――『 赫光・一閃 』(かくこう・いっせん)
青年の手にした安物の刃から、赤紫色の魔力が鋭く発せられた。
空間そのものを両断するような、あの絶対的な鋭利さとは異なる、大気を爆縮させる強烈な圧力の壁。
――カッ、と荒野の夜闇に一筋の赤い線が描かれる。
七陰が本能的な危機感から辛うじてガードの体勢を取った、まさにその刹那、一瞬遅れて大気を爆発させるかのような凄まじい衝撃波が押し寄せた。
ドォォォォン!!!
容赦のない風圧の暴力に押し流され、七陰の面々は乱雑に、勢いよく真後ろへと弾き飛ばされる。
砂塵が舞う荒野。致命傷には至らぬものの、受け止めた衝撃はあまりにも重かった。肩を抑えて苦悶の表情でふらつく者、片膝を突き座り込んだまま動けない者――先ほどまでの整然とした佇まいは既になく、どこか戦意そのものを砕かれたかのように見える。
その光景を、フードの奥から無言で見つめているシャドウ。
(ふむ。七陰のみんなは、やはり無事のようだね・・・ いいね、彼)
フードの奥で、口元が自然と不敵に歪んだ。
何事もなかったかのようににこやかな笑顔のまま佇む青年を、品定めをするかのようにじっと見据える。
(と、なれば。ここから導き出される最ッ高のシチュエーションは、幹部達を圧倒する実力者を更に圧倒的な力でねじ伏せる絶対的なボス? いやいや、最強と思われているボスと拮抗する力をもつ謎の乱入者との死闘を演じるのも捨てがたい! よし、決めた。こっちでいこ――あっ)
シドの頭に至高の演出が描かれ、満を持して一歩前に出ようとした、まさにその時だった。
吹き飛んだ仲間たちをざっと見渡し、生存を確信してとっさに安堵したアルファが、無言のまま動かないシャドウの背中を見つめた。
(彼は……)
フードの奥の表情は見えない。だが、動く気配はない。
「ならば、私がっ」
アルファの胸に、一瞬の焦りが走る。
だが、そう瞬時に判断した彼女は、いつもの落ち着きを取り戻し、ただ相手の剣を折る事に集中する。
強力に練り上げた魔力を剣にのせ――
「はっ!」
一瞬で間合いを詰め、青年が剣で受けざるを得ない鋭い剣閃を放った。
叩き折るつもりで放った渾身の斬撃。しかし、ガキンと鈍い音が響き、その刃は青年に難なく受け止められた。想定を超えた反動が、アルファの手元にビリビリと響き渡る。
(いくら魔力で強化してるとはいえ……こんなっ……!)
アルファの心内に一瞬動揺が走るものの、彼女は即座に後ろへ飛びずさると、大きく跳躍した。上空から先ほど以上の魔力を込め、全体重を乗せた重い二撃目を打ち下ろした。
しかし今度は、金属音すらしない。
青年が左手の手のひらで、真っ向からその刃を受け止めたからだ。
バチィィン!!!
インパクトの瞬間、青年の手のひらと刃の間に、一瞬だけ火花のように高密度の赤紫色の魔力が光り、アルファの剣撃の威力は完全に相殺したかにみえたが、青年の頬に、すうっと一筋の紅い血が流れ落ちる。
青年は気にする素振りもなく、左手でアルファの刃をガシッと力強く握りしめ、空中で固定する。
「そんな……」
最高の一撃を素手で止められ、剣を握られたまま宙づりのような状態になったアルファの頬を、冷や汗が伝う。
青年は変わらぬ笑みを浮かべている。語りかけてくる口調も変わらず軽い。
だが、その言葉はあまりにも重かった。
「キミが、リーダーってとこかな? 彼の右腕……とまではいかないかな?」
「…ッ!!?」
珍しく一瞬で頭に血が上り青年を睨みつけ、何かを叫ぼうとした、その瞬間だった。
青年は剣を握っていた左手をパッと離した。
重力でアルファの身体が一瞬フワリと落ちてきたところへ、青年は左手を、虫でも追い払うかのように無造作に一振りする。
青年の手から放たれた赤紫の簡潔な衝撃波により、アルファは言葉の続きを紡ぐことすら許されず、その風圧で一気にシャドウの足元へと吹き飛ばされた。
次回で第一話の完了です。
たぶん、来週末に投稿予定です。シャドウと青年の全力の激突、楽しみに待っていただけると幸いです。
もし『このタグを追加した方が良いよ』といったものがあれば、教えていただけると助かります。まだまだ不慣れですが、よろしくお願いします。