トレセン事務員短編録   作:ドントクライ

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過去編前わちゃわちゃ


FILE7『迎合』

 

 

 

 

 

 

「おや、ビリーヴ。そのクソでかい木の板はどうした。サーフィンでもするのか?」

 

「いえ、事務員さんに頼まれたので練習の合間に……」

 

「練習の合間にサーフィンを? 詳しく聞かせてくれ」

 

「……そこを否定したんですが」

 

 

 トレセン学園。廊下。

 

 

 勢いで喋り倒すのはカルストンライトオ。淡々とマジレスを返すはビリーヴというウマ娘である。

 

 ビリーヴが持ち歩くは、巨大な櫂。主に船を漕ぐ用途で使われるアレだ。ライトオでなくとも、道行く者は不審な目を向ける。

 

 

 

「こら、ライトオさん! ビリーヴさんの邪魔しないの! ただでさえ、前が見えてるか怪しいのに」

 

「……見えてます」

 

 

 そこに合流せしはデュランダル。二人の友人であり、ライバルである。

 

 

「ではビリーヴ、二人で運べば安全安心最速クラッシングだ」

 

「事故ってない? というか、ナチュラルに私をハブらないで?」

 

「文句が多いぞ前世は修行僧か。俗な僧だな」

 

「さっきから何言ってるのよあなたは」

 

 

 騒がしい二人。それを遠巻きに見やるウマ娘たち。関わらないのは賢明な判断である。

 

 

 

 

 

「───じゃあこうしよう」

 

「なるほど、名案ね」

 

「……なにが?」

 

 

 

 神輿スタイル───一言で言えばソレだった。

 

 

 ライトオが先頭。デュランダルが後方で櫂を担ぎ、その櫂の上にビリーヴが鎮座する。完全無欠の城塞が今ここに君臨したのだ。

 

 

 

「デュランダルはハブられず、私もビリーヴを手伝える。そしてビリーヴも前が見える。では行くぞ!」

 

「フッ、あまり遅いと、置き去りにしてしまうわよ!」

 

 

「「せーのっ!」」

 

 

 

 

 いちに、いちに、いちに───

 

 

 

 

 いがみ合っていたはずの2人の息は、恐ろしいほどにピタリと合っていた。さながら、最初から一つの生物だったかのように。

 

 

 

 三人は一陣の風となった。

 その走りは地を裂き、空を割り、天候さえも変えてのけるだろう。あないみじ。

 

 

 移動要塞『サイソク』───どこに向かうか、移動要塞『サイソク』。彼女らの旅は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

「(この人たち、どこまで行くんだろ)」

 

 

 

 ビリーヴは敢えて口に出さない。

 

 顔に、身体に受ける風が、思いのほか気持ちよかったからだ。

 

 

 

 

 移動要塞は県をまたぐ際に止められた。憤慨するは、ライトオとデュランダル。

 

 

 

 

「何するものぞ! 我々は今から日本海に向かい、サーヒンと洒落こまねばならんのですよ!」

 

「そうです! スピード違反は確かにごめんなさいですが、我々のサーヒン欲を満たすものはサーヒンだけなのです! 通してください!」

 

 

 

「サーヒンってなに?」

 

「またこいつらかよ。はやくトレセンに通報しろ」

 

 

 

 お勤めご苦労と言った具合で、早々に応援を呼ばれる三人。ライトオの白い肌が青に染まる。

 

 

「な、なんと迅速な対応! デュランダル、日本も捨てたもんじゃないな」

 

「国を守ることにかけては右に出るものはいないわね」

 

「夢半ばで捕まってたまるか! イクゾー!」

 

 

 カール・アウグストン・ライトハルトオは、高らかに声を上げ逃走し───

 

 

「ライトオさん」

 

「はい」

 

「……あまり人を困らせないでください」

 

 

 

 ───静寂。

 

 

 彼女が意識を持ったまま、十秒以上静止したのは初めてのことだった。

 

 

 

 

 

 

 FILE7『迎合』

 

 

 

 

 

 

 俺はビルとビルを乗り継いでいる際、ライブ会場の確保とクレーム対応でてんてこ舞いを披露する、たづなさんの言葉を思い返していた。

 

 

 

『高速道路の関所から通報がありました! いつもの三人組です!』

 

『ラジャー! 出動します!』

 

『え? ダッシュ?』

 

 

 

 

 見るからに忙しそうなので、俺が迎えに行くことになった。相変わらず、不思議な三人組だ。

 

 

 

 そそっかしいライトオ。真面目な顔してライトオに全力で乗っかるデュランダル。その二人の嵐のような掛け合いに、凪の心で接するビリーヴ。つるんでいる理由が同じクラスだから、というだけなのが面白いところである。

 

 

 

 市街地を抜け、県境まであと数キロ。五分もあれば辿り着くだろう。俺は肩に抱えた、警察への手土産を落とさないように気を付ける。

 

 

 

 件の関所に辿り着けば、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 

 

 

 クソでかい木の板に座るビリーヴを、五人くらいで持ち上げていたのだ。ダボゥミーニングである。

 

 

 

「いやぁ、凛々しいですよビリーヴさん!」

 

「かっこいいわよビリーヴさん! だから機嫌直して!」

 

「…………」

 

「お嬢ちゃん元気出しなって。この子らと一緒くたにしたのは謝るからよ!」

 

「どういう意味ですか?」

 

 

 何故かライトオだけ無言である。

 

 

 

 

 理解の把握に手こずる俺が、正気に戻ったのは二分後のこと。

 

 一先ず事務員らしく、事務的な挨拶を交わすと、警備の方が小声で囁く。

 

 

「(いやぁ、いつもすみませんね。ライトオちゃん、ビリーヴちゃんに叱られて応えてるみたいで……。二人のメンケアよろっす!)」

 

「『よろっす』されたとて」

 

 

 警備の方々が音速で撤収するのを、俺はただ眺めることしか出来なかった。まずい、俺の苦手分野だ。しかもお土産を渡し忘れた。ワン失態である。

 

 

 

 デュランダルのときのトラウマが蘇る。もし、同じ轍を踏んでしまえば……。

 

 

 

 

「(わ、我が……ぃ竜さん。お手数お掛けしますが、私も手伝います)」

 

 

「 ……ありがとう。助かります」

 

 

 

 ライトオと二人でビリーヴをかつぎ上げるデュランダルが、小声でそう言った。その小声意味ある? 

 

 

 

 未だ無言を貫く二人に、まずはどう声をかけるべきか。

 

 

 

 まぁ悩んでも仕方ないか。そう思い、ビリーヴに目を向けようとして、違和感に気付く。

 

 

 

「……ん、あれ? そのクソでかい木の板は、もしや俺が依頼した『木剣』ではないですか?」

 

 

 ビリーヴの耳がぴくりと反応する。やはりか。となれば、口を聞いてくれない理由は……。

 

 

「ぼっけん? い、一体何と戦う気なんですか?」

 

「最近デスクワークばかりで、身体の鈍りが抑えきれなくて……。話したらビリーヴさんが、素振り用に作ってくれると言うので、お願いしたんですよ」

 

 

 デュランダルがちらと、抱える木剣を見て青ざめた。

 

 

「いくらなんでも大きすぎますよ! てっきりサーフボードかと……」

 

「指定した寸法とぴたりですね。落ち着いたら、お借りしてもよろしいですか?」

 

「…………どうぞ」

 

 

 

 低い声で、おずおずとビリーヴからの許可を頂く。軽やかに木剣から飛び降りたビリーヴを受け止めつつ、ライトオへと視線を滑らせる。

 

 

「ライトオさんも……いつもの流れなら、善意が直角にぶっ飛んでいっただけのことなのでしょう? 気にする事はないですよ。あなたの突拍子のなさは周知の事実です」

 

 

 俺が慰めの言葉を投げかけると、ライトオに睨まれた。あと、何故かデュランダルにも。

 

 

「……あなたにだけは言われたくありませんが、落ち込む時間ももったいない。気を取り直すとします」

 

「というか我が君? いつまでビリーヴさんをお姫様抱っこしてるわけです?」

 

 

 言われて気付いた。確かにその通りである。

 

 

 ……それにしても、ウマ娘は体温が高いな。湯たんぽを抱えている気分になれて落ち着く。

 

 

 俺に孫でもいれば、こういう気持ちになっていたのだろうか。くつくつと、喉から笑いが込み上げてきた。

 

 

「クックック……」

 

「わらってる……」

 

「パッと見誘拐犯ですね」

 

 

 

 本当に笑えない。

 

 

 

 

 件のビリーヴは一言も喋らず、ただ俺を見つめるのみだった。きっと、俺の顔になにか付いていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道。車もないので電車で帰ることにしたのだが、ライトオとデュランダルは爆睡をかましていた。神輿スタイルで、よくここまで走ってきたものだと感心する。

 

 

 

 すると、横に座るビリーヴがぽそぽそと話しかけてくる。

 

 

 

「……すみません。本当は、僕が止めなければ行けなかったのに」

 

「何のことです? 電車?」

 

「電車止めてどうするんですか。……正直、あの後どこまで行くのか気になってしまって。好奇心に負けてしまったのが後で恥ずかしくなってしまって……。その……」

 

 

 

 妙なことで落ち込むものだ。が、彼女にとってそれは、冷静さを欠くに値する屈辱なのだろう。それこそ、口も聞けぬほどに。しどろもどろなビリーヴに、俺はふっと笑う、

 

 

「仕事人のあなたは、きっと『納品遅れ』したことが気に入らないのだと思います。ですが、誰にでもそういうことはありますよ」

 

 

「……あなたにもですか?」

 

 

 どういう意味かはわからない問い。

 

 あえて踏み込まず、俺は思考する。

 

 

「まぁ、そりゃ……」

 

 

 

 

 不意に、あの『槍』が言っていたことを思い出した。

 

 

『伊龍殿、話が───』

 

 

 

 

 

 直後───俺の手に力が籠る。

 

 

 奴が知っていた。真実を。

 

 この辺りに、これほど怪異が集結する原因を。

 

 

 

 ビリーヴの問いがあるまで、俺の意識から逸らされるかのように、薄く消えていた疑問。

 

 

 

「……もう、限界ですね」

 

 

「……え?」

 

 

「……俺は口下手で無愛想。不必要に怖がらせてしまうこともしばしばです。ですが……」

 

 

 

 窓の外を、駆け抜けていく街並み。

 

 走馬灯のように、景色に溶ける思い出。

 

 

 

 

 俺はきっと、彼女たちを最後まで見届けることは出来ない。

 本来、俺はトレセン学園には不要な存在だから。

 

 

 

 

 

 何のために生きているのか。与えられた人生は、線路を走る電車そのもの。

 

 

 

 

「お前たちは、俺の誇りだ。日々に笑い、泣き、命を燃やすお前たちのためであれば……何だってする」

 

 

「……ど、どういう」

 

 

 

 おどけられれば良かった。いつものように、くだらない事を言って、オチを作れば良かった。

 

 

 顔を何故か赤らめるビリーヴの瞳を覗き込む。

 

 

 

 たとえ異物だとしても、不要と言われても……この想いだけは、伝えておきたかった。

 

 

 

 

 

「ありがとう。夢を見せてくれて」

 

 

 

 

 笑みを浮かべ、俺は確かに伝えた。

 

 

 

 しかし案の定、ビリーヴはただ困惑するのみだった。まぁ、急にこんなことを言っても、正しく伝わるわけが無い。大して伏線も無かったし。

 

 

 

 

 

 それからの会話は無かった。

 

 

 

 

 

 

 電車が走る音。すやすやと寝息を立てる二人。俯く一人。そして───クソでかい木剣を肩に担ぐ、不審者だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイルのページが、もうすぐ無くなる。

 

 

 

 

 




ナイトハルト殿下とライトオのセリフ当てクイズしたら分からない自信がある
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