精神世界に昼夜というものはない。常に明かりがついている状態だ。白い壁や床、地面や空が適度に世界を照らしているという表現が一番近いだろう。
それゆえに、肉体世界の成分が強めの快にとっては、体内時計のリズムが崩れて体調不良になりやすい。
この時快は、食事を摂るために自力で食料を生成していた。生成したのは、肉体世界に存在していた既製品のインスタントゼリー飲料であった。味の考慮をしていなかったため、記憶にあったグレープ味が薄味で再現されている。
「ゴミも消失させれば問題ないのか……」
そんなことを呟きながら、快は飲み切ったゼリー飲料を消失させる。すると、どこからともなく眠気がやってきた。今は椅子に座っているためまだ意識を保てるが、気を抜けば睡魔に襲われるだろう。かつて肉体世界で就労していた時に、これで何度かやらかしている。
だがここは精神世界。特に働くこともない、自由な世界だ。このまま寝落ちしても問題はないだろう。
そんなことを思いながら、何度か首を振る快。それを見てミリシアルは快の状態を察したようだ。
「カイ、眠い?」
「え、まぁ、眠いです……」
「椅子で寝ちゃうと体に悪影響が出るかもしれないから、ベッドで寝たほうがいいと思うよ」
「確かに……。じゃあベッドで寝ようかな……」
そういって立ち上がる快。そしてリビングを出ようとするが、そこで立ち止まった。後ろからミリシアルが付いてきていたからだ。
「あの……」
「カイが寝るなら、一緒に寝ようかなって思って」
「あぁ……。ん? 一緒に?」
「うん、一緒に」
そうしてミリシアルは快のいるベッドに入ってきた。
「ちょちょちょ、これは……!?」
「寝れない? カイが安心すると思ったんだけどなー」
「安心するとかそういうの以前の問題じゃありません……!?」
困惑する快をよそに、ミリシアルはススス……と快の方へと接近する。
これは覚悟を決めるほかないようだ。
だが、その接近はすんでのところで止まる。
「ねぇ、カイ。いつまで敬語なの?」
「え、あー……」
急に言葉に詰まる疑問を投げかけてくるミリシアル。
「なんとなく……?」
「なんとなく?」
「うん、なんとなく……」
「なんとなくかぁ……」
ミリシアルは少し考え、そして快に抱きつく。
「それじゃあ、今から敬語禁止!」
「えぇ!?」
「ほらほらー。私のこと、名前で呼んでみて?」
「え、えーと……」
快は恥ずかしくなりながらも、腹をくくった。
「み、ミリシアル……」
「はい、よくできましたー」
そういってミリシアルはニコニコしながら、快の頭を撫でる。
「そ、そういうのは……」
「嫌い?」
「……どうだろう、経験がないから……」
「それじゃあ、これから沢山のことを経験できるね」
「う、うーん……」
そんなことを言っていると、ミリシアルが人差し指を立ててクルンと空中で円を描く。すると、部屋の中が薄暗くなる。これも精神世界の法則によるものなのだろう。
「おやすみ、カイ」
ミリシアルは、快の顔に近づいて、彼の頬にキスをした。
快が状況を把握するのに、1分はかかった。
「んんん……!」
快は経験したことのないことを立て続けに経験したことによる興奮で、すぐには寝付けなかった。