透き通る世界のアイアンマン(偽物) 作:マーベルにハマった人
アークリアクターが完成してから、三日が経った。胸に埋め込まれた小さなエネルギー炉は、今日も問題なく稼働している。出力は安定しており、磁場制御にも異常はない。外部バッテリーに繋がれていた頃と違って、移動のたびにケーブルの長さを気にする必要もなくなった。たったそれだけのことが、こんなにも快適だとは思わなかった。
もっとも、自由になったのは身体の一部分だけだ。地下施設から出られないことに変わりはないし、研究室には相変わらず監視役が配置されている。ベアトリーチェからは毎日のように進捗報告を要求され、そのたびに適当な説明を並べなければならない。命を直接握られる心配がなくなっただけで、囚人であることに変わりはなかった。だからこそ、次の段階へ進む必要がある。
「……どう考えても、重量が問題ね」
作業台に広げた設計図を眺めながら、鉛筆を動かす。そこに描かれているのは、人型の装甲服だった。頭部から脚部までを分厚い金属板で覆い、内部に駆動装置を組み込む。腕部には火器を搭載し、背部には補助推進装置を配置する予定だ。完成すれば銃撃を防ぎながら敵陣を突破できる、まったく新しい兵器になる。ただし、問題も山ほどある。
最大の課題は重量だった。アリウスの施設にある材料だけで十分な防御力を確保しようとすると、どうしても装甲が厚くなる。強力な駆動装置で補うことはできるが、それにも限度がある。ましてや今回は、胸に怪我を負った身長百五十一センチの少女が中へ入るのだ。装着者の負担を考えなければ、完成してもまともに動かせない。
「……まあ、簡単に作れたら苦労しないわよね」
鉛筆を置き、椅子の背もたれに身体を預ける。スターク・タワーなら、必要な部品を一から製造できただろう。ジャーヴィスにシミュレーションを任せ、専用の工作機械で試作品を作り、問題が見つかれば設計を変更する。だが、ここではそんな贅沢は許されない。使えるのは古い工作機械と軍需部品、それから大量に保管されたスターク・インダストリーズ製の兵器だけだった。……自分の会社の製品を解体して、新しい兵器を作る。
経営者として考えると、随分と奇妙な状況だ。もっとも、今は会社の利益を気にしている場合ではない。むしろ私が帰還するための設備を敵が用意してくれるのだから、ありがたく使わせてもらおう。
「……それ、何?」
背後から聞こえてきた声に、設計図を伏せた。振り返ると、ミサキが入口にもたれていた。いつものように気怠そうな顔をしているが、その目は作業台の上を注意深く観察している。
「新しい兵器の設計図よ」
「……人の形をしてたけど」
「あら、見てたの?」
「……隠すのが遅いんだよ」
ごもっとも。とはいえ、どうせいずれは見せなければならないものだ。完成するまで誤魔化し続けることは難しいし、そもそもこの施設の監視を潜り抜けて巨大な装甲服を製造するなど、現実的ではない。
「人型の強襲兵器よ。通常の車両では進入できない場所でも活動できる、重装甲の兵器を考えているの」
「……へえ」
「もう少し興味を持ってくれてもいいんじゃない?」
「別に。完成したら誰かを殺すために使うんでしょ」
何でもないことのように言われ、返す言葉を失いかけた。彼女の言い分は間違っていない。ベアトリーチェはトリニティを攻撃するための兵器を要求している。その命令に従って開発している以上、ミサキがそう考えるのは当然だった。だが、今回ばかりは少し違う。
「……必ずしも、そうとは限らないわよ」
「どういう意味?」
「兵器の使い道は、使う人間が決めるものだから」
以前にも、似たようなことを言った覚えがある。ヒマリはその考え方を否定した。兵器を作る人間にも責任があると、何度も私に訴えていた。あのときは随分と鬱陶しく感じたものだが、今では少なくとも彼女が何を心配していたのか理解できる。もっとも、だからといって自分の考えを完全に捨てたわけではない。道具そのものに善悪があるとは、今でも思っていなかった。問題は、誰のために、何を目的として使うかだ。
「……ふーん」
ミサキは興味を失ったように答えた。
「まあ、好きにすれば。どうせ私には関係ないし」
「そうかしら?」
「……何?」
「いいえ。何でもないわ」
曖昧に笑って、設計図を引き寄せる。いつまでも隠しておくことはできない。いずれ、彼女たちには本当の目的を話す必要があるだろう。ただし、それは私自身の命だけでなく、四人の命まで危険にさらすことを意味していた。
*
その日の夕食は、珍しく肉が出た。もっとも、肉と呼ぶには少々心許ない量だったが、それでも普段の薄いスープと硬いパンに比べれば随分と豪華だ。ヒヨリなど、食事を受け取った瞬間から嬉しそうにしている。どうやら、この施設では肉が出るだけでも特別な出来事らしい。
「……あなたたち、いつもこんな食事なの?」
「……そうだ」
サオリが短く答える。
「栄養は足りている。任務に支障はない」
「栄養さえ足りていればいいってものじゃないでしょう。食事は人生の楽しみの一つなのよ?」
「……楽しみ?」
サオリが不思議そうに聞き返した。冗談のつもりではなかったのだが、どうやら彼女には理解し難い概念だったらしい。横ではミサキが黙々とパンを食べ、アツコも特に不満を示していない。ヒヨリだけは大事そうに肉を最後まで残していた。……なるほど。彼女たちにとっては、これが普通なのだろう。
「ねえ、ヒヨリ。ケーキは好き?」
「け、ケーキですか……?」
「ええ。チョコレートケーキでもショートケーキでも、何でもいいわ」
「す、好きです! ……あ、でも、ちゃんとしたものはあまり食べたことがなくて……」
「そう。なら、ちょうどいいわね」
ヒヨリが首を傾げる。
「な、何がですか……?」
「ここを出たら、ご馳走してあげるわ。ケーキくらい、好きなだけ食べさせてあげる」
「ええっ!?」
予想以上に大きな声が響いた。ヒヨリは慌てて口元を押さえたが、他の三人もこちらを見ている。
「ほ、本当ですか……!? で、でも、そんな……私なんかに……!」
「私なんか、じゃないでしょう。食べたいものくらい遠慮しなくていいのよ」
「で、でも……」
「それに、スターク・インダストリーズのCEOがケーキ代を出し惜しみすると思う?」
我ながら説得力のある台詞だ。現在の私には財布一つないが、ここを出れば話は別。少なくとも、少女四人にケーキをご馳走した程度で会社が傾くような経営はしていない。
「……随分と気前がいいね」
ミサキが口を開いた。
「ええ。お金ならあるもの」
「……ここから出られるかも分からないのに」
「だから、出られたらの話でしょう?」
「……そういう約束って、意味あるの?」
その言葉には、いつもの皮肉とは違う響きがあった。期待したところで叶わない。だったら、最初から期待しない方がいい。彼女はそう考えているのだろう。
「意味ならあるわよ。少なくとも、ここを出た後にやりたいことが一つ増えるじゃない」
「……そんなの」
「どうせ無理、って?」
ミサキが黙った。
「あなたが何を諦めているのかは知らないわ。でも、まだ決まってもいない未来を、勝手に諦める必要はないでしょう?」
少し偉そうだったかもしれない。そもそも私は、他人に人生を説くような立派な人間ではない。これまで何人もの大人を金と権力で黙らせてきたし、自分の技術力を疑ったこともほとんどなかった。その結果が、今の囚人生活なのだから。それでも、何もかも無意味だと決めつける考え方だけは好きになれなかった。
「……変な人」
ミサキはそれだけ言って、食事へ戻った。だが、今度は完全に会話を打ち切ろうとはしなかった。
「……じゃあ、私も食べたいものがあったら頼んでいいわけ?」
「もちろん。予算の上限は特に設けていないわ」
「……じゃあ、考えとく」
「ええ。期待してる」
向かいに座るアツコが、小さく笑った。
「私も、いい?」
「当然でしょう。あなたも好きなものをいちななさい」
「……ありがとう」
「まだ何も買ってないわよ」
「うん。でも、嬉しいから」
その返答に、思わず言葉が詰まった。単なる口約束だ。実現する保証など、どこにもない。それなのに、こんなにも喜ぶものなのだろうか。何とも安上がりな少女たちだ。スターク・タワーの役員連中にも、少しは見習ってほしいものね。
「……チハヤ」
サオリが静かに呼びかけてきた。
「何かしら?」
「お前は、本当にここから出られると思っているのか」
他の三人が、食事をする手を止めた。今まで何度も冗談交じりに口にしてきた話だったが、サオリの声は真剣だった。どうやら、適当に誤魔化せる雰囲気ではないらしい。
「ええ。思ってるわよ」
「……どうやって?」
「それを今ここで話したら、あなたはマダムに報告する?」
サオリは答えなかった。ただ、否定もしなかった。当然の反応だ。彼女は私の監視役であり、ベアトリーチェの命令で動いている。いくら多少の交流が生まれたからといって、その立場が変わったわけではない。
「……分かったわ」
食器を置き、四人を見渡す。
「それなら、明日の夜にでも話しましょう。あなたたち四人だけで、私の作業場へ来てちょうだい」
「何をするつもりだ」
「ちょっとした商談よ」
「……商談?」
「ええ。あなたたちにとっても、悪い話じゃないと思うわ」
サオリは険しい表情を崩さなかった。しかし、今度は報告するとも拒否するとも言わなかった。それだけで、十分な収穫だった。
*
翌日の夜。作業場には、サオリ、ミサキ、ヒヨリ、アツコの四人が集まっていた。部屋の中央には大きな設計図が広げられ、その周囲には加工途中の金属部品が並んでいる。表向きは新型強襲兵器の開発計画。ベアトリーチェにもそのように報告してあるし、監視記録に残っている資料も同じものだ。ただし、今から話すのは、その兵器の本当の用途についてだった。
「……それで、話とは何だ」
サオリが口を開く。
「まずは、これを見てちょうだい」
胸元の服を少しずらし、アークリアクターを見せる。淡い青白い光が、薄暗い作業場を照らした。
「……それは、以前から付けていた装置だろう?」
「ええ。ただし、少し仕組みが違うの」
机の上に置いていた制御端末を操作する。画面には、古い生命維持装置へ送られる停止命令が表示された。
「ベアトリーチェは、今でも私の命を握っているつもりでいる。でも、実際にはもう違う。あの女が電源を止めようとしても、胸の装置には何の影響もないわ」
サオリの表情が変わった。
「……どういうことだ」
「簡単な話よ。自分で新しい電源を作って、あの女の管理していた装置を切り離したの」
「……そんなことが可能なのか」
「可能だから、こうして生きてるんでしょう?」
サオリは何も言わなかった。ただ、胸のリアクターと私の顔を交互に確認している。彼女なりに、今の説明が何を意味するのか考えているのだろう。
「……つまり」
最初に口を開いたのはミサキだった。
「もう、マダムに殺される心配はないってこと?」
「この装置を止める方法では、という意味ならね。もちろん、銃で撃たれたら普通に困るけど」
「……それ、笑い事?」
「だからこそ、次のものを作ってるのよ」
設計図を広げる。人型の装甲服。頭部には厚い防護板。胴体には装着者を保護する装甲と、全身を動かすための駆動装置。腕部には火器を搭載し、脚部には歩行補助の機構を組み込む。
「これが、私の次の発明品」
サオリが設計図を覗き込んだ。
「……人型の兵器か」
「ええ。ただし、無人機じゃないわ」
「……どういう意味だ?」
「私が乗るのよ。正確には、着ると言った方が近いかしら」
四人の反応は、それぞれ違っていた。サオリは設計図を細かく確認し、ミサキは呆れたような顔をしている。ヒヨリは何か恐ろしいものでも見たように青ざめ、アツコだけは興味深そうに装甲の形を眺めていた。
「ひ、ひぃ……! そ、そんなものを着るんですか!?」
「そうよ」
「で、でも、重そうですし……危なくないですか……?」
「もちろん危ないわよ。だから安全に使えるよう設計してるんじゃない」
「……それ、本気?」
ミサキが尋ねる。
「冗談でこんなものを作ると思う?」
「……思わないけど」
「それなら話が早いわね」
設計図を指で叩く。
「これが完成すれば、この施設の警備を突破できる。銃撃程度なら十分に防げるし、扉や障害物も力ずくで破壊できるようにするつもりよ」
「……待て」
サオリの声が低くなった。
「お前は、その兵器でここから脱出するつもりなのか」
「ええ。最初からその予定よ」
空気が変わった。サオリの手が、腰の銃に近づく。
「……それは認められない」
「でしょうね」
「私たちは、お前を監視するよう命令されている。脱出を見逃せば、任務違反になる」
「知ってるわよ。だから、あなたたちに相談してるの」
「相談で済む問題ではない」
彼女の声には、明確な警戒があった。当然だ。監視対象が脱出計画を堂々と説明しているのだから、普通ならその場で拘束してもおかしくない。むしろ、ここまで話を聞いてくれているだけでも十分に譲歩していると言える。
「あなたたちに手伝ってほしいの」
「……何?」
「この装甲服の製造よ。今の設備と私一人の身体じゃ、完成させるまでに時間がかかりすぎる。だから、手を貸してほしい」
「……本気で言っているのか」
「ええ」
サオリは黙り込んだ。代わりに、ミサキが口を開く。
「……そんなことしたら、私たちまで殺されるんだけど」
「分かってる」
「分かってないでしょ。マダムに逆らったらどうなるか、あなたは知らないんだから」
その声には、はっきりとした怒りが混じっていた。初めて聞く声色だった。
「……確かに、全部は知らないわ」
正直に答える。
「あなたたちがどんな生活をしてきたのか、あの女に何をされてきたのか。私には分からないことが多い。でも、少なくともあの女がまともな人間じゃないことくらいは理解してる」
「……だったら」
「だから、あなたたちを巻き込まない方法を考えたのよ」
新しい紙を取り出す。そこには、施設の警備配置と脱出経路、それからいくつかの作業予定が書き込まれていた。
「あなたたちは最後まで、私を阻止しようとしたことにするの」
「……どういう意味だ?」
サオリが尋ねる。
「完成した装甲服を私が勝手に起動させて暴走する。あなたたちは命令通り阻止しようとするけれど、装備の性能差で敗北した。そういう筋書きにするのよ」
「……そんな芝居が通用すると思うのか」
「完璧な保証はないわ。でも、少なくとも何もせず見逃したことにするよりは、言い訳が立つでしょう?」
実際、この方法にも危険はある。ベアトリーチェが本気で調査すれば、協力の痕跡が見つかる可能性は否定できない。だからこそ、製造記録や監視映像にも辻褄を合わせる必要がある。作業中に四人が部品を運んでいても、それは監視対象の研究を補助しただけ。装甲服が起動するまで、脱出に協力していると判断できる記録は残さない。それでも、絶対に安全とは言えなかった。
「……私は反対だ」
サオリが言った。
「お前の計画が成功したとしても、マダムが私たちを許すとは限らない」
「ええ。それは分かってる」
「なら、なぜこんな話をした」
「あなたたちにも、選ぶ権利があると思ったからよ」
サオリの表情がわずかに変わった。
「……選ぶ?」
「協力するか、しないか。あなたたち自身で決めてほしいの。私を拘束してベアトリーチェに報告することもできるし、この話を聞かなかったことにしてもいい」
「……」
「もちろん、協力してくれるならありがたいけどね」
我ながら、随分と危険な賭けをしている。ここでサオリが銃を抜けば、計画はすべて終わりだ。アークリアクターのおかげで簡単には殺されなくなったとはいえ、拘束されて別の施設へ移送されれば、今度こそ脱出は難しくなる。それでも、四人に黙って作業を進める方が危険だと判断した。この施設では、彼女たちが最も近くで私を監視している。装甲服の存在を完全に隠すことなど不可能だし、何より完成後の脱出には協力者がいた方がいい。問題は、彼女たちを信用できるかどうかだった。……正直なところ、まだ分からない。
でも、信じてみる価値くらいはあると思った。
「……サオリ」
アツコが静かに呼びかけた。
「私、手伝いたい」
「姫……?」
「千早は、ここから出たいんだよね」
「ええ。当然でしょう?」
「……私も、外に行ってみたい」
サオリが言葉を失った。アツコはいつもの落ち着いた声で続ける。
「千早が言ってた、星も見たい。みんなで美味しいものを食べてみたいし、普通に外を歩いてみたい」
「……姫、それは」
「でも、今のままだと難しいんだよね」
サオリは答えなかった。その沈黙が、何よりも雄弁だった。
「……私も」
今度はヒヨリが、小さな声を上げた。
「わ、私も……外に行ってみたいです……」
「ヒヨリ」
「ひぃっ! す、すみません、サオリ姉さん! で、でも……千早さんが言ってたケーキとか、お店とか……私、ちょっとだけ気になってて……」
ヒヨリは俯いた。
「もちろん、怖いです……。マダムに知られたら、私たちなんて簡単に……」
最後まで言えなかった。だが、言いたいことは十分に伝わった。彼女たちは、外の世界を知らないわけではない。知っているからこそ、自分たちには手が届かないものだと諦めているのだろう。
「……私は別に」
ミサキが口を開いた。
「外に出たって、何か変わるとは思わないけど」
「ミサキ……」
「でも、マダムのために兵器を作るのを手伝うよりは、まだマシかもね」
サオリが三人を見渡した。彼女の顔には、これまで見たことのない迷いが浮かんでいた。
「……お前たちは、分かっているのか」
低い声だった。
「もし失敗すれば、私たちは全員処罰される。今までよりも厳しい扱いを受けるかもしれない。それでも、協力すると言うのか」
「……うん」
アツコが頷く。ヒヨリは怯えながらも小さく頷き、ミサキは何も言わずに壁へもたれたままだった。だが、誰も反対しなかった。サオリはしばらく黙り込んでいたが、やがて私に向き直った。
「……一つ、条件がある」
「何かしら?」
「姫たちを危険にさらさないことだ」
その言葉は、これまでのどの命令よりも強く響いた。
「お前が脱出すること自体は止めない。だが、そのために仲間の命を犠牲にするつもりなら、私は協力しない」
「……分かったわ」
「口約束では足りない」
「なら、計画書に書いておく?」
「そういう問題ではない」
サオリは真剣だった。私は少し考えてから、正面から答えた。
「絶対に安全だなんて、無責任な約束はしないわ。でも、あなたたちを見捨てるつもりもない。少なくとも、私の脱出のために誰かを死なせるような計画にはしない」
「……」
「それで納得できないなら、協力しなくてもいい。無理に巻き込むつもりはないから」
サオリは長い間、何も言わなかった。その間、誰も口を挟まなかった。やがて彼女は、静かに頷いた。
「……分かった。協力しよう」
思わず笑みがこぼれた。
「交渉成立ね」
「ただし、何かあればすぐに中止する。いいな」
「ええ。もちろん」
もっとも、途中で中止するつもりなど毛頭ない。けれど、今ここでそれを言うほど愚かでもなかった。