ソードアート・オンライン~死神の背を追う蒼炎~   作:畜生ペンギン

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第6話 遠すぎる背中

「よっしゃ!今日はいよいよボス攻略だ!シン、飯たらふく食ってきたか?」

 

「あ、あぁ・・・それなりに・・・」

 

「んだよおめぇ、シケたツラしやがって!テツヤはこんな時でもキリッとした目でユウキちゃん見て、鼻の下伸ばしてたんだぞ!」

 

傍から見れば、死神を貶しているようにしか聞こえない。

 

だが、朝からどこか遠い目をしているシンに気づいた、クラインなりの励ましだった。

 

「あんたとテツヤを一緒にすな。この髭侍。」

 

「な、なんだよ、事実だろうが!」

 

「て、テツヤ君も流石にボス戦前はそんなことしてなかったような・・・」

 

「つうことはボス戦以外では鼻の下びろんびろんのスケベってことじゃないすかアスナさん!なぁそうだろキリト!?」

 

「さぁな。それより、そんなこと言ってると・・・」

 

クラインの背後から、ショウが静かに近づく。

 

次の瞬間、クラインの首には腕が回され、強烈なヘッドロックが決まっていた。

 

「テメェいい加減にしねぇと、テツヤへの供物にすんぞ・・・・・・!!!!!」

 

「お、お前そんなアイツに対して情熱的だったか・・・!?」

 

ボス戦前の、そんな賑やかな時間。

 

周囲が楽しそうにしている中でも、シンだけはまだ笑えずにいた。

 

『シンはシンらしく、テツヤを超えてくれ。』

 

昨夜キリトに言われたその一言が、ずっと頭から離れない。

 

「あ、あの、シン君?大丈夫?」

 

「あ、あぁ。大丈夫だよ・・・」

 

アスナからの問いかけにも、シンは空返事で答える。

 

だが、もう時間は待ってくれない。

 

シンはここで見つけるしかなかった。

 

自分なりの、死神の超え方を。

 

「・・・・・・今は死神を模倣する・・・・・・それしか俺に明日は来ない・・・・・・!」

 

そう決意し、気合いを入れようとしたシンだったが、その時、何者かにぶつかった。

 

「あ、すいま・・・って、あ、あんた・・・!?」

 

シンがぶつかった人物。

 

それは、この場にいるはずのないユウキだった。

 

「ゆ、ユウキ!?な、なんでここに!?」

 

「ボクがいちゃ悪いの、キリト。」

 

「そ、そういう訳では・・・」

 

「・・・・・・"閃光"、ボクが1人で前衛やる。後は皆下がらせろ。」

 

閃光。

 

それはアスナの二つ名だ。

 

名前すら呼ばれなかったことで、アスナは嫌でも思い知らされた。

 

もう、以前のユウキには戻れないのかもしれないと。

 

「で、でも・・・」

 

アスナが何かを言おうとするが、ユウキは答えない。

 

ただ無言でアイテム欄を開き、ある装備を身につけた。

 

それは、あの日の晩に死神から託された遺品だった。

 

「っ・・・・・・ゆ、ユウキそれ・・・・・・」

 

真っ先に反応したのは、リズベットだった。

 

ユウキが纏ったのは、死神が本気で戦う時にのみ身につけていた黒いロングコート。

 

足元には草鞋。

 

そして手には、黒い刀身に卍型の鍔、柄頭に鎖の付いた刀が握られていた。

 

「リズ・・・・・・テツヤになんて言われたの・・・・・・これ依頼された時・・・・・・」

 

「と、とにかく俺みたいにしろって・・・装備時にスピードを極限まで上げられるようにしろって言うのと、ユウキが持てるように重さも軽くしたわ。後、その防具自体も軽量化を図ってある。でも・・・軽すぎるでしょ、その防具。」

 

「お陰様でね。ピーキー過ぎるよ。ボクじゃないと扱えない。」

 

そう言ったユウキは、周囲を鋭い目で睨みつけると宣言した。

 

「ボクは今日からもう、絶剣の名は捨てる。今日からボクが"死神"だ。」

 

「なっ・・・絶剣が死神・・・!?」

 

その言葉を聞いたシンは、納得できなかった。

 

確かにユウキは強い。

 

それでもシンにとって、《死神》と呼べる存在はただ1人だけだった。

 

そう思うと、無意識にユウキを睨んでしまう。

 

「誰、こいつ。」

 

「お、俺はシン。何時か・・・死神を超える。」

 

シンが名乗ろうとした瞬間、ユウキは目にも止まらぬ速さで彼の胸ぐらを掴んでいた。

 

「死神を超える・・・?ボクのテツヤを・・・?そうさせない為にボクが死神になるんだ。死神を超えたいなら、ボクを超えてからにしろ。」

 

「それを今日証明するために俺はここにいるんだ!!!」

 

「勝手にして。でも、足引っ張ったら容赦しないから。」

 

ユウキはそう言うと、シンから手を離した。

 

よろめいた彼を支えたのは、リズベットだった。

 

「すまない・・・な、なぁ、絶剣ってあんな怖い女だったのか・・・・・・?」

 

「違うわよ・・・もっとユウキは明るくて、誰にでも優しくて・・・テツヤが大好きで・・・アスナの・・・!」

 

シンに語るうち、リズベットの瞳から涙が零れた。

 

アスナだけではない。

 

リズベットもまた、今のユウキを目の当たりにして、もう以前の彼女ではないのだと実感していた。

 

ユウキは虚空を睨み、誰に語るでもなく告げる。

 

「さぁ行こうよ・・・・・・ボスを殺しに・・・・・・!」

 

シンにはその言葉が、かつて本物の死神が告げていた処刑宣告のように聞こえた。

 

~~~~~~~~~~

 

76層のボスは、一つ目が不気味な《The Ghastlygaze》。

 

無数の触手を振るう、厄介な相手だった。

 

だが、その戦場でユウキだけが異彩を放っていた。

 

「ど・・・どういうことだよ・・・これ・・・」

 

本物の死神とまでは言わない。

 

それでも、一度瞬きをしただけでユウキは敵の反対側へと回り込んでいる。

 

シンには、人間離れした動きにしか見えなかった。

 

「あ・・・あれが死神・・・!?」

 

「・・・・・・いや違う。シン、前も言ったが真似はするな。お前はお前だ。」

 

キリトの言葉が耳に入る。

 

だが、初めて目の当たりにした二代目死神の戦闘は、味方であるにも関わらずシンを恐怖に陥れていた。

 

足が震える。

 

呼吸が浅く、速くなる。

 

一歩踏み出そうとしても、まるで足に糸が絡みついているかのように重い。

 

怖い。

 

シンの深層心理に刻み込まれた恐怖が、一気に湧き出していた。

 

「お、おいシン!?」

 

「ぇ・・・・・・」

 

キリトの声に反応が遅れた。

 

その瞬間、シンは敵の触手に掴まれ、そのまま勢いよく放り投げられた。

 

落下したシンを、後方支援をしていたシノンが支える。

 

「大丈夫。まだ体力はある。」

 

シノンはそう言いながらポーションを差し出した。

 

だが、シンは震える手でそれを掴むことすら出来なかった。

 

「シン・・・貴方・・・」

 

「駄目だ・・・怖いんだ・・・死にたくねぇ・・・!」

 

そこにいたのは、英雄を超えると豪語していた少年ではない。

 

ただ死を恐れる、1人の人間としてのシンだった。

 

その後、シンに活躍の場は訪れなかった。

 

戦いは終始ユウキのペースで進み、ラストアタックすら彼女の手に渡る。

 

そして、ボスのHPは尽きた。

 

76層攻略完了。

 

そのはずだった。

 

だが、誰も喜ぼうとはしなかった。

 

1人俯いているシンの元へ、何者かが近づいてくる。

 

次の瞬間、シンは強く蹴り飛ばされた。

 

「・・・・・・死神を超える・・・・・・?二度とボクのテツヤを貶すな。雑魚。」

 

シンを蹴り飛ばしたユウキは、そのまま1人で次の77層へと向かっていった。

 

「ユウキ・・・・・・」

 

アスナの寂しそうな声が、ボス攻略後の静寂の中で嫌でも耳に入る。

 

それでも立ち上がれないシンを、無理やり引き起こしたのはショウだった。

 

「言ったよな・・・・・・俺はオレンジになる覚悟があるって・・・・・・テメェがテツヤを超える・・・・・・!?」

 

常日頃から死神を見てきたユウキとショウ。

 

そんな2人からすれば、死神を超えると豪語しておきながら、いざ戦闘になれば何も出来なかったシンへの怒りが収まらないのも無理はなかった。

 

「そんなに会いてぇなら会わせてやるよ・・・・・・テメェをあの世に送ってな!!!」

 

「や、やめろショウ!」

 

「落ち着いてショウ君!」

 

エギルとアスナが止めに入るが、ショウの怒りは収まらない。

 

「何でテメェが生きてテツヤが死ぬんだ・・・・・・答えろ!アァ!?テメェみてぇな口先だけの野郎が、テツヤの代わりにもテツヤを超えられる訳ねぇだろうが!」

 

「・・・知らねぇよ・・・俺はどうしろって言うんだ!?ずっとずっと死神に憧れて、あの人のように生きてきたのに、俺はキリトに言われたんだ!俺らしく死神を越えろと!どうしろってんだよ!?こんなビビりの男が、死神を模倣せず超えるなんて・・・!」

 

「模倣・・・!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、ショウは2人の静止を振り払い、シンの顔を思い切り殴りつけた。

 

「模倣してんなら、なんでビビってんだテメェ・・・テツヤはいつどんな時でもビビったことはねぇぞ・・・・・・!」

 

「も、もうやめなさいよショウ!」

 

「そうだ!シンだって悪気があった訳では・・・!」

 

シノンとレイも止めに入る。

 

だが、今のショウがそれで止まるはずもなかった。

 

「黙ってろ・・・俺とテツヤのこと知らねぇテメェらに、俺の気持ちが分かってたまるかよ・・・俺は・・・!」

 

ショウはそう言い残すと、ユウキの後を追うように1人で77層へと向かっていった。

 

シノンとレイに支えられ、シンはようやく身体を起こす。

 

だが、それすら今のシンには、

 

《死神なら、誰かに支えられなければ立てないなんてことはない》

 

そう思えてしまった。

 

シン=死神。

 

少なくとも今のシンには、それが途方もなく遠く感じられた。

 

追いつくどころか、同じ場所を目指すことすら烏滸がましい。

 

そう思ってしまうほどに。

 

~~~~~~~~~~

 

77層をアクティベートしてから数時間。

 

シンは1人、76層のフィールドで打ちひしがれていた。

 

死神を超える。

 

死神のようになる。

 

そのために、俺は模倣する。

 

そんな考えは、たった1日で全て崩れ去った。

 

「・・・・・・死神ってすげぇんだな・・・・・・やっぱ・・・・・・俺には無理なのかな・・・・・・イージス・・・・・・」

 

シンは自身の愛刀に語りかける。

 

だが、返ってくるのは静寂だけだった。

 

「怖い・・・・・・死にたくねぇ・・・・・・なんでアイツら平然としていられるんだよ・・・・・・しかも・・・・・・死神はそれを皆を・・・・・・絶剣1人の為に命を賭けた・・・・・・?」

 

考えれば考えるほど、自分との差ばかりが見えてくる。

 

思わず乾いた笑いが漏れた。

 

強いか?

 

守れるか?

 

守りたい人はいるか?

 

覚悟は?

 

死神には全部ある。

 

自分には、何一つない。

 

唯一勝っていると言えるのは、恐怖心だけ。

 

「・・・はっ・・・何が死神越えだよ・・・俺には・・・英雄なんてとても無理だ・・・」

 

「なんでそう思うの?」

 

「だって・・・・・・俺はビビりなんだぜ・・・・・・死神はビビっちゃいない・・・・・・」

 

「ううん、彼も怖がってたよ。」

 

「そう・・・・・・っ!?だ、誰だ!?ま、まさかイージス!?」

 

唐突に聞こえた声。

 

遂にイージスが答えてくれたのか。

 

一瞬そう思ったシンだったが、当然そんなはずはない。

 

顔を上げた先に立っていたのは、血盟騎士団副団長でも、《閃光》と呼ばれる剣士でもない。

 

ただ優しい瞳でシンを見つめる、1人の少女。

 

アスナだった。




76層のボス攻略戦は犠牲無しに終わった物の、肝心のシンは臆病が発揮され、何も出来ずに終わってしまった。

一人俯いていたシンの元へ赴いたアスナは、一体何を語るのか。

次回もお楽しみに!
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