A級2位 茶渡隊 作:ぽんぺぱろん
──玉狛支部。
茶渡隊と迅がボーダーの精鋭たちを相手に激しい戦いを繰り広げている頃。玉狛支部の一室では、修と遊真が宇佐美からボーダーについての説明を受けていた。
宇佐美の話を遊真は興味深そうに話を聞き、修は一つも聞き逃すまいと真剣な表情で耳を傾けている。
「ふむ。そのタチカワさんは、部隊では何位なんだ?」
「太刀川さんは太刀川隊の隊長で、今はA級1位だよ」
「A級1位……」
修は思わず言葉を繰り返した。
ボーダーのランク戦で頂点に立つ部隊。そこに所属する隊員たちは、きっと自分たちには想像もつかないほどの実力を持っているのだろう。
だが、だからといって気後れしているわけにはいかない。自分たちが目指す場所に、どれほどの強者がいようとも、今できることを一つずつ積み重ねていくしかないのだ。
修は小さく息を吐くと、改めて気持ちを引き締めた。
「へぇ。じゃあ、タチカワさんの部隊がボーダーで一番強いんだな」
遊真が納得したように頷く。しかし、宇佐美はすぐには頷かなかった。
「うーん……それがね。ちょっと違うんだよね」
「違う?」
修が聞き返すと、宇佐美は少し考えるように視線を上へ向けた。
「謙遜なしで言うなら、ボーダーで一番強いのは玉狛第一……つまり、君たちの師匠たちの部隊じゃないかなーって思うんだよね。うん、たぶん!」
「おー、さすがこなみ先輩」
遊真は感心したような声を上げた。
自分たちの師匠が所属する部隊が最強候補と聞いても、特に驚いた様子はない。むしろ、そうであって当然だと言わんばかりの反応だった。一方、修は宇佐美の言い方が気になった。
「でも……どうして、そんなに自信がなさそうなんですか?」
「うーん、そうだねー……。玉狛第一が一番強いと思うんだけど、ちょっと判断が難しいんだよね」
宇佐美は少し考えるように首を傾げた。
「というのもね、A級2位の茶渡隊っていう部隊がいるんだけど、そっちが最強だっていう声もあるんだよねー」
「A級2位なのにか?」
遊真が意外そうに目を瞬かせる。
「確かに、ランク戦の成績だけで見れば、太刀川隊の方が上だよ。でも、茶渡隊はちょっと違うんだよねー。なんていうか……爆発力がすごいんだよ」
「爆発力?」
「普段のランク戦じゃ測りきれないっていうか、本当に大事な場面になると、ものすごい力を発揮するんだよね。前に一度だけ参加した遠征でも大活躍したらしいし、かなり前のA級昇格戦でも、当時のA級1位、2位相手に圧勝したんだって」
宇佐美は身振りを交えながら説明した。普段の戦いで勝ち続ける強さと、絶対に負けられない場面で結果を出す強さ。その二つは、似ているようで少し違うのかもしれない。
修は腕を組み、考え込むように視線を落とした。
「なるほど……本番に強いタイプなんですね」
「そう、それ! まさにそれだ!」
宇佐美はぱっと顔を明るくした。
「茶渡隊って、本番になると普段以上の力を出すんだよねー。だから、玉狛第一とどっちが強いかって聞かれると、簡単には答えられないんだよ」
「へぇ……面白いな」
遊真は楽しそうに笑った。強い相手がいると聞けば、むしろ興味が湧くらしい。遊真の表情には、いつか自分も戦ってみたいという気持ちがにじんでいた。
「それにね、隊長の茶渡君はレイガスト使いなんだよ。レイジさんといい勝負するぐらい強いよー」
「レイガスト……」
修はその名前に反応し、思わず顔を上げた。自分も使っているトリガーだ。A級2位の隊長がレイガストを使いこなしていると聞けば、気にならないはずがなかった。
自分とは何が違うのか。どんな戦い方をするのか。そして、そこまでの強さを手に入れるには、何が必要なのか。次々と疑問が浮かんでくる。
「その茶渡さんって、どんな戦い方をするんですか?」
修が尋ねると、宇佐美は少し困ったように笑った。
「うーん。詳しい話は、実際に戦ってるところを見た方が早いかもね」
「なるほど。時間があればA級ランク戦のログを見てみます」
「そうだね。ランク戦は参考になることも多いから、一回見てみるといいよ。でも、茶渡君の戦い方はあんまり参考にならないかも」
その後も三人の話は続き、やがて数十分が経った頃。不意に、玄関の方から扉の開く音が響いた。
「ただいまー」
聞き慣れた声が響き、宇佐美が顔を上げた。
「おっ、この声は……」
「迅さんだ」
宇佐美の隣で遊真が声を弾ませる。少し遅れて、廊下から軽い足音が近づいてきた。やがてリビングの扉が開き、迅がひょいと顔を出す。
「いやー、ただいま。ちょっとお客さんを連れてきたよ」
そう言って、迅は後ろを振り返る。その背後から現れたのは、オレンジ色の髪をした少年と、六枚の花弁を持つ花を模ったヘアピンが特徴的な、明るい表情の少女だった。
「邪魔するぜ」
「お邪魔します!」
対照的な二人の挨拶に、宇佐美はぱっと顔を明るくした。
「あ、黒崎君に織姫ちゃん! いらっしゃーい」
宇佐美は椅子から立ち上がり、二人のそばへ歩み寄る。
「でも、今日はどうしたの? 二人そろって来るなんて珍しいね」
「えっと、それが……」
織姫が少し困ったように笑い、隣の一護を見た。一護もまた、何とも言えない顔で迅に視線を向ける。
「迅さんに呼ばれたんだよ。何の用かも教えてくれずにな……」
「そうそう。俺が呼んだんだよ」
迅は悪びれもせずに笑うと、空いているソファーに腰を下ろした。
「おい、だから何の用で呼んだんだよ」
「まあまあ、細かいことは気にしないで」
「いや気にするだろ。俺だって暇じゃねぇんだぞ」
一護がすかさず突っ込む。
「ははっ、とりあえず座って座って」
「まずは何の用で俺たちを呼んだのか話せ!」
「おー、元気だねえ」
「誰のせいだと思ってんだ!」
一護の声がリビングに響く。そのやり取りを見ていた遊真は、面白そうに目を細めた。
「二人とも、仲がいいんだね」
「どこがだよ!」
一護が即座に言い返す。
「えー、そうかな? 俺は仲いいと思ってるけど」
「思ってんのは迅さんだけだ!」
「素直じゃないな、一護は」
「めちゃくちゃ素直だわ!」
迅は楽しそうに笑い、一護は深いため息をついた。そんな二人を見て、織姫は苦笑しながら一護の袖を軽く引いた。
「黒崎君、せっかく呼んでもらったんだから……ね?」
「……分かってるよ」
一護は頭をかきながら、ひとまず口を閉ざした。そして、ソファーに腰を下ろす。織姫もそれに続くように、自然と彼の隣に腰を下ろした。二人が座ったのを見届けると、宇佐美は修と遊真の方へと振り返った。
「そうだ、二人はまだ会うの初めてだったね。紹介するよ!」
宇佐美は一護と織姫を順番に示した。
「こっちが黒崎一護君、こっちが井上織姫ちゃん。二人とも私と同い年で、同じ学校に通ってるんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。学校では同じ学年なんだよね。まあ、クラスまで一緒ってわけじゃないけど」
宇佐美はそう補足してから、少し誇らしげに続けた。
「それでね、この二人が所属してるのが、A級2位の茶渡隊!」
「茶渡隊……!」
修の表情が引き締まった。つい先ほどまで宇佐美から聞いていた名前だ。玉狛第一と並んで最強候補に挙げられることもある、実力のある部隊。
「しかも、茶渡隊は隊員の四人全員が私と同い年なんだよ。つまり、みんなまだ若いのにA級2位まで上り詰めたってこと。すごいよねー!」
「全員、宇佐美先輩と同い年なんですか!?」
「そうだよー。すごいでしょ?」
宇佐美は得意げに胸を張った。
「なんで宇佐美が得意げなんだよ」
「あはは、ちょっと照れるね」
「へえ……」
遊真は一護と織姫を交互に見た。一見しただけでは、二人がどれほどの実力を持っているのかは分からない。だが、A級2位という肩書きが示すものは大きい。
「なるほど。二人とも強いんだな」
「うーん。私はオペレーターだから、強いのは黒崎君の方かな?」
「いやいや、謙遜しなくていいんだよ。一護も織姫ちゃんも、二人とも頼りになるからね」
迅が横から口を挟むと、改めて修たちに目を向けた。
「じゃあ、こっちも紹介しておこうか。こっちのメガネ君が三雲修。こっちが空閑遊真。二人とも、A級を目指してこれから頑張ろうってところだよ」
「三雲修です。よろしくお願いします」
「空閑遊真です。よろしく、クロサキ先輩、イノウエ先輩」
修は背筋を伸ばして頭を下げ、遊真も気軽に挨拶する。
「おう、黒崎一護だ。よろしくな」
「井上織姫です。よろしくね、三雲君、空閑君!」
織姫はにこやかに手を振った。一通り挨拶が済むと、一護は改めて迅に目を向ける。
「……それで、迅さん。流石にそろそろ説明してくれねぇか?」
「んー? 何を?」
「何を、じゃねぇだろ! 何か用があったんじゃねぇのか!? 話があるとかっ!」
「まぁまぁ、もうちょっと世間話でもしようよ」
「なんでだよっ!」
修はそんなやり取りを眺めながら、ふと気になったことを口にした。
「そういえば、今日は茶渡さんも一緒じゃないんですか?」
修はふと気になって尋ねた。
先ほどの話では、茶渡隊の隊長は修と同じくレイガスト使いらしい。A級2位の隊長ということもあり、どんな人物なのか、一度会ってみたいと思っていた。
「チャドはちょっと用事があるみたいなんだ」
迅がさらりと答える。
「用事? いや──」
何か言いかけた一護だったが、その瞬間、迅がさりげなく目配せをした。どうやら、先ほどのボーダー精鋭部隊との戦闘については触れてほしくないらしい。一護はそう察すると、口をつぐんだ。
「……まあ、隊長は何かと仕事が多いってことだな」
それ以上は説明せず、一護は話を切り上げた。修は少し気になったものの、二人の間には何か事情があるのだろうと察し、それ以上は尋ねなかった。
それから少し経った後、迅が軽く手を叩いた。
「さて。自己紹介も済んだところで、本題に入ろうか」
「やっとかよ……」
一護と織姫だけでなく、修と遊真、宇佐美も話を聞くために姿勢を正した。全員が落ち着いたのを確認すると、迅は一同を見渡し、いつもの軽い笑みを浮かべた。
「実はね、今日は二人にメガネ君と遊真を紹介しておきたかったんだよ」
「……は?」
一護がきょとんとした顔で迅を見る。
「いや、だから顔合わせ。今後、関わることもあるだろうし、先に知り合っておいて損はないでしょ?」
「お前、それだけのために俺たちを呼んだのか?」
「うん」
迅はあっさり頷いた。
「いや、うん、じゃねぇだろ! こっちは何か大事な話でもあるのかと思って来たんだぞ……」
一護は呆れたように眉を寄せる。
「いやー、でも一護って、そう言ったら面倒くさがって来てくれないかもしれないし」
「そりゃそうだろ。顔合わせだけなら、わざわざ呼び出さなくてもいいじゃねぇか」
「だから隠してたんだよ」
「ったく、あんたなぁ……」
迅は相変わらず楽しそうに笑っている。一護は小さく息を吐き、これ以上言っても仕方がないとばかりに背もたれに身を預けた。その様子を見ていた修は、困ったように二人を見比べてから、宇佐美に小声で尋ねた。
「宇佐美先輩。いつも、こんな感じなんですか?」
「うん、だいたいねー。迅さん、こういうところあるから」
宇佐美は慣れた様子で頷いた。
「なるほど……」
修は何とも言えない顔になった。一護はそんな修たちの様子に気づくと、少し気まずそうに頭をかいた。
「……あー、悪いな。なんか騒がしくて」
「いえ、そんなことは……」
「おれは面白いからいいよ」
遊真がいつもの調子で口を挟む。
「お前は面白がってんじゃねぇ!」
一護がすかさず返すと、織姫が隣でくすくすと笑った。ひとしきりやり取りが続いたあと、迅はようやく少し真面目な表情になった。
「まあ、冗談はこのくらいにして。ちゃんと理由はあるんだよ」
声の調子がわずかに変わり、修も自然と背筋を伸ばした。
「茶渡隊って、みんな個性的で癖が強いでしょ。だからか、どの未来に進むか読みづらいんだよね」
「未来が……読みづらい?」
「まったく見えないってわけじゃないんだけど、茶渡隊が関わると、思いがけない未来に進むことが多いんだ。いい方向にも、悪い方向にも。基本的にいい方向が多いけどね」
迅は少し考えるように視線を上げた。
「正直、茶渡隊がメガネくんたちと面識があるかどうかでも、未来は大きく変わると思うよ」
「……それで、先に顔を合わせておこうと思ったんですか?」
修が尋ねる。
「そういうこと。未来が読みづらいから、いつ顔合わせができるかもはっきりしないしね。それに、今後何かあったとき、初対面の相手といきなり協力するより、少しでもお互いを知っておいた方が動きやすいでしょ?」
迅はいつもの調子で笑った。
「メガネくんたちは、これからA級を目指すわけだし、茶渡隊と関わる機会も出てくるかもしれない。今のうちに知り合っておけば、何かと都合がいいんだよ」
「なるほど……」
修は納得したように頷いた。ただの顔合わせにしては、ずいぶんと強引なやり方だ。けれど、迅がわざわざこうして場を設けたのには、先を見据えた理由があったらしい。
すると、遊真がふと思い出したように口を開いた。
「クロサキ先輩、一つ聞いてもいい?」
「何だ?」
遊真はいつものように笑っていた。けれど、その目は一護の答えをまっすぐに見定めようとしていた。
「クロサキ先輩は、
部屋の空気が、わずかに変わった。その場にいた全員が遊真に目を向ける。一護は少し意外そうに眉を上げたものの、特に警戒する様子もなく、ゆっくりと口を開いた。
「
一度言葉を切り、考えるように視線を落とす。
「俺は……母親を
「っ……!」
遊真と修が、そろって目を見開いた。あまりにも突然の告白だった。二人とも、すぐには言葉が出てこない。一護はそんな二人を見ても、特に表情を変えなかった。
「だから、
そこで一護は、遊真の目をまっすぐに見た。
「だけど、
遊真がわずかに目を細めた。
「自分の母親を殺した相手と、同じ世界の奴らでも?」
「ああ」
一護は迷わず頷いた。
「母さんを殺した奴は許せねぇ。そいつのしたことまで、なかったことにするつもりもねぇよ。けど、そいつと同じ世界から来たってだけで、他の奴まで憎むのは違うだろ」
その声には、静かな強さがあった。
「結局、そいつが何をしたかが大事なんじゃねぇのか?」
その言葉を聞き、遊真の表情がほんの少しだけ変わった。
「……クロサキ先輩は、いいやつだな」
「は? 何だよ、いきなり」
一護は面食らったように目を瞬かせた。すると、宇佐美がくすりと笑った。
「黒崎くんって、意外と優しいんだよねー」
「おい、『意外と』は余計だろ」
一護が眉をひそめる。
「ったく……。まあ、お前が何を考えてそんなことを聞いたのかは知らねぇけどよ」
そう言って、再び遊真に視線を向けた。
「もし
「
遊真は少し首を傾けた。
「俺が
「……は?」
一護の表情が止まった。
今、こいつは何と言った?
一護は遊真の顔を見つめたあと、ゆっくりと迅へ視線を向けた。
「……おい、迅さん。今の、どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。遊真は
迅は普段と変わらない調子で答えた。
「いや、ちょっと待て。こいつが
一護は改めて遊真を見た。
先ほどのボーダー精鋭部隊との戦闘が脳裏をよぎる。迅が自分たちを連れてきた理由も、遊真のことを紹介しようとした理由も、ようやく繋がった気がした。
「まさか、さっきの戦いは……」
「戦い……?」
「ああ。遊真を護るためだよ」
迅はあっさりと肯定した。一護はしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐いた。そのやり取りに修は疑問を覚えるものの、二人の間にはどこか踏み込みがたい空気が漂っている。結局、口を挟むこともできず、戸惑いながら二人の様子を窺っていた。
「なんで先に教えてくれなかったんだよ」
「んー、そこは実際に会って話した方がいいと思ってね」
「またそれかよ……」
一護は額に手を当てた。遊真が
先ほどまで普通に話していた相手が、自分たちとは異なる世界から来た存在だった。それは確かに驚くべきことだが、だからといって遊真を危険な相手だと決めつけるつもりはなかった。
ふと、一護はもう一つ気になることに思い当たった。
「待てよ。チャドは知ってたのか? あいつ、やけにあんたに協力的だったよな」
「ああ。チャドは最初から事情を知ってたよ」
迅は隠すことなく答えた。
「先に話しておいたんだ。そのうえで、ほかの隊員には遊真のことをむやみに話さないよう頼んでおいた。会ったことない
「……そうか」
一護は小さく息を吐くと、改めて遊真へと向き直った。
「なるほどな。お前が
「どう? おれのこと、嫌いになった?」
遊真はいつもの笑顔を浮かべたまま尋ねた。一護はまっすぐに遊真の顔を見つめ、迷いなく口を開く。
「もしお前が、俺の大切な人たちを傷つけるってんなら、俺は容赦なくお前をぶった斬る」
「っ! 遊真はそんなやつじゃ──」
思わず修が口を挟みかけた。
「けど──お前が俺たちの味方で、助けを求めるってんなら……俺が、俺たちがお前を護ってやる」
その言葉に、修は口を閉ざした。
一護の言葉は、遊真を無条件に受け入れるという意味ではない。相手が誰であろうと、守るべきものを傷つけるなら戦う。けれど、共に戦う仲間であるなら、今度は自分が護る。
その覚悟が、言葉の端々から伝わってきた。
「……そっか。ありがと、クロサキ先輩」
「礼を言われるようなことじゃねぇよ」
一護は少し照れくさそうに頭をかいた。そんな二人のやり取りを見ていた織姫が、柔らかく微笑んだ。
「黒崎君って、そういうところあるよね」
「どういうところだよ?」
「相手のことをちゃんと考えて、真剣に向き合ってくれるところ」
織姫は遊真にも目を向けた。
「だから、黒崎君の言うことは信じられるんだと思う」
「お前、急に何言ってんだよ」
一護は恥ずかしそうに頭をかいたが、それ以上は何も言わなかった。迅はそんな一護と織姫を、静かに眺めていた。
「うん。やっぱり、会わせておいてよかったね」
「……おい、迅さん。まさか、今の話も計算のうちか?」
「さあ、どうでしょう?」
迅はひらひらと手を振った。
「でも、こういう話って、実際に顔を合わせてみないとできないでしょ?」
「相変わらず、肝心なところははぐらかすな、あんた」
一護は呆れたようにため息をついた。
「まあ、いい。遊真が
そう言って、一護は遊真を見た。
「さっきも言っただろ。大事なのは、そいつが何をするかだ」
「うん。おれもそう思うよ」
遊真はいつもの笑顔で頷いた。その返事を聞き、一護も小さく笑った。
「なら、いいんじゃねぇか」
張り詰めていた空気が、少しずつ和らいでいく。その後、話題は自然と普段のものへと戻っていった。
宇佐美は修と遊真に、茶渡隊のほかの隊員についても簡単に説明した。織姫は学校での話を交えながら二人に話しかけ、一護も遊真の質問に答えたり、修の話に耳を傾けたりしていた。
初対面のぎこちなさは、いつの間にか薄れていた。迅はそんな一同を眺めながら、ソファーの背もたれに体を預けた。
未来は、いつだって一つとは限らない。
ほんの小さな出会いが、思いもよらない方向へとつながることもある。今回の顔合わせが、この先どんな未来につながるのか。それはまだ、迅にもはっきりとは見えていなかった。
それでも、こうして互いを知る機会を作れたことには、きっと意味がある。
「……さて、これでひとまず目的達成かな」
迅は満足そうに呟き、再び笑みを浮かべた。