魔獣との混血児、または体内に魔石を有する人語を解する生物も魔獣として扱う。魔獣の全ては駆除の対象である。
二重帝国法 第63条
魔人族について
第一項 魔獣との混血児、または体内に魔石を有する対話可能な生物を魔人族とし、3等市民として扱う。
第二項 魔人族を各都市町村長はその判断で隔離管理をすることを認める。
魔人族というのは一般に別の生物とされる。しかしながら、それらは人族と魔獣との間の子孫である。
獣型の魔獣は、その性質からいかなる種族とも子を成すことができ、それは人も例外ではない。特に人族との子供は人語を解する頭を持つことが多く、その子孫は体内に魔石を有するが知恵は人と変わらないことが多い。
魔獣の血が濃いほど凶暴性が高く、知能が低いことが多いことも知られている。闇魔法と一般に言われる万物の腐敗をもたらす魔法を得意として、古来から人を襲うこともあり、害獣として駆除されてきた歴史を持つ。
しかしながら、魔石由来の魔力の高さや先祖の魔獣特有の特殊な能力を持つもの、極めて知力の高いものもいる。これらを単純に魔人族と一括りにするのには魔獣の正確な区分をしないのと同様、疑義が生じる。
実際、彼らは魔人族とされるそれぞれの種族を別物と扱い...
魔人族研究者 クラサフカ女史の「魔獣・魔人族に関する一考察」より抜粋
魔王国
正式とも言えないがその学術的名称を、現魔王の名前からヘクトール魔王統一国という。
魔王国とは、複数の魔人族の村、町や部族が魔王と呼ばれる頭領をもとに統合してできた組織と定義される。
国と認めず、魔王領とする学者もいるが。
統合された軍を組織し、人族では統治困難な未開の地で力を蓄え、周辺国に侵攻、反乱を起こすことが大陸史で幾度も見られた。
魔王が魔王軍を統括し、各地の長がその地域の統治を担っていた。
かつては王国、連合国の東部にあった魔獣ひしめく不毛な山岳地帯で起きたヘクトール率いる魔人族の蜂起と、それにより興ったヘクトール魔王統一国は、王国から奪った領土を含める最大版図では大陸国家7番目となる広大な面積を有していたとされる。勇者の登場と他の大陸五大国から支援もあり、その領土は大きく縮小している。
特に、この三年間。
勇者イサムの登場によって、占領地を含む国土の半分、兵力の7割近くを失っていた。
王国から手に入れた都市を改築することで建てた数少ない軍事都市は陥落し、有力な将軍は殺され、街道は破壊され、各地で逃亡兵と反乱が発生した。
かつて大陸史上最悪と称された魔王軍は、崩壊寸前にまで追い込まれていた。
そして今。
その元凶となった男が、魔王城へ到着していた。
「...へえ」
イサムは城門を見上げた。城壁は魔石が混ぜ込まれた魔法防護のある黒い石材によって築かれている。化粧石の有無の違いでしかないだろうがアルトリア王都の白亜の王城とは対照的だった。しかし、その外観は思ったよりこじんまりとしていた。
門の前には、重装備の魔人族の兵士たちが並んでいる。
「こちらです」
デジクが先導した。
「すでに陛下には到着をお伝えしております」
イサムは頷いた。
城門を通り抜け、護衛の兵士たちは二人について、魔王の下へ連れて行く。しかし、その視線は明らかにイサムへと向けられている。
驚愕。
困惑。
そして、敵意。
「...」
イサムはそれに納得している。自分のした事が事だ。恨みがない方がおかしい。
そして、少し嬉しそうに笑った
* * *
「それでは、正式な誓約を行います」
魔王城の一室。
中央には大きな魔法陣が描かれ、その周囲には数名の魔導師が控えていた。
イサムの正面には、一人の女性が立っている。
薄っすらと輝やいて見える黒い法衣。
栗色の髪は、後ろ髪を肩までに揃えられ、もみあげだけは胸まで伸ばし、紐で留めていた。犬のような耳はぺたりと垂れ下がっている。犬の魔人族だった。
じっとこちらを見ており、その深紅の瞳に映る自分が自分を見ていた。
年齢はかなり若そうだ。二十歳前後に見えるが、魔人族の年齢は外見だけでは分からない。
「私はスネジンカ。魔王様直属の誓約師です」
「よろしく、イサムだ」
イサムは笑顔で答えた。
「存じております」
スネジンカは事務的に答えた。
「あなたとの誓約については、私が行うように陛下より命令を受けております」
「そうなんだ」
「まず、先日デジク殿と交わした仮誓約を確認いたします」
「うん」
スネジンカは分厚い書類を開いた。
「この誓約は、魔王国の軍事顧問としての任命、上級貴族相当の身分保障、報酬及び各種義務について定めたものです」
「うん」
「また、本誓約では、誓約の変更についてと定期的な更新を義務について追加します」
「大変だよね、頑張ってね」
「...」
スネジンカは小さく息を吐いた。
「では、内容を読み上げます」
彼女が右手を差し出し、イサムがその手を取ると、手の魔法陣が淡く輝いた。誓約師スネジンカは書類の中身を読み進めた。
その内容は前に確認した内容と変わらなかった。
自分の身分や報酬の確認。
魔王の言うことを聞くこと、やる前に事前に相談すること。
民間人、非戦闘員の軍事利用の禁止。
民間輸送網の無差別破壊の禁止。
変身状態での攻撃の禁止。
水源への意図的な汚染の禁止。
無許可の暗殺、破壊工作、軍事作戦の禁止。
その他、多数。
追加条項は2つ。
誓約書の中身の変更は両者の合意を必要とすること。
その一生において、誓約の更新をし続けることをイサムとスネジンカに義務付けること。
「...以上です」
スネジンカは書類を閉じた。
「言った内容と誓約書の内容に虚偽、改竄はない?」
「ありません」
「誓約に違反した場合、その死の罰を受けることになる」
「大丈夫です」
スネジンカの気迫を見て、イサムは笑った。
「誓約する」
「誓約します」
手の魔法陣が輝いた。
イサムとスネジンカは一度、誓約書の中身とそれに虚偽のないことを互いに確認した。
誓約魔法は条件を重ねれば重ねるほど、期間が長いほど膨大な魔力を必要とする。全てを口頭で誓約せず、誓約書に虚偽がないことを確認し短期間の誓約を行う。
改めて誓約書に従うことだけを長期間、繰り返しの誓約とする。こうすることで負担の重い、長期の更新をする誓約の負担を減らすテクニックであった。
続いて、彼女はイサムに服を脱いで魔法陣の中央に来るよう言ってきた。
イサムは魔法陣を確認し、服を脱ぎ魔法陣の中に入った。その身体には傷一つない...が背中に大きな魔法陣が刻まれていた。
「これは?」
彼女はイサムに問いただした。魔法陣の古代文字は未だ、大半を読み解けるものではないが、特徴から攻撃魔法でないことは間違いない。誓約魔法特有の魔法陣のようではあるが魔法陣の詳細が分からず、知りたいようだ。
「僕が召喚された時からずっとあるんだ。リゼットとエリシアが更新してくれてたけど、契約の継続って誓約し続けてたから、中身については彼らも知らなかった。僕も分からない。古代からの秘儀らしい」
イサムの言葉に、スネジンカは鼻を鳴らす。
「誓約させてください」
今の事実確認の誓約を行い、虚偽でないことが証明される。
「...背中合わせの予定でしたが、胸に誓約の魔法陣を刻みましょう。同じ場所でも干渉しないとは思いますが、詳細の分からない魔法陣なので」
「分かった」
互いの胸に手を置き、一呼吸置いて彼女は叫ぶ。
「《誓約》」
「....我!イサムは誓約書の記載を守ることを誓う!」
「私、スネジンカは誓約書の記載を守ることを誓う!」
「破りしものはその身を苦痛に焼かれ、最大限苦しみ死ぬ!」
スネジンカの宣言に、
「..誓う」
「誓います!」
すべての宣言が終わると、床の魔法陣はさらに強く輝く。その輝きがなくなると、二人の胸元に青白い紋様が浮かび上がった。
「...誓約完了です」
スネジンカは深く息を吐いた。
「これをもって、あなたは正式に魔王直属の軍事顧問となりました」
「ありがとう、これからよろしくね」
「...はい」
スネジンカは一礼した。
「誓約外ですが、軍事顧問としての業務を補佐するため、専属の補佐官が配置されます」
「へえ。秘書みたいなもの?」
「...そのようにお考えいただいて構いません」
「助かるね」
イサムは笑った。
「書類仕事って結構面倒だから」
その言葉を聞き、スネジンカは少しだけ安心した。
もっとも。
補佐官を配置する本当の理由は、業務の補佐だけではなかった。
監視。
それが、魔王から与えられたもう一つの任務だった。
* * *
「初めまして」
別室で待っていたのは件の補佐官たちだった。
特に目立つのは濃い緑色の軍服とミスリル鎧をまとい、腰に長剣を下げている彼女だろう。
年齢は先程の娘より上か? 二十代半ばほど。
長い栗色の耳と髪に赤い瞳を持つ、右目に黒い眼帯をつけたうさぎの魔人族の女性だった。
こちらを睨見つけていた彼女は目が合い、一礼する。
「魔王直属の近衛騎士をしていた。補佐官として護衛の任を受けているマルフーシャと申す」
「護衛もいるんだ、よろしく。仕事はいっぱいあると思うよ」
イサムも一礼する。
「勇者をしていたイサムだよ」
それに合わせ、補佐官の人々も口々に自己紹介をする。アブレック、アニタ、エドワード、ズヴョズダ、ロイ...まだまだいるが、魔人族の中でも種族、年齢、性別はてんでバラバラのようだった。魔王直属の選ばれた、優秀な人員とのことだ。
ただし、勇者はまだ知らない。種族・年齢・性別もバラバラな彼らの唯一の共通点を。
「彼らは資料の整理・作成、各部隊との連絡、作戦立案の確認などの補助を担当します」
「うん」
「また、軍事顧問の行動について、陛下へ代わりに報告する権限を有します。陛下から元々許可があった場合、代行として勇者の行動の許可もできます」
「いいね」
イサムは笑顔で答えた。
「僕が契約外で何かしないか確認するのは、雇用主として当然だろう。いちいちトップに確認するのも手間だからね」
「...」
「むしろ、何が許されて何が駄目なのか、確認してくれる人がいるのは助かるよ」
彼らは深く頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
イサムは嬉しそうに答えた。
「じゃあ、さっそく仕事をしようか」
* * *
魔王城の最奥。
執務室の扉が開いた。
「陛下。イサム殿をお連れいたしました」
「入れ」
低い声が響いた。
部屋の中央には、大きな机が置かれていた。その上には大陸の地図と、何十枚もの報告書が広げられている。机の向こうに座っていたのは、魔王だった。
ベージュ色の髪にネズミのように丸い耳。
ぱっちりとした、力強さすら感じる、透き通るような蒼の瞳。
威厳に満ちた姿。
それは、ネズミの魔人族である身ながら、大陸史上最大の魔人族を統合する存在である。
「あなたが魔王ヘクトール様?」
イサムはこれまでの軽い態度から一変した。
「...そうだ」
魔王は静かに答えた。
「会いたかったぞ、イサム」
「ええ、私もです」
両者ニヤリと笑う。
「まさか、貴様をこの部屋に招く日が来るとは思わなかった」
「王国にいた時は、どうやってこの城を攻略するか考えていました。捕虜からもなかなか、本人も城も詳細が分からなかったもので...」
「...その話はよせ」
「はい、申し訳ありません」
魔王は頭を抱えた。しばらくして、顔を上げた。
「まず、確認する」
「はい」
「誓約は完了したな?」
「しました」
魔王は強く頷いた。
「ならば、貴様は我が国の軍事顧問だ! 馬車馬のごとく働いてもらう!」
「了解です」
イサムは魔王の言葉に答える。
「では、始めよう」
魔王は机の上の地図に各種書類を広げた。
「この国の現状について」
* * *
「...ひどい状況ですね」
イサムは報告書、統計を読みながら呟いた。
そこには、魔王国の現在の状況が詳細に記されていた。
西部街道網の破壊。
南部の橋梁の崩落。
堤防の決壊による主要河川の輸送機能の停止。泥濘化した村の壊滅。
輸送効率の低下による前線の食料の流通不足。
南方、西部の各地で発生する飢饉。
そして、徴兵拒否や逃亡兵の増大による軍紀の崩壊。
「...貴様がやったことだ」
魔王が低い声で言った。
「思ってたより回復してないことに、驚きました」
イサムの言葉で、魔王の額に青筋が浮かんだ。
それに気づかず、イサムは地図を指さす。
「西部の山道と南部の橋梁を破壊したことで、前線への主要な物資輸送が止まってる。中継地の村落も蜂起後で機能してない。ここまでは想定通り」
「...」
「東部の穀倉地帯からの輸送まで滞っていますね。これは想定以上です」
補佐官の1人、アブレックが口を開いた。
「...東部には、直接攻撃を受けていない地域があります」
「ええ」
「しかし、村落の農民や輸送部隊が西部への物資輸送を拒否しているのです」
「危険であるから?」
「...はい」
アブレックは説明した。
「各地で逃亡兵が増えました。輸送に必要な護衛も不足しております。各農村の余力も少なく、出し渋りを起こしているものと考えられます」
「さらに、王国軍の破壊工作や逃亡兵の略奪を恐れ、商人たちは長距離輸送そのものを避けるようになっています」
「...なるほど」
イサムは感心した。
「物理的な輸送網だけじゃなくて、軍の規律に商業上の信用まで壊れたんですね」
空気が凍る。今の言葉は氷結魔法の詠唱ではなかったはずだ。
「...貴様は、本当に他人事のように言うな」
「もう僕は魔王側の人間です」
「...」
「壊す重点は分かっている。ならば、直す重点も分かっています。どうにかやってみます」
魔王は深く息を吐いた。
「...続けろ」
* * *
問題は、輸送網だけではなかった。
「逃亡兵と徴兵拒否が異常に多いですね...」
イサムは別の報告書を見た。
魔王国は魔王という軍のトップはいるが、あくまでその構造は寄合式であった。各都市町村、部族の長が魔王の強さや連合を組むメリットから徒党を組んでいるに過ぎない。比較的、戦火の少ない東部や北部は不利になると他人事として徴兵拒否することもあろう。
しかしながら戦火に晒されている西部、南部でも逃亡や徴兵拒否が異常な割合となっていた。
「そうだ」
魔王は頷いた。
「志願兵は?」
「ほとんど集まらぬ」
「なんでですか?」
「勇者...貴様のせいだ」
勇者の名前はこの3年で魔王軍には悪魔の代名詞になっていた。
勇者と戦った者は3つに分類される。死者と英雄と爆弾だ。
戦った魔人族の大半は屍を晒した。元勇者パーティとその下で戦っていた王国軍部隊、大陸各国からの遠征軍、彼らは王国の前線全てを抑えれないにしても魔人族の兵士に劣らない実力者揃いであった。
そして、勇者の出現は魔人族有利であった天秤を完全に人側に追いやった。
勇者を殺したと思ったら味方を殺していた。
生きて帰ってきた兵が爆発した。
魔王軍に村の老人、子供が殺された。
後方から補給が来ないと思ったら補給拠点の奴らが磔にされ無惨に殺されていた。
生き残りがいたと思ったら爆発した。
死体を埋葬しようとしたら爆発した。
補給物資に毒があった。あと、爆発した。
霧がかかったと思ったら部隊が消えた。
一つ二つなら、よくある戦場伝説ではあるが、全て魔王軍に降りかかった現実である。
各部隊から腕っぷしを集めて勇者討伐隊を結成したことがあったが、気がつけば一人、また一人といなくなり、事態を伝えに来た伝令を残し、誰もいなくなった。
勇者に対する恐怖は、もはや、子供への脅しにすらできないものだった。
東部では近隣で勇者を見たという噂が流れた村で混乱が起き、白旗が立ったという事件があった。
勇者を見たなら助かっていないという言葉で鎮火したが...
もはや、魔王軍に参加することに恐怖する兵や住民が大半であった。
戦って死ぬことは怖くない。だが、何があったのかも分からない状況でナニカに殺される恐怖に彼らは勝てなかった。
「...また、西部の村々では、脱走兵と思わしき魔王軍が住民を襲ったため領主も徴兵に非協力的です」
アニタ補佐官が説明した。
「住民を保護せず、食料を徴発し、虐殺をしたと」
「僕がやったことですね」
室内が静まり返った。
「...は?」
魔王が顔を上げた。
「今、何と言った?」
「僕がやったと...」
「...詳しく話せ」
「分かりました」
イサムは地図を指さした。
「西部の村々で、王国軍と共に魔王軍の兵士に変身して襲撃していました」
「...」
「軍が住民を襲ったように見せかければ、住民は魔王軍を信用しなくなる」
アニタ補佐官の顔が強張った。
「...まさか」
「ええ」
イサムは頷いた。
「そうすると徴兵にも応じなくなり、税の徴収も難しくなります」
「...」
「反乱が起きれば、さらに軍の戦力を分散できます」
魔王は、ゆっくりと顔を上げた。
「...西部三村の反乱も?」
「もっと多いものと思ってました」
「...!」
「この数で済んだのは魔王様の統率力の賜物でしょう」
イサムは微笑んだ。
「魔王軍の鎮圧により、さらに住民の不満が高まりましたが、あれはどうしようもできないことです」
「...貴様が」
後ろにいた補佐官の一人が声を出す。
「うん?」
「貴様ガァァァ」
補佐官の一人が、隠していた短剣を持って、勇者の脇腹に突き...
刺さることはなかった。護衛の騎士マルフーシャに短剣を叩き落とされ、制圧された。
周囲の衛兵が動けないよう拘束し、連れ出そうとした。
その補佐官は叫び続ける。
「裏切り者として処刑された者が、いったい..いったい! 何人いたと思っている!」
「...数百人くらいですか?」
「...!」
「でも、その結果として魔王軍の戦力がかなり拘束された。兵力集めに難儀した。そういう作戦だった」
「戦で死んだ父や姉だけでない! 母が! 祖父が! 貴様のせいで! 貴様のせいで! 反逆の汚名までつけられた! 何故だァァァ! マルフーシャァァァ!! お前も! 父親が! あいつのせいで殺されただろォォォ!」
その慟哭は、拘束された彼女が連れ出され、執務の扉が閉まっても室内の人々の耳に残り続けた。
魔王は机に両手をついた。大きなため息を吐き...
「...貴様」
「はい」
「我が国の民を襲っただけではなく、我が軍にその罪を着せたのか」
「そうです」
イサムは即答した。
「敵国の信用を破壊するのは、戦争では有効な手段ですよ」
「...」
「ただ、もう全く同じことはできないです」
イサムは付け加えた。
「契約で禁止されてますので」
魔王はしばらく沈黙し、椅子に深く身体を預けた。
「...そうか」
その声には、深い疲労が滲んでいた。
* * *
「...それで」
魔王は気を取り直した。直せるだけの器と責任感があった。
「貴様は、この状況をどうするつもりだ?」
「軍を最低限立て直し、攻勢をしかけます」
「...可能なのか?」
「恐らく」
イサムは地図を広げた。
「魔王軍には、まだ機動戦力の中央軍が残っている」
「...ああ、もはや一つ下の軍団規模だがな」
「それに、各地の方面軍となる領主軍も完全には消滅していない」
「そうだ、徴兵拒否はしても兵として使えるものは各部族や町にいる。逃亡兵も匿われているものが多いだろう」
「なら、兵力は存在します」
イサムは指を一本立てた。
「問題は、集められないこと」
二本目。
「集めても、食わせられないこと」
三本目。
「そして、国民が軍を信用していないこと」
魔王は頷いた。
「...その通りだ」
「分かっている内容だけなら、まだ軍の回復は可能でしょう」
「...簡単に言うな」
「綱渡りになります」
イサムは微笑んだ。
「でも、方法はあるかと」
彼は地図の西部を指さした。
「一部の山道は回復を諦めましょう。輸送効率が悪い。そのかわり、河川の堤防を最優先で回復させてください。土魔法使いを軍民問わず集中運用し、形だけでも堤防を直す。河川輸送で軍の物資を優先供給する。商人には輸送費の保証をしてもよいでしょう、護衛も船なら大量に運べるため、馬車輸送と比べて少数でどうにかなるかと」
「...なるほど」
「徴兵については辞めましょう」
「ふざけているのか」
魔王が信じられないものを見る目をしていた。
「今の状況で徴兵を強いるのは、領主にとっては自分の身内たちに死んでこいと言ってるに等しい」
「...」
「そんな状態で無理に兵士を集めても、拒否や脱走兵が増えるだけです」
「...では、どうやって兵力を確保するのだ?」
「既存の軍と志願兵を使います」
イサムは即答した。
「まず、残っている正規軍と領主軍をまとめる。士気の低い新兵を増やすより、今いる兵士とまだまともに動くものを兵士として運用した方が効率的です」
「...」
「戦争で勝てば、志願兵も増える、軍の信頼が回復すれば徴兵もスムーズになる。その時に必要となれば改めて徴兵すればいい」
魔王はしばらく考えた。
「...理には適っておる」
「そうでしょう」
イサムは嬉しそうに笑った。
「あとは国民からの信用の回復だ。そもそも志願兵も少ない。どうするつもりだ」
「事実を公表すればいいのです」
イサムはあっさり答えた。
「村々を襲ってたのは勇者だった。勇者はこちらについた。と」
周囲がざわついた。
「...貴様は」
「自分が何をしたか、公表されても構わぬのか?」
「構いません」
イサムは首肯した。
「アレは私がやった。純然たる事実です。誤解でも虚偽でもない」
「...」
「それに、僕はもう魔王国の軍事顧問です。過去の行いの清算はした方がいい、それに、それで軍がまとまるのが1秒でも早まるならそれがいい」
「...それで、あなたは国民に許されると思っているのですか?」
後ろからズヴョズダ補佐官が声を上げた。
「許される?」
彼女に向き直った
「別に許してもらうつもりはないよ」
「...!」
「僕を殺したいほど憎む人がいるなら、それはそれでいいと思う」
彼は続けた。
「ただ、魔王軍がやってないことまで魔王軍の責任にされてるのは、今後の仕事に支障がある。まずは軍を立て直すためにはこの悪評の是正は必要だ。直ちに」
魔王は、補佐官達は、衛兵は何も言わなかった。
この男は、自分の罪を公表することさえ、軍の信用回復のための手段として考えている。
恐ろしいほど、合理的だった。
「その件については分かった。元から勇者が顧問となったことは公表予定だ。合わせて公表してもらう。貴様自身によって」
魔王は強く頷いた。
「お願いします」
「それで、軍をまとめた後は?」
イサムは地図の西側へ手を伸ばした。
「王国東部、ベルン要塞へ侵攻します」
* * *
「やはりか...」
魔王は目を細めた。
「軍の最低限の再編次第、直ぐに」
ベルン要塞。
もともとは魔獣の王国への侵入を防ぐための砦に過ぎなかった。今次魔人大戦において二度主を変え、その度に改築され、より強固になった要塞である。
勇者との戦いにおいては、魔王軍の西部防衛拠点の中核だった場所である。
勇者に要塞ごと降伏した結果、現在はアルトリア王国の支配下にあった。
「ここが策源地となって魔王国西方を脅かしていました」
「...分かっておる」
「でも、問題はそれだけではない」
イサムは別の場所を指さした。
王国東部の穀倉地帯。
「ここの食料生産は改善傾向だった、王国にいた時の推定情報でも数万人は余裕で年を越せるだけの麦が取れるだろう」
「ベルン要塞さえ落とせば、確保は容易となります」
「前線の食料事情を改善できると?」
アニタ補佐官が喋る。
「そのとおり」
「現状は前線に食料を送れず、結果として、正面兵力も限られています」
「そうだ」
「敵の食料を奪えば、こちらの補給を回復させるまでの余力を持て、しかも敵前線の補給にダメージを与えられるでしょう」
魔王は腕を組んだ。
「...理屈は分かる。だが、王国軍は強固に防衛しているはずだ」
「そうですね」
イサムは頷いた。
「でも、強襲します」
魔王は目を細めた。
「なぜ?」
「王国軍は僕が残した防衛計画を持ってる」
「...聞かせろ」
イサムは二つの案について説明した。
回復した東部穀倉地帯を使用不能にして、魔王軍の回復の見込みを完全に断つ一案。
魔王国西部に混乱を呼び起こし、攻勢を困難にして城で迎撃する二案。
魔王の顔が強張った。
「王国がやるかは分からんぞ、貴様を道徳的に追放した連中だ。よほどお綺麗な戦争が好きになったのではないか?」
「いえ、やるでしょう」
魔王は黙った。
「私がいなくなるまで、ベルン要塞にはカイラ将軍が詰めていた。彼なら手段を選ばない。時間をかければかけるだけ、穀倉地帯が焼かれる可能性があるのです」
イサムは続けた。
「それに、要塞からの妨害を受けながらでは、魔王軍の補給状況も長期戦には耐えらないでしょう。先ほど言った軍の再編も最終的には徴兵部隊の数あってこそです」
「...」
「だから、妨害の拠点を潰すのと、本格的な再編の時間を稼ぐために軍をまとめ次第、ベルン要塞を攻める必要があるのです」
魔王は長い間、地図を見つめていた。
やがて。
「...よかろう」
静かに頷いた。
「その方針を採用する」
「ありがとうございます」
その言葉を勇者が口にし、頭を下げた瞬間。
魔王は、奇妙な感覚に襲われた。
かつて自国を壊滅寸前に追い込んだ勇者に魔王が再建を託している。
それも、自分自身の判断で。
「...本当に、妙なことになったものだ」
魔王は小さく呟いた。
* * *
翌日。
魔王城の大会議室には、魔王軍の幹部たちが集められていた。
中央軍の将軍。
各方面軍、軍団の司令官。
そして、各地の領主たち。
いずれも、魔王国を構成していた重臣たちだった。
しかしながら、勇者との戦争が続く中で広範な領土と人員を失い、魔王の求心力は大幅に低下していた。
完全な中央集権化をできていない魔王国では、徴兵拒否をしている部族や村の領主も罰することはできず、ぬけぬけと集まりに来ていた。
そして、血を多く流している領主とそうでない領主との間で静かに、だが確実な不和が広まっていた。
「...陛下」
一人の将軍が口を開いた。
「以前から召集がかけていた本日の会議は、軍の再編についてと伺っておりますが」
「その通りだ」
魔王は頷いた。
「我が軍の現状について、重大な決定を下した」
会議室が静まり返った。
「軍事顧問を新たに任命した」
「...軍事顧問?」
将軍たちは顔を見合わせた。
魔王軍は現在、極めて厳しい状況にある。国中で不信感を持ちながら、どうにか人材や物のやりくりをして、それでも不足しているという末期的段階だ。在野の賢人を腐らせているほど各地の領主や彼らは耄碌していない。逃亡兵に困っている現状で、軍事顧問として使える人的余裕があるとは思えなかった。
「...陛下」
方面軍の将軍の一人が尋ねた。
「その者は、どこの出身でしょうか?」
「見れば分かる将軍もいるだろう。そして、その者は我が軍の現状を誰よりも理解しておろう。下手すれば我よりも」
「...ほう言いますなあ」
「戦闘、戦略、戦術、兵站、諜報」
魔王は続けた。
「いずれにおいても、極めて高い能力を有している」
将軍たちは顔を見合わせた。
ざわめきが大きくなる。
そして、将軍の一人が恐る恐る尋ねた。
「...まさか」
魔王は頷いた。
「入れ」
会議室の扉が開く。全員の目がそちらへと向いた。
黒髪。
黒い瞳。
穏やかな笑顔。
地味なまだら模様の服に、錆びたような鈍い色の鎧。
そこに現れたのは、勇者の装備を着た元...勇者イサムだった。
「...」
会議室が静まり返った。大半は勇者の素顔を知らなかった。だが黒髪黒目という、異世界ではまずいない容貌や装備だけは知られていた。
数秒後。
「...は?」
一人の将軍が声を漏らした。
「勇者...イサム!」
「...イサム?」
「...あの、勇者イサムか!?」
一人の発言から連鎖するように会議室が騒然となった。
「陛下! これはどういうことですか!」
「なぜ、あの男がここに!」
「我が軍の将軍達を殺した男ですぞ!」
「私の故郷を焼いた男だ!」
「殺す....!! 貴様ら! 離せ! 息子の仇だ!」
将軍だけではなく、各地域の領主たちまでもが次々と立ち上がった。
中には、剣の柄に手をかけ、襲おうとする者までいて衛兵や魔王直属の近衛兵に制圧された。
「静まれ!」
魔王の怒声が響き、会議室が再び静まり返った。
「この者は、正式に我が国の軍事顧問として雇用した」
「...陛下!」
「誓約魔法による正式な契約も完了している!」
魔王は続け、補佐官たちが机に置いた文書を指した。
「これら誓約書に書かれた内容をやつはその死を罰として遵守した!」
「...」
「さらに、直属の誓約師による永続の誓約と、補佐官による監視も行う」
いきなりの情報に、ペラペラと文書を読みながら、将軍たちは黙り込んだ。しかし、その表情には明らかな不満が残っていた。
「...陛下」
中央軍の将軍が口を開いた。
「誓約があるとはいえ、信用できるのでしょうか。やつは王国法に則り様々な悪事を成してきました」
「できぬ」
魔王は即答した。会議室がまだざわつくが、手で制し、静まり返った。
「余も、この男を信用しておらぬ」
魔王は静かに続けた。
「だが...この誓約と、この男が約束を違わないことは信用できる!」
「...」
「そして、この男の能力もな...」
将軍たちはさらに言おうとしたが、言葉に詰まった。
誓約書の中身を見て気づいたのだ。魔王軍を統括しているのは魔王だ。そして、国民、民間人を許可がないと殺せないという縛り、軍事行動を許可がないとできないという縛り。
これは国民を守るための縛りに見えるだろう。が、恣意的に運用すれば、魔王の心持ち一つで我々は軍事行動の一環として、軍人であるから、もはや反乱軍であり国民でないからと勇者に殺されうるのだ。
勇者と魔王。王国軍と対峙している中で、この二人を相手にすることはできない。
魔王は勇者に守られているのだ。
* * *
「初めましての方もいると思います。アルトリア王国で勇者をやっていました。イサムです。この度はご紹介のとおり、軍事顧問として雇われました」
その挨拶に拍手などはない、そのような文化が存在しないうえ、イサムへの恨みから罵声がないだけマシと言えるだろう。
魔法や剣を抜くような者達は既に衛兵・近衛兵により退室済みだ。
「この国が滅ばぬよう、負けぬよう全身全霊をかけて職務に励むことを誓わせていただきます! ...誓約魔法ではございませんがね」
氷結魔法にこのような呪文はないが、会議室は冷え切った。
「そして、今後の軍の再編につきまして、僕の方から告白させていただきたいことがございます」
残っている将軍達は何事かとざわつく。
「まず一つ、西部の村を魔王軍に化けて襲撃したのは僕が率いた王国軍でした」
時間停止魔法でも発明されたかのようだった。事実を知っていた魔王を含んだ一部の魔人族を除き、少なくとも将軍達は反応できなかった。
「薄々分かっていた方も居たでしょう。変身魔法により魔人族に化けて、殺した兵士から奪った装備をつけた。逃亡兵のフリをして村や輸送隊を襲ったり、違法な徴発を行いました。その犯人は、僕です」
会議室の時間は...ようやく動き出した。
「...何?」
「僕がやりました」
イサムは微笑んだ。
「変身魔法で魔王軍の兵士に化けて、村を襲撃し、殺して回りました」
「...!」
「住民が魔王軍を恨むように」
将軍達の顔が真っ赤になった。
「き、貴様...!」
「我々が、どれほど苦しんだと思っている!」
将軍は机を叩いた。
「住民から石を投げられ、徴兵を拒まれ、食料の徴発にも応じてもらえず!」
「それはそうでしょう」
「...!」
「そのための作戦でした」
イサムは平然と、むしろふてぶてしいくらいの態度で答えた。
「魔王軍が住民から信頼を失い、軍の継戦能力が下がるでしょう? 村の蜂起も想定していました。想定より少なかったですが...」
「...貴様!」
将軍が剣を抜きかけた。
「やめよ!」
魔王が叫んだ。
「この者は、すでに我が国の軍事顧問だ!」
「しかし、陛下!」
「今、ここで殺して何になる!」
魔王は厳しい声で続けた。
「この男がやったことを忘れろとは言わぬ。許せとも言わぬ」
「...」
「だが、今はこの国を立て直す必要がある」
将軍は歯を食いしばり...やがて、剣から手を離した。
「...承知いたしました」
「ただし、奴隷のように扱き使ってやる。その最期の時まで」
魔王は勇者を見ながら、そうはっきりと宣言した。
* * *
「二つ目になりますが...」
イサムが口を開いた。
将軍たちは冷めた目で見る。
「...もういい、まとめて言え」
領主の一人がそう告げた。
「では、避難民が爆発した事件も各地の橋や道の破壊は全て僕がやりました。国民の信頼が崩れるよう、より効果的に前線が崩壊するよう、飢餓が起きるよう、考えて直接破壊してました」
「...」
老将軍が震える声で言った。
「...どれほどの民を巻き込んだ思っている」
「正確な人数は分からないです」
イサムは少し考えた。
「直接的な被害だけなら、数百人くらいでしょうか?飢饉や反乱の影響まで含めると、数万人規模かと」
会議室は葬式のように再び、静まり返った。重力操作魔法というものはこの世界に存在しない。が、空気は大変重い。
「領主の皆様は、これらの誤解を正していただければと」
「嘘ではないのだな」
「既に誓約はありますが、誓ってもいい、誓約魔法もどうぞ」
将軍たちからの要望でスネジンカ誓約師が再度誓約し、事実確認がなされた。
自分たちの国を壊滅寸前に追い込んだ男。
その本人が。
自分の犯罪を自供した。軍の信用回復のために。
何の躊躇もなく。
何の罪悪感もなく。
「...陛下」
一人の領主が静かに口を開いた。現時点で最南部に位置する町の副領主だ。周辺の領主や将軍は南方から侵入している王国の混成軍と対峙し戦場におり、来ることができなかった。
「私は、この者を決して許せませぬ」
「...ああ」
魔王は頷いた。
「余もだ」
「...奴隷のごとくこいつを使って下さい...王国の奴らに目にものを見せてやりましょう...我らの恨みを...殺された氏族の仇討ちを...奪われた全てを取り返すため...徹底的に!」
魔王はイサムを見た。
「この男が再び敵に回れば、我が国は滅びるだろう」
誰も答えなかった。
「だからこそ、余はこの決定を下した」
魔王は続けた。
「我々は、この男を許す必要はない」
「...」
「ただ、利用すればよい」
その言葉に、将軍たちは少しずつ頷いた。
イサムは嬉しそうに笑った。
* * *
それから一週間。
魔王軍は急速に再編を進めた。
各地に分散していた領主軍を集結させる。輸送可能な食料を軍の前線へ。
徴兵の一時停止を布告し、既存兵士への食料配給や訓練のための人員を減らし、前線への配備を優先する。
魔王は各地の領主へ命令を下していた。
『王国への反攻作戦を準備せよ』
その命令は、集まっていた領主を通して魔王国全土に伝えられた。
最初、領民の反応は様々だった。
今さら反攻などできるのか。
食料すら足りないではないか。
兵士たちは疲弊している。
軍なんぞ最早信頼できない。
だが、魔王軍は再び集結した。
理由は単純だった。
領主達が意志を統一したこと。
勇者イサムと王国への恨みと恐怖。
領主達は領地へ戻り、事実を伝えた。
かつて自分たちを壊滅寸前に追い込んだ男が、今度は自分たちの側にいる。
軍の蛮行は、これまでの地獄は勇者に、王国に起こされたものだった。
その事実を知り、領民、軍の中には奇妙な安心感と王国へのさらなる恨みが生まれていた。
行方不明だった逃亡兵の出頭、各地で志願兵の増加が見られた。
もちろん、不満も大きかった。
勇者を憎む者は多い。
家族を殺された者。
故郷を破壊された者。
仲間を失った者。
誰もが、イサムを簡単には受け入れられなかった。
しかし、魔王国を守るためには、彼の能力が必要だった。敵対したくはなかった。
* * *
西部の町、その領主の邸宅にて魔王と勇者は報告を確認した。
「...へえ」
イサムは報告書を見て感心した。
「思ったより兵力が集まりましたね」
魔王は頷いた。
「...ああ」
中央軍。
西部の領主軍と西部方面軍の残存部隊。
各地の領主軍。
そして、新たに集まった志願兵。
それらを合わせた兵力は、当初の予測を大きく上回っていた。
「...西部方面だけで四万八千」
補佐官のズヴョズダが報告した。
「現時点で、全体では六万の兵力を確保しております。現時点でも志願兵が増えてます」
勇者と魔王はどちらも同じように満足している。
「嬉しい誤算だ。当初、総数を二万八千程度と見積もっていた。逃亡兵の帰還も志願兵も想定以上の数だった」
「国民の統一をできたことが要因でしょう」
「そうだな」
「では、以前話したとおり、ベルン要塞攻略に関してはその場で指揮を執り、突破を図ります」
「約束を違えてないな」
じっとイサムを見た。
「ええ、私がベルン要塞で殺すのは軍人と言える人々だけです。用意頂いた物品も間違いなく届いてます。予定通りに。それに今、ちょっかい掛けて来ている教え子たちに挨拶もしないと」
「陛下、イサムの言葉に違いはありません」
誓約師のスネジンカはそう伝える。
「スネジンカ、そなたの誓約魔法を疑ってはおらん。確認だ。いきなり、余の軍の指揮を任せるのは不安でな」
「幾多の名将たちが迷い込んだ戦場の霧を晴らすために現地での調整と対応が必要不可欠です」
「たまに、よく分からんことを言うが、よかろう。我は第二陣として向かう。第一陣としてマルフーシャ補佐官に相談のもとベルン要塞を攻略せよ」
「分かりました。第三陣については志願兵も多く、訓練完了と補給のためベルン攻略までお待ち下さい」
一礼し、イサムは部屋から出ていった。補佐官とスネジンカはそれに合わせて慌ててついていく。
「嘘をつきました?」
スネジンカはイサムに問いかけた。
「誓約で嘘はつけないだろ?僕は死んでない」
「そうです、そのはずなんですが...なぜか違和感が」
「...犬の魔人族は鼻がよく利いたっけね。さっきの、嘘ではないよ。でも、全てではない。それが答えだ」
「じゃあ、本当は何なんですか!」
その問いにイサムは、少し間をおき、窓の外を見て答えた。彼女の目には照れくさそうに見えた。
「国を愛し、家族を愛する彼ら善良な兵士をできるだけ殺したくないからですよ」
スネジンカは窓の外にいる兵たちを見て、その後イサムの顔をじっと見つめた。今度は嘘をついてないような気がした。
かつて魔王軍の兵士を数万人単位で死に追いやった男が。今度は、その兵士たちを守ろうとしている。
要塞にいる数万の王国兵の命を奪うことで。
そしてそれを、笑顔で達成しようとしていた。
とある過去の会話
エリシア、大陸教会において、切れた腕も繋げられるという回復魔法を神の奇跡がある。
しかしながら魔法の中身としては神聖魔法で状態を保存し、闇?魔法によって活性化させ自然回復能力を高めて接合させているように思う。
神聖魔法と闇魔法という翻訳が、なんか変に感じるのだ。保存魔法と活性魔法というのが正しいのではないか?
この世界の文化レベルで魔力があれば物を腐らせないというのは奇跡に等しい、清めの塩と同じかそれ以上だ。闇魔法も、最初は物を腐らせる魔法と思われてたために闇魔法とされたかもしれない。だが、物や生物の変化を早める効能は毒にも薬にもなると思うのだ。
...........勇者様? おっしゃってる意味がわかりません。神の奇跡をなんと思っているのですか?神の奇跡はそのようなものではありません。
....そうか(学術的になると翻訳魔法が上手く働かないなあ)すまない。
【本編に一切関わらないやらかし】
戦争編に突入するつもりが、国内だけで文字数が過剰となってしまった。
ベルン要塞戦も書いてて一万行きそうとなり、分割と加筆を余儀なくされた。
勇者の卑劣な戦争が期待されてるのに...ユルシテ..ユルシテ
以下余白