シャーレの長官   作:ガチタン雷電

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第2話

 

第1話「奇妙なスカウト」

 

 

 

――先生赴任の1年半前。地球、日本。

 

午後の喫茶店。

 

窓際の席に、二人の男が向かい合って座っていた。

 

一人は現職の刑事。

 

もう一人は、彼と長年の付き合いがある親友だった。

 

「それで、相談って何だ?」

 

刑事は運ばれてきたコーヒーに口をつけた。

 

「いや、ちょっと妙なメールが来てな」

 

男はスマートフォンを取り出した。

 

「お前、闇バイトとか詐欺の手口には詳しいだろ?」

 

「……何だ、いきなり」

 

「これを見てくれ」

 

男はスマートフォンを刑事に差し出した。

 

画面には、一通のメールが表示されていた。

 

件名は『特別職への招聘について』。

 

差出人は『キヴォトス連邦生徒会』。

 

その内容は、連邦捜査部シャーレの責任者として男を招聘したいというものだった。

 

そして、提示されている報酬は、一般的な求人とは比較にならないほど高額だった。

 

「……おいおい」

 

刑事は画面を覗き込んだ。

 

「何だ、この金額」

 

「俺も最初は桁を間違えたと思った」

 

「いや、金額以前の問題だろ。連邦生徒会って何だよ」

 

「さあ?」

 

「さあ、って……」

 

刑事は呆れたように男を見た。

 

「お前、これに返信したのか?」

 

「まだしていない」

 

「それは正解だ」

 

刑事はスマートフォンをテーブルに置いた。

 

「で、どうして俺に?」

 

「どう見ても怪しいだろ? だから専門家の意見を聞こうと思ってな」

 

「専門家って……まあ、刑事だから間違いじゃないが」

 

刑事は改めてメールを読み始めた。

 

「勤務地はキヴォトス……聞いたことがないな」

 

「俺も調べたが、そんな都市は見つからなかった」

 

「連邦捜査部シャーレ、ねえ……」

 

刑事は腕を組んだ。

 

「普通に考えれば詐欺だ。個人情報を抜き取るか、何か違法な仕事をさせるつもりかもしれん」

 

「やっぱりそう思うか」

 

「ああ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「妙に文章がしっかりしているな。日本語も自然だし、振込先や身分証を要求しているわけでもない」

 

「そこが気になったんだ」

 

男は頷いた。

 

「普通の詐欺メールにしては、金を要求してこないし、個人情報を送れとも書いていない」

 

「だからといって信用できるわけじゃないぞ」

 

「分かっている」

 

刑事はスマートフォンを返した。

 

「それで、お前はどうしたい?」

 

「一度、相手の正体を確かめたい」

 

「……おい」

 

「まだ何もするとは言っていない。話を聞くだけだ」

 

「それが一番危ないんだよ」

 

刑事は深いため息をついた。

 

「昔からそうだよな、お前は。怪しいと思ったら、わざわざ確かめに行く」

 

「だから、お前に相談しているんだろう」

 

「まったく……」

 

刑事は少し考え込んだ。

 

「分かった。まずは俺の方でも調べてみる」

 

「助かる」

 

「ただし、相手から連絡が来ても勝手に会いに行くなよ」

 

「分かっている」

 

「本当だな?」

 

「信用ないな」

 

「長い付き合いだからな」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

その時、男のスマートフォンが短く震えた。

 

新着メールだった。

 

差出人は、先ほどと同じ。

 

『キヴォトス連邦生徒会』

 

男は画面を見た。

 

「……おい」

 

「何だ?」

 

「向こうから、また連絡が来た」

 

刑事は身を乗り出した。

 

メールには、短い文章が記されていた。

 

『ご検討いただき、ありがとうございます。

 

詳細につきましては、直接ご説明する機会を設けさせていただきます。

 

ご都合がよろしければ、下記の列車にご乗車ください。』

 

その下には、駅名、日時、列車番号、そして車両番号が記されていた。

 

刑事は眉をひそめた。

 

「……お前、まだ返信していないんだよな?」

 

「ああ」

 

「なのに、ご検討ありがとうございます、か」

 

「……妙だな」

 

「妙どころじゃない」

 

刑事は画面をじっと見つめた。

 

「まるで、俺たちが今この話をしていることを知っているみたいじゃないか」

 

二人の間に、短い沈黙が流れた。

 

男はスマートフォンを伏せた。

 

「……どうする?」

 

刑事はコーヒーを飲み干した。

 

「仕方ない。俺も付き合ってやる」

 

「いいのか?」

 

「お前一人で行かせる方が心配だ」

 

「ありがたいね」

 

「勘違いするなよ。俺は刑事として、怪しい勧誘の実態を確かめたいだけだ」

 

「はいはい」

 

「……お前、本当に分かっているのか?」

 

男は笑った。

 

「分かっているさ」

 

しかし、この時の二人はまだ知らなかった。

 

指定された列車で待っているのが、詐欺師でも犯罪組織でもないことを。

 

そして、列車がトンネルに入った瞬間、常識では説明できない出来事が起きることを。

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