日本国召喚×ふしぎの海のナディア―ネオ・アトランティス異世界転移― 作:ネオ・アトランティス
古代アトランティス文明の遺産と独自の超科学兵器を持ち、世界征服を目指すネオ・アトランティスが、『日本国召喚』の世界に存在していたらどうなるのか。彼らは異世界の国家や文明とどのように関わり、世界の情勢にどのような影響を及ぼすのか。そんな思いつきから生まれたクロスオーバーIF作品です。
それぞれの作品が持つ世界観や設定を踏まえながら、ネオ・アトランティスが加わったことで変化する異世界の歴史を描いていきたいと思います。
第一章 知られざる大陸
西暦一八八八年。世界は、まだ自らの全貌を知らなかった。
パリでは万国博覧会の開催を目前に控え、蒸気機関と電信が人々の暮らしを変えつつあった。大西洋を横断する船舶は各国の経済を支え、列強は植民地と資源を求めて、世界各地で政治的な駆け引きを繰り広げている。
科学技術への期待が高まる一方で、海の向こうにはなお多くの未知が残されていた。人類は、自分たちが暮らす世界の全貌さえ、完全には把握していなかったのである。
その世界の片隅で、人類の歴史そのものを書き換えようとする者たちが動いていた。
古代アトランティス文明の遺産を利用し、世界を再びアトランティス人の支配下へ置こうとする秘密組織、ネオ・アトランティス。
その首領ガーゴイルは、配下の軍隊と研究施設を指揮しながら、世界征服という途方もない野望を現実へ変えようとしていた。
彼にとって人類文明など、いずれ自らの前に跪く未熟な文明にすぎない。
各国が誇る軍艦も、最新式の火砲も、蒸気機関も、彼が知る古代技術の前では取るに足らなかった。人間が自らの力で世界を発展させていると信じている事自体、ガーゴイルには滑稽な錯覚に見えていた。
そして、その野望を支えていたのは、仮面を着けた兵士たちと秘密基地だけではなかった。
海運、造船、重工業、鉱山、化学、金融、電信、新聞、建設、農業。表向きには独立した事業を営む企業群が、組織の外側に広がっていた。そこでは多くの人々が、ネオ・アトランティスの存在を知らぬまま働いている。
彼らにとって勤務先は、秘密主義が過ぎる事こそあれ、通常の利益を追求する国際企業にほかならなかった。
経営幹部の一部は、匿名の出資者や特殊な契約の存在を知っていた。さらに限られた者だけが、その背後に通常の商業活動では説明できない巨大な権力が存在することを理解していた。
しかし、その頂点に誰が立ち、何を目的としているのかまで知る者は、ごくわずかだった。
秘密組織は秘密組織として、表企業は表企業として機能する。
両者は切り離されているように見えながら、資源、資金、物資、技術、人員を介して結びついていた。
その巨大な機構が、ある夜、世界から切り離された。
誰かが警告を発したわけではない。地震の前兆も、天変地異の予告もなかった。空に異常な光が走ったわけでも、海底から巨大な怪物が現れたわけでもない。
最初に消えたのは、音だった。
遠くで稼働していた機械の唸りが、電信線を走る微かな振動が、地下深くを流れる水の音が、すべて同時に途切れた。
次の瞬間、空気が押し潰された。
壁も床も揺れていない。それなのに、そこにあるものすべてが、別の場所へ引きずられていく。
時計の針が止まり、炎が細く伸び……そして、世界の在り方そのものが、一瞬にして変わった。
*
ネオ・アトランティス中枢基地。
地下深くに設けられた指揮区画では、いつもと変わらぬ光景が広がっていた。壁面の計器が淡い光を放ち、通信担当者は各施設から寄せられる報告を整理している。仮面を着けた将校たちは地図の前に立ち、進行中の計画と各部隊の配置を確認していた。
その中央に、赤い衣服をまとった男が立っていた。
黒い頭巾と仮面で素顔を覆い、白い手袋をはめた両手を背後に回している。身じろぎ一つせず報告を聞く姿には、周囲の人間とは明らかに異なる威圧感があった。
この男こそネオ・アトランティス総帥、ガーゴイルである。
「現時点で、第二号機の建設工程に問題はありません。主要構造の組み上げは予定どおり進行しており、制御区画の一部を除けば、建設資材も確保されています」
技術担当者の報告に、ガーゴイルはわずかに顎を引いた。
「よろしい。建設を続行しろ。必要な資材を惜しむな。完成を急ぐあまり、第一号機で得られた教訓を忘れることは許さん」
「はっ」
技術担当者が一礼した、その瞬間だった。
床が鳴った。
低い音だった。地下施設のどこかで大型機械が動き出したような、腹の底に響く音。
次の瞬間、その音が跳ね上がった。
床が波打ち、壁が軋み、天井から粉塵が降り注ぐ。計器の針が一斉に振り切れ、照明が明滅した。
誰かが机に手をつき、誰かが叫び、誰かが転倒する。警報が鳴り始めたが、その音さえ途中で歪み、二重にも三重にも重なって聞こえた。
「何事だ!」
その場から叫び声が上がったが、それに対する返事はなかった。
通信卓の一つが火花を散らし、別の卓では受話器が勝手に鳴り続けている。
壁面の地図に表示されていた各施設の位置が、次々と消えていった。
「地盤変動を確認! 周辺の測定値が急激に変化しています!」
「発電系統に異常なし! 主要動力は稼働を継続しています!」
「通信系統に断続的な障害! 原因は特定できません!」
「外部観測所から応答がありません!」
「海岸監視所、全回線沈黙!」
報告が重なり、指揮区画は騒然となった。
ガーゴイルだけは姿勢を崩していなかった。揺れる床の上で周囲を見回し、白い手袋をはめた指先を一度鳴らす。
乾いた音が響いた。
「狼狽えるな。報告は一つずつ行え。何が起きているのかも分からぬうちから騒ぎ立てても、何の解決にもならん」
その声に、室内のざわめきがわずかに収まった。それを確認したガーゴイルは改めて命令を下す。
「まず、施設の損傷を確認しろ。人員の状況、動力、兵器の制御系統、すべてだ。確認できた事実と、単なる推測を混同するな」
「はっ!」
将校たちが動き出す。だが、誰もが同じ疑問を抱いていた。
揺れは、地面から来たのか? それとも、地面そのものが動いたのか。
ガーゴイルは、騒がしい計器群ではなく、壁面に設けられた大地と海の地図へ視線を向けた。
彼らにとって、この基地は世界の中に存在する一つの拠点だった。
その周囲には別の秘密基地があり、さらにその外側には企業群の事業所、港湾、鉱山、工場、倉庫、農地が広がっている。
それぞれの施設は異なる地域に分散し、必要に応じて資源や人員を融通し合うことで、巨大な組織を支えていた。
……もし、今起きた異常がこの基地だけの問題ではなかったとしたら?
その可能性を、彼はすでに考え始めていた。
*
揺れは、突然終わった。
最後に一度、基地全体が大きく沈み込んだ。誰もが身構えた。壁が崩れる。天井が落ちる。そう思った直後、すべてが静止した。
突如として起こった揺れが止まった直後とは言え、それはあまりにも静かすぎた。
警報だけが鳴り続けている。施設の安全確認が始まった。
通路には落下物が散乱していたが主要な構造物は崩壊していない。発電設備も稼働しており、兵器の制御系統にも致命的な損傷は認められなかった。
だが、基地の外へ出た者たちは、そこで言葉を失った。
かつて視界の先に広がっていた地形が、まるで別の場所に置き換えられていたのである。
基地の周囲には、これまで存在しなかった山脈が連なっていた。
地平線を遮っていた森林の向こうには、異様なほど広い平原が伸び、その先には乾燥した大地が続いている。
少し離れた場所では、切り立った崖の上に別の地域の森が乗り、その反対側では、途中で途切れた河川が人工的な壁のような地形に突き当たっていた。
その光景を見た誰も動かなかった。風が吹いている。鳥の声も聞こえる。土の匂いもする。
それなのに、見えているものだけが、世界のどこにも属していなかった。
それらは、単なる地震や地滑りで生じたものではない。
周囲の土地そのものが、別々の地理を継ぎ合わせたかのような姿を見せていたのである。
その異変は海岸線も同様だった。
以前なら海が広がっていた方向に陸地があり、その陸地の向こう側には、別の地域から運ばれてきたとしか思えない海岸が続いていた。
港湾設備の一部は新しい湾に面していたが、別の方向では岸壁の先が見知らぬ山地に接続している。
海面に浮かぶ船舶そのものは無事だったものの、航路標識や沿岸の地形は既存の海図と一致しなかった。
建物や設備が無秩序に破壊されたわけではない。むしろ、それぞれの土地は、そこにあった建造物や植生を保ったまま、周囲だけを別の地理へ置き換えられていた。
その不自然さが、事態の異常性を何よりも雄弁に物語っていた。
警備兵の一人が、山脈の彼方を見つめながら呟いた。
「……ここは、本当に我々の知る土地なのか?」
答えられる者はいなかった。
彼らの知る地図に、これほど異様な地形は記されていなかったからだ。
*
同じ異変は、ネオ・アトランティスの勢力圏全域で起きていた。
海に面した軍事基地は、見知らぬ大地に囲まれた湾岸施設となった。
潜水艦の整備拠点では、岸壁の向こうにあったはずの海が別の形に変わり、見慣れぬ地形が視界を塞いでいた。
兵器工場では、巨大な工作機械が停止することなく稼働を続けていたが、その工場を取り囲む土地は、これまでの地図とは似ても似つかない姿へ変わっていた。
そして、バベルの塔第一号機を擁する施設でも、異常は確認されていた。
塔そのものは崩壊していない。基礎構造も、主要な制御設備も、動力系統も健在だった。しかし、塔を取り巻く地形と、周辺施設を結んでいた交通網の一部が変化していた。
測量担当者は、以前の地図を手にしたまま、眼前に広がる地形を何度も見比べていた。
「そんな馬鹿な……地形が、地図と一致しない」
測量担当者は、地図に目を落とし、再び周囲を見回した。測量器具が故障しているのではないかと疑い、別の器具でも計測を繰り返したが、結果は変わらなかった。
塔を守る兵士たちは、周辺に敵影がないことを確認した。施設そのものが攻撃された形跡もない。にもかかわらず、土地の形だけが別物になっていた。
未完成のバベルの塔第二号機を建設していた秘密基地でも、同じ異変が起きていた。
建設中の塔体、組み上げ途中の構造物、運び込まれた資材、工事に携わる人員は、そのまま残されていた。
だが、建設区画の外側には、それまで存在しなかった平原と山地が広がり、資材の搬入に利用していた道路は、見知らぬ地形の手前で途切れていた。
建設担当者は、まず施設の安全を確認し、続いて工事の続行が可能かどうかを調べた。塔の建設を中断する理由は、現時点では見つかっていない。
しかし、従来の資材輸送計画や工程表は、周辺の地理が変化した以上、そのまま使用できなくなっていた。
バベルの塔第一号機も、バベルの塔第二号機も、消えてはいない。
それどころか、両者を含む複数の軍事拠点が、未知の大陸の上に存在していたのである。
*
異変は、秘密組織の施設だけにとどまらなかった。
アトランティック・マーカンタイル社の港湾では、荷役作業の途中で作業員たちが手を止めていた。港の向こうにあるはずの海岸線が変わり、遠方に見慣れない山並みが出現していたためである。
周辺海域を測量をしていた社員が向かってきた社長に気付いて報告を始める。
「船長、海図を確認しましたが、現在の海岸線と一致しません」
それを聞いた社長は蒸していたパイプを手に持って不気味な海へと視線を向ける。そして数秒思案した後、部下に命令する。
「測量をやり直せ。船の位置も確認しろ。港が変わったのか、それとも我々が別の場所にいるのか、まだ判断するな」
船長の声は努めて冷静だったが、手元の海図を握る指には力が入っていた。
ノース・オーシャン造船会社では、建造中の船舶が船台に据えられたまま、周囲の土地だけが見知らぬ地形へ変化していた。グローバル・エンジニアリング社の工場では、巨大な工作機械が回転を続ける一方、工場へ続く線路の先に別の大地が現れていた。
コンチネンタル・マイニング社の鉱山では、採掘坑道も機材も無事だった。しかし、地表へ出た作業員たちが見たのは、以前の鉱山地図にはない山並みと平原だった。
ヘリオス・ケミカル社の研究所では、薬品や実験設備の安全確認が行われた。コンチネンタル・トラストの各拠点では、建物と保管設備の被害確認が始まり、帳簿や契約書類が散乱していないか調べられていた。
アトラス・テレグラフ社では、通信担当者が各地の電信回線の状態を確認していた。企業の構内回線や同じ施設内の通信設備は機能しているものの、従来の遠隔地にあった交換施設や中継設備と、以前と同じように連絡できるとは限らない。
グローブ・ニュース・シンジケートの編集室では、記者たちが窓の外を見つめていた。新聞に掲載する記事のために世界各地の情報を集めてきた彼らにとって、現在の光景は、どの記事にも書かれていない出来事だった。
オリエント・コンストラクションの建設現場では、作業員たちが現場責任者の指示を待ち、ワールド・アグリカルチャルの農地では、農夫たちが見慣れぬ山地や森林を遠巻きに眺めていた。
それぞれの場所で、人々は原因を知らないまま、目の前で起きた異常に対応していた。
彼らの多くは、秘密組織の存在を知らない。まして、自分たちが働いている土地が、世界を支配しようとする秘密勢力の一部であることを理解している者は少ない。
だが、その知識の有無に関係なく、彼らもまた土地とともに移動していた。
企業本社、主力工場、支店、鉱山、港湾、倉庫、農地、研究施設、社員の居住区。規模や重要性の違いこそあれ、ネオ・アトランティス陣営に属する土地と施設は、その周辺地域とともに、新しい世界へ運ばれていた。
それは秘密組織だけの転移ではなかった。その組織を支えてきた経済基盤そのものが、世界から切り離されていたのである。
*
中枢基地の指揮区画では、初期の混乱が次第に収まりつつあった。
被害報告が整理され、各部門の責任者が指揮所に集まっていた。彼らの報告から明らかになったのは、異変が一つの施設や地域に限定されていないという事実だった。
複数の軍事施設、研究拠点、港湾、企業の主要施設で、同時刻に地形の変化が起きていた。建物や人員の損失は限定的だったが、周囲の地理は大きく変わっていたのである。
地図担当者が、新たに作成した概略図を壁面へ掲げた。
「こちらが現在確認できた主要施設の位置です。従来の地図に記載された位置関係とは一致しません。個々の施設の周辺地形も、複数の異なる地域が接続したような状態になっています」
図には、複数の地形片がつぎはぎのように組み合わされた大陸の輪郭が描かれていた。森林、平野、山岳地帯、乾燥地域、沿岸部などが、自然な地形の連続とは異なる形で接続されている。
「我々の施設だけではなく、表企業の主要拠点でも同様の報告が上がっています。鉱山、港湾、工場、倉庫、農地など、広範囲に及んでいます」
報告を聞いていた幹部の一人が、地図を見つめた。
「つまり、我々の活動基盤が丸ごと移されたというのか?」
幹部の疑問に、先ほど報告をした人物とは別の情報官が口を開いた。
「現段階では、その可能性が高いと考えられます。ただし、原因は不明です。自然現象なのか、何らかの技術によるものなのか、それとも別の要因なのか、判断できる材料がありません」
ガーゴイルは、しばらく黙っていた。
彼は地図を見つめ、指揮区画に集まった者たちの報告を頭の中で整理していた。軍事施設だけが移動したのなら、軍事上の損害と戦力の再配置を考えればよい。企業群だけなら、経済基盤の問題として処理できる。
しかし、今回移動したものは、そのどちらか一方ではなかった。
軍事拠点と研究施設、表企業と一般社員、資源供給地と輸送拠点。それらを支えていた土地そのものが、まとめて別の場所へ移動している。
これは偶発的な施設の被災ではない。少なくとも、組織が利用していた世界の地理的な前提が、完全に失われたということだった。
「……なるほど」
ガーゴイルは、低い声で呟いた。
「地震や地殻変動などというものではないな。我々が知る地理そのものが、別のものに置き換えられている」
彼の声には、怯えも動揺もなかった。そこにあったのは、理解できない事態を前にしても、自らの判断を手放さない冷徹な姿勢だった。
「原因が何であれ、現状を把握することが先決だ。確認できた事実を集めろ。各基地の損害、軍事力、技術設備、物資、そして企業群の稼働状況を整理しろ」
「はっ」
「この状況で、憶測に基づいて兵器を動かす必要はない。まずは、我々の手元に何が残されているのかを確かめるのだ」
命令を遂行すべく動き始める部下達を後目にガーゴイルは地図へ目を戻した。
その輪郭は、彼が知る世界のどの大陸とも一致していなかった。
*
その後、バベルの塔第一号炉を擁する施設から報告が届いた。
「バベルの塔第一号炉、主要構造に損傷なし。制御系統と動力設備は稼働を継続しています。周辺地形は大幅に変化していますが、施設そのものは健在です」
その報告を聞いたガーゴイルは頷きながら命令を下す。
「よろしい。設備の状態を維持しろ。原因が判明するまでは、不要な運転を行うな」
「はっ」
続いて、第二号炉の建設基地からも報告が届いた。
「バベルの塔第二号炉建設区画、構造物と基礎設備に重大な損傷はありません。ただし、資材輸送路の一部が地形の変化によって失われています。新たな経路の確認が必要です」
資材不足がもたらす影響を思案し、今後の立て直し計画を組み立てつつ、ガーゴイルは口を開く。
「工事を完全に止める必要はない。安全を確認した範囲で作業を継続しろ。資材の残量と、今後の建設に必要な物量を再計算するのだ」
「はっ、承知致しました」
第一号炉が健在であり、第二号炉の建設も継続できる見込みであることは、組織にとって重要だった。
だが、彼はそれだけで状況を楽観するつもりはなかった。施設が残っていることと、その施設を従来どおり運用できることは別問題である。
周辺の地理が変わった以上、従来の補給、輸送、整備、警備の計画は見直さなければならない。第一号炉の運用にも、第二号炉の建設にも、周辺地域との連絡や資材の移動が必要だった。
技術が健在でも、その技術を支える基盤が無条件に健在であるとは限らない。
ガーゴイルは、その事実を十分に理解していた。
*
やがて、指揮区画の照明が通常の状態へ戻った。
壁面には、新たな地理情報をまとめた地図が掲げられていた。地図上の大陸は、自然の造形とは思えないほど不揃いな形をしている。
ある場所では山脈が唐突に途切れ、その先に平原が広がっている。別の場所では砂漠と森林が接し、川が途中で消えたかのように見える。
それは、複数の地域が本来の地理的な関係を失い、無理に縫い合わされた結果だった。
ネオ・アトランティスの本拠地も、主要基地も、兵器施設も、表企業の本社も、工場も、鉱山も、港湾も、農地も、その新たな陸地の中に存在していた。重要性の高い拠点だけでなく、これまで組織の活動を支えてきた地域の一部も、同じように移動していたのである。
その大陸は、単に一つの大陸が移動したものではなかった。
互いに離れていた土地と土地が接続され、異なる自然環境と地形が隣り合い、かつての海岸や海域の一部まで取り込まれた、巨大な継ぎはぎの大地だった。
しかし、その大地の周囲に広がる海には、船影がなかった。
遠くに島影も見えず、沿岸に人の暮らしを示す煙もない。見渡す限りの海は静かで、波が新しい海岸線に寄せては返すだけだった。
それは、文明圏から隔絶された未開の海域だった。近隣の海を行き交う人々も、未知の陸地を求めて航海する者たちも、この変化を目撃していなかった。
新たな大陸が出現したことを知る者は、その大陸の内側にいる者たちだけだった。
*
夜が明けるころ、ガーゴイルは中枢基地の展望区画に立っていた。
窓の向こうには、かつての世界には存在しなかった山並みと平原が広がっている。さらに遠方には、異なる地形が接続された境界が見え、その向こうに別の地域の森林が続いていた。
眼下では、施設の安全確認と測量が続けられていた。兵士たちは警戒を維持し、技術者たちは計器を調べ、各部門の責任者は新たな状況に対応するための情報を集めている。
その光景を眺めながら、ガーゴイルは自らの手袋を静かに握った。
これまで、彼は世界を支配するために、古代アトランティス文明の力を利用してきた。人間たちが築いた国家も、軍隊も、産業も、彼にとっては支配されるべき対象だった。
だが、今や彼らが支配しようとしていた世界そのものが、手の届かない場所へ消えてしまった。
それでも、彼の野望が消えたわけではない。
世界が変わったのなら、その世界を理解すればよい。新たな土地が存在するのなら、そこに何があるのかを調べればよい。これまでの秩序が失われたのなら、その空白に新たな秩序を築けばよい。
ガーゴイルは、窓の外に広がる大地を見つめた。
「フフフ……」
低い笑いが、静かな室内に響いた。
「世界が変わったところで、何が変わるというのだ」
彼は振り返り、控えていた幹部へ視線を向けた。
「調査を続けろ。我々が置かれた状況を把握し、利用できるものを見極めるのだ。世界の名が変わろうと、我らの目的は変わらん」
「はっ。直ちに取りかかります」
幹部が退出した後も、ガーゴイルはしばらく窓の外を眺めていた。
未知の大地には、まだ何も記されていない。そこにどのような国家があり、どのような文明が栄え、どのような力が存在するのか、彼らはまだ知らなかった。
ただ一つ、確かなことがあった。
ネオ・アトランティスは、兵器と秘密基地だけでなく、資源、工業、金融、海運、情報、食料を支える表企業群までも失わずに、この新たな世界へ移動していた。
軍事力と、それを維持するための経済基盤。その両方が、同じ大陸に存在している。
それは、単独の秘密基地が未知の土地へ移されたという程度の変化ではない。これまで別々の地域に分散していた組織と企業の基盤が、一つの大陸に集められたという、前例のない事態だった。
しかも、その大陸は、文明圏のいずれの国家にも把握されていない。
誰も知らない海の中で、新たな陸地が生まれた。山脈、森林、砂漠、平原、港湾、工場、軍事施設、秘密基地が、異様な継ぎはぎの地形を形作っている。
大陸の内側では、人々が現状を確かめ、施設の復旧に取りかかっていた。何が起きたのかを理解できない者もいれば、これまでの地理が失われたことに不安を抱く者もいる。
しかし、誰一人として、この大陸がどの世界へ移動したのかを知らなかった。
そして、海の向こうに広がる文明世界もまた、自らの地図に新たな大陸が加わったことを知らなかった。
こうして西暦一八八八年、ネオ・アトランティスとその配下の表企業群は、彼らが知る世界から姿を消した。
その代わりに、名も知らぬ世界の海に、巨大な新大陸が出現していた。
その大陸の中には、世界を再び支配しようとする男と、彼の野望を実現するための巨大な機構が、何一つ失われることなく残されていたのである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作は複数の作品を組み合わせたクロスオーバーIF作品となります。
その為、原作それぞれの世界観や設定、登場人物の性格を大切にしながら両作品の要素が組み合わさることで生まれる展開を描いていきたいと考えています。
設定については可能な限り原作に沿うよう努めていきますが、IF作品という性質上、独自の解釈や原作とは異なる展開が含まれる場合があります。
ご感想やご意見などをいただけましたら、今後の執筆の参考になります。それでは、引き続き本作をよろしくお願いいたします。