人生2週目、されど人生   作:KMST

2 / 2
今回は転生した世界観を説明出来たらと思います。




第1話 大賢者と王子様

 

異世界に転生した。

 

 ……らしい。

 

 いや、らしいというか、状況を考えればそうとしか思えない。

 

 俺は今、見知らぬ部屋の中にいる。

 

 周囲には、見たこともない服装をした人々。部屋の内装も、前世で見慣れていたものとはまるで違う。

 

 そして何より、俺の身体は赤ん坊だった。

 

 どう考えても、前世の日本ではない。

 

 そもそも、俺は一度死んだはずだ。

 

 適応障害が再発し、うつ病にまで進行した。寝たきりになり、食事も十分に取れなくなって、少しずつ衰弱していった。

 

 最後まで生きたいと思っていた。

 

 それなのに、気がつけば赤ん坊として生まれ変わっていた。

 

 ……人生、何が起こるか分からないにもほどがあるだろ。

 

 いや、待て。

 

 今はそんな感想を抱いている場合ではない。

 

 まずは状況を整理しよう。

 

 俺は前世の記憶を持っている。

 

 思考能力も、少なくとも自分では正常だと思う。

 

 ただし、身体は赤ん坊。自分の意思で動くことすらままならない。

 

 言葉も話せない。

 

 周囲の人間が何を話しているのかは、なぜか意味が分かる。だが、どうして理解できるのかは分からない。

 

 そして、ここが異世界だと仮定するなら、魔法やスキルのようなものが存在する可能性もある。

 

 ……いや、さすがに気が早いか?

 

 でも、死んだはずの人間が赤ん坊になっている時点で、常識なんて当てにならない。

 

 とにかく、情報が足りない。

 

 この世界はどんな世界なのか。

 

 ここはどこなのか。

 

 俺は誰なのか。

 

 そして、これからどうすればいいのか。

 

 考えれば考えるほど、分からないことばかりだった。

 

 そのとき。

 

『ご質問を受け付けました』

 

 …………。

 

 ………………ん?

 

 今、何か聞こえなかったか?

 

 周囲を見回そうとする。

 

 しかし、赤ん坊の身体では首を動かすことすら難しい。

 

 そもそも、声は耳から聞こえたわけではなかった。

 

 頭の中に、直接響いてきたような感覚。

 

 まさか。

 

『初めまして、マスター』

 

 ……は?

 

『私は、マスターの保有する固有スキルのひとつ、大賢者です』

 

 …………。

 

 ………………。

 

 …………はああああああああ!?

 

 いやいやいやいや!

 

 ちょっと待て!

 

 今、スキルって言ったか!?

 

 しかも、大賢者!?

 

 転◯ラか!?

 

 頭の中に声が聞こえるだけでも十分に理解不能なのに、スキルだと!?

 

『はい。私はマスターの思考を補助し、情報の収集、分析、整理、記録などを行う能力を有しています』

 

 ……ええと。

 

 つまり、頭の中に高性能なアシスタントがいる、と。

 

『概ね、その認識で問題ありません』

 

 マジかよ。

 

 前世では、分からないことがあれば検索サイトを開いて、いくつものページを読み比べていた。

 

 それが今では、頭の中で直接質問できるらしい。

 

 便利すぎないか?

 

『マスターの期待に応えられるよう、最大限の支援を行います』

 

 おお……。

 

 なんだか、すごいことになってきたぞ。

 

 だが、浮かれている場合ではない。

 

 大事なのは、こいつが何を知っているのか、そして何ができるのかだ。

 

「……」

 

 声に出そうとして、諦めた。

 

 赤ん坊の身体では、まともな言葉を話せない。

 

 代わりに、頭の中で質問する。

 

 ――大賢者。この世界について教えてくれ。

 

『承知しました』

 

 次の瞬間、膨大な情報が頭の中に流れ込んでくるような感覚があった。

 

 国の名前。

 

 大陸の地理。

 

 歴史。

 

 言語。

 

 文化。

 

 魔法の有無。

 

 人間以外の種族。

 

 そして、この世界におけるスキルの仕組み。

 

 あまりにも多くの情報に、思わず頭がくらくらする。

 

 ……いや、待て待て待て。

 

 情報量が多い!

 

 もう少し段階を踏んでくれ!

 

『失礼しました。情報の提示量を調整します』

 

 よし。そういう機能はあるんだな。

 

 俺はひとまず、最低限必要な情報から教えてもらうことにした。

 

 まず、この世界は剣と魔法が存在する、いわゆるファンタジー世界らしい。

 

 人間以外にも複数の種族が暮らしており、国同士の交流や交易も行われている。

 

 そして、俺が今いるのは、その中のひとつの王国。

 

 名前は、まだ覚えきれなかったので後回しにする。

 

 重要なのは、俺自身の立場だった。

 

 ――俺は、何者なんだ?

 

『マスターは、この王国の王族です。国王陛下と王妃殿下の第一子。王位継承権を持つ王子に該当します』

 

 …………。

 

 ………………。

 

 王子?

 

 俺が?

 

 いや、ちょっと待て。

 

 前世では、普通に生きるだけでも苦労していた人間だぞ。

 

 それがいきなり王子様?

 

 人生の振れ幅、どうなってるんだ。

 

 しかも第一子ということは、将来的には王位を継ぐ可能性が高い。

 

 王位。

 

 王様。

 

 国のトップ。

 

 …………。

 

 いやいやいやいや。

 

 無理だろ!

 

 俺、前世では自分の生活を立て直すだけでも大変だったんだぞ!?

 

 それが今度は国を治めろと!?

 

 難易度設定、間違えてませんかね!?

 

『現時点で、マスターが国王に就任することは確定していません』

 

 いや、そういう問題じゃないんだよ!

 

 ……いや、待て。

 

 落ち着け、俺。

 

 まだ赤ん坊だ。

 

 今すぐ王様になるわけじゃない。

 

 まずは、この世界について知ること。

 

 自分の立場を理解すること。

 

 それから、これからのことを考えればいい。

 

 前世だって、最初から何もかもうまくできたわけじゃなかった。

 

 失敗もしたし、悩みもした。

 

 それでも、一歩ずつ進んできた。

 

 ならば、今回も同じだ。

 

 焦る必要はない。

 

 幸い、今の俺には大賢者がいる。

 

 分からないことは質問できる。

 

 情報を整理して、考えるための手助けをしてもらえる。

 

 それだけでも、十分に心強い。

 

 ……よし。

 

 まずは、ひとつずつ確認していこう。

 

 ――大賢者。俺には、ほかにもスキルがあるのか?

 

『はい。マスターは、現在確認できる範囲で、私を含めて二つの固有スキルを保有しています』

 

 二つ。

 

 大賢者以外にも、もうひとつあるらしい。

 

 ――もうひとつのスキルは何だ?

 

『固有スキル、仕入れる者です』

 

 ……仕入れる者?

 

 なんだ、その商人みたいな名前は。

 

『詳細について説明しますか?』

 

 もちろんだ。

 

 ――頼む。

 

『仕入れる者は、地球に存在する物品を購入し、マスターのいる世界へ転送する能力です』

 

 …………。

 

 ………………。

 

 地球に存在する物品を?

 

 購入して?

 

 こっちの世界に転送する?

 

 …………え?

 

 それって、つまり。

 

 前世の世界で売られているものを、この世界に持ち込めるってことか?

 

『その認識で問題ありません。ただし、物品そのものが持つ性質や動作原理は変化しません』

 

 ……なるほど。

 

 例えば、前世の世界で売られている工具や農具を購入すれば、この世界でも使える可能性がある。

 

 医療器具や書籍だって、手に入るかもしれない。

 

 だが、電気が必要な機械なら、電気がなければ動かない。

 

 燃料が必要なら、燃料を用意しなければならない。

 

 持ち込むだけで、何もかもが解決するわけではないということだ。

 

 それでも。

 

 これは、ものすごい能力なのではないだろうか。

 

 前世の知識と、地球の物品。

 

 そして、それらを理解するための大賢者。

 

 使い方次第では、この世界でできることが大きく広がるはずだ。

 

 ……ただし。

 

 ひとつ、重大な問題がある。

 

 ――大賢者。仕入れる者を使うには、何が必要なんだ?

 

『物品を購入するための対価が必要です』

 

 …………。

 

 ですよねー。

 

 そりゃ、そうだ。

 

 無料で何でも手に入るなんて、そんな都合のいい話があるわけがない。

 

 ……いや、待て。

 

 今の俺は赤ん坊だ。

 

 財布どころか、自分の手で物をつかむことすら難しい。

 

 そもそも、自分のお金なんて一円も持っていない。

 

 つまり。

 

 すごい能力を持って生まれたのに、使うためのお金がない。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 宝の持ち腐れじゃねえか!!

 

『現状では、そのように評価できます』

 

 そこはもう少し、言い方を考えてくれませんかね!?

 

 ……まあ、いい。

 

 幸い、俺は王子だ。

 

 王族なら、生活に必要なお金くらいはあるだろう。

 

 ……あるよな?

 

 頼むぞ、王族。

 

 前世では、お金の心配だってしたんだからな。

 

 今度くらい、少しは恵まれた環境で生きさせてくれ。

 

 そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。

 

「殿下。お目覚めですか?」

 

 侍女らしき女性が、こちらをのぞき込んでいる。

 

 俺は返事をしようとした。

 

 しかし、口から出たのは。

 

「ばぶぅ」

 

 …………。

 

 ……そうだった。

 

 俺、赤ん坊だったわ。

 

 前世の記憶と、高性能なスキル。

 

 それらを持っていても、身体はまだ生まれたばかり。

 

 できることには限界がある。

 

 焦らず、少しずつ。

 

 今は知識を蓄え、この世界を理解することから始めよう。

 

 そうして俺は、異世界の王子としての第一歩を踏み出した。

 

 ……もっとも。

 

 その第一歩は、まだ自分の足では歩けないのだが。

 

 俺の第二の人生は、前途多難なようである。




ざっくりとこの世界観をお伝え出来たと思います。
この後どうなるんでしょうかね…
どうしようかね…

第2話 王子様のお小遣いと、初めての仕入れ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。