超陰キャ魔女っ子の盾、壁、遮蔽物 作:蒸し蒸し島まむし縞々増し増し
『エニフェルイ魔法学院へようこそ』
遠くからでも見えるほど大きな字で、石の台座に書かれた文字を見つめる。
見たことがない文字なのに、その意味がわかることが奇妙に思うと同時に、こういうものだと慣れた感覚があった。
台座の上には、大きく立派な髭と同じくらい立派な長い髪を垂らした老人の石像が経っていて、周囲に向かって微笑みながら手を振っている。
石像の先には、巨大な門と、長く続いた人の身長の倍くらいの高さのある壁。
開いた門の先には、大きな砦と見まごうほど立派な石造りの建造物が見えた。
門の外から子連れの家族が入っていくのが見える。
あれに、俺は通うことになる。
ぼんやりと人の流れを見ていると、すぐ背ろで聞き覚えのある声がかかった。
「ふぅ、何とか間に合ったな。待たせてすまないな。おいルアネ、自分で決めたことだろう、そろそろ観念しなさい」
「むむ、無理……! ひひひ人が! 人がいっぱい居すぎる!」
男女の声に振り向けば、スーツに似た服に身を包んだダンディな雰囲気の男と、その腹に顔をうずめて腰にしがみつく少女の姿があった。
「……まったく。リアネ、すまないがお願いできないだろうか」
「ええ、わかりました」
「本当にありがとう」
二人に近づいて、俺と同じ背丈の少女の肩に手を置くと、一瞬少女の体がぴくりと跳ねたと思えば、影しか追えないような速度で背後に回り込まれ、俺の腹を抱え込まれながら強くしがみつかれた。
「ぐぇっ!? ちょっと、ちょっと緩めて、朝食べた分が出る」
「…………」
私の前で組まれて引き絞られている手の甲を叩くと、締め付ける力が少し緩む。尊厳は守られた。
身長が同じが故に、右耳の後ろに気配を感じるそれのものと思しき蜂蜜色の、黄色いトパーズみたいな綺麗な色の髪が、後ろから吹いた風に流れ、毛先が私の頬をくすぐる。
逆の左頬に通る風は、今の俺の髪色……右がトパーズなら、こちらはエメラルドに似た長めの髪を流して視界を彩った。
「ううむ、少しはここでの生活で慣れてくれると良いがな……。
ともかく我々も行こう。時間はあるが、早めに済ませるに越したことはない」
「わかりました」「…………」
「では、隣同士の席となりますので、お間違えないように。ジェンヴァルト卿は後方の保護者席の、こちらの番号の席にお願いします」
「ありがとう。行こう、ルアネ、リアネ」
受付を済ませて、背の高い後ろ姿を追いかけながら移動する。
広く長い廊下に入ると、外から見た時は隙間ひとつなかったはずの壁に出来た窓から入る日によって、絵画のような芸術的風景が広がっているのが見える。
陽の光とは別で、壁に一定間隔でかかった篝火が時々パチパチと音を鳴らす。
廊下を通る人の会話も、内容が聞き取れない程度に聴こえるだけで、落ち着いた雰囲気だった。
しかし、この威圧感のある石の壁……。
この壁にはゴーレムが組み込まれていて、有事の際には動きだす、なんてことも本に書いてあったのを思い出す。
まじまじと見ると、篝火と篝火の間の壁の中に、何か微弱な力のようなものを感じる気がした。
歩幅の安定しない背後霊に急かされたり引っ張られたりしながら、ダンディ紳士……アルケディ・ジェンヴァルドの後ろについて歩みを進める。
「そうだリアネ、学院での生活で困ったことがあれば何でも伝帳を通じて言いなさい。学院の規則の範疇ではあるが、大体のものは用意出来る。
家具や勉強道具、触媒でも。もちろん他の相談でもいいぞ」
「わかりました、ありがとうございます」
「そしてルアネ、リアネに迷惑をかけすぎてはいかんぞ、一人で無理をしろとは言わんが。
とくに魔法や魔術はお前の方が詳しいのだから、そちらでは出来る限りお前が助けてあげるように」
「………………はぁい」「ぐっ、締まってるって」
「……ほら、ホールに着くぞ。あぁ……飾り付けは多少変わっているが、私の頃とほとんど同じだ、懐かしい。
二人とも、見てご覧」
「…………」
顔を押し付けられて右肩に感じていたぬるい吐息が、乗り出して右耳に移るのを感じながら、私も扉に近づいてその先を見た。
壁や天井に豪奢な飾り付け、劇場のように並んだ座席とその正面の大きな舞台。
座席周りには人が、天井付近には鳥や、羽のついた小人のような生き物が飛び、壁際にはまっすぐ佇んだり、時折人に案内をしている全身鎧の騎士がいて、なんだか色々とチグハグな感じもしたが…………
現実感の欠けらも無い幻想的な未知の光景に、緊張や興奮が綯い交ぜになった感情で胸がいっぱいになった。
もはや同じ体の一部になろうと努める背後霊と共に、舞台側の座席の島、移動前に壁際の騎士に番号を伝えて教えてもらった場所に向かう。
ちなみにあの無口な騎士からは、動いて鎧同士が擦れぶつかる度に、こもった微かな反響音が聞こえた。
その気配の通りにあれもゴーレムのような何かの一種で、中身はないのだろう。
床に浮かび上がる列番号などを見ながら、自分たちの席が、ほとんどが埋まった中腹辺りの列、4席ずつ小さな島になっている席の左端、その更に左半分の2席だとわかると、そこへ向かう。
私が外側で、背後霊が内側……確認していなかったが、逆にしてもらうべきだったかもしれない。
なにか魔法的な意味があるかもしれないので、仕方なく指定の座席に座るつもりで向かうと、すぐ横で隣同士で話していた女子二人の目線が一瞬だけこちらを向いたあと、私にの後ろにしがみつくもう一人がいることに気がついて顔ごとこちらを向いた。
「あぁ失礼、私たちはこちらの席で」
「いえ、それはもちろん構いませんわ。それよりそちらの方は大丈夫なんですの?」
「体調が悪いようだったら、人を呼んだ方が」
「ああいや、恥ずかしがりなんです、元々こんな感じで」
「!! …………」
背中に手を回して、無理やり右肩に移動させると、そのまま隣合った席に座る。
その移動の最中にしがみつく先が右腕になった。
それは良いが、掴む場所が腹ではないからか、しがみつく力に遠慮がなくなり、今度はそこだけ圧迫されて腕が痺れそうだった。
「なるほど? もしかして……?」
こちらに近い側に座っている、輝くような銀髪の長髪の先を大きく巻いた、いかにもお嬢様というような風体の少女が、肩に顔を押し付けて全ての視界情報をシャットアウトしている顔を覗き込もうとした。
「ちょっと失礼」
「……? …………ひぇっ!?」
「あら、やはりジェンヴァルド家の。
以前お会いした時より
「あぁ確かに! ごきげんよう」
「こっ!? ごご、ごきげんょぅ……」
気配を感じて一瞬顔を向けたら、想像以上に近くに顔があって驚いたのか、肩から崩れ落ちるように膝というか太もも側へと頭が逃げてきた。
銀髪の少女や、心得が言ったというふうにうなづいた、私とは反対側の端に座る、赤い髪の少女の声にも萎縮して縮こまったが、逃げながらもギリギリ聴こえる程度に挨拶が出来たのは、教育の賜物と言うべきか。
血流の悪くなっていた右腕に急速に血が流れ、手のひらと指先が痺れて顔をしかめそうになるのをおさえる。
「じゃあもしかして……」
「間違いなくそうですわね。
初めまして、
「で、隣の私がエレミルド公爵家の三女、ラクラ・エレミルドだよ、ラニャ共々公爵家同士よろしくね、リアネさん?」
「はい、ジェンヴァルド公爵家、ルアネと双子のリアネ・ジェンヴァルドです。よろしくお願いします」
「身分不問実力主義の学院ですし、そもそも同じ国防の要、家柄も同格ですから、あまりかたくならずに仲良くいたしましょう。
私のことも、私だけ少し長い名前ですから、ラニャと呼んでいただいて結構ですわ」
「話し方も砕けて良いよ! ……良いかな?」
昔はどうとか、見てない場所がどうとかは分からないが、今の所は関わった貴族家でドロドロの勢力争いをしているような雰囲気は無い。
ジェンヴァルド公爵家を含む公爵家と王家は、国の外4ヶ所、内4ヶ所、中心1ヶ所の9ヶ所の領地をそれぞれ管理しており、制度だけではなく魔法的にも縛りがあるので、余程のことがなければ利権が大きくぶつかることはないとは一応聞いた。
「そういうことなら……私たちの方が少し迷惑をかけるかもしれないけど」
「我々に同志、友人に惜しむ手はありませんわ。
……ルアネさんは変わらずで安心しましたが、リアネさんもお身体の方で何かあれば言ってくださいまし」
「そっか、体調が───あっ、始まりそうだね」
初等部の入学式を終えると、クラス分けがある。
クラス分けは、魔法属性というか、魔力の傾向というのがある程度近いもので集められるらしい。
物体を形作るのが得意とか、大きな力を出すのが得意とか、長く維持するのが得意とか、それらが平均的だとか。
人数や各生徒の強度、後はクラスを持つ教師の能力によって、どう分けられるのかが決まるらしく、特別な名前があるとかではなく、クラス名は番号を割り振られる。
一応、それぞれの魔法属性的に縁起の良い数字があり、縁起の悪い数字がつけられることはないので、それでそのクラスが多少は絞れるが、入ってみなければ分からない。
ちなみに、その適性検査のようなものは、入学式の最中に勝手に行われているらしく、そのことを意識していたせいで、学院長である王弟殿下の話を一部聴き逃した。
まぁ、俺たちのクラス分けには関係がないことである。
国で特別な役割を担う場合は、全員が0番目のクラスに分けられるから。
「ここですわね……」
「すっ……ごい。本当に父上に聞いた通りだ、確かに古竜カーザのブレスも防いじゃうのかも」
「!!!??」
「うっ、お!? ……どうした?」
案内に従って辿り着いた金属製の巨大な扉に圧倒されながら、扉前に集まる推定クラスメイトと教師の元へ向かおうとしていると、背後霊がしがみつくのをやめて逃げ出そうとして、結局拠り所が無くなって戻ってきた。
いや、まだ逃げようとしている、俺の制服の袖を指先でつまみ、大して強くもない力でどこかへ連れ去ろうとしている。
引っ張る手首を掴んで、服が伸びないうちに離させると、何か言っているようなので顔を寄せて確かめる。
「ぁ、あんな逃げ場がないところに行ったら、あああ、あの中で大勢と一緒にいるなんて、死ぬ……! 視線が横切るだけで体が真っ二つに……!」
「ならないよ……ゴーストじゃないんだから」
「し、死ぬ……」
「そういう悲惨なことにならないための魔法なんだって聞いてただろ。ほら行くよ」「ひぎぃ」
扉の魔法をつぶさに観察しながら集団に近づく二人に怪しまれないうちにさっさと移動する。
どうやら資料と顔を見比べて、人数を数えていたらしい教師が、最後に生徒を順番に見て確認しながら後ろについた俺たちの方を見てうなづいた。
「12人全員間違いなくいるな。
諸君、貴族の役目として交流を重ねるのは結構だが、一旦こちらに注目しろ。
私が0クラスを担当する教師だが、自己紹介の前にまずは中へ入る方法を説明しなければ、諸君は教室に入ることも出来ない。通り方をよく見ておきなさい」
プラチナブロンドの髪をオールバックした鋭い目つきの女性教師が、大扉の左端に近づいて、渦の装飾が掘られた部分に手を当てた。
すると、その付近、ちょうど人一人分くらいの範囲が淡く光り、それに向かって歩き出した教師が閉じた扉に吸い込まれるように消えて、光もおさまった。
「ラクラ、今の見ていまして?」
「うん、あそこも結界の範囲で基点でもないのに、揺らぎが少しもなかった……。手本があって普及出来てないなんて、想像もつかないほど高度な魔法なのか」
「あるいは文字通り、門外不出の秘法ですわね。
奪われずに隠し通しているなら、そちらでも十分気になりますわ。
あぁ……お父様が学院には楽しいものが沢山あるなんて言う訳が、これだけでも分かります」
「ね。何千年の歴史って自慢するだけあるよ」
何となく話を聞き流していると、すぐに反対側の右端が同じように光り、中から教師が出てきた。
「見ていたな? 渦のレリーフに自分の魔力を同調させれば、この中に入ることができる。出る時も同じだが、一方通行であることは気をつけなさい。
後、ここを通れるのは登録された者のみ。同じような部屋が学院にはいくつかあるが、それぞれに登録が必要よ。
……問題なさそうね。では、登録は済ませてあるから、一人づつ入りなさい。入ったらとりあえず、教壇側の奥の席に詰めて座るように。まずはそこの貴方から」
どうやら近い場所にいる順で案内されているようなので、我々の番はあとの方になりそうだ。
それにしても、古城のような雰囲気や、講堂というかホールの雰囲気、そしてこのスケールの大きい魔導具を見ていると、なんだか思い出すものが……あれか。
「……ホ〇ワーツみたいだな」
「ん~……流石に古いといってもあそこまで滅茶苦茶な機能は無いと思いますわよ?」
「え?」
困惑する俺の顔には気付かず、辺りを見渡しながらラニャが会話を続ける。
「異世界の、しかも最近の研究で分かった話では、魔法のない世界の完全に架空の物語だそうですから、やっぱり内容は突飛で過激ですわよね」
「え!? あれって嘘なの!? いつか行ってみたいと思ってたのに! み、〇ぞの鏡も、必〇の部屋も存在しないの……?」
「ラクラあなたね…………いいえ、そういう想いが新たな魔法や魔術の原動力ですわ。あなたが作ればいいのです、ホグ〇ーツ魔法学校を。
もちろん安全には配慮して。特に危険生物や、勝手に動く階段は置かない方向で」
「そんなのホグワ〇ツじゃないよ!」
相当に仲が良いのだろう、話が盛り上がって二人だけの世界が形成されつつあるのを見ながら、俺は呼吸を整えて、ちらりと右後ろの様子を伺う。
特になんの反応もなく、完全に頭頂部しか見えなかった。
「おい、次だ。交流会は後にしなさい公爵組」
楽しいお喋りが猛禽類より鋭い目つきで咎められると、その後は皆静かになった。
既に他の人たちは扉の先に移動したらしい。
先に二人が通り抜けて、最後に俺たちの番が来た。
一人ずつと言われていたのにも関わらず、結局再び密着状態に移行した重りが外れそうにない。
教師の前を通る直前、訴える意思を込めて視線を向けて様子を伺ってみたが、
「……どうした、早く通りなさい」
特に咎められることもなく。
扉の端に立つと、金属室なそれからは石壁以上の冷たさを感じ、いまがこれなら冬場にはどうなってしまうのかという想像が過ぎった。
渦の装飾に手を当てて、体内に循環している魔素を流すと、冷たい扉の感触が消えて、少しだけ吸い込まれる感触がしながら、手が扉を貫通していく。
風も当たらない背中に、何故か薄ら寒い緊張を走らせながら吸い込まれるままに前に進む。
踏み出した足先が触れて貫通し、膝が、顔が……視界が暗くなる。
追加で3歩歩いた辺りで、すぐに明るくなった。
───腹に回った腕の感触や、背中の人の体温が消えないまま。
この扉は、本当は渦に触れる必要がないのだろうか。
私の後ろのそれを見てか、少しだけ怪訝な顔をしている、これから同じ教室で学ぶであろうクラスメイトの視線が刺さると、僅かに痛みを感じた。
望まず突然性転換したキャラクターが大した葛藤や理由もなく肉体の性別を受け入れて性格もそうなってしまう奴アンチです。
ただしこの小説の性転換要素はそんなに強くしないです。
投稿するまで不退転なので、矛盾や誤字脱字は投稿後に気づいたら修正します。