コードギアス ~黄昏のルルーシュ~ 作:カメル~ン
「ねえ、進路はどうするの?」
教室で、そう後ろの席に座る友人の女の子に聞かれている少女は、元黒の騎士団KMFパイロットでエースだった紅月カレン。
あの天空要塞ダモクレスの戦いへと雪崩れ込む日本の太平洋側での最終決戦では、かつて学友らでもあった『破壊皇帝』ルルーシュとも戦場で直に戦い、その唯一にして最強騎士『ナイトオブゼロ』のスザク搭乗機であるランスロット・アルビオンをも激闘の末に単機で撃破している英雄の一人だ。
だが、今では一応普通の学生をやっている。
『ゼロレクイエム』では処刑されるメンバーの一人という状況だったが、あれから二ヵ月。
日本は主権を取り戻し、扇要が日本国首相に就任して国の再建と復興に取り掛かっていた。顔見知りな騎士団の主要メンバー達も大臣や各省の要職に付き、ともに前へと進んでいる。
そんな中、カレンはリフレイン中毒からのリハビリ中な母を気遣い、その面倒をみて共に住むため、父の生家である名家のシュタットフェルト家から出て都内のマンションに移り住み、母子二人で穏やかで落ち着いた生活を取り戻していた。
カレンの「家を出る」という言葉に、父親の表情と心境は複雑なものであった。その理由だが、カレンはブリタニアの象徴でもあり現ブリタニア代表であるナナリー総代議長に高く評価されていて交友もあり、貴族で無くなったシュタットフェルト家にとっては手放せない娘になっていたからだ。そのため、マンションの購入費や学費など生活に必要な費用を提供する形で縁を繋いでいる。
カレンとしては当初、日本国への貢献と英雄としての評価により、かなりの額の恩給が出るという話もあって当面の生活は何とかなる為、父から施しを受ける気にはなれなかったが、ナナリーに「生きている家族の繋がりを大切にしてください」と言われ考え直し、父からこれまでの母への待遇の詫びと言う意味で申し出を受け入れた。
そして、半月ほど前からは再びあの思い出深い学園、アッシュフォードの学び舎へと通い始めている。
お馴染みである明るいクリーム色の制服、その黒い袖先とスカート、白いシャツに緑の紋章入りのネクタイ。依然とほとんど変わらない赤毛の髪型に、お守り代わりな感じで紅蓮の起動キーを首に掛けて、茶色い通学カバンを右手に握って。
今朝もパンを齧りながら家を出て、校門の閉門時間ギリギリで登校し席についたところだ。
このあとのHRで、先日渡されていた最終進路調査表の用紙を回収するという話をカレンは忘れていた。
「あぁーー! 今日提出だっけ?」
「そうよ」
「ううーん、どうしよう」
以前のような病弱設定はもうない。素の彼女が炸裂し、友人の女の子へ『困った』という表情で元気に唸って見せる。
実は、カレンも圧倒的な操縦技量と経験と行動力から日本国防軍の要人にと言う話もあった。だが、統合幕僚長へ就任した藤堂鏡志朗と話し合い、母の傍に居たいし平和な時代を迎えた今はまだ学業に専念したいと告げ、藤堂も笑顔でそれを了承した。だが、超法規的措置で予備役ながらKMFのパイロットとしては登録されている。また、激戦により激しく損傷していた紅蓮聖天八極式も次世代機開発の実験機として、ラクシャータにより大破から数日で修復完了(開発凍結通達以前)しており要請があればいつでも出撃できる状態になっていた。
そして先週も月に一度の稼働確認に託けた、戦闘の感が訛らないための訓練にも参加している。
稼働確認はともかく、軍の訓練には出る気が無かったのだが、藤堂らに引っ張られて行っしまったのだった。新人らにカレンの技量を是非見せたいとしてだ。だがそれは口実で、藤堂としては一対一の模擬戦で互角の相手になるのがカレンしかいないためである。他に『ゼロ』や黎星刻がいるにはいるが、気軽に呼べる立場の者達ではなかった。
藤堂自身も統合幕僚長なので、基本的にはKMFに搭乗して前線に出ることは無いはずなのだが、本人曰く武人としての忘れてはならない嗜みらしい。
そんな色々なことが頭に浮かんだが、カバンに残っていた進路調査用紙を取り出すと、カレンは急ぎシャーペンを紙へと走らせる。
『大学進学』と。
だが、提出後にカレンは担任の教師に「進学ならきちんと志望校を書きなさい」と怒られていた。彼女は具体的に書けという補足文書を斜め読みしていたのだった……平和ボケとは言わないが、ついうっかりしていた。
担任には昼までにと言われたが、その場で書き直す。
そこにはブリタニアの名門大学名では無く、来年から再開される日本国防大学でもなく、日本の名門大学の名と工学部と記して提出した。
あの最終決戦の最中(さなか)にも、絶対的な大量殺戮破壊兵器フレイヤの超爆発停止(フレイヤ・エリミネーター使用)という最難関への実現の可能性を見せつけ、そして最後はみんなの為に悪行と汚名をすべて背負って去ってゆくというルルーシュらとの戦いをへて、彼女には一つの夢が出来ていた。
自身のKMFに対する高い操縦技術、それを軍事では無く宇宙開発に生かせないだろうかと。
KMFを兵器ではなく平和の中で貢献できるもの、例えば過酷な地球外惑星の開発や探索に使えるんじゃないかと思うようになっていた。そのために、大学まで進み必要な事を学びたいと考えている。
彼女も新しい明日へと進み始めていたのだ。
とはいえ、まだまだ至らない事も多い。
彼女自身は最近まで戦いを優先し、勉学を疎かにしていた方だったから。
もともと優秀な成績だった彼女だが、まずはじめの目標はアッシュフォード学園で単位を落とさずに卒業することになりそうだ。
そして勉学以外も……元貴族でナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグからのラブメールである。毎日送って来る訳でもしつこい訳でもない。夜少し寂しい時や、何かの区切りの時に気が付くと送られて来ていた。
自分の考えをしっかり持っていて、背が高くハンサムだし悪いやつではない事は分かっている。
だが今はやりたいことが出来た。あのルルーシュが呼び込んだ、この皆が明日に笑って希望を持てる世界で、自分も何か新しく見つけた自分らしい事をやり遂げたいのだ。
……そう、まだカレンは『彼』のことが、その見せつけていった圧倒的な姿が―――。
授業が終わり、今日も無事に放課後を迎える。
カレンは英雄という有名人で目立つ美人でもあるので、当初はどうなるのかという心配もあったが、そこは学園生活。確かにまだカレンの姿を見ると噂をする人影があることも事実だが、常に死が隣り合わせの戦場に比べれば気にすることなど何もなかった。もはや通ってきた修羅場が違うのである。
さて、アッシュフォード学園に在籍する生徒は、必ずどこかのクラブに所属しなければならない。彼女も以前はミレイによって生徒会に引っ張り込まれていた。
だが今、彼女は生徒会メンバーながら稀に顔を出す程度である。
今詰めているのはリヴァルぐらいである。なにせ彼は生徒会長になっているのだから。
消去法で選ばれてと言う人もいるようだが、前生徒会長の築いてきた楽しい雰囲気の校風を続けようと訴えて見事当選していた。もちろんそれを有言実行中である。
彼は以前、ルルーシュの掛けチェスのマネージメントをしており、大人相手の根回しなども心得ていて世渡りは上手く、周りにも気を使えるし基本いいヤツであった。
たまにミレイが学園に顔を出すので、未だに想いを諦めていない彼女への点数稼ぎが大きいのかもしれないが。
あといつもの生徒会メンバーと言えば眼鏡っ子のニーナだろう。
今、彼女はまだ復学していないのだが、近く復学予定である。先日、学園の建物が完全に修復されたのを見に、仲間達で集まった事がきっかけになったようだ。以前の顔ぶれの笑顔を見て、素直に自分も新しい明日に向かって進もうという思いに漸く至ったらしい。フレイヤは超兵器であるが、超エネルギを生み出す塊でもある。研究応用分野は広い。なにせ彼女は、学園始まって以来の時代に名を残す本物の天才であるのだから。皆が復学を待ち望んでいた。
生徒会は今のところ、リヴァルを中心に有志が四人ほどいて運営されているようだ。
カレンは母のことも有り、今日は三日ぶりに生徒会室へ少し顔を出し家路についた。
「ただいまー!」と、彼女は元気に笑顔で玄関から中に挨拶しながら靴を脱ぎ揃え、マンションの六階にある家の中へと入って行く。
彼女の母は布団から出て居間へ座っていた。そして静かにお茶を飲んでいたが、微笑みながらカレンを迎えてくれる。今日も調子は良いみたいだ。
カレンが冷蔵庫へ買い出しの食材を入れ、冷えた飲み物を出そうとする時、母が呟いた。
それはいきなりこう話し出したのだ。
「カレン、あの子が来てくれたの。 ―――ナオトが。元気で良かったわ、ねぇ?」
「えっ、お兄ちゃん……?(生死不明で行方不明になって随分立つのに……やっぱりお葬式のように、きちんと区切りを付けないといけないのかな……)」
母の嬉しそうな表情を見ながら、カレンは冷蔵庫の扉を閉めつつとりあえず話を合わせる。
「そ、そう。良かったわね、お母さん。お兄ちゃん元気そうで」
精神患者への対応は難しい。最近、母の調子が良かったため少し安心していたのだが。とりあえず、妄言に対して強く否定せず、穏やかに過ごすことが大事だと医者からは言われている。
時間を掛ければ症状の好転している状況から見て、かなり良くなるだろうとも言われていたので、母の言葉にカレンは少しショックを受けていた。
「カレン、今日は学校はどうだったの? そういえば少し前に進路調査の話をしていたでしょう?」
(―――なに、えっ? ……お母さん普通に話してる?!)
カレンには真実か妄言か掴めなかった。
◇ ◇ ◇
ここは病院の一室。
あの目の虹彩周辺に赤の輪郭が浮かび上がり、胸を抑えて苦しんでいたギアス影響下の少女は、今はベッドで静かに横になって休んでいる。
ルルーシュが立ち寄ろうとしていたこの人口4万人程の街、サロン・ド・プロヴァンスに夜でも急患を受け入れてくれる少し大きい病院があり、そこへ少女を運び込んでいた。医者の診断の結果、少し休めば大丈夫だろうということだった。
ルルーシュは先ほどの状況を振り返りながら、部屋の外で待合用の椅子に座り彼女の保護者が来るのを待っていた。
あの時ルルーシュは、まず痙攣を起こし掛けている少女に掛かっていたギアスを解除した。コード保有者は、ギアス能力者の『王の力』である思考制御へ介入することも出来るのだ。すると彼女は呼吸が止まっていたようで、咽(むせ)る形で空気を求めるように荒い息遣いが始まり、少しづつ収まって行った。
その様子を見ながらルルーシュは、彼女の目からもう消えている、少し前まで浮かび上がっていた環状の煌めきに驚くよりも、ギアス感知が遅れたことにより大きいショックを受けていた。
(先ほどまでの移動中、周囲に違和感らしいものは感じられなかった。この女がギアスで操られて俺を攻撃する気だったら、まともに受けているところだった。C感応がかなり微弱な時もあるのだな。いや、普通これぐらい弱いものなのかもしれん。……予想以上に厄介なことだ)
以前は自分がギアスを仕掛けた者や、C.C.からは存在がハッキリと感じられるC感応も、他のギアス能力者からギアスを受けた一般人ではかなり薄い場合がある事を知るのだった。
(経験不足は否めないな。C.C.に確認したいところだが、この娘に事情を聴くのが先か)
よく見ると少女は服装から学生のようだった。ただフランスでは学生は私服が一般的なので、このように制服っぽい服装は珍しい特徴のある学校かもしれない。
呼吸が少し落ち着いてきたのを見てルルーシュは再び少女へ声を掛ける。
「おい、大丈夫か? どうした、何があった?」
「……わ、分かりません……い、いきなり呼吸が……止まって……」
「その時、まわりに人がいなかったか?」
「……い……いえ……暗かったですが……周辺には……誰も………」
どうやら彼女は『呼吸が出来ない』という状況だったようだ。結構性質(たち)が悪い。その状態だと叫び声が上げられないからだ。携帯があろうと話すことが出来なければ、人が見つけてくれなければ窒息しながら黙って死ぬのを待つしかない。
ギアスであることは間違いないが、ルルーシュの頭に浮かんだのは『ロロのような範囲系? 命令型なのは確定。目的は殺害だけ?』である。命令型だと前後の記憶はルルーシュのギアスの時のように消える可能性もある。まだまだ不確定要素が多すぎた。
周辺に何軒か家が見える。範囲系だと家の中で窒息してる可能性もある。
いきなり予告なく呼吸が止まると、人は酸素の問題からそれ程移動できない。それと余りの状況に、本能的な『呼吸を再開させる』という思考以外は止まる者が多い。
つまり、発症してからほとんど動けないはずである。
「……(周辺の家でも何か起こってるかもしれんな)悪い、近くで病院の場所について聞いて来る、数分待てるか?」
なるべく変な知識を広める訳には行かないのだ。
「は、はい……」
彼女はまだ力が入らないようだ。すでに周囲にはC感応が感じられないので能力者はおらす、人の影も無いことを確認し、その場に座り込んでる少女と被っていた麦わら帽子を残してルルーシュは急ぎ走り出していた。そして三十メートル程離れた明かりの付いている一番近い家に寄る。
ルルーシュはすぐに「家の中の人はいるか? 悪いが、そこで急患が出た。病院を知らないか?」と無難な内容の大声を掛ける。すると、ふくよかなおばさんがゆっくり出て来て「街の中ほどに急患を見てくれる病院があるよ」と言って教えてくれた。
(この家は問題ないか。なら範囲系だとしても半径三十メートル以下になるか。……どうやら今はあの娘だけのようだな)
正直助かったと感じていた。範囲が百メートルを越えたら周囲の数軒でだれか死人が出ていたはずだ。
ルルーシュは「ありがとう、助かった」とそのおばさんへ伝えると急ぎ少女の元へ戻った。
「一応診てもらった方がいい。病院まで送ろう」
彼女はルルーシュの口元辺りぐらいまでの身長だった。なので彼が抱き上げようとすると、彼女は恥ずかしそうに「た、立てます」と言って自分で立とうとした。それをルルーシュは手を取って肩を少し貸してやる。
月明かりの暗い中、少女はルルーシュの声から助けてくれたのが、若い青年だと気付いているようだった。肩を貸りているので、よく考えるとこの体勢も自分の……友人らよりかなり大きめだと言われている胸が彼の体に当たっていることに気付くが、まだ力が入らないのであきらめるしかない。だが彼女は恥ずかしいながらもきちんと礼を述べる。
「あの、助けてくれて……本当にありがとうございました。あのままだと……死んでいたと思います。私の名前は……メレーヌ・リュヌルージュと言います。メレーヌと……呼んでください」
呼吸がまだ怪しいながらそう言って、彼女の手に大事そうに持っていたルルーシュの麦わら帽子を渡してくれた。
「……(リュヌルージュって、紅い月か……)ルーク・オーレンジだ。俺もルークでいい」
帽子を空いている右手で受け取ると、それを被りながら答えた。
ルルーシュは体に当たる彼女のボリュームのある柔らかな胸の気持ち良い感触や、漂う乙女なよい香りについては特に考えない事とした。深く考えてはいけないのだ。役得だとしても。
さて、E.U.にも救急車はあるが日本とは違い、民間会社が行っており料金も安くはない。そして、彼女の意識は一応はっきりしているため、ルルーシュは裏道を通り荷馬車で街中の病院まで移動した。彼女には御者台の横に乗って貰う。
街中に入り道を照らす照明によって、漸く少女の姿がはっきりと見えた。
紺と白の制服に美しく腰まで長く伸びる赤髪。表情はまだ苦痛が混じるが優雅で穏やか、どう悪く見ても可愛らしく白い肌の『すごく』美人な少女であった。振る舞いや落ち着きから、どこかの良家の娘であるのは元皇帝の目から見ても間違いないだろう。でも、ルルーシュは考えない事にしていた。
それは、奥手というのを隠す言い訳には好都合だったが、確かに今は周囲にずっと気を配らねばならなかったからだ。
間近に潜むギアス能力者の存在が、もはや油断できない状況にしていた。
それに、背負っている『業』がそんな浮ついたことを許さないのだった。
「メレーヌは帰宅の途中だったのか? ん、そういえば家は近いのか? もう暗いが」
横に座る彼女へふと聞きそびれていた質問をする。
「それは……実はこの場所へ呼び出されて……ここまで鉄道で来たのですが」
「誰からだ?」
「それが……入院している仲の良い親友なんですけど、便箋に『ここで会いたい』趣旨が書かれた手紙を昨日家にもらっていて……。時間になっても来ないので携帯で病院の方へ確認したら……手紙も知らないし、まだ入院してるって。そして通話を切ると間もなく息が止まって」
「わざわざ手紙を?(それは怪しいだろう)」
「はい、友人が暇な時間に時々病院で書いていて、見舞いに行った時に渡されたり、家へ送られて来ていたので」
(ううむ。それは―――手紙を信用するかもしれないな。本当にその友人は知らないのか? そうであれば、心理的な所まで考えて手が込んでいる。計画的な犯行か……)
だがギアスの場合、思考の中の改ざん行為であり、どれほどの殺傷力があろうと遠隔的なものである。結局実行はギアスを掛けられた者が行うわけであり、ギアス能力者は黙秘すれば罪として論理的にも科学的にも立証できない。当然警察は取り扱うことが出来ない。
だから―――そのために作った対ギアス国際捜査組織 A-GIIOなのだ。
彼らは警察と違う。立証する必要などないのだ。ギアス能力者だとゼロもしくはC.C.が認識及び判断し行動承認すれば、超合集国加盟の地域内(つまり世界全域)では超法規的措置で『強権を執行』できるのだ。相手が例え大臣らでも関係ないのである。対策した後、表立っての理由付けなどは何とでも出来るのだ。
「メレーヌ、その友人が手紙を書くことを知っている人間はどれぐらいいるんだ?」
「結構いると思います。彼女の両親に親戚、病院の先生や看護師の方々に、病室傍に入院している人達、学校の先生数人とクラスの子らなどでしょうか」
「ふぅん、そうか」
(だが、多分その中にいるな。今回失敗ということならこの子の傍にいれば……再度近くに現れる可能性もあるか。だがこのギアス能力者の目的は、単にこの子の殺害だけなのか? それにしては、最後まで見届けないなど温いな。 ……目的がはっきりするまで見つけてもしばらく泳がせるか)
荷馬車は間もなく病院へ到着する。
病院内で麦わら帽子を被る訳にもいかないと思い、ルルーシュは帽子を脱ぎ、荷台側の出っ張った釘に引っかけておく。
この時ルルーシュは気付いていない。近くの街灯の下、現れた彼の素顔の端麗さにメレーヌが見入っていたことを。
ルルーシュは、何となくぎこちないメレーヌに、再び肩を貸しつつ連れて病院の受付へ赴き、簡単に事情を話して早速医者に診てもらう。同時に彼女の保護者へ病院側から連絡してもらう様に頼んだ。そちらの方が見知らぬ男(ルルーシュ)が連絡するよりも良いだろうと考えた。ルルーシュは診療室に入れないついでに、十分間程外に出ることを看護師に告げ、屋外へ移動した。
携帯を取り出し、C.C.へこの件を報告する為にコールする。
今は、午後七時ぐらいか。
『トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル、トルルル……』
(………………………出ない、だとぉ!? バカな、何かあったのか?! C.C.!)
携帯に出ないC.C.を心配しルルーシュは、携帯へ話すような仕草で直接、C世界経由での会話である『C通話』を試みる。
≪おい、C.C.! C.C.ーー!!≫
≪……むにゃ……な、なんだ?≫
(こ、こいつ……もう寝ているのか、信じられん。まだ七時過ぎだぞ!)
≪C.C.! 寝てる場合じゃない、携帯に出ろ! ギアス影響者(能力者にギアスを掛けられた者)に出会ったのだぞ≫
≪なに?!≫
さすがに正気に戻ったC.C.へルルーシュは携帯で掛け直し、メレーヌの件を簡潔に五分間で話した。
「もう少し詳細をこちらで詰めてみる。お前は、いつでも動けるようにしておけ。お前が『察知した』と偽ってこちらへ出向いてこないと発見の経緯の辻褄が合わないからな」
『……ああ、ピザが食いたいな』
「(聞いてないなコイツ)………分かった、この件が終わったら食わせてやるから」
『イエス・マイ・ロード!』
結構不毛な通話は終わった。ルルーシュは携帯を切り病院内へ戻っていく。
診察室の外で壁にもたれて数分待っていると、別の検査室へ移動して脳波や心電図を取っていたのか、廊下を看護師に車いすを押されてメレーヌがやって来る。
そして彼女は、そのまま保護者が来るまで病室へ移り静かに休んでいた。
「メレーヌ! メレーヌ!」
ルルーシュが病室の前で一時間程待っていると、メレーヌの両親が大型のリムジンを玄関横へ付け、慌てた姿で廊下に現れた。
気持ちは分かるが、病院内は静かにしてほしいところだ。ルルーシュは待合椅子から立ち上がる。
まだ若く綺麗な母親が先にルルーシュへ頭を下げると部屋の中へ入って行った。
父親は残り、ルルーシュの前へ立つ。まさに高級な品の良いスーツを着ており、ルルーシュよりも一回り大きながっしりした体格の人物だった。
ルルーシュの酪農家風な少し薄汚れた姿に一瞬目を落とすが、ルルーシュの顔、そして目をしっかり見ると話し出した。
「君が、呼吸が止まっていた娘を見つけ介抱し、ここまで運んでくれたそうだな。私はメレーヌの父親のレイナルド・リュヌルージュだ。本当にありがとう」
レイナルドはルルーシュへ握手を求める。それを微笑んで握り返すルルーシュ。
「私はルーク・オーレンジです。いえ、普通の事をしただけです。娘さんが無事でよかったですね。さあ、傍に行ってあげてください。私は仕事の途中なのでこれで失礼します」
ルルーシュは『爽やか』な笑顔でそう答え頭を少し下げた。
「いや、そういう訳にはいかない。悪いが少し待っていてくれないか。君には礼をせずにはいられない」
俯いたルルーシュの策士な瞳が、この時静かに輝いていた。
つづく
2015年02月06日 投稿
2015年02月06日 挿絵追加、文章修正、メレーヌの髪の色を金→赤へ変更(どっちみち紅い月ならカレンと同じ赤がいいかなと。顔をユフィー似にしてあります)
2015年02月17日 表現修正
解説)黎星刻(リー・シンクー)
旧中華連邦所属で文武とKMF技量においてどれも最高クラスな武人だった。その為、ルルーシュが付けていた人物評価でルルーシュ自身を上回っていたかもしれない人物。
R2最終話の最後に多く登場する写真にほとんど写っていない。
だが彼は死んだわけではない。
その時期には体を『改造』していて入院中だったのである。
病状は深刻で元の臓器のいくつかは大部分を切除しなければならなかったが、人工臓器を組み込んだことで復調中。そのうちに復活の予定である。
現、合衆国中華の副代表。
解説)ナオト
紅月ナオト、カレンの兄である。扇要の親友でもあった。扇らと共に占領軍であるブリタニアに対してレジスタンス行動を行っていた。頭脳明晰であったらしい。
C.C.の入っているカプセルを知らずに大量殺戮用の強力な特殊ガスとして強奪計画を立てていた。しかし計画の数日前から行方不明になっている。その後も生死不明。
カプセル奪取後は、トウキョウ租界にこのガスを使用するとブリタニアを恫喝し、一部主権や待遇改善の取引を行う予定だったと思われる。
カレンには母と共に、争いには関わらない平和な生活を送ってくれることを願っていた。だがカレンは、兄の意思を継いでレジスタンス行動に加わって行った。
解説)「た、立てます」
触られると知られちゃうかもな理由があったのです!
ちょっとだけ漏●し●ました。(隠しきれてない)
解説)C(Cの世界経由)通話
R2でもC.C.がぶつぶつ言ってる表現があったが、外から見ると確実にアヤシイ人な状況となるため、ルルーシュとしては携帯を使えない等非常、緊急時以外は禁止している。
≪おい、ルルーシュ、ルルーシュったら!≫≪携帯で掛けてこい!≫
慣れるまでこのやり取りが何度も繰り返されたと言う。