てて」
画面の銀騎士がレッドへ頷く。
その一瞬を、動画はわざわざ大きくした。
「……そこは大きくしなくていいけど」
「先輩に褒められた後輩みたいやな」
「戦ってきた時間なら、先輩でしょ」
レッドは肩をすくめてから、画面の銀騎士を指した。
「でも、次も全部走らせるつもりはないよ。こっちにも頼ってもらわないと」
「人の許可なんか待つな」
「待ってないってば。君にも言ってるの」
指先が、画面から黒騎士へ向いた。
「この部屋、頼られたい人が多い」
「こっち見んな」
次の映像では、銀騎士が避難する人の前でしゃがんでいた。
カメラの持ち主もすぐそばにいるらしく、声が拾われている。
立ち上がれずにいた人の横へ、イエローが屈む。
手を差し出し、何か言って笑わせた。その間、銀騎士は背中を向け、まだ敵のいる方を見ていた。
「これ、後ろでめっちゃ暴れてたんよ、怪人」
「見えてる」
「逃げな、って急かしたくなるやん。でも足が動かへん人に大きい声出したら、余計に固まるし」
イエローは再生中の自分を指した。
「ここで銀騎士が、こっちは任せろって言うてくれたから。私、あの人の顔を見て話せた」
「何を話したの?」
「帰ったら何食べたいですか、って。そしたら焼肉って」
「元気じゃねえか」
「食べたいやん、生きて帰って。私もお腹すいてたし」
映像のイエローが、相手と一緒に立ち上がる。
その背中を一度見て、銀騎士が短く手を上げた。
「私かて怖かったで。すぐ後ろで地面えぐれてるのに、あの人、声が変わらへんの。あれは、ずるいわ」
「ずるい判定なんだ」
「こっちも平気な顔するしかないやん」
「顔は仮面で見えないけどね」
「そういう話してないから!」
イエローはむっとしてブルーを見た。ブルーが笑うと、今度は黒騎士まで何か言いかけたので、先に指を突きつける。
「言うとくけど、ちゃんと立たせて連れ出したで。次は私が前でもええんや。後ろで焼肉の話しといてもらって」
「基準が肉かよ」
「大事やで。帰って食べるまでや」
ブルーが、次へ送った。
銀騎士がこちらへ手を伸ばす場面で、映像が一時停止する。
「私、この直前に一回、外してる」
意外な説明だった。
画面の奥では、怪人が倒れた車の陰へ回り込んでいる。
「相手を止めるつもりが、射線を変えられた。銀騎士が横から入ってくれて、その間に組み直せた」
「で、次は当てたんだろ」
「当てた。そこは見て」
再生された青い攻撃が、怪人の進路を塞ぐ。
銀騎士の刃がその腕を払い、イエローが車のそばから人を連れ出した。レッドが前へ出る。
銀騎士は追撃を三人へ任せ、逃げる人の足元へ倒れた破片をどけた。
「一発を当てれば終わりなら、もっと簡単なんだけど。人が帰る道まで考えると、私の頭と手だけじゃ足りない時がある」
「手、増やす?」
「一瞬、検討した」
「すんな」
ブルーが肩を揺らした。
「ほら、ここ。次は逃げる方へ先に撃ってる。一度見た動きで二回も外すわけにはいかないので」
ブルーは少し顎を上げ、映像を巻き戻した。青い光の先へ怪人が動きかけ、銀の刃に阻まれる。
「銀騎士が、もう一回やれるかって聞いてくれたから。できるって言ったら、ちゃんと任せてくれた」
「二回見せなくても分かる」
「大事なところだから」
端末の中では、怪人が地面へ崩れた。
画面のブルーが銀騎士へ何か言い、銀の仮面が頷く。
「……頼れる人がいるなら、使える手は借りた方がいいね。全部自分でやろうとして外したら、それこそ格好がつかない」
「だったら、さっきの動画選びから頼れ」
「じゃあ次、選んで。黒騎士」
「俺に振るな」
「今、頼れって言ったばっかりだよ」
三人が笑った。
黒騎士は、押しつけられた端末を机の真ん中へ戻す。
「……あいつのやり方、全部真似すんなよ」
「どの辺?」
「人の無茶には口出すくせに、自分は先に足が出るとこだ」
「そこ、もう一人にも言いたい」
「俺の話はしてねえ」
レッドが、笑いをこらえながら頷いた。
「うん。全部は真似しない。銀騎士が無茶しそうなら、今度は私たちが止める」
「止まるかよ」
「信用しすぎなんだよ、あの馬鹿」
「俺の真似もすんな」
机の真ん中へ戻された端末の横で、レッドの指が止まった。
「……まだ、起きてないんだよね」
医師から容体は落ち着いていると聞いた。今は休ませるように、とも。
銀騎士はまだ、何も知らない。
オメガとの戦いで倒れ、医療班へ引き渡されたあと、黒騎士が三人と戦って負けたことも。
捕まる時、黒騎士は言った。
『あいつを頼む』
『俺を庇って、ああなった。あいつまで、俺と一緒にすんな』
レッドがすぐに頷いたことは、覚えている。
そのあとに伝言まで押しつけた。
目ぇ覚ましたら、借りはまだ返してねえって伝えろ、と。
「起きたら、俺にも聞かせろ」
レッドが顔を上げた。
「何を?」
「いつもの、余計な心配だよ」
一度くらい、ちゃんと答えてやる。
そこまでは言わなかった。
「うん、伝える」
レッドが頷く。
黒騎士は椅子へ背を戻した。
「ただし、礼はあとだ。先に寝てろと言え。礼なんか言うと、もう一仕事できるって顔しやがる」
「ああ、それは、する」
「そこは全員一致。動画も残しておくね。起きて元気になったら、話の種に」
「余計なものまで伝えんな」
「正義の最強コンビ?」
「そこ今すぐ消せ」
「最強コンビだけならええの?」
黒騎士の返事が、一拍遅れた。
「……そういう話じゃねえ」
「今ちょっと考えた」
「考えてねえ」
ブルーが端末を引き寄せ、最初の動画へ戻した。
画面の黒騎士が怪人へ踏み込み、その横へ銀騎士が入る。
例の文字が出る、ほんの手前だ。
「おい、戻すな」
「文字の前がいいって言ったから」
黒騎士は端末へ手を伸ばした。
銀騎士が起きるまでに、この動画だけは何とかしなければならなかった。