ToLOVEるIF リトが主人公にならなかった世界 作:ヒアデス
「オーホッホッホッ! 私はウザースの幹部・ブルーメタリア! ここに集まってきた子供たちをさらって我が組織の戦闘員に変えてやるわ!!」
青いビキニと黒マント、着脱式の角といった露出の高い恰好のルンが扮する『ブルーメタリア』が高笑いを上げながら現れ、ステージ上の観客に向けて宣言する。
それを聞いて子供たちはキャッキャッと騒ぎ、親たちは微笑ましそうに眺める。その一方でステージの隅で固まっているあっち系の集団は食い入るように彼女の格好を眺め、「俺たちなら喜んで捕まるのに」と呟く者もいる……子供に悪影響だから自重してくれ。
ブルーメタリアの格好も子供向けにしては際どすぎるとは思うが。
「まさかショーの悪役やってるのがルンとはな。いつからあんな仕事始めたんだ?」
「ケンジ知らないの? ケンジと会ってからすぐ、ルンちゃんアイドルにスカウトされてCD出したり、最近悪の幹部としてマジカルキョーコに出てるんだよ!」
「そうだったのか。芸能関係はあまり見ないから知らなかった」
もっともアイドルになる事自体は原作で知ってる。しかし、ルンのアイドルデビューはもっと後だったはず……。
ララの助言に相槌を打ちながら首を
(あっ、健司君が来てる! こんな格好でヒーローショーなんかさせられるのは嫌だったけど、健司君にアピールする絶好のチャンス!)
「戦闘員たち、あそこにいる女の子を捕まえてきなさい!!」
「――えっ!? もしかして私?」
ステージから最も離れた場所にいるにもかかわらず、
その間に「ウザー!」「ザース!」と珍妙な雄叫びを上げながら、戦闘員たちが美柑の元までやってきて彼女の背中を押す――このご時世、さすがに腕を引っ張って無理やり連れて行くような真似はしないらしい――。
「私は行かないってば!」
美柑は必死に拒否するものの、戦闘員たちは片手でステージを示しブルーメタリアも執拗に呼びかけてくる。
そのせいで周囲の注目が集まり断り続けるのも恥ずかしくなったため、美柑は渋々ステージへと上がっていった。
「オーホッホッ! 人質がいる以上、誰も私たちに手出しできないわ! これで健司君のハート――じゃなくて世界はあたしのものよ!」
高笑いを上げる怪人とは反対に、美柑は冷ややかな表情でぼそりと告げる。
「あの、私ほんとこういうの興味ないんで、早く解放してほしいんですけど」
それに対し、ルンも美柑を振り返り小声でぼそぼそと――
「ショーが終わるまで待ってちょうだい。私だって仕事だからってやらされてるんだから……それよりあなた、あの黒髪の男の人と知り合い?」
「えっ……まあ兄の友達みたいですけど」
わけもわからず答えを返す美柑とは裏腹に、ルンは目を輝かせる。
「じゃあ、後であの人に私にとても親切にされたとかすごくキレイだったって伝えて! 後でなんでもおごってあげるから! お願い!!」
観客に見えないように両手を合わせてまでお願いしてくる彼女に、美柑はげんなりした顔を浮かべる。
どうやら
そもそも、ヒーローショーで知り合いの子供を捕まえることがどうアピールになるのかまったく分からない。
「言っておきますけど、高くつきますよ。私今かなり機嫌悪いので」
「それはまあ……バイト代で足りる範囲でなら」
見た目以上にちゃっかりしている少女に、ルンは脂汗を流しながらも肯く。そこで――
「そうはさせないわ! ブルーメタリア、その子を放してここから立ち去りなさい!」
ルンと美柑がぼそぼそ言い合っている間に司会のお姉さんの呼びかけと子供やファンからのコールに応えて、短い黒髪の上に赤いとんがり帽子を被った魔法少女・マジカルキョーコが現れ、観客席から大きな歓声が沸いた。
隣に立つララも片手を振りながら「キョーコちゃーん!」と黄色い声を上げる。
ルンも素早く頭を切り替え、キョーコの方に身体を向け直した。
「出たわねマジカルキョーコ! あなたたち、やーっておしまい!!」
「ウザー!」「ザース!」
彼女も実は宇宙人で炎を操る能力を持っているという話だが、ここには大勢子供がいるし戦闘員役の人たちを丸焼きにするわけにもいかないから、あの程度の演出になるか。
しかし炎抜きでも身のこなしや戦い方は見事なもので、子供に付き添ってきただけの親やヒーローショーに興味がなく遠巻きに眺めていただけだった見物人も思わず目を見張る。リトと春菜、不満げにルンの隣に控えていた美柑も例外ではなかった。前世から格闘などを直に観戦することがなかった俺も。
ルンはこちらを見て、むっと眉を寄せたような顔をする。そして戦闘員が一人残っていることも忘れて前に出て――
「やるわねキョーコ! ならこのブルーメタリア様が直々に――」
言いかけたところでキョーコと戦っていた最後の戦闘員が、彼女の振り上げた蹴りを受け止める。それを見てキョーコとルンは驚きに目を見張る。演技……には見えない。
キョーコはすかさず拳を突き出すが、戦闘員は真横に腕を伸ばして受け止める。
「ちょっと、台本と違います! ここで戦闘員が全滅して私とメタリアが戦うところじゃあ――」
腕を突き出したままキョーコが小声で
それを見て観客たちはどよめきの声を上げるが、キョーコとルンは戸惑いを露わにし、スタッフたちは口パクやサインを送る。それも無視して戦闘員は黒い渦に包まれた腕を上げ、キョーコに向ける。
キョーコは観客で溢れる後ろをちらりと見、「こっちよ!」と叫びながら真横に跳んだ。
それに反応するように、戦闘員は逃げたキョーコめがけて渦を纏った腕を向け、黒い光線を撃ち放った。キョーコはちっと舌打ちをしながら腕を突き出して炎を放つ。
キョーコが放った炎と光線は二人の間で激突し、小さな爆発を起こした。
今までとは比べ物にならない――いや、テレビで見た内容よりも激しい戦い。だが――
「なあ、ちょっとおかしくねえか? ヒーローショーみたいな客がいるようなイベントであんな危険な戦い方するのか?」
主人公補正からか、観客の中でリトはいち早く異変に気付く。春菜も不安そうな顔で「たしかにちょっと様子が変」と呟いた。
そこへ――
「何してるのよ!!」
怒りを帯びた声とともにルンが跳んできて、戦闘員の背中に快音が響くほど強烈な蹴りが打ち込まれた。
「キョーコを倒すのは私よ! あなたは引っ込んでなさい!!」
ルンはキョーコと戦闘員の間に割り込み、芝居という
「邪魔だっ!」
「ルンちゃん、危ない!!」
光線が放たれた直後、キョーコはルンを庇いもろとも床に滑り込む。光線はキョーコのマントをかすめ、そのまま空中へ飛んでいった。
明らかに
「リト、春菜を連れてここから逃げろ!」
「えっ!? でも美柑がまだあそこに――」
ステージにいる妹を見て言いかけるリトを遮り――
「美柑は俺たちが助ける。今ならあいつらの隙をついて美柑のところまで行けるはずだ。ララもついてきてくれ!」
「――うん! らくらくランナーくん使う?」
「いい! とにかくついてきてくれ!」
ブースターで早く動けるようになるものの、途中で止まれなくなる靴なんて履いたら屋上から地面に真っ逆さまだ。
と心中で突っ込みながらララとともに美柑の元へ向かう。
キョーコやルンみたいな宇宙人が苦戦する相手、おそらくあいつも宇宙人か何かだろう。だとしたら俺一人じゃ危険すぎる。
しかし、原作でこんな事件見た覚えないぞ。俺が見逃した話か? だが原作と流れが違っている以上、このまま傍観しても解決するとは限らない。むしろかなりヤバい予感がする。
◇
「ねえ、ちょっと屋上のショー行ってみない」
「えー、ヒーローショーなんか興味ねえよ。しかも美少女ものだろう」
「それが戦闘シーンが凄いんだって。炎や光線打ち合ったりしてるって向こうのお客さんがⅩで呟いててトレンドにまでなってる!」
階段を上っていく二人組(多分カップル)の会話を聞いて唯は『えっ?』と心中で呟きながら振り向く。
(あそこは確か、月島君たちが行った場所)
階段の傍にある張り紙に映っている魔法少女を見て、唯は気後れする。こんなもの興味ないし、もし見ている所を友達や知り合いに見られたらかなり恥ずかしい。
しかし、どうしてだろう。学校で聞く事件に似たものを感じる。
そう思った唯は周りを何度もきょろきょろして知り合いがいないのを確認し、ショーがあるという屋上に向かっていった。
◇
「美柑、大丈夫か?」
なんとか会場の隅を通り抜け、スタッフとともにステージ裏にいた美柑を見つけ出すと彼女は不安げな顔でこちらを見る。
「はい。スタッフさんたちのおかげで。リトと春菜さんは?」
「あいつらは逃げるように言ったんだが――」
答えながら屋上の端を見ると、リトと春菜は不安げにこちらを窺っていた。美柑を置いたまま逃げられないらしい。観客たちもショーと思ったままほとんど逃げずにいるどころか、少し増えている気がする。
キョーコとルンは戦闘員と戦っているが防戦一方。観客やリトたちも戦いに巻き込まれる恐れも高い――そうなってしまったら“原作崩壊”どころの話じゃないぞ。
「ララ、あいつの動きを止められそうなアイテムはないか? 光線出してる腕を封じれるような」
「あるよ。それなら……“くるくるロープくん”!」
ララはスマホ型の端末をタップし、
「見つけたぞ――」
戦闘員がこっちに気付き、叫びながら右腕を向けてくる。狙いは俺かララ? やはり宇宙人関連か――いや、考えてる時間はない!
「貸してくれ――はああああっ!!」
ララからロープを奪い、戦闘員の腕に向かって投げつける。
ロープが戦闘員の腕に絡みつき、渦もろとも縛り上げた。
「ルン、キョーコ――今だっ!!」
俺があらん限りの声で叫んだ瞬間、二人ははっと気付き勢いよく戦闘員に向かって駆け出した。
「フレイム……」
「メタリア……」
キョーコは拳に紅蓮に燃える炎を片腕に纏わせ、ルンは白いエネルギーを片足に帯び、
「「パーンチ/キッック!!」」
キョーコの殴打とルンの蹴打をまともに受け、怪人は快音を上げながら空高く吹き飛びそのまま戻ってくることはなかった。
その直後――
「いいぞー!!」
「キョーコもメタリアもかっこいい!!」
「まさか、共闘シーンだったとは」
「エキストラのお兄さんもナイス!!」
周りからけたたましい歓声と手を叩く音が聞こえそちらを見ると、戦いを見ていた観客たちが声援や拍手を送ってきていた。
キョーコとルンは顔を合わせて小さく頷き、笑顔で手を振る。
「ありがとう! 戦闘員がブルーメタリアを裏切るハプニングがありましたが、みんなの応援でやっつけられましたー!」
「これからも応援よろしくねーー!!」
感謝の言葉を贈る
その後ろでリトたちは唖然と立ち尽くしていた。更にその後ろにいる唯も青ざめた顔で、
「なにこれ……どういうことなの?」
と呟くしかできないでいた。
◇
その頃、吹き飛ばされた戦闘員
『急ごしらえの対応としてはまずまず、といったところか……しかし、他の婚約者どもを倒した時のような“冴え”は見せなかったな』
くぐもった声を漏らしながら靄は人の形を作っていく。
『未来を識る男の噂を聞いて試してみたが……ただの
呟きを漏らすうちに、靄は黒いネグリジェを着た長い黒髪を垂らした褐色肌の少女へと変化した。
「このまま退散というのも面白くないな。我らの同胞がこの
誰かに聞かせるように独り言を零し、少女はニヤリと唇を吊り上げた。
◇
結局、さっきのショーは戦闘員の裏切りによるキョーコとブルーメタリアの共闘劇という形に変更し、マジカルキョーコあらため
「しかし、ただの買い物のはずがえらい目に合った。婚約者たちより遥かにヤバかったぞ」
「あははっ、ごめんね。でもケンジかっこよかったよー」
ララは謝りながらも明るく笑い飛ばす。
そんな彼女に先んじてドアノブを取るもののまだ鍵を開けてないことに気付き、手を引っ込めかける。が、ドアの感触が軽くなっていることに気付き引いてみると、ドアはあっさり開いた。
カギ、かけ忘れたっけ?
首を捻りながら、ララとともに慎重な足取りで奥へ進んでいくと――。
「これが地球の服か? どれもヒラヒラして変なのばかりだなー」
「ナナ、あんまり引っ張るとシワになるわよ」
ララが使っている部屋から女の子二人の声が聞こえてくる。
まさかと思い身を構えつつドアを一気に開ける。そこには――
ララに似たピンク髪の女の子二人が散らかった部屋の中で下着を持って座り込んでいた。
二人もこちらに気付き、あぜんとした目を向けてくる。
「あっ……」
「あら、ようやくお帰りになりましたか」
下着ドロ!? なんでうちに下着泥棒が?
「あっ、ナナとモモ! もしかして遊びに来てくれたの?」
ララは軽い感じで二人に声をかける。
――そうだ。こいつらはララの妹ナナとモモだ。なんで今の時点でこいつらが?
混乱に陥る俺をよそに、ナナとモモは父親の言いつけでここまで来たことと、ザスティンから借りた合鍵(前にララが作った『どこでもオープンくん』)で入ってきたことを説明していた。
◇
『……そういうわけで報酬はいくらでもやるから、ララたんをさらった地球人を殺してきてほしいんだもん』
モニター越しに命令してくる依頼人に対し、少女は腕を組み。
「“
疑問を含んだ声で訊き返す少女に、依頼人は憮然としたまま答えを返した。
「ララたんは純粋だから騙されて誘拐されたに決まってるもん。そいつは他にも大勢の女の子を口説いて泣かせてきているという話も聞いている。あんな奴のところにこれ以上ボクの婚約者を置いておけないもん!!」
依頼人は怒りのあまり、腰掛けていたベッドを叩く。その横から下着同然の格好をした付き人が現れ、なだめの言葉をかけながら身を寄せてきた。
その光景を見て少女は眉を顰めながらも……。
「分かりました。依頼を引き受けます。標的を暗殺するまでしばらくお待ちを」
それだけ言うと彼女は長い金髪をかき上げながらモニターを切り、依頼人と卑猥な光景を視界から消した。
「えっちぃのは嫌いですから」