ソードアート・オンライン~死神の背を追う蒼炎~ 作:畜生ペンギン
「フィリア!」
「任せて!」
あの後、ホロウ・エリアを進む2人は、いがみ合いながらも随所で連携を挟み、着実に道中を進んでいた。
「ありがとう。腕がある子と進むと違うな。」
「やるじゃない。てっきり追っかけしてるだけの雑魚かと思ったけど、それなら死神にも勝てるんじゃない?」
確かに、シンはレベルだけで考えれば上位層だ。
だが、シン自身はそう思っていなかった。
死神にあって自分に無いもの。
それは、死んでも誰かを守るという覚悟だと考えていたからだ。
「・・・・・・これで勝てるわけが無い・・・・・・黒の剣士に閃光、絶剣だって、あの人が本気でやり合えば死神が勝つ。それ程に別格な男だ。こんなビビりの俺が勝てる?夢物語だ。」
「そんなに強いのね、その人。ところで、シンのその武器見たこと無いわね。イージスって言ったっけ。」
「あぁ・・・こいつは見ての通りで、見てくれは凡庸だ。でも、良い名前だろ。イージスって、ギリシャ神話の盾だ。」
「それで?」
「いや・・・俺はビビりだからさ。なんか守ってくれそうだなと思って、俺はずっとイージスとここまで来たんだ。」
シンは苦笑しながら、イージスへと視線を落とした。
真紅に染まる刀身には、彼の悔しそうな顔が映っていた。
「ビビりなんだ。あんな敵に勝ったのに。」
「そりゃそうだ・・・負けたら死ぬんだぜ・・・そんな勇猛果敢に戦えるのは人間超えてるよ・・・それよりフィリア、君はどうやってここに来たんだ?」
「私は唐突に転送されたの。シンは?」
「俺も一緒だ。76層歩いてたら唐突にな。」
「じゃあ唯一違うとしたら、その手の紋章ね。」
フィリアに指さされた手を、シンは改めて見つめる。
そこには、黄色い光を灯す紋章が浮かんでいた。
「フィリアにはないのか?」
「無い。そんなの付けたプレイヤーに遭遇したのも初めてよ。」
「え?そうなるとフィリア以外にも誰かいるのか?」
「えぇ、でもおかしいの。その人。」
「どうおかしいんだ?」
「説明するのが難しい。案内するから、その目で確かめて。」
「分かった。引き続きエスコート頼む、フィリ・・・」
2人が改めて先へ進もうとしたところで、再びアナウンスが流れた。
『規定時間到達。これよりテストを開始します。』
「な、なんだ?テストって言ったか?」
「そ、そうみたいね。」
「つまりこのダンジョン突破しろってことか・・・怖えけど、ビビってちゃあの世の死神に馬鹿にされる!!フィリア!一緒にさっさとテストとやら終わらせようぜ!」
シンは震えそうになる自分を奮い立たせるように頬を叩き、己を鼓舞した。
「はいはい。悔しいけど、あんたと戦うの相性いい気がするから付き合ってやるわよ、シン。」
「おし!行くぞフィリア!」
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「シン!トドメを!」
「引き受けた!」
テストとして提示されたクエストを進め、その先に待ち受けていた斧を持つ中型のモンスターを、シンのイージスが切り裂いた。
モンスターはその命を散らし、光となって消えていく。
『クリア確認並び、承認フェイズ終了。』
「承認フェイズ?なんだそれフィリア。」
「知らないわよ。でもなんなのかしら、このアナウンス。」
「さぁな。でも、これだけ聞くと1つの仮説はあるな。」
「何よそれ。」
「例えばなんだけど、ここが"テストマップ"みたいな。」
「テスト?」
「そう。他のゲームでもバグらせると開発マップに行けたりするだろ?実はこのホロウ・エリアがそれ・・・・・・って、考えすぎかな。」
「もしそれが正解だとしたら、私も"トレジャーハンター"から足を洗わないとね。」
「トレジャーハンター?」
「えぇ、自称だけどね。あんたは自称攻略組、私は自称トレジャーハンター。」
「俺は自称じゃねぇ!ちゃんと攻略組だ!」
「イージスに守ってもらってる癖に?」
フィリアのその言葉に言い返したかったシンだったが、図星だったため何も言えなかった。
「そ、それよりなんで君はトレジャーハンターに?」
「モンスター倒したりして皆を生還に導くより、こっちの方が性に合うのよ。ダンジョンのお宝って、時には有効な物も多いし。」
「でも危険じゃないのか?ソロ戦闘なんて・・・」
「トラップ対策、索敵スキル、どっちもマスタークラスよ。1人でも生きていける術は整ってるわ。」
「凄いな・・・」
「特に得意なのは鍵開けよ。私に開けられない宝箱は無いわ。」
得意げに語るフィリア。
その姿を見て、シンは初めて彼女にも年相応の女の子らしい一面があるのだと思った。
「へぇ、そんな顔もできるんだフィリアって。」
「はぁ?バカにしてるつもり?」
「そんなんじゃない。ほら、行こうぜ。」
「誤魔化すなこのバカシン!」
「じゃあ素直に可愛いフィリアと一緒にいれて嬉しいといえば満足か?」
「それもウザイ!この死神キモ男!」
「うるせぇこの自称ハンター!」
その後も2人は言い合いながら道中を進み、フィリアが目指していた場所へと到着した。
そこにあったのは、回路結晶を大きくしたような物。
その表面には、シンの手に浮かぶ紋章と同じ模様が刻まれていた。
「ほら、あんたの紋章とそっくりでしょこれ。」
「ほんとだ。これどこに繋がってるんだ?」
「多分アレよ。」
そう言ってフィリアが指さしたのは、ホロウ・エリアの中心にあるコアのような物だった。
「コアの入口って感じかな。よし、行ってみるか。」
「私もついて行っていい?」
「君がいなかったら俺は死んでただろうしな。一緒に行こうフィリア。」
「うん。」
こうしてシンはフィリアと共に、コアへと転移した。
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転移先は、コンソールやマップが並ぶ、それこそシンが言っていたテストマップの運営室のような場所だった。
「どうやらここは圏内のようだな。フィリア、ここがあのコアの中?」
「分からないけど、多分そうなんじゃないかしら。」
シンは目の前にあるコンソールへ触れてみた。
そこには、様々なデータが内蔵されていた。
「なんだこれ・・・とりあえず分かったのは、ここは"管理区"って名前らしいな。」
『アクセス権限者の確認。管理区への転移オブジェクト、解放。』
「転移オブジェってことは、あれがそうなんだろうな。フィリア、そっちはなにか分かったか?」
「うん、こっち来てシン。」
フィリアに呼ばれたシンが目にしたのは、転移門によく似た物だった。
「おっ!転移門じゃないか!やったなフィリア!一緒に帰れるぞ!」
喜ぶシンだったが、何故か彼女は浮かない顔をしていた。
「フィリア?一緒に行かないのか?」
「・・・・・・いい。シンだけでも帰りなよ。さよなら、なんだかんだ楽しかったわ。」
「フィリア・・・・・・ったく、トレジャーハンターの血が騒いでるんだろうけど、また戻ってくる。約束だ。」
「はぁ?余計なお世話・・・・・・でもないわね、分かった。楽しみにせず待つことにするわ。どうせアンタのそれも、死神がやってるからでしょ?」
「違う。一緒に戦った仲間だぞ?俺はそういうのには情が湧くんだ。死神もどうかは知らないが、これはシンとしての気持ちだ。」
「ったく、自分があるのか無いのか、ハッキリしなさいよね。バカシン。」
「頑張るよ。じゃあフィリア、また。」
「えぇ、来る時はメッセ飛ばして。」
シンはフィリアに手を振りながら転移し、元の世界へと帰っていった。
シンが去った後、一人残されたフィリアも転移を試した。
『システムエラー。ホロウ・エリアからの転送不可。』
それは、フィリアがホロウ・エリアから脱出できないことを意味していた。
「・・・・・・なんなの・・・・・・私って・・・・・・」
彼女は、自分自身が本当にフィリアなのかどうかすら確信を持てなかった。
更に言えば、管理区にはシンが去った今、彼女しかいないはずなのに、何故かフィリアは誰かの視線を感じていた。
だが、この1ヶ月間ずっと気を張り続けてきたせいだと思い込むことにした。
そして言葉通り、シンが戻ってくることを期待せずに待つことにしたのだった。
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シンが76層に帰還した頃、時刻は夜23時。
それでもシンは、即座に先日死神の仲間達が集っていた宿屋へ向かった。
2、3度ノックしてから戸を開けると、そこにいたのはマスターのエギルだけだった。
「遅いぞ。お前の為に店は開けてたんだ。"シン"。」
「っ・・・何故俺の名を・・・?」
「ボス戦で何度か見かけた顔だったんでな。赤い髪の男はそうそういない。嫌でも印象に残る。注文は?」
「・・・・・・ドリンク1杯と、死神の真相だ。」
カウンターに手を置いた瞬間、シンは指先に刺すような痛みを感じた。
視線を移すと、カウンターの一部が壊れている。
「昨日ショウがな。近々治すが・・・いや、治さないでもいいかもしれないな。アイツが居なくなった証だ。」
「なぁエギルのおっさん、死神はどうしたんだ。」
「・・・・・・行っちまったよ、自分が送る筈の冥府にな。」
「じゃあ本当に・・・」
「昨日、ラスボスと戦ったアイツは原因不明の異空間に飲み込まれた。絶剣がその手を離さないよう、俺達も協力したが、死神は掴まれていた自分の腕を切って、俺達の前から姿を消した。」
「それだけならまだ生きてる可能性も・・・!」
「第1層に死者が確認できる場所がある。そこにアイツの名は消されていたそうだ。写真もある。」
エギルが手渡した写真には、確かに死神の名が刻まれていたはずの場所から、その名だけが消えている様子が写っていた。
まるで、最初からそこには何も刻まれていなかったかのように。
「・・・・・・俺・・・・・・死神に憧れてたんだ・・・・・・いつかあの人を超える・・・・・・ずっとそう思って・・・・・・」
「なら安心しろ。アイツはお前の傍にいるさ。」
「な、何言ってんだよ。死人だぞ?」
「でも、アイツなら俺達の傍で見守ってくれる・・・なんて言うのは、おっさんの戯言か?」
エギルは苦笑しながら、死神はまだ自分達の傍にいるのだと信じていることを語った。
その表情には、普段の彼からは想像もつかないほど深い悲しみが滲んでいた。
「シン、死神を超えたいならお前も76層攻略に力を貸せ。死神が倒れ、絶剣も頼りになれない今、戦力ダウンは明白だ。」
「・・・・・・そうだな・・・・・・死神なら絶対こんな場面でも立ち上がるよな・・・・・・!」
シンはそう言って、カウンターの椅子が倒れる勢いで立ち上がった。
「俺は超える!死神を!次の英雄譚に名を刻むのは俺だ!」
「そうか、当てにはしないが期待してるぞ、シン。」
エギルの大きな手が、シンの肩に乗る。
だが、その手が僅かに震えていたことに、シンは気づけなかった。
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シンがエギルの話を聞いていた同時刻。
ユウキは2階の部屋で、布団に包まっていた。
「ね、ねぇお母さん・・・?」
「・・・・・・どうしたの・・・・・・ユキ・・・・・・」
「あ、あのね、ユキ、お父さんからあるものを託されてたの・・・・・・『俺に何かあったらお母さんにこれを』って・・・・・・」
ユウキはユキのその言葉を聞き、布団を捲った。
ユキが持っていたのは、一通の手紙だった。
ユウキがそれを受け取ると、手紙はアイテム化され、開封すると2つのアイテムが現れた。
「これは・・・・・・記録結晶・・・・・・?」
不思議に思ったユウキが記録結晶のスタートボタンを押すと、映像が再生された。
『あーええっと、これでいいのかユキ?あ、もう始まってる?よっ、ユウキ。』
映し出されたのは、もう二度と会えないはずの男。
死神、テツヤだった。
それを見たユウキは、息を詰まらせた。
「っ・・・・・・テツヤ・・・・・・!?」
『なんかがあった時のためにこれを残す。これ見てるってことはユキから渡されて、俺は死んじまったんだろうな。』
記録越しではあるが、生前の彼は照れくさそうに頬をかいていた。
『多分お前のことだ、俺が死んで塞ぎ込んでんだろ?お見通しだぞ?この甘ったれ。』
『だからこそ伝えたい。ユウキ、生きろ。お前だけでも生還するんだ。そして、俺が生きていたことを忘れないでいて欲しい。絶対に攻略を辞めるなんてことするなよ。』
先程まで笑っていたテツヤは、今度は真剣な表情で語る。
ユウキは、その言葉を一言一句聞き逃さなかった。
『でも、お前はいま塞ぎ込んでる。そこで、リズに頼んで"ある物"を作って貰った。有り金全部叩いて相当性能つぎ込んだ。でも、多分"俺"の様には行かないだろうし、慣れるまで時間かかると思う。だけどお前なら使いこなせるさ。絶対無敵の剣技、絶剣のお前ならな。』
『だからこれだけ約束しろ。死のうとするな、生きろ。死んでこっちに来たって抱きしめてやらねぇからな、寧ろ追い返す。まぁでも俺は死神だ。多分行先は地獄だろうから、死んでも会えねぇだろうから、本当に今生の別れだ。』
「っ・・・・・・」
『後は・・・・・・あ!そうだ!お前、俺忘れても良いけど、絶対俺が認める男と付き合えよ!?金だけありそうなクズとか変な爺に引っかかってみろ!?お前のこと地獄に引きずり下ろすからな!?ショウでも許さん!!クラインなんかと付き合ってみろ!?俺はあの世で自殺するからな!?』
テツヤは焦った表情で画面に向けて指を差していたが、それを終えると、かつて見たことのないほど大人びた、優しい笑みを浮かべた。
『こんなとこだ!ユウキ、俺はお前を守れて死ねたかな。それなら良いんだ。寧ろ、ユウキと関係ない変なところで死んだなら謝る。ごめん。』
『そろそろ録音も限界だ、最後にこれだけ言わせて欲しい。』
テツヤの言う通り、記録結晶の映像が途切れ途切れになり始める。
それでも既に、ユウキの瞳に浮かぶ涙のせいで、彼の姿はほとんど見えなくなっていた。
『愛してる。さよなら、ユウキ。』
そう言い残し、テツヤが画面へ近寄る。
何かを押す音と共に、記録は終わりを告げた。
ただ、記録を終了させただけ。
それなのにユウキには、それがテツヤからの最後の抱擁のように感じられ、大粒の涙を流していた。
「てつ・・・テツヤ・・・ボクも・・・ボクも大好き・・・絶対・・・絶対テツヤのこと忘れない・・・!」
「ねぇお母さん・・・お父さんの言ってた物ってなんなの・・・?」
ユキのその一言で、ユウキは残されたもう1つのアイテムを改めて確認した。
そこにあったのは、彼が生前、愛する彼女へと遺した最後の遺産だった。
ホロウ・エリアから一時帰還したシンは、エギルから死神の辿った末路を聞く。
シンの目標である死神越えを成すことはできるのか。
そして、死神がユウキに送った物とは一体。
次回もお楽しみに!