ToLOVEるIF リトが主人公にならなかった世界 作:ヒアデス
「うーん、いいお湯だった~~♪ ちょっと狭かったけど」
そんなことより――
「裸のまま出てくるんじゃない。
「だってゴワゴワして気持ち悪そうなんだもん。ボタンついててめんどくさそうだし。ペケが来るまでこのままでいさせてよ」
勘弁してくれ。漫画じゃキャラの裸なんて見慣れてたけど、実際に見ると色と立体感があって刺激が強すぎる。今の俺にとってここは現実と大差ないんだ。
「っていうか、一緒に入ればよかったのに。この星のお風呂の入り方とかケンジのこととか教えてもらおうと思ったのに」
「そんなことできるかいっ!!」
当然、一緒にお風呂など入れるわけもなく、石鹼やリンスとシャンプーの場所やシャワーの使い方などをまくしたてるような早口と手振りで教えてすぐ風呂場から退散し、夕食作りの続きに取り掛かっていたのである。
原作リトの苦労が分かるぜ。あっちは原作と違って呑気に妹と飯でも食ってんだろうな。春菜への告白が成功して浮かれている兄と、「はいはいよかったね」と機械的に相槌を返してる
「……で、なんでうちに来た?」
説得に折れて渋々バスタオルを羽織る彼女に尋ねる。
本来ならリトの家の風呂場に現れるはずの彼女が、なんで俺の家の風呂に? という意味だったが、そこまで伝わるわけもなく――
「ああ、そういえばまだ自己紹介してなかったね。私はララ。デビルーク星からやって来たんだけど、追っ手から逃げるために『ぴょんぴょんワープくん』を使ったら、たまたまこのおうちのお風呂にワープしちゃったみたい」
そういえば、初期のそれは行き先の指定ができなかったな。服と一緒にワープできず、裸になってしまう欠点に比べれば目立たないが。
俺も内心も知らず、ララは小首を斜めに
「あれ? あんまり驚かないね。この星の人はデビルークや私たちのこと知らないはずだけど……もしかして今の話信じてない? じゃあこれ見てよ!」
恥じらいなど
「待て! バスタオルをまくるな! 宇宙人っていうのは信じる。突然のことに驚きも通り越しちまっただけだ。尻尾はさっきも見ちまったし」
何よりとっくに知ってるしな。
わからんのは、なんでララがこっちに来たのかということだ。原作と違ってリトと春菜がくっついちまったからか? もしくは
メカやSFに詳しくない俺にぱっと思いつく理由はその二つぐらいだ。
『ララさま~~!!』
独特な声とともに網戸が開かれ、変わった服を着た2等身の小人が飛んでくる。それを見てララが顔をほころばせた。
「ペケ、無事に脱出できたんだね!」
『ハイ。船が大気圏を出る前に何とか……あちらの方は? この星の人間のように見えますが』
白い頭をぐるりと動かし、渦巻き状の両目を向けながらペケが尋ねる。彼(?)の主であるララはうんと頷きながら答えた。
「この家に住んでる人だよ。たしかケンジだったよね?」
「ああ。
『これはどうも。ララ様の“コスチュームロボット”、ペケと申します。ララ様がお世話になったようで』
なにも聞かないのも不自然と思い尋ねる俺に、ペケはぺこりと頭を下げながら自己紹介してくる。原作リトに対するものと違ってちゃんとした対応だな。あっちのリトは下着姿だったうえ態度が悪かったからか。
「じゃあ体も乾いたし。ペケ、お願い!」
『了解シマシタ!』
などと考えている俺をよそに、ララはバスタオルを脱ぎ捨てながらペケに声をかけ、ペケも右手を上げながら応じる。
その直後、ペケは眩い光を放ちながら形を変えて主の体を包み――珍妙な衣装を着たララが視界に映る。
ララのデフォルト衣装だった『ドレスフォーム』か。懐かしいな。制服姿が多くなっていくにつれ無印でもほとんど見なくなる服だ。
「ところでケンジ、これからご飯? いい匂いするけどまだ食べないの?」
蓋を閉じたままの鍋を見ながらララが尋ねてくる。俺は窓をチラリと見――
「ああ。そろそろ飯にしたいのは山々なんだけど――」
そこまで言ったところで窓がバリンと割れ、外から黒スーツを着た二人組の大男が飛び込んでくる。二人ともサングラスをかけ、腰からはララと同じ悪魔状の尻尾が生えている。
ララがこっちに来たということは、当然こいつらも俺んとこに来るわな。
原作通りリトに押し付けるはずが、ララ関連の矛先が全部こっちに向かって来ちまってる。リトと春菜をくっつけたのは失敗か。
「困った御方だ。地球を離れるまでは手足を縛っておくべきだった」
「観光は十分楽しんだでしょう。いい加減に我々と一緒に来ていただきますよ」
物騒な言い方をしてるが、見合いが嫌になって飛び出した家出娘――もとい城出姫を連れ戻しに来ただけだろう。
「やだっ、放してよ!」
「
「お父上からも力づくでも連れ帰るよう言われています! 大人しくついてきてください」
ペケとあれこれ言い合っている間に腕を掴まれ、ララは男たちと揉めあいリビング中に埃が吹きすさぶ。
それを前にして――
「ちょっと待てあんたら!!」
声を荒げた瞬間、ララは「ケンジ?」と声を返し、男二人も怪訝そうに眉を顰める。
俺の記憶じゃ、この後ララがでかい掃除機もどきを取り出して黒服と主人公を吸い込んで爆発だからな。ギャグ補正が付いてるリトと違って俺が無事でいられる保証はないし、無事でいられても家まで吸い込まれたら今夜からホームレスになっちまう。
「地球人か。お前には関係ないことだ」
「ララ様とともにすぐに引き上げる。それまで大人しくしていろ」
「家の中荒らされて大人しくしていられるか。言い合いする前にせめて靴脱げ。この国じゃ靴脱いで上がるのが当たり前だ。ララだってそれぐらい守ってるぞ」
ララの足元を指さしながら指摘した瞬間、二人組はぐっと呻く。我儘姫より下に見られるのは不服らしい。
「それに人んちの窓割っておいてただで帰すと思うか。これ以上暴れたら、警察に通報して三人とも捕まえてもらわなきゃならなくなるが」
「ふん。我々が辺境の星の警察など恐れるとでも――」
「待てマウル。現地の星を巻き込むのはまずい。それにもし婚約者の誰かに嗅ぎつけられたら――」
金髪の男に制止され、黒髪の男が言葉と動きを止める。ToLOVEるの地球じゃ
「まずあんたらのボスを呼んでくれ。隊長とかでいいから。あんたらが割った窓の請求しなきゃならん。ララのこともそこで一緒に話し合えばいいだろう」
こいつらの後にはザスティンとかいう鎧男がいる。追い払うにしろ説得するにしろまとめて済ませた方が効率的だし、隊長が引き下がれば手下二人も諦めるしかあるまい。
「それまで二人とも靴を脱いで汚れた床や割れたガラスの掃除しててくれ。ララは何もせず大人しくしていること。さっきの話じゃなんとかワープは明日まで使えんみたいだし、このまま逃げてもこいつらかボスに捕まるだけだ」
「う、うん……」
ララは頷きと返事を返す。彼女と反対にマウルという黒髪の男はこちらにつかみかかる勢いで迫ってきて――
「ふざけるな。なんで我々がそんなことを――」
「嫌なら警察を呼ぶしかないな。誘拐未遂犯と身元不明の家出娘、どっちもすぐには解放されんし、ネットに流せば騒ぎになると思うが」
ララの腕を引っ張る二人を映したスマホを向けながら言うと、マウルはぐっとうめき声を漏らし、もう一人の金髪の男は「いつの間に」と呟く。まあさすがに顔を晒すのも悪いし、うちが特定される恐れもあるからネットに出す気はないがな。
再び金髪の男に説得され、マウルと金髪の男――後でブワッツと名乗った――は台所から取ってきた雑巾を手に床の掃除を始める。
ララは衣装に変形したペケとともに、呆気にとられながらそれを眺めるのみだった。
◇
「デビルーク星王室親衛隊の隊長、ザスティンという。まず部下たちの非礼はお詫びしよう。重ねて、我が星の姫がお世話になったことにも感謝する」
部下たちと違って玄関から入り、礼儀正しく名前と肩書を名乗るザスティンに感心しながら名乗り返す。こいつも対応と状況次第で変わるらしい。
鎧姿を目撃した通行人がうちを指しながらヒソヒソ話しているのを見て速攻後悔しかけたが、それは忘れることにしよう。
「しかし、姫――ララ・サタリン・デビルーク様は銀河を取り纏める『デビルーク星』の第一王女にあらせられ、婿殿を選ぶ重要な時期にある。返していただかねばこちらも困るのだ」
「パパが勝手に決めた婚約者とお見合いさせられてるだけでしょ! 次期デビルーク王に相応しい力と知性を兼ね備えた者をとか言っときながら、最近は変なのばかり連れてきてるし! どうせ私と結婚させた人に王様の仕事を押しつけて自分は遊び回る気だよ!」
「そんなことはありません! 陛下はララ様とデビルークのことを考えて――」
必死に否定してるザスティンには悪いけど、ララの言う通りなんだよなぁ。原作で明かされてるし、婚約者もまともなのがいないし。
最初はそれなりの相手を連れてきたんだろうが、破談になるたびに選ぶのも面倒になってああいう連中ばかりになったんだろう。
「じゃあ、私が誰かと結婚すればいいんだよね? お見合い相手の中から選べなんて言われてないし」
「えっ――それはまあ、ララ様が相手をお選びになったのなら、陛下もお妃様もお考えにはなると思いますが……」
ザスティンに尋ねてからララはくるりと体を反転させ、ぐいっと俺の腕を掴む。
えっ、まさか――ってこの子、見た目に反して力強いんですけど!
「私、ケンジと結婚する! で、地球でも結婚した夫婦は一緒に暮らす決まりになってるから、二人でこの家に暮らす。それなら文句ないでしょ?」
「――なっ!」
「「にぃ――!?」」
ザスティンと部下二人は口から素っ頓狂な声を上げ、俺も心の中で悲鳴を上げる。
いつのまにか原作リトとまったく同じ位置についちまってるじゃねえか! どこで選択を間違えた?
「待て待て! なんで俺と結婚する流れになってんだ? 俺は今日お前と会ったばかりだぞ! そもそも俺なんかにデビルークの王様なんかできねえよ!!」
「大丈夫大丈夫。結婚と言っても形だけで私を置いてくれるだけでいいから。いくらパパでもデビルークと関わりのない星に住んでる男の子をいきなり王になんてしないだろうし」
良かねえよ。そういうのを
「そうはいきません! “次期デビルーク王”とはデビルークと傘下にある数多の星々の頂点と立つ御方。このような軟弱な者に務まるとは思えません! 他の婚約者もすごすご引き下がるとは思えません!」
ザスティンは立ち上がりながら片手を懐に入れる。
まずいな。「ララ様に相応しいか私が確かめてやろう」みたいな流れだ。俺の身体能力じゃ一分もかからず膾切りだぞ。
「その言い方だと、ザスティンさんが勧めている婚約者とかいるんですか? もしくはザスティンさんも婚約者に入ってるとか」
「バ、バカな! 私如きがララ様の婚約者などと恐れ多い! ララ様の意に沿わぬ婚約を勧める気も毛頭ない!」
言い返した途端、ザスティンは殺気と剣らしきものを引っ込め、両手を振って否定する。
まあ原作でもザスティン自身が婚約者に名乗り出た事も、リト以外の婚約者に味方した事もないしな。
「それにさっきはああ言ったが、最近の婚約者候補は力も人徳もろくにない粗暴者ばかりで、私も疑問を覚えていないと言えば嘘になる。彼らに比べればケンジ殿は話も通じるしララ様も心を許しているようだし、確かに君の方がよほど…………」
ザスティンは顎に手を載せてぶつぶつ呟きながらじっと俺を見る。
あれ? 敵意がなくなった代わりに妙な期待が込められているような……。
俺は誤魔化すようにパンと手を叩き――。
「じゃあこうしよう! ララのお父さんも多忙なせいか婚約者を選ぶ余裕がなくなってるみたいだし、しばらく地球でララの婚約者に相応しい奴を探すというのは。それまでララもうちに泊めてもいい」
「えっ? ほんとにいいの!?」
ララが目を輝かせる。
このお姫様がまたどこかに逃げてザスティンたちや婚約者どもと騒ぎを起こせば、原作にはなかった事件も起こりかねんしな。
リトに押し付けるにせよ、婚約者問題の解決を待つにせよ、しばらく俺が見張っていた方がよさそうだ。
「その代わり、時々実家かザスティンさんたちに連絡する事が条件だ。ザスティンさんたちはどうだい? 何とかワープみたいな発明品使って逃げるお姫様追いかけ続けるより、ここに置いて様子を見に来たり見合い写真とか送る方が効率的だと思うけど」
「ふむ、確かに何度捕まえても発明品で逃げられたり酷い目に合わされて、いい加減落とし所を見つけたい所だったんだ」
悩ましそうに告げるザスティンの後ろから部下たちもこくこく頷く。こいつらも苦労してんなぁ。
「ララ様もそれでいいですね? ケンジ殿の元で婚約者を探すという事で陛下に報告させていただきますが」
「うんっ。っていうか今までの婚約者なんかより優しいし気楽に話せるし、ケンジとならほんとに結婚してもいいよって伝えておいて♪」
ララの一言にザスティンは笑みを返しながら頷き、部下二人も戸惑いながらザスティンの後ろに控える。
前世じゃ恋愛とは無縁だった俺が、こんな可愛い女の子に結婚していいと言われるとはねぇ。しかし、ここが“夢”である可能性とこれから起きるかもしれない騒動を思うと、素直に喜べない。
複雑に思いつつ、ようやく一息つけると安堵の息をつくザスティンたちに手のひらを上向けた右手を差し出した。
「一件落着したところで、そろそろ窓代払ってくれ。お姫様を窓のない不用心な家に泊めるわけにいかないだろう?」
◇
「ほう、じゃじゃ馬娘に懐かれた上にザスティンたちを口先だけで丸め込んだのか」
自身の数倍ほどの玉座に乗り、ワインの入ったグラスを揺らしながら逆立った黒髪の少年が聞き返す。
『はい、これ以上追いかけ回すよりこちらで婚約者探しをした方がいいと判断されまして』
投影型のモニターからブワッツは慎重に言葉を選びながら報告する。
それを聞いて、隣の席に座るヴェールで顔を隠した桃色髪の女性はほっと息をつく。
「ともかく、あの子が無事でよかったわ。ララを預かっている方はどんな方かしら?」
柔らかい声で尋ねられ、ブワッツはわずかに緊張が緩めながら答えた。
『“ツキジマケンジ”という地球の現地民です。打算的なところはありますが、姫様に危害を加えるような男ではなく、そのような力も持っていないと思われます。もちろん警戒はしていますが』
「いきなり家に現れたララを預かったり、ザスティンたちに交渉を持ちかけるか。ひ弱な地球人にしちゃあ大した肝の持ち主じゃねえか……面白え」
少年の一言に不穏なものを覚え、ブワッツと女性は彼に顔を向ける。
『えっ……』
「ちょっと……まさかあなた」
不安げに聞き返す臣下と妻に構わず、少年はぐいっと杯を傾けて中の酒を飲み干し、ニヤッと上機嫌そうに口を吊り上げながら「ザスティンに伝えろ」と告げた。
「ツキジマケンジという男をララの婚約者候補とする。他の婚約者を全て倒したら、そいつがララの夫――そして