女子高生ですが、傭兵やってます。依頼は放課後にて。   作:とびー君

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交通費ぐらい自分で稼ぎなさい

 「あーたねぇ、交通費ぐらい自分で稼ぎなさいヨォ」

 

 母が目玉焼きを焦がしながらぼやいた。私は丁度、しみったれた味のアイスをほおばったところだった。

 

 「交通費………………?」

 

 そんな概念知らなかった。そんなものがあるのかと驚いた。しかし母が稼ぎなさいという=存在する、ということなのだろう。

 

 今まで母に全て任せきりだったからこその無知を私は受け入れた。

 

 「分かった。バイトするよ」

 

 「それとね、アンタ。これもね、払わないと」

 

 食卓に茶色い封筒が投げ出された。私立学校法人の名前が印刷されたそれを開くと、前期授業料の納付書が入っていた。金額は1,920,000円。納付期限は20日後で、赤い文字で延納不可と書かれている。

 

 私は納付書を置き、いつの間にかコーヒーを飲みながら煙草を吹かせている母に目を向けた。

 

「……これも私が払うの?」

 

「払えるならねぇ。お母さんが出せるなら、とっくに出してるわヨ。今月はちょっと入金が遅れててね。だから、あーたにも稼いでもらおうって話」

 

「バイトで1,920,000円?」

 

「普通のバイトで20日以内に1,920,000円稼げるなら、お母さんもそっちを勧めるわヨォ」

 

 母は灰皿に煙草を押しつけ、新しい一本を取り出した。焦げた目玉焼きは皿に盛られ、端の部分が黒く縮れている。私はアイスの蓋を閉じ、納付書をもう一度見た。

 

「で、何の仕事?」

 

「傭兵。今夜、一件回せるわ。旧港湾地区の倉庫で不法占拠者の排除。補助報酬は28万円。あーたは今日登録して、今日から働く。簡単でショ?」

 

「簡単かも」

 

「あーた、簡単って軽く言うけどねぇ、簡単かどうかは現場次第。常に緊張感を持ちなさいよ………………あ、ここ押して登録しなさい」

 

 母がスマートフォンを差し出した。画面には緑色の盾を模したアイコンと、「請負ギルド連絡網」の文字が表示されている。

 

 傭兵向けの登録・契約アプリだった。

 

「保護者同意の手続きはこっちで済ませるから。身分証を読み込んで、顔認証をしてちょうだい。登録ランクはFから。実績も評価もない新人だから、受けられる仕事は限られるけど、今回の案件なら補助として参加できるわ」

 

 私は言われたとおりに操作した。身分証を読み込み、顔を撮影し、規約に同意する。母が保護者同意欄に電子署名を入れると、数分後には登録完了の通知が届いた。

 

 プロフィールには、神楽坂ミオ、十七歳、Fランクと表示されている。実績件数はゼロ。契約履歴もゼロ。傭兵としての評価もない。

 

 今日の朝まで、私は傭兵ではなかったのだから当然である

 

「はい、これで登録完了。あとは契約書を読んで、納得したら承諾するのヨ。仕事の名前だけ見て飛びついたら駄目。報酬だけじゃなく、失敗したときの扱いや、撤退できる条件も確認しなさい。分かった?」

 

「分かった」

 

「初仕事で死なないでね。あなたが死んだら学費は浮くけど、仲介した私の責任が問われるんだから」

 

「分かってる」

 

「なら、さっさと学校に行ってらっしゃい。遅刻するわよ」

 

 私は焦げた目玉焼きをほおばり、トーストを口にくわえ学校へと向かった。

 

 

 

 *

 

 午後九時、旧港湾地区。

 

 集合場所へ向かう車の窓から、街の景色が流れていく。中心部では深夜営業の店に客が入り、交差点の信号は正常に機能していたが、防壁を越えて外縁へ進むにつれ、建物の窓は割れ、道路脇には焼けた車両が放置されるようになった。

 

 街灯の切れた区画では、遠くの火災が雲の底を赤く染めていた。

 

 この国では、治安の維持された都市と、行政の手が届かない地域が隣り合っている。十年前に治安補完法が成立して以来、警察や軍が対応しきれない警備、護衛、占拠排除などの仕事は、登録制の民間請負業者へ委託されるようになった。

 

 傭兵と呼ばれる彼らは、企業や保険会社、土地の所有者などから依頼を受け、契約に従って現場へ赴く。

 

 仕事は専用アプリに掲載され、報酬、危険度、契約条件、必要なランクが事前に確認できる。登録は十七歳から可能で、実績を積めばFからE、D、Cとランクが上がっていく。

 

 ランクが高いほど受けられる仕事は増え、報酬も増える。しかしその分危険も増える。

 

 郊外では武装勢力同士の衝突が珍しくなく、昨日まで通れた道路が翌朝には封鎖されていることもある。

 

 撤退した企業の倉庫に住み着く者がいれば、権利を主張する所有者が傭兵を雇い、立ち退かせる。誰が正しいかを決めるより先に、契約が結ばれ、仕事が始まる世界だった。

 

 旧港湾地区も、そうした場所のひとつだった。八年前に埋立地の地盤沈下が発覚して再開発が中止され、企業が去った後には倉庫と工場の残骸だけが残った。

 

 行政は立ち入り規制の看板を立てたものの、維持管理の予算は削られ、やがて住む場所を失った人々や武装集団が流れ込むようになった。

 

 今では電気も水道も、使える設備から勝手に引き込まれている。

 

 集合場所は、古い船会社の事務所跡だった。

 

 入口の脇に立っていた痩せた男が、私の顔とスマートフォンの登録証を照合する。黒いジャケットの下に防刃ベストを着込み、腰には拳銃と予備弾倉を装備していた。

 

「神楽坂さんですね。平井です。今日の主担当を務めます」

 

 主担当というのは、複数人で請け負う仕事において、現場の判断と指揮を担う責任者のことだ。依頼人との連絡や契約内容の確認、作業の進行管理も主担当の仕事に含まれる。

 

 つまり私の現場での判断は基本的に平井に任せ、指示に従って動くことになる。

 

 平井は私の登録情報を確認してから、倉庫の見取り図を端末に表示した。

 

「登録したばかりだと聞いています。現場は初めてですね。今回の目的は、倉庫を占拠している人間を排除し、依頼主へ引き渡すことです。外部から確認できたのは三名。相手が武器を持っていると想定して臨みます」

 

「分かりました」

 

「それと、気になること可笑しいと思うことがあれば、勝手に判断せず、まず、私に報告してください。危険だと判断すれば撤退します。依頼を成功させることより、生きて帰ることのほうが大事ですから」

 

 午前二時五十五分、私たちは現場へと向かった。

 

 平井は倉庫の正面を避け、建物の脇を回る。壁面には古い社名が残っていたが、塗装は剥がれ、何度も上書きされた落書きに埋もれている。

 

 裏手に回ると、搬入口のシャッターが半分ほど持ち上がっていた。人が出入りするには十分な隙間があり、その前には新しい煙草の吸い殻がいくつも落ちていた。

 

「ここで一度、装備を確認します」

 

 平井が立ち止まったので、私も足を止めた。彼は私の防弾ベストの留め具を目で確かめ、それから銃の状態を確認するよう指示した。

 

 確認を済ませると、平井は小さく頷いた。

 

「いいでしょう。ここから先は、私の指示を聞いてください。相手が逃げても、追いかける必要はありません。こちらの目的は倉庫を引き渡せる状態にすることで、誰かを捕まえることでも、全員を殺すことでもない。状況が変われば、目的を達成できないまま撤退することもあります」

 

「はい」

 

 「それから、撃たれた人間がすぐに動かなくなるとは限りません。倒れたからといって、不用意に近づかないこと。相手の武器が手の届くところにあるなら、なおさらです。負傷者の確認と救護は、周囲の安全が確保できてから行います」

 

 「はい」

 

 「最後に、これが何より重要ですが、不意打ちはできません」

 

 平井は倉庫の建物へ目を向けた。半分開いた搬入口の奥は暗く、積み重ねられた荷物の隙間から、かすかに灯りが漏れている。

 

「私たちは武力を行使する前に、身分と目的を明らかにし、相手に武器を置いて退去する機会を与える必要があります。契約に基づく排除だからといって、何の警告もなく撃っていいわけではありません。これを省略すれば、制圧そのものが正当だったとしても、手続き違反を問われる可能性がある」

 

「危なくないですか?」

 

「…そうですね。こちらが来たと分かれば、相手は武器を取るかもしれないし、逃げるかもしれない。警告を聞いたふりをして、こちらが近づくのを待つ可能性だってあります。手続きを守ることで危険が増す場合もありますが、それでも省略はできません」

 

 そういうものだと平井は説明する。殺しもする傭兵だからこそ、決まりは守る必要があると。

 

「もちろん、警告している最中に相手が撃ってきたなら話は別です。そのときは自分の命を守ることを優先してください。大丈夫ですね?」

 

「はい。警告して、相手が撃ってきたら応戦する。危険になったら撤退する。倒れた相手には不用意に近づかない」

 

「ええ。よく覚えておいてください」

 

 平井はそれ以上説明せず、倉庫へ向かって歩き出した。私も銃を持ち直し、その後に続いた。

 

 

 

 

 

 平井はすぐに中へ入らず、扉の隙間から懐中電灯を差し込み、床と壁の状態を確かめた。光が照らしたのは、割れたガラス片と、踏み荒らされた段ボール、床に引きずったような黒い筋だった。扉の下には砂が溜まっている。誰かが何度も出入りした跡らしい。

 

 平井がこちらを振り返り、指を一本立てた。

 

 待て、という意味だ。

 

 私は頷いた。

 

 やがて平井は扉を押し開け、音を立てないように中へ入った。私は少し距離を空け、その後ろにつく。

 

 平井はそれだけ説明すると、シャッターの隙間へ身をかがめた。私は銃を持ったまま、その後に続いた。

 

 倉庫の内部は、外から見たよりもずっと広かった。

 

 天井を走るクレーンのレールは錆びつき、切れたワイヤーが梁からぶら下がっている。積み上げられたコンテナの間には細い通路ができ、その奥に古い事務机や椅子が集められていた。

 

 床には砂埃と油の染みが広がり、ところどころに乾いた泥の足跡が残っている。壁際には毛布が敷かれ、空き缶や食料の包装、使い古された衣服が無造作に積み上げられていた。

 

 人が住んでいるというより、使える場所を見つけて寝泊まりしているという印象だった。

 

 奥から男の声が聞こえた。三人ほどいるらしく、言葉の内容までは聞こえない。

 

 平井はコンテナの陰で足を止め、私に待つよう合図した。

 

 私は息を整え、銃を持つ手を握り直した。

 

 緊張しているのかどうか、自分でもよく分からなかった。心臓は普段より速く動いているし、背中には汗をかいている。ただ、それだけだった。

 

 怖いと感じる余裕がないのかもしれないし、まだ何が起こるのか分かっていないだけなのかもしれない。

 

 平井が先へ進み、コンテナの角から荷捌き場をのぞいた。

 

 机の周囲に男が三人いた。ひとりはパイプ椅子に腰かけてスマートフォンを操作し、もうひとりは机の上に置いた拳銃をいじっている。残るひとりは壁にもたれ、紙コップを片手に何かを飲んでいた。三人とも、こちらには気づいていない。

 

 平井は彼らから数メートル離れたところまで進むと、声を張った。

 

「傭兵ギルドの登録業者です。ここは不法占拠として契約対象になっています。武器を置いて、両手を見える位置に出してください。抵抗しなければ、こちらから危害を加えるつもりはありません」

 

 三人が振り返った。

 

 最初に立ち上がったのは、机に座っていた男だった。驚いた顔で平井を見つめ、次に私へ視線を移す。男は何かを怒鳴ったが、言葉を聞き取る前に机の上へ手を伸ばした。

 

 平井がもう一度警告した。

 

 男は拳銃をつかんだ。

 

 乾いた発砲音が倉庫内に弾けた。

 

 弾丸が平井の脇を抜け、背後のコンテナに命中する。金属板が大きく震え、耳障りな音が倉庫の天井まで駆け上がった。私は反射的に身をかがめた。遅れて、平井の拳銃が二度火を噴く。

 

 脳天に命中。男は後ろへ倒れ、椅子ごと床に転がった。手から離れた拳銃が滑り、コンテナの脚にぶつかって止まる。

 

 壁際にいた男が銃を抜いた。

 

 平井が何か叫んだが、銃声にかき消された。男がこちらへ向けて撃ち、コンテナの角が砕ける。私は身を縮め、頭を抱えるようにして銃を握った。

 

 男は撃ち続けていた。ちゃんと狙いをつけているのか、それとも手当たり次第に撃っているだけなのかは分からない。ガンガンと耳が鳴り続ける。

 

 私は顔を上げた。コンテナの隙間から、男の上半身が見えた。拳銃を握った腕がこちらを向いている。

 

 考えるより先に、引き金を引いた。

 

 男の体が跳ねた。男は壁に手をつき、何かを叫びながらこちらを向き直ろうとした。私はもう一度撃った。男の膝が折れ、拳銃が床へ落ちる。壁を背にして座り込むような姿勢になったあと、ゆっくりと横へ崩れた。

 

 服の胸元が暗く染まっていく。

 

 男は口を開き、息を吸おうとしていた。喉から湿った音が漏れ、唇の端に血の泡が浮かぶ。指が床を掻き、靴底がコンクリートを擦った。

 

 私は銃口を向けたまま、その様子を見ていた。

 

「神楽坂さん、こちらへ!」

 

 平井の声で我に返った。最後の一人は腹部を抑えてうずくまっていた。平井がやったみたいだ。

 

 平井は周囲にまだ脅威が残っていないか確認してから、負傷した男のそばに膝をついた。

 

「動くな! 手を出せ!」

 

 男は痛みに顔を歪めて呻いた。平井は武器を奪いながら無線を取り出し、救急要員と現場保全班を呼んだ。

 

「周囲を確認します。あなたはここで待機してください。負傷者には触らないこと」

 

 私は頷いた。

 

 銃を持つ手が、少しだけ震えていた。

 

 さっきまで気にならなかった反動の感触が、遅れて肩に残っている。呼吸も浅くなっていた。頬を触ると、指先に血がついた。

 

 今になって気づいたが、どうやら弾丸が頬を掠めていたらしい。痛みも何も感じなかった。

 

「具合は?」

 

「大丈夫です」

 

「気分が悪いなら言ってください。初めての現場で平気な顔をしていても、あとから具合が悪くなることはあります。無理をする必要はありません」

 

「平気です」

 

「そうですか。では内部を調べます。他に人が隠れているかもしれませんから」

 

 まず倉庫。次に奥の事務室。慎重に一つずつ調べていく。

 

 最後にシャッターの脇に積まれた木箱を確認し、奥に隠れる場所がないことを確かめると、ようやく銃を下ろした。

 

「ひとまず、内部の確認は終わりです。残りは現場保全班に引き継ぎます」

 

 私は息を吐いた。

 

     *

 

 現場保全班が到着したのは、銃撃が終わってから二十分ほど経った頃だった。

 

 黒い作業服の隊員たちは、倒れた男たちの状態を確認し、現場の撮影と記録を始めた。救急要員が負傷者を担架へ移す。

 

 男はまだ意識があるようだったが、腹部を押さえる手は血に濡れ、顔からは血の気が引いていた。

 

 私は初めて人を殺した。

 

 それについて、特別な感想はなかった。吐き気も、涙も、達成感もない。ただ、手の中に残る銃の感触だけが、いつもよりはっきりしていた。

 

 平井が戻ってきた。

 

「報告書を作成します。神楽坂さんも、自分が見たことを記録してください。誰が先に撃ったか、自分が何をしたか、撃った相手がどうなったか。確認できなかったところは、無理に書かなくて構いません」

 

「分かりました」

 

 私はスマートフォンを開いた。契約管理システムには、現場の状況、発砲の経緯、対象者の状態、使用した装備などの入力欄が並んでいる。私は質問に答えるように、一つずつ入力していった。

 

 報告書は、思ったよりも時間がかかった。

 

 依頼主の担当者が到着し、契約書の最終確認に署名した。対象者の人数、占拠区画の状態、現場で確認された武器。記載内容に相違はなく、報酬は予定どおり支払われることになった。

 

 担当者は私の顔をちらりと見た。

 

「高校生ですか」

 

「はい」

 

「そうですか」

 

 それだけだった。私はスマートフォンの評価欄を差し出した。担当者は少し考えてから、星を四つ押した。

 

 初仕事は、契約上は成功だった。

 

     *

 

 午前四時半。旧港湾地区からの帰り道。

 

 母の車に乗り込むと、母は私の顔を一瞥した。頬に細い傷がついていたが、特に驚く様子もなく、煙草をくわえ直す。

 

「何、その顔。撃たれたの?」

 

「掠めただけ」

 

「ふうん。装備は壊してないでしょうね?」

 

「たぶん」

 

「たぶんじゃ困るのヨ。貸与品を壊したら報告が必要だし、弁償が発生する場合もあるんだから。帰ったら確認しておきなさい」

 

 母は車を発進させた。窓の外では、夜明け前の街がゆっくりと後ろへ流れていく。焼けた車両も、壁に刻まれた弾痕も、母にとっては見慣れた景色なのだろう。ちらりと視線を向けることすらなかった。

 

「で、仕事は?」

 

「成功。占拠者は三人。二人が死んで、一人が負傷して救急に運ばれた。倉庫は引き渡せたし、報告書も提出したよ」

 

「そう。依頼人からクレームは?」

 

「今のところない」

 

「ならいいわ。初仕事で契約を失敗されると、紹介したこっちまで評価に響くからねぇ。報酬は280,000円円。入金されたら、学費用の口座に移しておきなさい。お菓子とかに使うんじゃないよ」

 

「使わないよ。学費が足りないんだから」

 

「それなら結構。これで残りは1,640,000円。まだまだ働いてもらわないとねぇ」

 

 母は灰皿へ煙草を押しつけ、赤信号で車を止めた。

 

「それで、次の仕事も受けるの?」

 

「ほかに選択肢がないからね」

 

「そう。じゃあ、今日の報告書を確認してから、次の案件を探しておくわ。今回みたいな仕事ばかりあるとは限らないけど、Fランクでも受けられるものはあるでしょう。もっと稼ぎたければ、実績を積んでランクを上げることね。いつまでも新人価格で働かされるのは馬鹿らしいから」

 

 信号が青に変わった。母はアクセルを踏み、何でもないことのように続けた。

 

「次からは報酬の振込先も確認しておきなさい。あと、帰ったら傷を洗って、貸与品を返す準備をすること。お母さんは朝から仕事なんだから、いつまでも起きていられないの。アンタの初仕事の感想文に付き合う気はないわヨォ」

 

 母は欠伸を噛み殺し、窓を少し開けた。

 

 私はスマートフォンを取り出し、契約管理システムを確認した。

 

【神楽坂ミオ】

ランク:F

実績:1件

評価:★★★★☆(1件)

 

 登録初日の仕事は成功。学費にはまだ遠く及ばないが、それでも確かに稼いだ金は口座へと送られた。

 

 家に着くと、母は「さっさと寝なさい」とだけ言い残して、自分の部屋へ引っ込んだ。

 

 どうせすぐ学校だ。私は寝ないことにした。

 

 私は風呂場で手を洗い、頬の傷を消毒した。鏡に映った顔は、いつもと変わらない。

 

 明日は授業がある。ノートを取り、昼休みに購買へ行き、帰宅したら次の仕事の連絡を確認する。

 

 初めて人を殺した夜は、そうして終わった。

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