ToLOVEるIF リトが主人公にならなかった世界 作:ヒアデス
「うん……ふぁ~っ」
生暖かい感触と香りにつられ、若干の眠気を残しながらも瞼を開ける。
それと同時に桃色髪の女の子の寝顔が視界一杯に映り、眠気など跡形もなく吹き飛んだ。
「ララ、何でここに!?」
「んっ……あっ、ケンジおはよ~」
『朝から騒がしい人デスねー。ふぁー』
目元をこするララに続いて、彼女の腰からペケまで起き上がってくる。ペケがロボ形態のまま寝転がっているため、当然ララはなにも着ておらず真っ裸のままだった。
おかしい。ララには母親の部屋をあてがって、そのうえ寝る前に鍵をかけておいたはず。
「だって地球じゃ結婚したら一緒に寝るものだって書いてあったし、ケンジママの部屋借りるのも悪いし」
「無断で俺の部屋に忍び込むのは悪くないのかよ? 結婚したんじゃなくて婚約者探しのために住まわせてるだけだし。そもそもどうやって入ってきたんだ?」
窓はちゃんと閉まって鍵もかかってる(ララが鍵をかけ直すなど殊勝なことするはずあるまい)、ドアの鍵も上述通りちゃんとかけて寝たはずだ。
「ああ、それはね~…………」
ララは得意げな笑みを浮かべながら、ベッドの傍に立てたサイドテーブルの上に置いた白い鍵を掲げた。身体ぐらい隠せっつうに。
「じゃ~ん! 『なんでもオープンくん』!! ドアだろうと金庫だろうと差すタイプならどんな鍵でも開けられるよ! ケンジの部屋に入ろうとしたら鍵がかかってたからその場で作ったんだ。これで鍵なんかに邪魔されずどこでもいっしょ――」
「ボッシュート」
すかさず鍵を取り上げた途端、ララは「なんで~?」と抗議するが――
「こんなもん使ったら不法侵入し放題だろうが! 地球のことを知らないお前に持たせたらまたハプニングになるのがオチだ。今度ザスティンさんが来た時に処理してもらう。――まっ、起きたんならちょうどいい。そのまま服を着て下りてきてくれ。約束通り朝の支度を手伝ってもらうから」
「あっうん。ペケ、お願い」
『ハイ、ララ様』という返事とともにペケが変形し、『ドレスフォーム』の形になる。
目を逸らして一足先に部屋を出ると、彼女たちも俺の後に続いてきてくれた。
◇
「ケンジー、洗濯物干し終わったよー!」
「ありがとう、意外に早かったな」
野菜を切り分けながらララに礼を返す。爆発や異音がしなかったから言いつけ通り発明品は使わずにいてくれたようだ。
ララは得意げな顔をしながら台所に姿を見せた。
「ペケに教わりながらやってたからね~。それが今日の朝ごはん?」
「いいや、学校に持っていく弁当だ。テーブルに乗ってる食パンと目玉焼きとサラダが朝飯。手伝いはいいから、リビングに持っていって先に食っててくれ」
「ええ~、ケンジも一緒に食べようよ。料理も手伝うからさ」
「遠慮する。朝は教える余裕がないからな。大人しく見学してくれ」
原作じゃ変な材料入れて、何日か寝込むほどの料理を出したからな。料理の仕方を教えるのは、夕食時か休日のような余裕がある時にしたい。
「ケンジ、毎日こんなことしてるの?」
「ああ、親は二人とも仕事で外国に行ってて、家事が上手い妹がいるわけでもないんでな。ここで暮らすんならララにも手伝ってもらわないと困る」
むさくるしくなるの覚悟でザスティンか手下二人に手伝ってもらうことも考えたが、三人とも家事は苦手と言ってたからなぁ。原作で三人が住んでいるアパートも汚れていた気がするし、あてにしない方がいい。
「妹か~。私は二人いるよ。動物と仲良しのナナと植物が好きなモモって双子♪ ケンジも妹ほしいの?」
ララの問いに図星を突かれた気分になる。
前世の頃から一人っ子だったのに加え漫画やアニメで可愛い妹を見たから、欲しいか欲しくないと言えば欲しいとは思う。妹持ちの友達から聞く限りそんないいものじゃないとのことだが。
「ほしいというか、いれば助かるとは思うな。学業に加え家事までやってるから自由な時間がなかなか取れん」
誤魔化し半分本音半分で答える俺をよそに、ララは「そっか」と呟きながら首を縦に振る。
ちょうどそこで二人分の弁当が出来た。
「待たせたな。じゃあ朝飯にするぞ。今日は早く出たいからお喋りは控えて早く食ってくれ」
「は~い! お外に出るんなら私もついて行っていい?」
手を上げながら尋ねるララの問いに、俺は食パンとサラダを載せた食器を持ち上げながら頷いた。
なお、念のため見直してみたら洗濯物の配置はメチャクチャで日が当たっていないわ、服同士が重なっているわ、袖や裾がぐちゃぐちゃになっているわで帰ったらやり直し確実だったが、家事を始めたばかりにしては上出来だろう。
◇
「でさ~、来週の日曜日、春菜ちゃんと水族館にデートに行こうって話になってさ~」
ヘラヘラしながらのたまうリトを前に、うんざりした気分になる。
こっちはお前の代わりにララ関連で頭を悩ませているというのに。しかし、今さらリトと春菜を引き裂いたりしたら何が起こるかわからん。
一方、猿山は興味深そうにリトに接近し――
「ほう。もちろん二人きりでだよな? デート初日からいきなり大人の階段上っちまう気じゃねえだろうな~?」
責めるような口調とは正反対のニヤケ顔で尋ねる猿山だが、リトは顔を赤くしながら片手を振り――
「い、いきなりそんなことするわけねえだろう! 二人きりじゃなくて美柑も一緒だし!」
「なんで~、妹も一緒かよ。せっかく彼女が出来たってのに、根性なしめ」
「いや、悪くないと思うぞ」
つまらなそうにため息をつく猿山とは逆に、賛同の声を上げると二人は軽く驚きながらこっちを見る。
「西連寺の性格を考えると向こうも初めてのデートで不安だろうし、リトがその気じゃないかと身構えててもおかしくない。だが友達や兄弟が一緒ならその心配もなく気楽にいける。妹を紹介して一緒に遊びに行くぐらいのつもりでいいんじゃないか。初日から攻めるつもりなら話は別だが」
「い、いや! 攻めるなんて――そ、そう! 月島の言う通り、最初は美柑の紹介と遊びに行くぐらいでいいよな!」
リトは両手をぶんぶん振りながら俺たち(と自分)に言い聞かせる。
初めてと言わず、当分は友達から進展しなさそうだな。
そこで予鈴とクラスから「席につきなさい!」との委員長の声が響き、俺はリトたちに別れを告げ、自分のクラスに戻った。
それからしばらくして担任も入ってきて、起立と礼をさせた後、戸惑いを隠せぬ口調で告げてきた。
「えー、突然ですが今日から転校生が入ってくることになりました。デビルークさん、入ってください」
担任が出入口を向きながら呼びかけた直後、「は~い」と間延びした返事が響き、彩南校の制服を着た長い桃色髪の女の子が入ってくる。
下手な芸能人が霞むほど整った容姿の美少女に、男子はもちろん女子たちも目を釘付けにする。頭に付いてる白い髪飾り(ペケ)と悪魔風の尻尾など目に入っていないようだ。
「ララ・サタリン・デビルークです。今日からこのガッコーに来ることになりました。あっ、ケンジ! ほんとにケンジも同じクラスだーー!! ガッコーでも一緒だねー!」
挨拶もそこそこに
「月島君、どういうこと? 転校生と知り合い!?」
委員長こと
「昨日、急にホームステイを引き受けることになってな。うちに泊まってもらってる」
「なんだ、ホームステイか。驚かせないでよね……」
古手川は胸に手を当て、ほっと息をつく。それにつられて他の同級生もなんだと零しながら体と顔を戻しかけた。
のだが……。
「ちょっと待って……月島君のご両親って海外に行って今はご不在じゃなかった? プリント届けに行った日にそう聞いたんだけど……」
古手川が顎に手を当て思い出したように呟いた瞬間、同級生たちはハッとこちらに体を向ける。担任もそういえばと目を見張った。
そんな中、ララはあっけらかんとした声で――
「うん! 昨日からケンジと私の二人で住んでるよ! おうちに来てすぐお風呂の入り方とか教えてもらってー」
ララが考えなしに言った瞬間、「なにーー!!」と声が上がる。さらに……
「ホームステイに来た外国の女の子と二人きりで住むことになって、そのうえ彼の家に来てすぐ一緒にお風呂? 月島君は真面目だと信じていたのに……は――ハレンチだわーーー!!」
クラスどころか学年中に古手川の悲鳴が響き渡る。それが原因で俺とララのことは学年中に広まり、昼休みには1年と3年にまで噂が届き、俺は釈明に追われつつララが余計な事を言わないように釘を刺し続ける日を送った。
そんなリスクを負ってララを入学させた理由はいくつかある。
一つはララとリトを引き合わせて原作に軸を戻すこと。このままララがリトに懐かなかったら、どんどん俺が知る原作から離れていってしまう。
二つ目は両親から預かっている現在の住処を守るため。あの発明娘を家に残したら帰ってきた時には家が要塞に魔改造されてしまう恐れがある。ブースター付けて宇宙まで飛べるようにされるとか平気でやりかねないんだよなぁ。
原作を知ってる諸兄は容易に想像がつくと思うが、ララの転入はあっさりうまくいった。
『ホームステイで預かることになった子をうちの学校に入れてやってくれませんか?』
『カワイイからOK!!』
『クラス? ケンジと同じとこがいい』
『カワイイからOK!!』
うむ。地の文がなくても誰が喋ってるのか分かるほどだ。この学校の女子の顔面偏差値が高い理由が秒で分かるほど美少女好きな校長で困る。
しかし、騒動の合間を縫ってリトとララを会わせてみたものの、ララがリトに懐くようなことは起きず、猿山が横から口説いてきて終いになった。
こりゃ俺の方から帳尻合わせをする必要があるかもしれんな。
◇
(まったく月島君まで。うちの男子の中ではまともだと思ってたのに。やっぱり男子ってみんなハレンチなものね)
数時間経ってなお、古手川は怒りが収まらず不愉快そうに肩を怒らせて歩く。体育が終わり、制服に着替えるため更衣室に向かっている所だ。
だが……。
「あっ、古手川君じゃないか」
「先生、おはようございます……」
風紀委員会の顧問をしている男教師を見つけ、古手川は軽く頭を下げながら挨拶を返す。
教師は不機嫌そうな彼女に気付いていない風に近づき、朗らかな声をかけてきた。
「ちょうどよかった。ちょっと頼みたい事があるんだが、手を貸してもらえないかな?」
「それは構いませんけど、次の授業までに着替えないといけませんから」
「大丈夫大丈夫。すぐに終わるし、間に合わなかったら私の手伝いをしていたって言えばいいから」
そう言いながら教師は唯の背中を押してくる。それに不快感を覚えながらも唯は渋々彼に従うことにした。