僕のヒーローアカデミア:妖精の参謀 作:並行世界とかという概念最高
常識というものは、説明されて初めて自分が持っていた常識の形に気づく。
チセ・トオノは、警察署の会議室でそれを実感していた。
「では、改めて確認します。あなたのいたフィオーレ王国では、魔法を使える人間は珍しくないんですね?」
「珍しいかどうかで言えば、珍しくはないわね。ただ、誰でも一流の魔導士になれるわけじゃない。魔法にも向き不向きがあるし、学ぶ努力も必要よ」
向かいに座る塚内直正は、手元の資料に目を落とした。
「魔法を使えること自体は、こちらの世界でいう個性に近い?」
「そこは違う」
チセは即座に否定した。
「個性は基本的に、生まれ持った身体の機能でしょう? フィオーレの魔法は、知識と技術を学んで扱うもの。生まれつき魔力に恵まれている人もいるけど、それだけで魔法が使いこなせるわけじゃないわ」
「では、魔法を使えない人間もいる?」
「もちろん。魔導士じゃない人のほうが多いくらいじゃない?」
塚内のペンが止まった。
「……その社会では、魔導士と一般市民はどう共存しているんです?」
「普通に生活しているわよ。商店を営む人もいれば、農業をする人もいる。魔導士は依頼を受けて仕事をすることが多いけど、別に魔導士だけで国が成り立っているわけじゃない」
「依頼というのは?」
「護衛、魔物の討伐、捜索、荷物の運搬。あとは厄介事の解決とか」
「厄介事……」
「言葉どおりよ」
塚内は一度、隣に座る警察官と目を合わせた。
チセはその視線の動きを見逃さなかった。
「何かしら?」
「いえ。こちらの世界にも、危険な仕事を請け負う民間の専門家はいます。ただし、武力を伴う仕事には法律上の制限がある」
「ふうん。依頼人がお金を払えば、何でも引き受けられるわけじゃないのね」
「当然です」
「フィオーレでも何でも許されるわけじゃないわよ。ただ、魔導士の仕事は、こちらが思っている以上に幅広いと思う」
チセは机の上に置かれた水をひと口飲んだ。
「たとえば、うちのギルドなら……ナツだったら、依頼書を最後まで読む前に飛び出していくことがあるわね」
「……ナツ?」
「ナツ・ドラグニル。私の仲間よ。火を扱う魔導士で、強いし、仲間思い。でも、考えるより先に身体が動くタイプ」
「依頼の内容を確認せずに?」
「確認はするわよ。たぶん。本人の中では」
塚内の表情が、ほんの少しだけ変わった。
「それは、依頼人にとって危険ではありませんか?」
「危険なこともあるわね。だから、止める人間が必要なのよ」
「あなたが?」
「場合によっては」
チセはあっさり答えた。
「ナツだけじゃないわ。勢いで突っ込む人もいるし、売られた喧嘩を買う人もいる。力はあるけど、細かいことを気にしない人間もいる。……まあ、うちのギルドは少々騒がしいから」
「少々?」
「そこは重要じゃないわ」
「いえ、重要な気がしますが」
「塚内さん。あなた、私の仲間の話を聞いているのか、私の所属組織の危険性を評価しているのか、どちら?」
「両方です」
「正直ね」
チセは少しだけ口元を緩めた。
塚内もまた、彼女の言葉を冗談として流さなかった。
仲間の欠点を隠さない。自分の所属する組織を無条件に正当化しない。しかも、危険な人物を危険だと認識したうえで、共に行動している。
それは、単純な善悪の判断よりも重要な情報だった。
「そのギルドでは、問題を起こした魔導士を誰が取り締まるんです?」
「内容によるわ。ギルドの中で収まることなら、マスターが叱る。街や国の法律に関わることなら、当然、国の機関が出てくる」
「ギルドのマスターに、警察のような権限が?」
「警察そのものではないわ。ただ、ギルドの人間に対する責任はある。依頼を受ける以上、仲間が何をしても知らない、では済まないから」
塚内は資料に一行を書き加えた。
「つまり、ギルドは職業集団であると同時に、ある程度の自治機能も持っている」
「そうね。少なくとも、うちではそういうところがあるわ」
「それで、ナツさんが街で暴れたら?」
「私が知っていれば止める。間に合わなければ、マスターに報告する。被害が出ているなら、その責任も考えなきゃいけない」
「あなた自身が、ナツさんを止められるんですか?」
「今の身体で、真正面から殴り合って止められるとは思わないわね」
チセは自分の手を見下ろした。
「頭の中では、どう動けばいいか分かる。でも、身体が以前のようには動かない。そこは別問題よ」
塚内の目が細くなる。
「以前のあなたなら、止められた?」
「状況次第。力ずくで止めるのが最善とも限らないでしょう。ナツは単純な人間だけど、話が通じないわけじゃないもの」
「単純な人間……」
「褒めているのよ」
「そうですか」
塚内は、今度は否定しなかった。
チセは彼の反応を見ながら、話す情報の量を調整していた。
ナツの名前を出したのは、単なる思い出話ではない。仲間を危険な人間として扱うのか、それとも問題を起こす可能性のある個人として捉えるのか。警察が何を基準に判断するのかを知りたかった。
今のところ、塚内は話を聞き、質問を返している。
少なくとも、異世界の魔導士というだけで即座に危険人物と決めつけるつもりはなさそうだった。
もっとも、警戒していないわけでもない。
その程度のことは、チセにも分かる。
*
「では、フィオーレ王国では、魔法を使った喧嘩はどの程度まで許容されるんです?」
今度は、隣の警察官が質問した。
チセは少し考えた。
「許容される、という表現は違うと思うわ。喧嘩で建物を壊せば弁償の話になるし、誰かを傷つければ責任を問われる。魔法を使ったからといって、何をしてもいいわけじゃない」
「しかし、先ほどの話では、魔導士同士の揉め事がギルド内で処理されることもあると」
「ええ。身内の問題として収まるなら、まず身内で解決しようとすることはあるでしょうね。でも、それで被害者が納得するとは限らないし、重大な事件まで内輪で済ませるわけにはいかない」
「その判断基準は?」
「被害の程度、事情、本人の責任。……あなたたちが判断することと、そう大きくは違わないんじゃない?」
警察官は少し考え、塚内を見た。
塚内が代わりに尋ねる。
「こちらの社会では、個性を使った暴力は特に厳しく扱われる場合があります。たとえ相手が悪人でも、個人の判断で制圧していいとは限らない」
「それは面倒ね」
「面倒でも必要です。力の強い人間が、自分の正義だけで他人を裁くことを防ぐためです」
チセはすぐには答えなかった。
その説明自体は理解できる。むしろ、力を持つ者が自分の判断だけで何でも決められる社会には、別の危険がある。
ただし。
「それなら、法の手続きが間に合わない状況ではどうするの?」
「状況によります」
「目の前で誰かが殺されそうになっている。警察の到着は間に合わない。そこに、止められるだけの力を持つ人間がいる。それでも何もするなと?」
「必要な範囲での救助や防衛は認められます。ただし、行為の妥当性は後から検証されます」
「なるほど。動くこと自体を禁止するわけじゃない。でも、動いた結果について説明する責任はある、と」
「その理解で構いません」
「それなら分かるわ」
チセは頷いた。
「私が嫌いなのは、規則そのものじゃないの。現場の事情を知らない人間が、規則を盾にして考えるのをやめることよ」
「……なかなか厳しい意見ですね」
「現場で人が死ぬのを見てきたから」
会議室の空気がわずかに変わった。
チセは、それ以上は話さなかった。
仲間の顔が頭をよぎる。無茶をするナツ。仲間を守るために自分を犠牲にしようとする者。勝つために限界を越えようとする者。
そういう人間たちと過ごしてきたからこそ、分かることがある。
勝利だけでは足りない。
依頼を達成しても、仲間が帰ってこなければ意味がない。
「フィオーレ王国では、魔導士はどんな教育を受けるんです?」
塚内が尋ねた。
「人によるわね。魔法学校に通う人もいれば、師匠から直接教わる人もいる。ギルドで学ぶこともあるし、独学の人だっている」
「あなたは?」
「ギルドで学んだこともあるし、自分で研究したこともあるわ」
「魔法の理論を?」
「理論だけじゃない。魔法をどう使えば目的を達成できるか、どうすれば無駄な魔力を減らせるか、どういう状況なら使わないほうがいいか。そういうことも含めてね」
「戦術教育に近い?」
「それもあるわ」
塚内は、先ほどから何度も出てくる「使わないほうがいい」という言葉に注目していた。
チセは強力な魔法を使える可能性がある。だが、彼女の話には、力を誇示する発想がほとんどない。
何ができるかより、何をするべきか。
何をするべきかより、何をすれば全員が無事に帰れるか。
彼女の判断基準は、そこにあるらしい。
「あなたは、ヒーローという職業をどう思いますか?」
唐突な質問だった。
チセは塚内を見返した。
「どう、というのは?」
「あなたの世界には、こちらのヒーローに相当する職業はありますか?」
「魔導士の中には、人助けをする人もいる。国に仕える人もいるし、依頼を受けて働く人もいる。……でも、こちらのヒーロー制度と同じかどうかは、まだ分からないわね」
「では、ヒーローに憧れは?」
「ないわ」
即答だった。
警察官がわずかに目を見開く。
「……オールマイトを見ても?」
「強い人だとは思うわよ。あの場で人を救ったことも事実。でも、強いことと、憧れることは別でしょう?」
「あなたを救った人物でもあります」
「助けられたことには感謝しているわ。だからといって、その人の考え方も生き方も全部正しいと決めつける理由にはならない」
塚内は、少しだけ口元を引き締めた。
「ヒーローを否定しているわけではないんですね」
「そもそも、まだよく知らないもの。知らないものを好きだとか嫌いだとか、どうして決められるの?」
チセは肩をすくめた。
「それに、私が今一番知りたいのは、どうすれば元の世界に帰れるかよ。ヒーローに憧れるかどうかは、その後の話でしょう」
「……合理的ですね」
「そう?」
「少なくとも、こちらの社会に適応しようとする意思はあるように見えます」
「適応しないと生活できないでしょう。お金も、住む場所も、身分を証明するものも必要。食べるものだって買わなきゃいけない。異世界だからって、生活費まで無料になるわけじゃないもの」
あまりに現実的な返答に、警察官が小さく咳払いした。
塚内は笑わなかったが、緊張は少し緩んだ。
*
講義は午後になっても続いた。
交通機関の利用方法。身分証明書の扱い。緊急通報の仕組み。病院にかかる手順。契約というものの意味。未成年者の扱い。
チセは説明を聞くたびに、フィオーレ王国との違いを口にした。
「フィオーレでは、街から街へ移動するのに馬車を使うことが多かったわ。魔導士なら、移動魔法を使う人もいるけど」
「移動魔法を一般市民が使うことは?」
「難しいものもあるし、使える人が限られるものもある。誰でも自由に使えるわけじゃないわね」
「こちらでは電車やバスが一般的です。運賃を支払い、定められた経路を利用する」
「便利ね。魔力もいらないし」
「……魔力がなくても動くことに、驚きますか?」
「驚くというより、興味深いわ。こちらの世界には魔力がほとんどないのに、私の世界なら魔法で補うような機能が、技術で実現されている」
チセは説明用の端末を指先で軽く叩いた。
「これもそう。遠くの人間と文字や映像をやり取りできる。フィオーレにも通信手段はあるけど、仕組みは違う。……この世界は魔法がなくても、技術がずいぶん発達しているのね」
「逆に、あなたの世界では魔法で代替できる技術が、発達していない可能性がある?」
「あるでしょうね。必要がなければ、技術は別の方向へ発展するものだから」
その回答に、塚内は納得したように頷いた。
魔法が使える異世界人。
そう聞けば、こちらの技術を知らない人物を想像しがちだ。
しかしチセは、知らないものをただ珍しがるだけではない。仕組みを理解し、用途を把握し、自分の世界との違いを比較している。
しかも、分からないことを分かったふりで埋めようとしない。
観察対象としては、実に厄介で、実に興味深い人物だった。
「ところで」
チセは端末から目を上げた。
「こちらの世界では、個性を使える人間が多いんでしょう?」
「人口の大多数が何らかの個性を持っています」
「それなら、街中で個性を使うことは?」
「用途や状況によります。公共の安全を損なう使い方は問題になりますし、職業上の活動には資格や許可が必要になることもあります」
「やっぱり、使えることと、使っていいことは別なのね」
「そうです」
「なら、魔法についても同じように考えればいいのかしら。魔法を持っていること自体は罪じゃない。でも、使い方によっては制限される」
「基本的には」
「分かったわ」
チセは頷き、続けた。
「ただし、私の魔法は個性とは違う。こちらの法律でどう扱われるのかは、まだ確認が必要ね」
「その点は、こちらでも検討中です」
「でしょうね。前例がないんでしょう?」
「ええ」
「なら、私を既存の制度に無理やり当てはめる前に、できることとできないことを整理したほうがいいと思うわ」
塚内は返答するまでに、少し時間を置いた。
「あなたの魔法について、こちらが把握できていないことが多いのも事実です。安全上、一定の観察と確認は必要になります」
「それは理解しているわ」
「ただ、あなたが不利益を受けないように、という点も考慮する必要があります」
「それなら、観察する理由と、観察によって制限されることを、できるだけ明確にしてほしいわね。いつまで警察署にいればいいのかも含めて」
チセの声は落ち着いていた。
要求は明確だが、感情的な反発ではない。
「私だって、こちらの世界のことを知りたい。生活するために必要な知識も、法律も、技術も。でも、ずっとここに座って説明を聞いているだけでは、分からないこともあるでしょう?」
「……たしかに」
「実際に街を歩く。公共交通機関を使う。買い物をする。そういう経験も必要だと思う。もちろん、あなたたちが危険だと判断する場所に勝手に行くつもりはないわ」
塚内は腕を組んだ。
「監督者をつけたうえでの外出なら、検討の余地はあります」
「それで十分よ。最初から何もかも自由にしてほしいと言っているわけじゃないもの」
チセは少し考え、付け加えた。
「それと、甘いものを買える場所も教えてくれる?」
「……甘いもの?」
「魔法を使うと、脳がひどく疲れるの。こちらの世界では魔力を十分に補えないから、余計に負担がかかるみたい。糖分やカロリーを補給したいのよ」
「医療的な確認が必要ですね」
「ええ。私も自分の身体について調べたい。前の身体と今の身体では、動きも体力も違う。魔法の使用量も、こちらの環境に合わせて調整しないといけない」
チセは手元の水を飲み干した。
「脳みそが干からびるのは、もう勘弁してほしいわ」
塚内は、今度こそ小さく息を吐いた。
「……分かりました。外出の件も含めて、上に相談します」
「よろしく」
チセは椅子の背もたれに身体を預けた。
ひとまず、話は前に進んだ。
警察側は、彼女を危険性の分からない異世界人として警戒している。魔法の実態も、転移の原因も、若返った身体の理由も分からない。だから観察が必要だという理屈は理解できる。
だが、チセにも知る権利がある。
何を疑われ、何を調べられ、どこまでの行動が認められるのか。
それを曖昧にされたまま従うつもりはなかった。
*
その日の夕方。
チセが退出した後の会議室では、塚内と数人の関係者が、彼女についての情報を整理していた。
「自分の世界の話を、かなり自然に挟んできますね」
若い警察官が言った。
「こちらの反応を見ているんでしょう」
塚内は記録を確認しながら答えた。
「ただ、隠そうとしているというより、どこまで説明すればいいか探っているようにも見えます」
「実際、隠していることはあるでしょう。本人も、まだ説明できないことがあると言っている」
「危険性は?」
「現時点では断定できません。ただ、少なくとも彼女は、自分の力を使うことと、使っていいことを分けて考えている。力を持っているから何をしてもいい、という思想ではないようです」
別の職員が資料をめくった。
「所属していたギルドについても、問題のある人物がいることを隠しませんでしたね」
「ナツ・ドラグニル、でしたか」
「本人の説明をそのまま信用することはできませんが、仲間を無条件に美化しているわけではない。問題を起こす可能性を認識し、止める必要性も理解している」
塚内は、チセが口にした言葉を思い出した。
――力の強い人間が、自分の正義だけで他人を裁くことを防ぐため。
あれは、こちらの社会を知らない人間が、ただ規則に反発しているだけの言葉ではなかった。
「彼女は、ヒーローという職業に憧れていないと言っていました」
「それは、かえって都合がいいかもしれません」
「どういう意味です?」
「ヒーローになりたいから力を使うのではなく、必要だから使う。少なくとも、本人の動機はそういう方向にあるようです。もちろん、それが適切かどうかは別に検証する必要がありますが」
塚内は資料を閉じた。
「彼女は、こちらの世界の常識を学んでいます。同時に、こちらの常識をそのまま正しいとは考えていない。フィオーレ王国での経験を基準に、こちらの制度が合理的かどうかを見ている」
「扱いづらい人物ですね」
「ええ。ですが、話が通じない人物よりは、ずっといい」
窓の外は、すでに夕暮れに傾いていた。
異世界から来た魔導士。
記憶と知識は大人のまま、身体だけが若返った少女。
彼女の存在を警察と公安が継続的に観察することは、もはや避けられない。
しかし、監視だけで問題が解決するわけでもなかった。
彼女がこの世界で生活するためには、教育が必要だ。魔法を安全に扱うための環境も、身体を調べるための医療的な支援も必要になる。
そして何より、彼女の能力を正しく評価できる場所が必要だった。
「……雄英という選択肢も、検討してみるべきでしょうね」
誰かがそう口にした。
塚内は、すぐには答えなかった。
雄英高校。
この国でも最高峰とされる教育機関。そのヒーロー科なら、特殊な能力を持つ者を訓練し、評価するための設備と人材がそろっている。
ただし、本人にその意思があるかどうかは、まだ分からない。
「まずは、生活基盤と身分の問題を整理しましょう。彼女は、こちらの世界で暮らすことを拒んでいるわけではない。帰る方法を探しながら、ここで生きるための準備も進めようとしている」
塚内は、記録の最後にそう書き加えた。
「彼女の意思を確認するのは、その後です」
その頃、別室に戻ったチセは、支給されたノートに今日覚えたことをまとめていた。
日本の法律。個性と魔法の違い。公共交通機関の使い方。警察と公安の役割。自分が置かれている立場。
その横には、フィオーレ王国での常識も書き留めてある。
魔導士ギルドの仕組み。
依頼と責任の関係。
仲間同士の助け合い。
そして、魔法を使える者が社会でどう扱われていたか。
チセはペンを止めた。
「……比べてみると、意外と似ているところもあるのね」
もちろん、違いは大きい。
魔力がほとんど存在しないこと。魔法の代わりに技術が発達していること。個性という能力が社会の仕組みに深く組み込まれていること。
だが、力を持つ者には責任が伴うという考え方も、誰かを守るために制度が必要だという発想も、完全に未知のものではなかった。
だからこそ、焦る必要はない。
この世界の常識を覚える。
自分の身体を調べる。
魔法の使い方を組み直す。
そして、帰る方法を探す。
やるべきことは山ほどある。
「まずは、甘いものね……」
チセは真剣な顔でノートに一行書き加えた。
糖分の補給手段を確保する。
異世界で生き延びるための計画としては、決して冗談ではなかった。