僕のヒーローアカデミア:妖精の参謀 作:並行世界とかという概念最高
雄英高校ヒーロー科。
日本屈指の教育機関であり、数多くのプロヒーローを輩出してきた名門校。
その名前を聞いたチセ・トオノは、机の上に置かれた学校案内を見つめた。
「……私に、ここを受験しろと?」
「正確には、受験を提案しています」
塚内直正は、いつもの落ち着いた声で答えた。
「雄英には、特殊な能力を持つ生徒を指導するための設備と人材があります。あなたの能力を評価するうえでも、適切な環境だと考えています」
「私にとっては教育の機会。あなたたちにとっては、私の能力を観察する機会ということね」
「否定はしません」
「正直で助かるわ」
チセは学校案内を開いた。
校舎の写真、教育方針、学科の説明。目を通すうちに、彼女の視線はヒーロー科の紹介ページで止まった。
「ヒーローになるための学科……ね」
「ええ。実技だけでなく、法規や救助活動、ヒーローとしての倫理についても学びます」
「ひとつ確認していい?」
「どうぞ」
「私は、ヒーローになりたいわけじゃない。それでも受験していいの?」
塚内は、すぐには答えなかった。
「ヒーロー科は、将来ヒーローになることを前提とした教育課程です。その点を理解して受験する必要はあります。ただ、卒業後の進路まで、今この場で決める必要はないでしょう」
「なら、問題ないわ」
チセは案内を閉じた。
「受ける」
「決断が早いですね」
「理由があるもの」
彼女は指を折って数えた。
「1つ。私は、この世界で暮らすための知識を身につけなければならない。2つ。今の身体と魔法の状態を調べ、使い方を組み直す必要がある。3つ。あなたたちは私の能力を把握したい。だったら、双方にとって都合のいい場所を使えばいい」
「合格できる自信は?」
「受験するからには、合格を目指すわ」
チセは、当然のことを言うように答えた。
「ただし、身体を壊してまで合格しようとは思わない。そこは間違えないで」
「分かりました。雄英側には、あなたの事情を含めて説明します」
「それと、入試に必要な資料を用意してほしい。日本の教育課程、個性に関する基礎知識、ヒーロー制度、関連する法律。それから、身体の状態を確認できる環境も」
「手配します」
「助かるわ。……あと、甘いものを買える場所も教えてくれる?」
塚内は、わずかに目を閉じた。
「そちらも確認しておきます」
「よろしく」
こうして、チセの新しい目標が決まった。
雄英高校ヒーロー科。
この世界を知り、自分の力を使うための場所を得る。そのための最初の関門だった。
*
受験までの期間、チセは知識を詰め込んだ。
日本の法律。個性の分類。ヒーロー活動に必要な資格。公共の場で能力を使用する際の制限。救助活動における責任。
彼女は、単純な暗記だけで終わらせなかった。
「つまり、個性を使って人を救ったとしても、行為そのものが自動的に正当化されるわけではないのね」
「そうです。状況や行為の内容によります」
「助けた相手が無事でも、周囲に被害が出れば、別の責任が発生する」
「そのとおりです」
「……現場で判断する人間には、相応の知識が必要になるわね」
チセは端末に要点をまとめた。
彼女にとって、法律は単なる制約ではない。
現場で何が許され、何が許されないのかを判断するための情報でもある。
知らなければ、必要な行動までためらうことになる。
反対に、知識がなければ、正しいつもりで取り返しのつかないことをする可能性もある。
どちらも避けるべきだった。
次に取り組んだのは、実技試験への対策だった。
事前に公開されている情報は限られていたが、試験では実際の戦闘や救助を想定した課題が出される可能性が高い。
チセは簡単な模型を使い、地形と敵の配置を変えながら、いくつもの状況を考えた。
「正面から倒す必要はない。進路を塞ぐ、動きを制限する、他の受験生が攻撃しやすい状況を作る……」
空中羽ペンが淡い光を放つ。
壁の位置、通路の幅、敵の進路。光の線が重なり、簡易的な戦場図が浮かび上がった。
ただし、以前のように広範囲を一度に分析することはできない。
こちらの世界には、魔法を十分に支えるだけの魔力がない。
加えて、若返った身体は以前の鍛錬をすべて再現できるわけではなかった。
頭の中では最適な動きが分かる。
しかし、踏み込みが浅くなる。重心移動がずれる。急な方向転換では、身体が思考に追いつかない。
チセは、無理に以前の動きを再現しようとするのをやめた。
「今の身体に合わせて組み直す。それだけよ」
失われたものを嘆いても、試験当日に戻るわけではない。
今できることを見極め、使えるものを最大限に活用する。
それが、チセの選んだ戦い方だった。
*
受験当日。
雄英高校の正門前には、多くの受験生が集まっていた。
チセは周囲を見渡し、校舎の構造や人の流れを観察した。
出入口の位置。受験生の移動経路。教職員の配置。
戦場でなくても、情報を整理する癖は変わらない。
受付で受験票を確認され、案内された試験会場へ向かう。
そこは、道路や建物を模した大規模な訓練区画だった。
人工の街並み。複数の通路。高低差のある建物。視界を遮る障害物。
試験開始前から、受験生たちの緊張が伝わってくる。
チセは会場全体を眺めた。
どこにロボットが現れるかは分からない。どのような機体が配置されているかも、すべて把握できるわけではない。
ならば、現場で情報を集めるしかない。
「……準備はできた」
開始の合図が響いた。
受験生たちが一斉に走り出す。
チセも走った。
最初の数歩で、身体の重心がわずかにずれる。
想定よりも踏み込みが浅い。
彼女はすぐに歩幅を修正し、無理に速度を上げるのをやめた。
「焦らない。今の身体に合わせる」
正面の道路から、試験用ロボットが姿を現した。
何人かの受験生が、正面から攻撃を仕掛けている。
チセは空中羽ペンを取り出した。
ロボットの位置。移動方向。周囲の障害物。受験生たちの動線。
必要な情報だけを選び、頭の中で整理する。
魔法の使用量は抑える。
広範囲の分析を続ければ、すぐに脳が疲弊する。試験の最後まで判断力を保つには、情報の取捨選択が必要だった。
チセは近くの受験生に声をかけた。
「正面から攻撃しないで。右の通路に誘導して!」
「えっ?」
「機体の旋回に時間がかかる。あの通路なら、後ろの機体と進路が重なるわ!」
受験生は一瞬戸惑ったものの、チセの指示に従った。
ロボットが進路を変える。
後方の機体が追いつく。
狭い通路で、2体の機体が互いの進行を妨げた。
「今よ。駆動部を狙って!」
受験生が攻撃を加える。
1体が停止し、もう1体も動きを大きく鈍らせた。
チセは、その結果を確認すると、すぐに別の場所へ移動した。
自分で倒す必要はない。
自分が攻撃するよりも、適した能力を持つ受験生に攻撃してもらうほうが早い場合もある。
無駄な魔法を使わず、周囲の力を活用する。
それも戦術だった。
しかし、彼女の指示を全員が聞いてくれるわけではない。
別の受験生は、目の前のロボットを倒すことに夢中になり、背後から近づく機体に気づいていなかった。
「後ろ!」
チセが叫ぶ。
受験生が振り返ったときには、機体がすぐそこまで迫っていた。
チセは空中羽ペンを振るい、壁面に小さな魔法陣を描いた。
淡い光が弾け、ロボットの視界を一瞬だけ乱す。
機体の動きが止まる。
「離れて! 今のうちに距離を取って!」
受験生が飛び退く。
チセは息を吐いた。
魔法の使用による負担が、頭の奥にじわりと広がっていた。
「……使いすぎないこと」
自分に言い聞かせ、彼女は次の場所へ向かった。
*
一方、別の試験会場。
拳藤一佳は、目の前のロボットを拳で弾き飛ばした。
「よし、1体!」
「拳藤さん、右からもう1体来ているよ!」
物間寧人の声が飛ぶ。
「分かってる!」
拳藤は身体をひねり、迫ってきた機体の攻撃を避けた。
その隙に物間が横へ回り込み、機体の進路を塞ぐ。
「単純に破壊するだけでは、効率が悪い。敵の動きを制限し、こちらに有利な状況を作る。そうすれば――」
「説明はあと! 今、動きを止めて!」
「分かっているとも!」
物間は素早く動き、機体が旋回する方向へ回り込んだ。
拳藤の攻撃が、機体の駆動部を捉える。
金属音が響き、ロボットが停止した。
「今の連携、悪くなかったじゃん」
「当然だよ。僕の分析があってこそ――」
「はいはい。次、行くよ!」
拳藤はすでに走り出していた。
物間は不満そうにしながらも、その後を追う。
2人とも、単独で戦うよりも連携したほうが効率的であることを理解していた。
ただし、互いの判断が常に一致するわけではない。
拳藤は状況を見て即座に動き、物間は分析してから動こうとする。その違いが、時には足並みを乱す。
それでも、2人は試験の中で互いの長所を活かし始めていた。
この会場でもまた、受験生たちは自分なりの戦い方を見つけようとしていた。
*
雄英高校の試験本部。
複数のモニターに、各試験会場の映像が映し出されていた。
中央の席に座っているのは、雄英高校の校長、根津。
その周囲には、試験の進行を確認する教員たちが集まっている。
プレゼント・マイクは、各会場の状況を確認しながら試験進行の記録を取っていた。セメントスは受験生たちの攻撃と地形への影響を見ている。エクトプラズムは、個々の受験生が複数の相手にどう対処するかを注意深く追っていた。
そして、オールマイトもまた、モニターに映る受験生たちを真剣な眼差しで見つめていた。
「それで、例の受験生が彼女か」
オールマイトが尋ねる。
「そうだよ」
根津は、小さな手で資料をめくった。
「警察と公安から事前に情報が届いている。異世界から来た人物で、本人は自分の能力を魔法と呼んでいる。出生地も、こちらの社会制度も、既存の記録とは一致しない」
「個性ではない、ということか?」
「少なくとも、一般的な個性として扱うのは適切ではないだろうね」
根津は、別の資料を開いた。
そこには、塚内から共有されたチセの説明が整理されていた。
魔法は、周囲の魔力を利用し、知識と術式によって現象を構成する技術。
一方、個性は、基本的には生物の身体に備わった能力や特性として発現するもの。
魔法と個性は、結果として似た現象を起こすことがあっても、成立する仕組みが異なる。
「彼女の説明が正しいなら、魔法は身体の生物学的な機能だけで説明できない。外部環境に存在する魔力を利用し、術式を構成することで発動する。しかも、この世界では魔力が極端に少ないため、同じ魔法でも本来の性能を発揮できない可能性がある」
根津は、モニターに映るチセの姿を見た。
「これは、個性の強弱や種類の問題とは別だ。能力を発動するための基盤そのものが違うんだよ」
オールマイトは、真剣な表情で頷いた。
「なるほど……。つまり、彼女を個性の分類に無理に当てはめて評価するべきではない、ということか」
「そのとおり。既存の枠組みを使うこと自体が間違いとは限らないけれど、まずは彼女の能力が何によって成り立っているかを理解しなければならない」
根津は、チセが空中に魔法陣を描く場面で映像を止めた。
「見てごらん。彼女は、ロボットの駆動部を直接破壊することよりも、周囲の状況を整理し、受験生が動きやすい位置へ誘導することを優先している」
「戦況分析か」
エクトプラズムが口を開いた。
「それだけではありません。周囲の受験生の動きを観察し、どの人物がどの機体に対処できるかを判断しているように見えます」
「攻撃力だけを評価するなら、見落とされる能力だね」
根津は尻尾を揺らした。
「だが、ヒーロー活動は敵を倒すことだけで成り立つわけではない。救助、連携、危険の予測、被害の抑制。彼女はそれらを、かなり自然に実行している」
プレゼント・マイクが映像を切り替えた。
「この子、さっきからほかの受験生に指示を出しまくってるぜ。しかも、指示が短い。何をしてほしいのか、すぐ分かる言い方だ」
「長い説明をしている余裕がないことを理解しているのでしょう」
セメントスが答えた。
「現場では、説明の正確さだけでなく、伝達の速さも重要ですから」
オールマイトは、チセがロボットの進路を予測し、別の受験生へ退避を促す場面を見つめた。
「彼女自身が攻撃するよりも、周囲の受験生を活かすことを選んでいる……」
「そうだね」
根津は頷いた。
「ただし、まだ判断材料は足りない。彼女の魔法がどこまで応用できるのか。どの程度の負荷がかかるのか。身体能力の制約がどこまで影響するのか。それらは、実技映像だけでは断定できない」
根津は、警察から届いた別の報告書を手元に置いた。
チセの身体は、転移の際に若返った可能性がある。
本人の記憶や知識は保たれているが、身体の筋力や持久力、運動制御は以前の状態と一致していない。
さらに、この世界には魔力がほとんどない。
魔法を使用すれば、脳の疲労や身体のエネルギー消費が大きくなる。
「彼女は、自分の制約を理解しているようだ。無理に動きを速めず、身体の状態に合わせて戦術を変更している」
「それは、評価すべき点ですね」
エクトプラズムが答えた。
「自分の限界を把握し、それを前提に行動できる。戦術担当としては重要な資質です」
「しかし、彼女はまだ受験生です」
オールマイトが言った。
「指示を出す能力が優れているとしても、仲間を指揮する立場に立つなら、その責任についても学ばなければなりません」
「もちろんだよ」
根津は穏やかに答えた。
「だからこそ、教育機関である雄英が彼女を受け入れる意味がある。彼女の能力を観察するだけなら、警察や公安でもできる。しかし、能力を理解し、適切な方向へ伸ばすことは、私たちの仕事だからね」
*
試験場では、終了時間が近づいていた。
チセは、最後に残ったロボットの動きを観察していた。
周囲の受験生たちは、それぞれの方法で得点を重ねている。
彼女自身が破壊した機体は、決して多くない。
その代わり、複数の受験生に指示を出し、攻撃の機会を作り、危険な位置にいる者を退避させてきた。
しかし、試験官がどこまでそれを評価するかは分からない。
得点の仕組みが完全に公開されていない以上、評価基準を勝手に決めつけるわけにはいかなかった。
そのとき、建物の陰で動けなくなっている受験生が目に入った。
足を痛めたらしい。
その前には、ロボットが迫っている。
チセは、すぐに周囲を確認した。
大規模な魔法は使えない。
今の身体で、機体を長時間引きつけるのも危険だ。
ならば、短い時間だけ注意をそらし、退避のための隙を作る。
「そこの人、動ける?」
「足が……少し、痛くて!」
「分かった。無理に立たないで。私が注意を引くから、壁沿いに離れて!」
チセは空中羽ペンを構えた。
壁面に小さな魔法陣を描く。
淡い光が弾け、ロボットの視界を一瞬だけ乱した。
機体が進路を変える。
チセは、その動きに合わせて横へ移動した。
足が重い。
頭の奥が痛む。
それでも、判断は止めない。
機体の旋回が鈍る。
「今よ! ゆっくりでいいから、離れて!」
受験生が身体を引きずるようにして移動した。
チセは機体との距離を保ちながら後退する。
そして、試験終了の合図が響いた。
ロボットが停止する。
チセは、その場で息を吐いた。
「……終わった」
空中羽ペンをしまい、壁に手をついて身体を支える。
疲労は大きい。
だが、倒れるほどではなかった。
「ありがとう……助かった」
受験生が、申し訳なさそうに声をかけてきた。
「お礼はいいわ。それより、次からは危険な位置に入る前に退路を確認して」
「……はい」
チセは頷いた。
「無事に帰るまでが戦術よ」
それは、彼女がずっと大切にしてきた考え方だった。
勝つことだけを目標にしてはいけない。
試験で点を取ることだけを考えて、目の前の人間を見捨てるわけにもいかない。
ただし、自分を犠牲にすることが正しいとも思わない。
自分の身体を守りながら、できることをする。
今の自分にできる戦い方は、そういうものだった。
*
試験本部。
根津は、チセが負傷した受験生を助ける場面を見ていた。
「……やはり、得点だけを目的にしているわけではないね」
プレゼント・マイクが記録を確認する。
「彼女は、ロボットの破壊数を増やすより、周囲の受験生の安全を優先している場面が何度もあります」
「それが、必ずしも正解とは限りません」
エクトプラズムが指摘した。
「救助に集中するあまり、自分が危険にさらされる可能性もあります。今回の行動は成功していますが、毎回同じ結果になるとは限らない」
「そのとおりだね」
根津は否定しなかった。
「だからこそ、彼女には学ぶ必要がある。彼女はすでに戦術を組み立てる力を持っている。しかし、それをヒーロー活動に応用するなら、こちらの法律や救助の基準も理解しなければならない」
オールマイトは、映像を見つめながら口を開いた。
「彼女は、ヒーローに憧れているわけではないのでしょう?」
「警察からの報告では、そう聞いているよ」
「それでも、目の前の人を助けた」
「憧れがあるかどうかと、救助の判断ができるかどうかは別の話だろうね」
根津は、チセの動きを追いながら続けた。
「彼女は、自分が何をすべきかを考えて行動している。誰かに褒められるためでも、ヒーローらしく見せるためでもない。少なくとも、今の映像からはそう見える」
セメントスが別の記録を開いた。
「身体能力については、明らかに不安定な部分があります。魔法を使った後は、疲労も大きいようです」
「それでも、能力の使い方を調整している」
根津は、映像を一時停止した。
「個性のように、生まれつき身体に備わった能力として扱うだけでは、彼女を正しく評価できない。魔法は、彼女の説明どおりなら、環境に存在する魔力と術式、そして本人の知識によって成立する技術だ。ならば、評価すべきなのは出力だけではない」
根津の目が、好奇心を帯びて細められた。
「どのような条件で発動するのか。どんな制約があるのか。本人がどう理解し、どう応用しているのか。そこまで見て初めて、彼女の能力を理解できる」
「つまり、彼女は個性の強さで評価するべき受験生ではない、と?」
プレゼント・マイクが尋ねた。
「いや。評価しないという意味ではないよ」
根津は、静かに首を振った。
「彼女は受験生だ。ほかの受験生と同じように、試験の結果を評価する必要がある。ただし、彼女の能力の性質を理解したうえで、適切に評価しなければならない」
オールマイトは頷いた。
「彼女の能力を正しく理解すること。それが、我々の最初の仕事というわけですね」
「そういうことだよ」
根津は、チセの記録を閉じた。
「警察と公安からの報告は読んだ。彼女がこちらの世界で生活するためには、まだ多くの支援が必要だろう。だが、彼女自身も、こちらの常識を学ぼうとしている」
校長として、彼女をどう扱うべきか。
異世界から来た、前例のない能力を持つ人物。
それだけで特別扱いするのも、危険性を理由に遠ざけるのも簡単だ。
しかし、教育機関として本当に必要なのは、そのどちらでもない。
彼女を理解し、必要な指導を考え、本人が学ぶ機会を作ること。
「合否だけで終わらせるには、興味深い受験生だね」
根津はそう言って、次の試験映像へと目を向けた。
*
試験終了後。
チセは会場を出ると、深く息を吐いた。
思っていた以上に疲れた。
身体の疲労だけではない。魔法を使ったことで、頭の奥が重くなっている。
「……甘いもの」
彼女は監督者の待つ場所へ向かいながら、小さく呟いた。
合否を考えるのは、その後だ。
自分の力をどこまで発揮できたのか。どれだけ評価されるのか。それは、試験官が判断することだった。
チセにできるのは、今の自分にできることをやりきることだけ。
そして、彼女はそれをやりきった。
異世界の魔導士が、雄英高校の入試に挑んだ。
試験本部には、その能力を個性とは異なる技術として理解し、評価しようとする者たちがいた。
その出会いが、チセのこれからをどう変えるのか。
答えが出るのは、まだ先だった。