ToLOVEるIF リトが主人公にならなかった世界 作:ヒアデス
「馬鹿なギ・ブリーめ。弱いくせにしゃしゃり出るからああなる」
自身が乗る船の中で、酒の入ったグラスを揺らしながら男が独りごちる。
船のモニターには、脆弱な地球人の分際でララの婚約者に名乗り出た愚か者が大きく映し出されていた。
「だが、私が来たからには貴様はもう終わりだ。我らの手にかかったが最後、貴様は悶え苦しみながらララに手を出したことを後悔することになる。銀河有数の頭脳を持つララを手に入れ、最強の兵器を開発させて宇宙を支配するのはこのプリューマ様だ!」
グラスを持ったままプリューマは立ち上がり、周りに座る部下たちに向けて告げる。
「ゆくぞ者ども! 我が婚約者を毒牙にかけようとした不届き者を地獄に送ってやろうではない――」
「か」と発しかけた瞬間、モニターの向こうが白い煙に染まり、艦内にアラート音が響く。
「プリューマ様! 謎の濃霧が噴き出てきました! 前が全く見えません!!」
「なんだと!? ならばレーダーで奴の居場所を――」
「ダメです! 艦内に濃霧が侵入して機関部が氷結して操縦不能です――駄目だ! もう落ちるっ!!」
勝手に座席を立ち脱出しようとする部下にプリューマは「待て!」と叫びかける。
しかしそれも間に合わず機体は大きく揺れ、プリューマたちを乗せたまま船は真下に墜落していった。
「ケンジ、今日は外で食べようなんて珍しいね」
家を出た直後、こっちの意図も知らずララは無邪気そうな笑みを向けながら話しかけてくる。
「スプレー焚いてる間は家にいるわけにいかないからな。レパートリーの参考になるし、たまには外食してもいいだろう」
ガンガン冷房つけてるにもかかわらず、部屋の中を飛び回る怪しいハエもいたしな。多分、あの中に二番目の婚約者が乗っているんだろう。氷殺タイプの殺虫剤撒いておけばどうにかなると思う。
しかしハエより小さい奴とララを婚約させて、万が一結婚することになったら子作りとかどうするつもりなんだろう? ララの親父さんよ、選定がいい加減にも程がありませんか。
第二の婚約者、プリューマ。
ララも気付かぬ間に
◇
「このクラスに
多少うんざりした口調で言いかける担任の横から、美男子転校生がキザな仕草で白色の髪をかき上げて口を開く。
「レン・エルシ・ジュエリアです。愛しの花嫁を取り返すために来ました――月島健司という男からね!」
レンは俺――の反対側に座る男子を指差しながら告げる。見知らぬ転校生から指差された男子は困惑しながら「月島はあいつだけど」と俺を指差す。
レンはコホンと咳払いし――
「失礼――君からね!」
と叫んで俺を指差す。宇宙じゃ人を指差すのは失礼じゃないのか?
「だが僕も鬼じゃない。大人しくララちゃんを諦めると言うなら――ふぁくしょんっ!!」
これ以上喋らせても
するとレンはふわふわした緑髪の美少女になった。
「あっ、ルンちゃん! 久しぶりー♪」
周りが騒然とする中、ララはあっけらかんとルンに向かって手を振る。
そんな中、俺は軽く彼女の肩に手を置いて――
「ルンさん、まず落ち着いて話し合おう。先生、ジュエリアさんは『TS病』を発症してしまったみたいなので、ララと一緒に保健室に連れて行ってもいいですか?」
「え、ええ……いってらっしゃい……」
担任の許可を得て、ララと一緒にレン――もといルン・エルシ・ジュエリアを保健室に連れていって話し合った結果、ララとの婚約は辞退すると言ってくれた。
(レンと違って冷静に話ができる男の人って素敵! この人に振り向いてくれる女にならなきゃ)
第三の婚約者にしてメモルゼ星の王子、レン。
健司とララ、ルンの説得を受けて婚約を辞退。
◇
「フルハウス――これでララは頂きだ!」
「ロイヤルストレートフラッシュ。俺の勝ちのはずだが」
ララがその場で作った『イカサマ手袋くん』というグローブで引き寄せた手札を見せた瞬間、婚約者はがっくりうなだれる。
ギャンブール星のエスポ・ワール大公。敗北。
「ガスデンイタリエカニシホノウョキコ」
「テッガマニリダヒラカイセカラナレソ」
ララはホンヤクポッキーくんを食べ、彼の故郷の星までの経路を説明する。
地球で迷子になっていたマイ星のゴーさん、無事母星に帰還。
など、原作知識を活かしてララの婚約者を追い払う日々を送っていた(後の二人は全く知らないキャラだったが)。
あとは金色の闇に備えつつ、デビルーク王を怒らせずにリトとララをくっつけるだけだ。原作ではララもあっさり一夫多妻を認めていたから、春菜とリトを別れさせずに済むはず。
◇
「絶対おかしいわ!」
自分の部屋で唯は一人呟く。
自分のクラス――特に健司とララの周りでおかしな事が頻発しすぎている。
そう言えば1週間前、体育の時間の後、いつの間にか保健室で横になっていたような。顧問の先生に呼ばれた記憶はあるが、自分を呼び止めた覚えなどないと言ってたし。
そのうえ、ララは自分が保健室まで運んだと言いながらも――
『ううん。ケンジが唯を助けたんだよ!』
……まさか自分も何かしらの事件に巻き込まれて、健司に助けられたのか?
(まさかね。両親の居ぬ間に外国の女の子を連れ込んでハレンチなことしてる男子がそんなことするわけ――)
唯が首を振ったその時、がちゃっとドアが開き――
「おう、唯。せっかくの休みだってのに部屋から出てこないで。なんか悩みごとか?」
部屋に入ってきてそんなことをのたまう金髪の青年を見て、唯は不愉快そうに眉を引きつらせる。
「お兄ちゃん、勝手に部屋に入ってこないでよ! だいたい、そんな恰好でうろうろしないでってば!」
上半身裸にジーンズという出で立ちの兄に、唯は小言をぶつける。それに対し、兄・
「シャツ着てないぐらいでグチグチ言うなよ。彼氏ができたら上半身よりもっとスゴイもん見るんだからよ」
「べ、別に彼氏なんていらないし、そんなもの一生見たくないわよ!」
顔を赤くしながら叫んだ直後、遊のジーンズから着信が鳴り、妹の反論も無視して電話に出た。
「どうしたのマリちゃん? おう行く行く! ちょうど暇してたからさ。カスミ? あいつとはもう切れたって」
実の兄からして、なんでこうなのか。唯はぶるぶる肩を震わせ、
「ハレンチなっ!!」
と叫んで部屋を出る。その声が電話先にも届き尋ねてくる相手に、遊は溜息をつきながら返事を返した。
「妹だよ妹。クソ真面目なのがいるって言っただろ。彼氏と仲直りするための相談なら後で聞くからさ」
という真相も知らず、唯は不機嫌なまま家を飛び出しChotに相談したりして行き先を考えた結果、買い物でもしようと彩南デパートへ向かっていった。
◇
「ケンジ! これで買い物は終わった?」
「ああ。今日の食材も消耗品も買ったし、カフェで一服してから帰るか」
そう告げるとララは「一服?」と口にしながら首を傾ける。ジジ臭かったか。元の世界の癖が出てしまったようだ。
言い方を変えるとララは「行く行く」と何度も首を振ってそちらに向かうが、途中で貼られたポスターを見た瞬間、彼女はこちらを振り返って窺うような目を向けてきた。
『マジカルキョーコ・スペシャルショー なんと今日だけキョーコとブルーメタリア本人が特別出演!』
ララがハマってる特撮番組のイベントか。本人出演とは珍しいイベントがあるもんだ。
「キョーコちゃん本人が出るんだって! ケンジ、いっしょに行こうよ!」
正直この年でヒーローショーなんて恥ずかしいが。ララも毎日手伝いを欠かさずやってくれて、最近はひととおりの家事ができるぐらい上達したからな。すぐに投げ出してもおかしくないと思ってたのに。
ご褒美も兼ねて、多少の恥はかき捨てて付き合いますか。
「分かった。カフェと違ってタダだし、一緒に見に行こうか」
そう答えると、ララはぱっと表情をほころばせる。その笑顔を見て俺もつい笑みを漏らした。
ちょうどそこへ――
「あれ? 健司? お前もここに来てたのか?」
あらぬ方から呼ばれ、俺とララもそちらに顔を向ける。そこには私服を着たリトと春菜と、リトの妹の
「ケンジの友達? そういえば学校で会ったような……たしか、トリさん!」
「リトだよ! 結城リト! 初日に健司に紹介されただろう!」
リトは顔を真っ赤にしながら訂正する。
まずいな。見知らぬ女と会ったなんて知ったら春菜はどう思うか。
というのは杞憂だったらしく、二人のやり取りを見て春菜はくすくす笑う。
「西連寺春菜です。月島君のことは結城君から聞いています。大事な親友で、“あの時”のきっかけを作ってくれた人だって」
春菜はそう言って、顔を赤くしながら視線を下げる。
リトを押し出して告白の原因を作った時のことか。あれは俺にとっても予期せぬ出来事で、原作から離れた元凶とも言える事故だったのだが。二人にとっては付き合うきっかけになった大事な思い出らしい。
「あの~、もしかして私、お邪魔だったりします?」
腰元から拗ねた声がして顔を向けると、美柑が呆れ顔を作って溜息をついていた。
「だから私なんて連れてこなくてもいいと言ったのに。じゃあ私は帰って夕飯でも作るから、後はお若い者同士で……」
「おいおい! 一人だけで帰るなんて危ないって!」
「そうそう! 美柑ちゃんも一緒の方が楽しいし、いろいろ教えてもらって助かってるから!」
背を向けて帰ろうとする美柑をリトと春菜が二人がかりでなだめる。
それを見てララは手を叩き――
「あっ、そうだ。美柑ちゃんも私たちと一緒にキョーコちゃんのショー見ない? みんなで見た方が楽しいし!」
「ショー?」
美柑が怪訝そうな顔でララの隣を見ると、ショーのポスターが目に入る。それを見た瞬間、美柑は顔をひきつらせた。
戦隊みたいなヒーローならともかく、制服姿の魔法少女だからなぁ。事実“あっち系”のファンも多いそうだ。
「いや、私そういうのは興味ありませんから――」
「いいからいいから。美柑も絶対気に入るって! 早くしないと見逃しちゃうよ!!」
もう呼び捨てで話しつつララは強引に美柑の手を引っ張って、屋上に向かっていく。俺とリトたちも苦笑いを浮かべながら、彼女たちの後を追った。
◇
その後ろで唯は動きを止めて硬直する。
「えっ、月島君とデビルークさん? それに結城君と西連寺さんも……これってもしかして」
Wデート? 雑誌かテレビで見た言葉が脳裏に浮かぶ。
しかし、今の彼女はいつものように『ハレンチな』と騒ぐのではなく……ただ、キュッと小さく痛む胸を抑えるだけだった。