類は友をよびたくて!   作:Mr.NYa-

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【第一話】後編:深紫の核

【第一話】後編:深紫の核

 

 

 赤紫の風圧に押し流され、漆黒の裾が揺れるその足元へと吹き飛ばされてきたアルファ。

 主《あるじ》の前で醜態を晒してしまった焦燥と、紡ぐことすら許されなかった言葉の悔しさに身を震わせる彼女の横で、夜闇を纏うロングコートの主はピタリと足を止め、一瞬の無言ののち、静かにその横を通り過ぎた。

 

「シャドウ……」

 

 つぶやくような、小さな声だった。

 アルファが彼に敗北の二文字を連想することなど、本来なら有り得ない。だが、目の前の青年から漂うあの正体不明の奇妙な感覚が、彼女の胸に言い知れぬ不安を駆り立てていた。そう、彼が負けるはずなどないというのに――。

 

 その背中には、一切の動揺も、敵に対する怒りもない。

 ただ世界のすべてを従えるかのような、圧倒的な黒の存在感だけがそこにあった。

 

「案ずるな。――少しばかり、戯れに付き合うだけだ」

 

 威厳ある声が七陰たちの耳に届く。

 その主の言葉に、アルファはハッとして息を呑み、息を荒らげていた七陰の面々からも、絶対の信頼を置いた眼差しがその背へと注がれた。

 

 (――よし、僕の思い描いたシーンは決まった。まずは、無言で近づき相手の一撃を受け止める王道パターン。うん、最初はやっぱりこれでしょ)

 

 二人の距離が、静かに縮まっていく。

 

 抜刀すら見せぬシャドウの悠然たる佇まいは、無言のまま、圧倒的な密度で相手へと問いかけているようだ。

 同じくゆっくりと近づく青年が、ぽつり「……あぁ、なるほどねぇ」と呟く。

 

 (「お先にどうぞ」って言われてもねぇ)

 

 青年は思わず、その糸目の奥に苦笑を浮かべてしまう。

 目の前の男が思わず苦笑いを浮かべるのを見て、シャドウもまた、フードの奥で小さく笑みをこぼした。

 

 どうやらお互いに、相手に先手を譲る流儀《スタイル》なのだと察し合ったのだろう。

 その一瞬、二人の脳裏に全く同じ言葉がよぎっていた。

 

 ((――同じタイプか))

 

 青年の細い目が、さらに細くなる。

 

「それじゃ。お言葉に甘えて……っと!」

 

 キィィン!!!

 

 次の瞬間、大気を切り裂くような硬質な金属音が、夜の荒野に炸裂した。

 

 荒野の夜を切り裂き、激しく交錯する火花。

 青年が放った一撃を、シャドウは抜刀した漆黒の魔力刀で正面から真っ向から受け止めてみせた。

 

 そこから始まったのは、肉眼では到底捉えきれない、神速の剣撃の応酬だった。

 だが、その至近距離の攻防の中で、二人の技量の天秤が、静かに、しかし決定的に傾いていくのを七陰の面々は目撃していた。青年の放つ最短・最適の刃はすべて、シャドウの刀により止められ、逸らされ、押し返される。

 まるで師が弟子に稽古をつけるかのような、超える事のできない格の違い。自分たちを翻弄したあの底知れない戦闘技術すら正面から凌駕してみせる主の威風に、彼女たちはただ、戦慄と共に息を呑むことしかできなかった。

 

「なるほど、なかなかの剣だ。だが――それでは我が元に届かぬ」

 

 刃を噛み合わせたまま、シャドウがフードの奥から冷徹な声を響かせる。

 青年は力比べを避けるようにすっと後ろへ跳びずさると、剣を困ったように眺め、肩をすくめてみせた。ふぅ、と一息を吐く。

 

「そうみたいだね〜。まぁ、剣はそこまで得意じゃないから仕方がないんだけど」

 

「ほぅ。おもしろい」

 

「ははっ、期待に応えられるかなぁ。じゃ、いつもの使わせてもらうね?」

 

「好きにしろ」

 

「あ、あとで卑怯とか言わないよね?」

 

「くどい」

 

「じゃ、遠慮なく……」

 

 その瞬間、シャドウの目がフードの奥でカッと鋭く見開かれた。

 超感覚が捉えた、尋常ならざる密度の魔力の高まり。シャドウがその神速の弾道を、首を鋭く反らし回避を行ったまさにその刹那、背後にあったクレーターの残骸が、目に見えぬ凶暴な風圧によって激しく自壊した。

 

 引き絞られた砂塵の向こう。シャドウが視線を戻した先には、右腕を真っ直ぐに突き出した青年の姿があった。その右手には、いつの間にか鈍い光沢をもつ黒鉄の、異様に長い砲身を備えた長身銃が水平に握られている。

 

「卑怯って言わないよね?」

 

 にっこりと笑う青年が、今度は左手を同じように突き出した。

 風になびくロングコートの裏から、

 

――ジャラッ。

 

 硬質なパーツが音を立て地面へと零れ落ちる。

 乾いた硬質な音が荒野の土を叩いた、まさにその一瞬。

 地面に落ちた無数のパーツが、青年の放つ濃密な赤紫の魔力に強引に引き寄せられ、空中に舞い上がりながら青年の左手の中へと吸い込まれていく。

 

カチャ、カチャ、カシャ――。

 

 見とれてしまうほどの、美しい組み立て機構。もっとも見えている者にとっては、だろうが。

 流れるような超高速の精密なスライドを経て、青年の左手の中には、黒鉄の右手と対をなす白銀の超長身銃が形を成して出現していた。

 

 黒鉄と、白銀。

 異質な二丁の銃口を美しく交差させ、青年はシャドウへと真っ直ぐに狙いを定めた。

 

――ドンッ! ドンッ!

 

 荒野の夜闇に、腹に響くような、重質で硬質な破裂音が連続して響き渡った。

 青年が放つ黒鉄と白銀の苛烈な連撃に対し、シャドウは流れるような刀身の動きで、そのすべてを弾き、撃ち落としてみせる。

 

 弾道を読んで距離を詰めるシャドウ。それを察してバックステップで間合いを離しながら、空間を埋めるようにさらに重い弾丸を置き去る青年。

 時に至近距離まで肉薄し、シャドウの漆黒の刃と、青年の交差させた二丁の銃身がガキィィンと硬質な音を立てて噛み合った。

 

 散る火花が、二人の顔を妖しく照らし出す。

 一手間違えれば致命傷となり得る張り詰めた戦場であるはずなのに、刃と銃身を押し付け合う二人の口元には、一種の狂気的な笑みが浮かんでいた。

 

 息を合わせたように、二人ともすっと後ろへと飛びずさる。

 

「弾切れでも起こしてくれると嬉しいんだが?」

 

 シャドウがフードの奥から、どこか楽しげな色を孕んだ声を響かせる。

 青年はにこやかな笑みを崩さぬまま、二丁の銃を自身のコートへと無造作に引っ掛け、同時にスライドさせた。

 

 ――カシャッ。

 

「ははっ、リロードはしてるから良いじゃない」

 

 一瞬だけ開いた銃身の隙間から、鮮やかな赤紫色の排煙が荒野の夜へと吐き出された。

 

「うん、まぁ、お察しの通り。所謂『魔力弾』ってヤツだからねぇ、そこは仕方ないよ。あ、でもボクの魔力が切れたら弾切れになるね~」

 

「ふっ、確かに」

 

 フードの奥から、シャドウの低く愉しげな笑みを含む声が漏れる。

 だが、青年はにこやかな笑顔を崩さぬまま、右手の銃口を再びシャドウへと向け直した。

 

「もう一つお察しの通り、魔力弾って事はぁ~……」

 

 青年はゆっくりと、その銃口を上空へと向け――ドン、と引き金を引いた。

 放たれた一発の赤紫色の閃光。

 それはシャドウの頭上を大きく逸れて虚空へと消えるかと思われたが、次の瞬間、物理法則をあざ笑うかのようにカクンと折れ曲がってシャドウへと襲いかかった。

 

 二発、三発……と、青年は息を呑むような精密さで引き金を引き絞っていく。

 放たれたのは、決して多くはない十数発の赤紫の光弾。しかしそれらは、手から離れてなお青年の魔力パスと完全に同期していた。弾丸はライフリングによって刻まれた固有波長を震わせ、生き物のようにシャドウの死角へと回り込む。

 一発ずつが意志を持つかのように鋭角なジグザグの軌道を描き、完全なる時間差の計算によって、四方八方から同時に――逃げ場なき『網』となって殺到した。

 

 この物騒な追跡者に対し、シャドウは流れるような刀身の動きで、迫る魔弾を正確に見極め、引きつけてから最小限の動作でいなしていく。

 刀での弾道の矯正により、ゆっくりと、だが確実に自らの思う配置へと魔弾を誘導し、ほんの僅かな『間』を稼ぐのであった。

 

 空間に配置された赤紫の魔弾の軌跡が、シャドウの周囲を包囲する。 横並び――そう、まさにシャドウの狙い通り。

 

「いくら追って来ようが――追うもの自体がなくなれば問題ない」

 

 シャドウが手にした漆黒の刃を、小さく円を描くように一閃させた。

 放たれた圧倒的な青紫の魔力波が、空間そのものを薙ぎ払うように円状に広がる。

 

 シュン……。

 

 ジグザグに迫っていたはずの全ての魔弾が、その圧倒的な魔力の前に、波長ごと根本からかき消された。光の粒子となって夜闇へと溶けるように、一瞬で消滅する。

 

「そろそろ、遊びは終わりだ」

 

 シャドウは冷徹に言い放つと、それまでの戦闘態勢を完全に解き、すっと直立した。

 

 両手を軽く左右に広げ、右手の刀身は無造作に地面へと向けられる。一切の隙を晒しながらも、一ミリの揺らぎすら感じさせないその神聖な佇まいに、荒野のすべてが息を呑んだ。

 

 直後、シャドウの足元から、世界を呑み込むような青紫色の幾何学的な魔法陣が爆発的に展開する。空間そのものを圧殺する、絶対的な魔力の奔流。

 

 対峙する青年もまた、にこやかな笑顔を消さぬまま両手の二丁拳銃をクロスさせ、自身の周囲から、禍々しくも美しい密度の赤紫色の領域を爆発的に展開した。

 

 

「――『 I am 』(アイ・アム)」

「――『 I use 』(アイ・ユーズ)」

 

 

 二人の言葉が同時に紡がれた瞬間、青紫の結界と、赤紫の領域が真っ向から衝突した。

 荒野の境界線は真っ二つへと引き裂かれる。だが、反発するはずの二つの光は、お互いの波長を狂わせることなく、驚くほど滑らかに混ざり合っていった。

 

 青と赤の融合、深く美しい『深紫(ディープパープル)』の光が空間を染め上げていく。

 幻想的な、いや神秘的とも言える光景のなか、二人は互いから一切目を離すことなく、狂おしいほどの喜びを携えた視線を交差させ続けていた。

 

 世界の動きが止まるほどの、圧倒的な「溜め」の静寂。

 

 見つめ合ったまま、シャドウがゆっくりと右腕を上空へと掲げ、漆黒の刃で虚空にくるりと美しい円を描く。それと完全に同期するように、青年は胸の前で交差させた二丁の銃口を、パチィィン!と激しく噛み合わせた。

 

 そして、二人の唇が動く。

 

 

 

 

「「――『 Atomic 』(アトミック) / 『 Nuclear 』(ニュークリア)」」

 

 

 

 

 ――カッ、と世界が真っ白な光に染まり、一切の音が消失した。

 

 爆音すら置き去りにする、完全なる静寂の激突。

 あまりの熱量と魔力の飽和により、空間そのものが数秒間、完全に静止したかのような錯覚さえ覚える。

 

 やがて、白光がゆっくりと荒野の闇へと溶けて消え去っていく。

 七陰たちが恐る恐る目を開けたとき、あとに残されていたのは、驚くべきことに傷一つなく、先ほどと同じ距離で静かに佇む二人の姿だった。

 

 青年の手の中にあった銃が、カチャ、カチャと音を立てて分解されながら地面へと落ちていく。そのバラバラになったパーツは、地面に落ちるよりも早く、青年の赤紫の魔力に引かれてロングコートの中へと滑らかに収納されていった。

 

「ははっ、 『俺が核』 ねぇ」

 

 青年は手元を空にしたまま、フードの奥のシャドウを見据えてにこやかに笑う。

 

「ふっ、 『核を使う』 か。 ならば、我をも使いこなすと?」

 

 漆黒の刀身をマントの残光と共に滑らかに収めながら、シャドウが挑発とも愉悦とも取れる口調で問いかける。

 

「う~ん……取扱注意だねぇ」

 

 青年は糸目の奥で、小さく肩をすくめてみせた。

 

 しばしの沈黙。

 お互いにそれ以上言葉を重ねることはせず、ただ荒野の夜風だけが二人の間を通り抜けていく。

 

「じゃぁ、またね」

 

 青年はそれだけ告げると、変わらず飄々とした足取りのまま、夜闇の向こうへと無造作に歩み去っていった。シャドウもまた、無言のままそれを追うことはせず、逆の方向へとマントを翻して悠然と立ち去る。

 

 互いに背を向けたまま、一切振り返ることもない。

 あれだけの死闘を演じた二人が、その胸中に何を想うのか。それを知る者は、広大な荒野の夜風以外に誰もいない。

 

 

 (うわ、やっば。何なのあれ!?)

 

 漆黒のマントを翻し、平静を装って歩くシャドウの姿はいつもと変わらない。だが、そのフードの奥で、シドの興奮はとっくに限界を突破していた。

 

 (剣からの銃って、え?第二形態? 分かってんじゃん! あの盗賊のボスのボス……裏ボス君かな? あんな人もいるんだね〜。ってか、銃だよ銃! 何かどこかで見た事ある銃だったけど、この世界にあのタイプの銃ってあったっけ? 僕が知らないだけかな?)

 

歩みを進めながらも、シドの脳内設定は猛スピードで今日の出来事を整理していく。

 

(それに『核』って意味を分かってたよね? んん〜、ひょっとして……。いや、アルファが用意した掘り出し物の劇団員君という線もあるか? ――いや、流石にないか?)

 

(それにしても、やっぱり『核で蒸発しないためには、己自身が核となる』っていう僕の理論は間違ってなかったんだ! 僕は正しかったんだっ!! ありがとう、裏ボス君!!!)

 

 珍しく何かがひっかかり真面目に考えるシドだったが、結局のところ、楽しければ全てよし。

 自分を引き立ててくれた最高の『裏ボス君の演出』への満足感を胸に、悠然と夜の闇へと消えていく。

 そんな主の胸の内など露知らず、配下の少女たちは、主と同格の力を持つ『深紫の脅威』の出現に、ただただ戦慄に身を震わせるのだった――。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ふわぁ……今日のモブ活は70点ってとこかな。昨日の今日で流石に疲れが残ってた感じだしね」

 

 翌日、本日のモブ業務を終え、ミドガル魔剣士学園の寮にある自室へと帰ってきたシド。

 少し気怠そうにドアを開けて中に入る。

 

「ただいまー」

 

 誰も居ないのは分かっている。だが、染みついた習慣というのは中々とれないものである。返事がないことは分かっていても、つい口から出てしまうのだ。

 

「おかえり~」

 

「…………えっ?」

 

 後ろ手にドアの鍵をかけようとしていた手が、ピタリと止まる。

 顔を上げ、部屋の中を見たシドの視線は、自分のベッドの上でピタリと止まった。

 

 そこには、シドのベッドに寝転がり、まぐろなるどの袋を頭元に置いて、オニオンリングを摘みながら読書をしている昨夜の青年の姿があった。

 青年は本から視線を外すと、そのにこやかな顔に、どこか悪戯っぽい色を滲ませた声で一言。

 

「きちゃった」

 

「ええええええええええええーーーーーーーーーーっ!?!?!?」

 






ここまでお読みいただきありがとうございます。
『類は友をよびたくて!』第1話は、これで完結となります。

当初は自分の脳内で再生されたアニメのクライマックスシーンを言語化したく、AIさんに相談しながら作ってみようという試みでした。それがまさかの1万文字を超える小説という形になり、普通に驚いています。

戦闘シーンばかりになってしまいましたが、次回は雰囲気の違うお話を書いてみたいと思います。

今回のお話が気に入っていただけましたら、次回もぜひ楽しんでください。

「じゃぁ、またね」


◆◆◆


まだ投稿に不慣れなため、引き続き設定タグの募集をしています。「これが必須タグだよ」「このタグが良いんじゃない?」といったアイデアがありましたら、ぜひお気軽に教えてください。よろしくお願いします!
「糸目」は、AIさんに提案されたので追加しました(笑)
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