俺の名前はーーーいや、ルディだ。
前世で無職の引きこもりをしていた俺は、トラックに轢かれて気づいたら剣と魔法の世界に転生していた。
今は生後半年の赤ちゃんだ。
家族には姉が1人、双子の妹1人、父が1人、母が2人の家族構成だ。
父は妻が2人もいるんだと。
前世で1人も彼女が出来なかった俺からすると羨ましい限りである。
正妻が紫髪の母で、姉はその母の娘だ。
姉の名前はアイシャと言う。
側室が金髪の母で、俺達はこっちの母から産まれた。
そして妹の名前はノルンと言う。
少し特殊な世界で状況だが、俺はこの世界で本気で過ごしていくと決めたのだ。
ー
二歳になった。
足腰が安定してきて、こっちの世界の言葉を話せるようになった。
そして1つ変わったことがある。
つい最近、姉のアイシャの家庭教師の為にロキシー・ミグルディアという青髪の女の子が来た。
ロリ、ジト目、無愛想の3つを兼ね備えたパーフェクトな女である。
ぜひ俺の嫁に迎え入れたいものだ。
俺は今そんな彼女の膝の上に乗り、アイシャへの授業を聞いている。
後頭部にロキシーの小さな胸の感触がする。
小さな胸というのも又一興である。
そしてロキシーの授業を聞いている内いくつか魔術の事についてわかった。
魔術の発動には詠唱が必要。
魔術の発動には魔力が必要で、魔力量は生まれ持ったものだと。
どんどん、ロキシーは紙に文字を書きながら授業を進めている。
「アイシャ、わかっていると思いますけど今の『水弾』の詠唱は
汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れをいまここに『ウォーターボール』です。
けれど昔の魔術は初級にも、もっと長い詠唱が必要だったんですよ」
ん?
今のロキシーの言葉、魔術の詠唱じゃなかったか?
確かーー
汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れをいまここに『ウォーターボール』
だったか。
これは凄い事聞いたぞ。
魔術の詠唱の内容だ。
これを唱えれば俺にも魔術が使えるという事だ。
こうなっては興奮しざるを得ない。
すぐにでも2階の部屋に行って確かめてみるか。
俺は小さなロキシーの膝の上から降り地面に立った。
「やっぱりルディには難しい内容でしたか」
ロキシーが授業を止めて話しかけてくれた。
俺はこくり頷き返事をして、2階の部屋に向かった。
2階の部屋に着いた俺は周りに誰もいない事を確認してからさっきの言葉を詠唱し始めた
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れをいまここに『ウォーターボール』だったよな…」
すると血液が右手に集まっていくような感触があった。
その血液が押し出されるようにして、右手の先にこぶし大の水弾が出来る。
「おおっ!」
と、感動した次の瞬間、水弾はバチャリと落ちて、床を濡らした。
教本には、水の弾が飛んでいく魔術と書いてあるが、その場で落ちた。
集中力が切れると、魔術は持続しないのかもしれない。
さっきの感覚をイメージしながら目をつぶって、完璧にさっきと同じ通りにだ…
するとまた右手の先に水弾ができ足元に落ち、足元が濡れた。
なんだ、詠唱がなくても出来るじゃないか…
だがロキシーが魔術には詠唱が必要だと言っていたな。
ロキシーはあれでもれっきとした魔術師だ。
そう思うと俺だけの特殊能力という線が出てきたな。
うっは、興奮してきた!
いや、落ち着け俺クールにクールにだ。
こんな事で調子に乗るな。
本気で生きると決めたんだろ。
俺はもう一度水弾を出すように頭の中で念じた。
だが体が重い。
なんだもう魔力がなかったのか。
俺の魔力少なすぎんか。
水弾二発分だぞ。
一応、もう一発放ったが視界が暗くなっていった。
ー
「もう、ルディったら、眠くなったらちゃんとトイレにいってベッドに入らなきゃダメでしょ」
起きた時には、読書中に居眠りして、そのままおねしょをした事になっていた。
ちくしょう。
てか、魔力少なすぎだろ。
はぁ……萎えるわー……。
まぁ、水弾二発でも、使い方次第か。
精々、咄嗟に出せるように練習だけしておくか……。
はぁ………。
ー
次の日は、水弾を4つ作っても平気だった。
5つ目で疲れを感じた。
「あっれぇ……?」
昨日の経験から、次の一発で気絶するとわかっていたので、ここでやめておく。
で、考える。
ふむ。
最大6つ。
昨日の2倍だ。
俺は桶に入った水弾5発分の水(気絶対策)を見ながら、考える。
昨日の今日で回数が2倍に増えた理由。
昨日は最初から疲れていたとか、初めてだから消費MPが大きかったとか。
今日は全部無詠唱でやったから、詠唱をする・しないで変わる事はないはず。
わからん。
明日になったら、また増えているかもしれない。
ー
さらに翌日。水弾を作れる回数が増えた。
11個だ。
なんだか、使った回数分だけ増えている気がする。
もしそうなら、明日は21回になっているはずだ。
翌日、念のため、5回だけ使ってその日はやめておく。
さらに翌日、26個になっていた。
やっぱり、使った分だけ増えていく。
または成長に応じて増えていく、とか。
幼児の時期に魔力を使うと飛躍的に最大値が増える、とか。
あ、俺だけの特殊体質ってのも捨てがたいな。
………いや、だから自分を特別だと思うなって。
元の世界でも、成長期に運動すれば能力が飛躍的に伸びるとか言われていた。
逆に成長期を過ぎてから、頑張っても伸び率が悪いとも。
この世界だって、魔力とかなんとか言ってるけど、人間の体の構造は変わらないはずだ。
基本は一緒。
なら、やることは一つだ。
成長期が終わる前に鍛えられるだけ、鍛える
その日から俺はひたすら水弾を放つ事にした。
途中で他の系統の初級魔術の詠唱も覚え、放てるようになった。
ー
3歳になった。
最近になって俺の名前はルディではなく、ルーデウス・グレイラットだと言う事を知った。
そして父親の名前がパウロ・グレイラット。
正妻の義理の母がリーリャ・グレイラット。
側室の実母ゼニス・グレイラット。
と言うらしい。
実際問題、貴族でもないない父親の妻に正妻も側室という概念があるのか知らんがな。
妹のノルンも3歳になった事で、意思疎通が出来やすくなった。
ー
俺は今アイシャの膝の上でロキシーの授業を聞いている。
たまには別の人の膝がいい日もあるのだ。
決して浮気ではない。
今は魔術の授業ではなく、算術の授業だ。
アイシャはどんどん問題を解いていく。
アイシャの詳しい年齢は知らないが、6歳ぐらいだろう。
このスピードで計算をしていくとは中々の天才である。
「ルディも算術に興味があるのですか?」
ずっと、計算している姿を見ているとロキシーに話しかけられた。
別に算術に興味はないがロキシーからの授業に興味はある。
「はい」
俺はロキシーの質問に答えた。
「ルディそうですか、どうしましょうか…」
ロキシーが何かを考えている。
すると、アイシャがこちらを振り向いた。
「じゃあ、ルディに問題を出してあげる!」
アイシャはニコニコしながら、俺の顔を覗き込んでくる。
「私は甲龍歴407年生まれで、ルディは411年生まれ。さて、何歳差でしょう?」
なるほど、これは問題か。
簡単な問題だ。
「4歳です」
「正解!流石ルディ」
さらっと問題を受け流した。
そこからいくつか問題を出されたが、小学生レベルの足し算、引き算だった。
長い間勉強をしてなかったとしても、失敗はしなかった。
「ルディ、全問正解だよ。凄いね!」
「この歳で算術が完璧とは凄いですね。私達の授業を聞いただけで覚えるとは…」
アイシャとロキシーが褒めてくれるが、そんな凄いことだろうか?
前世では保育園生でもこのぐらいだったら勉強していたと思うが…。
まあ、この世界は教育レベルが低いとでも思っているか。