ポリポリ。かっ、痒い。
俺は猛烈な痒みで目を覚ました。
「んん?ここはどこだ……」
確か俺は昨晩、自分の部屋のベッドで寝ていたはずだ。俺は上体を起こして衣服を確認する。
無地の白Tシャツ、ボクサーパンツ、ピューマのハーフパンツ。
これは寝た時の格好だ。
右手元には剣が置かれているので取ってみる。
「鑑定でもできなければ、この剣が何なのかわかるか!」
<ピコン!>
ほむらの銅剣(両手剣) スキル:火炎剣
「ブルルォ」
馬のいななきが聞こえる。いやロバか?
<ピコン!>
ロバ
ロバは大人しくしているが、足が痒い。蚊かノミかダニに刺されて赤くなっている……。
ロバがいるので、ここは馬小屋の中なのだろう。匂いは田舎の匂いだが、鼻がひん曲がるほどではないので、ギリギリ耐えられる。
俺は自分を見て鑑定してみる。鑑定という言葉に反応する。
アキラ・ヒビキ(男:27歳)
村人Lv1
装備:ほむらの銅剣
俺はこの状況を知っている。昨日寝ながら読んでいたコミックだ。
異世界迷宮のちょっとエッチなやつ……。
「まさかね……俺はゲームを始めてないぞ。ダウンロードすらしていない」
脳内に表示される情報は、まさにデジタル世界である事を意味する。
試しに脳内の右下にある文字を叫んでみる。
「キャっ、キャラクター再設定!」
BP44
【パラメーター設定】
……
【ボーナス装備設定】
■武器一 初回特典装備
!武器二 特典装備が未購入です
……
■装飾品一 初回特典装備
!装飾品二 特典装備が未購入です
【ボーナス呪文設定】
□ワープ 初回特典呪文
!特典呪文が未購入です
【ボーナススキル設定】
■キャラクター再設定
■鑑定
■詠唱短縮
■詠唱省略
……
!特典スキルが未購入です
「特典スキルが未購入だとっ!かっ、課金かよ……武器六のデュランダルは課金装備かよっ!」
思わず声が出てしまった。そしてこの瞬間、俺は理解した……わかってしまった……
異世界迷宮のコミックの中だと……。
デュランダル、それは異世界迷宮における最強ワンパン武器。それを最初から使えるのが異世界迷宮の醍醐味だ。それが課金していない俺には使えないだと……。
無課金だと使えない設定は、装備品ニ以降のボーナス装備、ワープ以外のボーナス呪文、売買交渉のボーナススキル。これは最強のチート装備、チート魔法が封印されてしまった事を意味する。そもそも俺のボーナスポイントは50ポイントしかないから、63ポイント必要なデュランダルは出せないのである。初期ボーナスポイントは50かよ。
俺は今、無地の白Tシャツ、ボクサーパンツ、ピューマのハーフパンツしか身につけていない。ボーナスポイントを使って出せる装備品の確認をする。装備品一はスキルが必ず1つ付いているとはいえ、原作では登場しなかった完全なるゴミ装備品だ。だが何も装備しないよりはマシだろう。
俺は意を決してボーナス初期装備品を装備する。この世界の迷宮装備品は魔法によって、適切なサイズに自動で調整されるはずだ。
頭装備。色は水色。
<防水の皮帽子 スキル 水防御>
頭にピッチリと密着する。どう見ても、これはスイムキャップだろう。
胴装備。色は肌色。
<頑丈の皮鎧 スキル 物理ダメージ軽減>
皮はソフトレザーだけど頑丈らしい。無地の白Tシャツを着ているので、その上に装備されるが素肌の上に直接装備したら、おそらく裸に見えるだろう。
腕装備。色は水色。
<防水の皮手袋 スキル 水防御>
どう見ても、これはゴム手袋だろう。洗い物に使えるかもしれない。
足装備。色は水色。
<防水の皮靴 スキル 水防御>
風呂掃除用のゴム靴と言えなくもないが素足よりはマシだろう。足の守りは重要だ。
装飾品。色は水色。
<防水のマント スキル 水防御>
どう見ても、これは雨ガッパだがソフトレザー製の外套なので、掛け布団代わりに使用する事もできるだろう。或いは風呂敷代わりに使えるかもしれない。
「掃除用装備かよっ!この装備は痛すぎるだろ……」
俺はブルブルと震えて膝を折った。
突然、聞いた事が無い言葉で叫ばれた。
「XXXXXXX。XXXXXXXXXX」
どうやら現地人に見つかってしまったようだ。
鑑定!
アロルド(男:47歳)
村人Lv25
装備:銅の剣 皮の鎧 皮の靴
今の装備は、どう見ても怪しい者だが俺は適当な出任せで答える。
「旅の者だが、路銀が尽きてしまってな。少しここで休ませてもらっていた」
「むっ、ブラヒム語の話者か。盗賊じゃ無いだろうな?村長に確認してもらうから、ちょっと、こっちへ来い」
どうやら話が通じたようだ。俺はボーナス武器を消して、両手を上げて男の方へと向かう。男は俺の背中に銅の剣をあてると、そのまま母屋の方へと連行される。母屋の入口で男が声を発する。
「ここで待て。逃げるなよ。村長!来てくれ」
母屋から老人が現れる。
「そいつは誰じゃ。もしや盗賊か?」
鑑定!
ロマーノ(男:68歳)
村長Lv8
装備:銅の剣 ローブ サンダル 村長の指輪
どうやら、この老人がこの村の村長のようだ。
「村長、こいつのインテリジェンスカードを確認してくれ」
男は俺の左腕を掴んで、村長の方へ向けさせる。
「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」
村長が呪文を唱えると、突然俺の左手の甲からカードが飛び出す。これが、この世界の身分証のインテリジェンスカードか。カードが出なかったら袋叩きにあっていたかもしれないと思うと、俺はぞっとした。
「ふむ、盗賊では無いようじゃな。自由民か。して、この村に何のようじゃ」
危なかった。俺は何も盗んでいないから、まだ村人ジョブのままだ。そして今の俺の恰好とジョブについては、どうやら気にならないらしい。安堵して出任せで答える。
「旅の者だが途中で路銀が尽きてしまってな。この村の周辺に迷宮は無いか?あるなら案内を願いたい」
「ふむ、丁度よいか。最近この村には迷宮が出現しおってな。迷宮から溢れた魔物が徘徊するようになって困っていたのじゃ。迷宮に入ってくれるのであれば、この村への逗留を許可しよう」
「感謝する。俺の名はアキラだ。早速で申し訳ないが案内願えないか?」
「うむ、アロルド、こやつを迷宮まで案内してやれ」
俺はアロルドに連れられて村の迷宮へと向かう。そして迷宮に着くまでにアロルドから村の情報を引き出す事に成功した。迷宮の入口は林の中に黒い壁として出現している。ここに来る迄に、仮に敵と遭遇したら英雄ジョブが取得できなくなる悲劇が訪れる。賭けだった……。
「着いたぞ。ここがロマーノ村の迷宮だ。一階層はコボルトだ」
「うむ、案内感謝する。もう村に戻ってもらって結構だ。俺は一度迷宮に入ってから、村に戻るつもりだ」
「気を付けろよ」
俺は恐る恐る目の前の黒い壁へと突入する。この後に起こるであろう盗賊イベントに向けて準備が必要だ。いや、そもそもデュランダル無しで盗賊が倒せるのか。まずは迷宮に入って探索者ジョブを取得だ。迷宮入口の待機部屋内はモンスターが出現しないはずなので準備を整えよう。
「キャラクター再設定!」
キャラクター再設定はBP1で必須だ。しかも外せない。仮に外せてしまうとレベルが上がってBP1を取得するまで、再設定が不可能になる鬼畜仕様になるからだ。
色々考えたが、ない袖は振れない。俺のBPは50しかないからだ。ここまでで残りBPは30。
キャラクター再設定(1)
鑑定(1) ジョブ設定(1) 詠唱短縮(1)
ワープ(1)
武器一 (1):ほむらの銅剣
頭装備一(1):防水の皮帽子(水色のスイムキャップ)
胴装備一(1):頑丈の皮鎧
腕装備一(1):防水の皮手袋(水色のゴム手袋)
足装備一(1):防水の皮靴 (水色の風呂用のゴム靴)
装飾品一(1):防水のマント(水色の雨ガッパ)
セカンドジョブ(1) サードジョブ(2)
フォースジョブ(4)
MP回復速度上昇(1) クリティカル率上昇(1)
「ジョブ設定!」
ファーストジョブに探索者をセットし、セカンドジョブには村人をセットする。あとは村に戻って農夫と盗賊を取得を何とかしたい。敵と遭遇しないように村までの戻りはワープだ。見られたら、その時はその時だ。
「さて、色々考えてみたが、もう腹を括ろう」
俺は、ほむらの銅剣を両手で構えて呪文を唱える。
「呼びかけたるは我が心、感じ現る剣の意思、奔流、火炎剣!」
すると、銅の剣の刀身だけが赤い炎で覆われる。炎がエンチャントしている時間は、大体100秒位だろうか。いけるか。
「デュランダルが無い以上、火炎剣に全てを賭けるしかない」
「ワープ!」
迷宮入口の待機部屋内の壁面に黒い壁が現れる。俺は黒い壁に突入して馬小屋までワープした。
馬小屋を出る。迷宮に行くまでに、村内の菜園には目を付けておいた。キュピコの実が生っていると言うことは、この村は原作のソマーラ村と同じくらいの緯度だろうか。菜園に踏み入って、キュピコを勝手にもいで食う。見た目ニンジンの謎果物だが、ちょっと酸っぱいサクランボ味だ。勝手に一つもいで食べただけでは盗賊ジョブの取得はできなかった。三つ目で盗賊ジョブと農夫ジョブの取得を確認。三つ目という事は隠し要素でカルマ値でもあって、カルマ値が規定値を超えないと盗賊にはならないとも考えられる。
「ジョブ設定!」
盗賊ジョブは勝手にファーストジョブにセットされてしまうので探索者に戻す。セカンドジョブを村人にセットし直し、サードジョブには農夫、フォースジョブには盗賊をそれぞれセットする。これで俺は盗賊ではない。これは仕様だ。
「XXXXXX!」
猫人族の少女がこちらを見て何か叫んでいる。猫耳と尻尾があるから猫人族だよな。少女に見つかったから盗賊ジョブを取得できたわけだ。アロルドが駆けてこちらに来る。
「また、お前か!」
「落ちているキュピコを味見させてもらったが、まずかったかな?」
「そう言う事は、一声かけろ。盗賊になるぞ!」
「いや、俺は絶対に盗賊になっていないぞ。インテリジェンスカードを確認して貰っても構わない」
「アロルドXX、XXXXXXXXXXXXXXXXXX」
猫人族の少年が村の入口から、叫びながら走ってくる。
「盗賊団が来たかもしれない?アキラは村長に報告してくれ」
アロルドと子供たちは何かを叫んで、慌ててどこかに行ってしまった。ついに盗賊イベントが始まってしまったか。俺は銅の剣を握りしめ村長宅へと向かう。
「村長!アロルドが、盗賊団が来たかもしれないと言っているぞ」
「なんじゃと!」
「この村には戦える者が何人いるんだ?」
「この村は漁村じゃぞ。今の時間、男共は海に漁に出ておるわ。お主は戦えるのか?」
「いや、俺一人では無理だぞ」
カンカンカン、カーン。半鐘の音が聞こえる。
村人たちが続々と村長宅に集まってくる。盗賊イベントだろう。もう一刻の猶予もない。俺はパーティー項目解除、パーティージョブ設定、詠唱省略にボーナスポイントを割り振る。必要ポイントは7だ。
「XXXXXXXXXX」
「XXXXXX」
村長が村人たちに何かを言っている。わからないので俺は無詠唱で村人たちを鑑定する。
鑑定!
漁師Lv12(♂:38歳)
漁師Lv10(♂:35歳)
漁師Lv8 (♂:31歳)
漁師Lv7 (♂:29歳)
漁師は、体力中上昇、HP小上昇、腕力小上昇のパーティー効果を持つ猫人族♂の種族固有ジョブだ。
装備を着けていた村人は4人だけだ。こいつらが戦うのだろうか。残りの男たちは、まだ漁をしているのだろうか。あとは女子供だけだ。
アロルドが話かけてくる。
「アキラ、お前も一緒に来てくれ」
「ああ、武器を持っている男たちだけで行くぞ。まずはパーティーを組む」
「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」
「XXXXXXXXXX」
俺はアロルドと猫人族の漁師4人を勝手にパーティーへ迎える。特に説明しなかったが漁師たちはパーティーに参加してきた。村長をパーティーに入れる枠が無いので後ろに控えて貰えばいいだろう。村長と村人たちが何やら話し合っているが、聞きとれないので確認と設定に勤しむ。
アロルド 装備:銅の剣 皮の鎧 皮の靴
漁師Lv12 装備:銅の槍 皮の鎧 サンダル
漁師Lv10 装備:木の槍 サンダル
漁師Lv8 装備:木の槍 サンダル
漁師Lv7 装備:木の槍 サンダル
パーティーを組んだ事で一撃死は無いだろう。俺の英雄取得の為の壁になってくれ。最悪の場合は迷宮にワープだ。
「盗賊を迎え討つ、行くぞ」
「まっ、待て。まず、村長が俺たちの後ろから交渉する。交渉が決裂した場合は、すまんが宜しく頼む」
アロルドを先頭に漁師4人と村長の順で、俺を含めた7人で村の入口に向かう。不審な集団は、既に村内に侵入している。
鑑定!やはり盗賊団だ。盗賊は全部で12人。数の上では、こちらが不利だ。
盗賊Lv7 装備:銅の剣 皮の靴
盗賊Lv9 装備:銅の剣 皮の鎧 皮の靴
盗賊Lv4 装備:銅の剣 サンダル
盗賊Lv2 装備:銅の剣 サンダル
壁役の盗賊たちのレベルは、おしなべて低い。レベル一桁台なら漁師たちでも勝負になるかもしれない。やはり居たか、盗賊Lv41の此奴が頭目だろう。
ゲイル(男:??歳)
盗賊Lv41
装備:鉄の剣 盗賊のバンダナ 鉄の鎧 皮の靴
原作のウーゴ並みの強さだ。此奴はアロルドに対応してもらう。まだ俺のレベルは、たったの1だ。次にレベルが高い盗賊Lv19が副頭目だろう。あとの盗賊10人は全員レベルが一桁台だが、囲まれたら逃げる事ができずに袋叩きだ。俺は震える声でアロルドに話かける。
「アロルド、バンダナを装備しているのが頭目だ。強いぞ」
「ああ、俺が対応する」
盗賊たちと村長の交渉が始まった。聞き取れないからブラヒム語では無いのだろう。俺は、キャラクター再設定で設定を変更する。パーティージョブ設定、パーティー項目解除、
詠唱省略を解除して、全部で30BPを捻出する。そして、パラメーター設定の腕力上昇にBP30を全てつぎ込む。
BP:0
キャラクター再設定(1)
鑑定(1) ジョブ設定(1) 詠唱短縮(1)
ワープ(1)
武器一 (1):ほむらの銅剣
頭装備一(1):防水の皮帽子(水色のスイムキャップ)
胴装備一(1):頑丈の皮鎧
腕装備一(1):防水の皮手袋(水色のゴム手袋)
足装備一(1):防水の皮靴 (水色の風呂用のゴム靴)
装飾品一(1):防水のマント(水色の雨ガッパ)
フォースジョブ(7):探索者 村人 農夫 盗賊
MP回復速度上昇(1) クリティカル率上昇(1)
腕力上昇(30)
武器は、ほむらの銅剣。ジョブは探索者、村人、農夫、盗賊。レベル1のフォースジョブだ。防具は水色の掃除用装備。壁役の盗賊がニヤニヤしてやがるが、命が掛かっているから俺は気にしないぞ。不意にアロルドが叫ぶ。
「交渉は決裂したぞ、向かえ討つ。XXXXXXXXXXXXXX」
ブルリと震えたが、俺は大声で叫ぶ。
「火炎剣!」
左端に位置していた俺の剣の刀身が炎に包まれる。盗賊たちは腕装備をしていない。狙うのは右腕だ。火炎剣のエンチャントで虚をつかれた盗賊共は固まっている。火炎剣を見た事がないのだろう。火炎剣のエフェクトだけは素晴らしい。俺は迷わず駆け出して左端の盗賊の右腕に小手を叩き込む。
バコッ、ジュウウ。
「グアアアアアアア!」
盗賊Lv2の右腕が九の字に曲がり、銅の剣を手放してうずくまる。肉の焼ける匂いがする。もう此奴は武器を持てないだろう。そのまま前にいる盗賊Lv4の胴に火炎剣を突き刺す。
ドガッ、ジュウウ、ボッ。
「ウギャアアアア!」
盗賊Lv4は胴装備をしていないので、火炎剣の炎が衣服に燃え移る。盗賊Lv4は銅の剣を手放して、慌てて火を消そうとするが、魔法の火は時間経過でしか消せないだろう。デュランダルのように突き刺さったり切り落としたりできないが、確かな手応えをゴム手袋越しに感じる。対人戦で火炎剣は使えるぞ。相手が防具を装備してなければだが……。
ドガッ。
背中に鈍痛が走る。盗賊Lv8の銅の剣の攻撃か。ボーナス初期装備の頑丈の皮鎧と水色の雨ガッパを装備していなければ、切り裂かれていたかもしれない。俺は痛みを堪えて盗賊Lv8に小手を叩き込む。盗賊たちは何故か全員腕に装備をしていない。スリをする場合に手袋が邪魔になるのだろうか。
バコッ、ジュウウ。
「グギイイイ!」
盗賊Lv8の右腕が折れ曲がり、銅の剣を手放してうずくまる。迷宮装備をしていない場合の人間の脆さを俺は理解した。残りの立っている盗賊は9人。こちらの村人は、まだ誰も死んでないようだ。漁師4人のパーティー効果である体力中上昇、HP小上昇が効いているのだろう。そのまま前にいる盗賊Lv7の胴に火炎剣を突き刺す。
ドガッ、ジュウウ、ボッ。
「ウワアアアア!」
盗賊Lv7も胴装備をしていない。火炎剣の炎が衣服に燃え移る。そろそろ火炎剣の効果が切れるかもしれないので、逃げられるように一度引く。炎が怖いのだろう。一旦間合いを離す事に成功した。俺は辺りを見回す。最初に衣服が燃えた盗賊は、横たわって動かないので、おそらく死んだのだろう。ジョブ設定を確認したが、英雄ジョブは取得できていない。盗賊を倒すだけでは駄目か。盗賊イベントに勝利、或いは頭目の討伐が必須取得条件なのかもしれない。
村人たちの戦闘へ目を向ける。アロルドは村人Lv25だが、何とか盗賊Lv41を抑えているように見える。漁師たちは血を流しているが、俺のパーティー効果の為に、もう少し頑張ってくれ。ちらりと後ろを向くと村長が盗賊Lv19に捕まってしまっている。火炎剣が切れたら行くか。
俺は火炎剣の効果が切れた後に、銅の剣を握り直して再び大声で叫ぶ。
「火炎剣!」
銅の剣の刀身が炎に包まれる。俺は村長の方へ走り出した。
盗賊Lv19が、何か叫んでいる。
「XXXXXXXXXXXXXX」
ブラヒム語以外は聞き取れない。村長も何か話しかけてくるが英雄ジョブ取得の為だ。構うものか。目の前の盗賊Lv9の右腕に小手を叩き込む。
バコッ、ジュウウ。
「XXXXXXXXXXXXXX」
盗賊Lv9は胴装備をしているが、手袋をしていないお前が悪い。BP30の腕力上昇と漁師4人のパーティー効果の腕力小上昇で、盗賊の腕がひん曲がる。こいつも戦闘不能だろう。盗賊Lv19が再び何か叫ぶ。
「XXXXXX!」
「俺はブラヒム語しかわからんぞ」
その瞬間、村長がうずくまる。村長はパーティーに入れていないから、やられてしまったか。
「村長、待っていろ。今助ける!」
俺は盗賊Lv19に対峙する。こいつさえ倒せれば、後は雑魚と頭目だけだ。
ガキン。盗賊の銅の剣と俺の火炎剣が弾ける。何回かの打ち合いで奴の右手が焼けただれてくる。俺の火炎剣を剣で防いだつもりでも、炎の効果範囲なのだろう。奴の剣が下がってきた。もう限界なのだろう。あとは手に一発当てればいい。
バコッ、ジュウウ
「XXXXXX!」
盗賊Lv19は、うずくまって降参の素振りを見せるが知ったことか。火炎剣を頭に叩き込む。
「俺の経験値になりやがれ!」
盗賊Lv19を倒せた。パーティー効果の効果は絶大だ。レベル1とレベル19のレベル差でも、スキルとパーティー効果で覆すことが可能であると、俺は理解した。
不思議と盗賊を始末しても罪悪感が感じられない。むしろ晴れ晴れさえする。まるでカルマ値がクリアされていく感じさえする。残りの立っている盗賊は6人。数的不利の状況は脱したが、おそらくもう、村人たちは瀕死だろう。目の前の村長は既に事切れている。パーティー効果が無くなる前に頭目を始末しなくては……。
俺はアロルドのサポートにまわる。漁師たちがやられて死ななければ、パーティー効果は維持される。さすがにレベル差があるからか頭目が押しつつある。アロルドが押し倒しされて頭目が馬乗りになった。おそらく限界なのだろう。
頭目の装備は、盗賊のバンダナ、鉄の鎧、皮の靴だ。ダメージが通るのは手袋を装備していない手しかない。行くなら馬乗りになって下を向いている今しかない。俺はブルリと震えた。
「火炎剣!」
火炎剣が盗賊Lv41の腕を薙ぎ払う。
バコッ、ジュウウ。
「XXXXXX!」
まだ頭目のHPは残っていたのか、倒した感触はない。だが次の瞬間、頭目が崩れ落ちる。アロルドの剣が頭目の腿に刺さっていたのだ。ラストアタックをアロルドに取られたのか。俺の心臓が更に高鳴る。残り盗賊はレベル一桁台の雑魚が5人。頭目、副頭目が討ち取られて戦意を喪失しているようだ。漁師たちも盗賊共も泥仕合で既に瀕死なのだろう。
「XXXXXX!」
俺は逃げ出そうとする盗賊の背中に火炎剣を突き刺す。ズブリ。
盗賊も瀕死だったのだろう。容易に背中を貫通する手応えがゴム手袋越しに伝わる。
「XXXXXX!」
両手を挙げて命乞いする瀕死の盗賊にも俺は容赦しない。
「俺の英雄取得の肥やしになれ」
俺は残っている瀕死の残党を全て始末した。
(非表示 経験値:20)
「ふうーう」
大きく息を吐く。猫人族の漁師のパーティー効果のおかげで、デュランダルなしでも盗賊イベントを完遂できた。アロルドも漁師たちも既に瀕死だ。エリクシールが無ければ恐らく助からないだろう。僧侶や神官を取得していない、今の俺には助けることはできない。俺はジョブを確認する。
アキラ・ヒビキ(男:27歳)
探索者Lv2 村人Lv2 農夫Lv2 盗賊Lv2
俺はそれを見た瞬間、固まった。英雄ジョブが取得できてないだと……。
俺は、その場で膝を折って両腕を地面につけた。
「なんだこのクソゲーは!英雄ジョブも課金かよっ!」
異世界迷宮の冒険は、初日で終わった。
そして、俺はそのまま意識を手放した……。
春の1日。所持金:0