日本国召喚×ふしぎの海のナディア―ネオ・アトランティス異世界転移―   作:ネオ・アトランティス

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第四章 島の中心に眠るもの

 転移から六日目。ネオ・アトランティス大陸へ帰投していた索敵部隊は、前日の近海偵察で発見した大型の島を本格的に調査するため、出航準備を進めていた。

 *

 最初の偵察で確認されたのは、島の周囲に広がる不自然な海底地形と、上空から観測した際に浮かび上がった、説明のつかない地形の規則性だった。

 どちらも、それだけで人工物の存在を断定できるほどの証拠ではない。しかし、異なる方向から調査した部隊が、同じ場所に関係する違和感を別々に報告している以上、単なる偶然として片づけることもできなかった。

 周辺海域に人間の集落や港湾施設が存在しないことは、すでに確認されている。それでも、近海全域の調査が完了したわけではない。まして島の内部については、森林に覆われた広大な土地を上空から部分的に観察しただけであり、地表に何が存在するのか、海底の異常地形とどのような関係があるのか、ほとんど判明していなかった。

 *

 そこでネオ・アトランティスは、調査方針を改めた。空中観測と海底測量を継続するだけでなく、地上部隊を島へ送り込み、地表を直接調べる。

 空、海中、陸上の三領域を連携させ、島全体の地形と構造を可能な限り詳細に把握する計画である。

 今回の調査隊の旗艦に指定されたのは、空中戦艦第二号機『デウス・エクス・マキナ』だった。

 空中戦艦第一号機は大陸側に残され、主要施設と本土の防衛、ならびに今後の作戦に備えて待機している。

 空中戦艦第一号機に代わって全体の指揮を担う第二号機『デウス・エクス・マキナ』には、航空観測、通信連絡、海中部隊との情報統合、上陸部隊への指示を一元的に処理するための要員が集められていた。

 随伴する大型高速飛行船カルカロドンは二隻。広範囲の上空観測に加え、旗艦から離れた部隊との通信を中継する役割を担う。

 一方、海中調査を担当するのはガーフィッシュⅠ型十隻だった。各艦は島を取り囲む海底へ異なる方向から接近し、海岸線の直下から沖合の深海に至るまで、複数の測線を設定して調査する。

 そして島の地表へ投入されるのは、ネオ・アトランティス兵からなる歩兵隊、四十機の人間タンク、十機のガラッパ三号で構成された調査中隊である。

 歩兵は現地の状況確認と記録を担当し、人間タンクは障害物の処理や機材の運搬を支援する。

 森林が密集した地域では、伐採用の二足歩行機械であるガラッパ三号を使用し、必要に応じて移動経路を確保する手筈となっていた。

 今回、総帥ガーゴイルは同行していない。調査隊の指揮は、空中戦艦第二号機『デウス・エクス・マキナ』の艦長と、各分野の責任者に委ねられていた。

 彼らに求められているのは、未知の島で得られた情報を正確に収集し、後続の判断に利用できる形へ整理することだった。

 未知のものを発見したからといって、すぐに価値や用途を決めつけてはならない。その方針は、前日の報告を受けた時点で明確に共有されていた。

 *

 出航前の最終確認が終わると、空中戦艦第二号機『デウス・エクス・マキナ』はゆっくりと高度を上げた。

 巨大な艦体が雲の下を進み、先行する空中偵察部隊の指揮を開始する。二隻のカルカロドンは旗艦から一定の距離を保ちながら、左右へ展開した。

 互いの観測範囲が重なるよう位置を調整し、島の上空と周辺海域を分担して見渡せる配置を取っている。

 海面下では、十隻のガーフィッシュⅠ型がそれぞれの担当区域へ向かっていた。海中を進む艦艇は、海面からでは確認できない地形を記録するため、一定の深度を保ちながら測定を繰り返している。

 島の周囲に広がる棚状の海底、沖合へ向かって落ち込む斜面、岩礁の位置、堆積物の厚さ。前日の観測で不自然な規則性が指摘された区画は、とりわけ慎重に調査されることになっていた。

 *

「旗艦より各部隊へ。これより島嶼全域の共同調査を開始する。各区域の観測結果は、位置情報と測定条件を付して報告しろ。現場の推測と確認済みの事実を混同するな。人工物らしきものを確認した場合は、周囲の状況を記録し、独断で破壊や移動を行うことを禁ずる」

 空中戦艦第二号機『デウス・エクス・マキナ』の艦長が命じると、通信担当者が各部隊からの応答を確認した。

《空中観測隊、了解》

《第一潜水群、了解》

《第二潜水群、了解》

《上陸部隊、了解しました》

 次々と応答が返る。床面の表示には島の輪郭と周辺の海底地形が重ねて示され、調査区域がいくつもの区画に分けられていった。

 前日の観測で得られた情報は、すでに地図へ反映されている。海底に見られた棚状地形と、上空から確認された斜面の位置関係が、今回の重点調査地点として指定されていた。

 *

 島が見えてくるにつれ、その全容が少しずつ明らかになった。

 遠方から見れば、森林と山地に覆われた一般的な島にしか見えない。長い海岸線の一部には砂浜が広がり、別の場所には切り立った岩壁が連なっている。

 中央部には高い稜線があり、その麓には深い森林が広がっていた。河川らしき水路も複数確認でき、島の内陸には一定量の淡水が存在する可能性が高い。

 しかし、その規模は、これまでに発見された無人島とは明らかに異なっていた。小島と呼べるような大きさではない。

 森林、丘陵、山地、河川、沿岸の平地がまとまって存在し、島の内部だけでも相当な距離を移動しなければ全体を把握できない規模だった。

 *

「島の外周を再測量します。南西側の海底地形については、前回の結果と照合するため、別の測線を設定します」

 観測担当者の報告を受け、艦長は頷いた。

「よし。空中観測隊は海岸線と山地の位置関係を記録しろ。潜水艦隊は、海底の棚状地形がどこまで続いているのかを調べる。地上部隊の上陸地点は、浅瀬と波浪を確認したうえで決めろ」

 命令に従い、カルカロドンの一隻が島の北側へ向かい、もう一隻が南西側の上空へ進出した。

 異なる高度から島を観測することで、森林の樹冠に隠れた地形や、山地の陰になっている場所を確認していく。

 地表に建造物が露出していなくても、斜面の傾きや樹木の分布、地形の連続性に、人工的な改変の痕跡が残っている可能性があった。

 潜水艦隊も各艦が異なる方向から島へ近づき、海底の測定を開始した。

 前回発見された棚状地形の周辺だけを調べるのではなく、島を一周するように測線を組み、ほかの場所でも同じ形状が見られるかを確認する。

 もし同じ規則性が島の周囲で広く見られるなら、地質や海底の形成過程に関係している可能性がある。

 逆に、特定の区画に限って不自然な形状が現れるなら、そこに何らかの構造物が存在する可能性は高まる。

 *

 数時間にわたる観測の結果、島の大部分では自然な地形が確認された。海岸の砂は波によって運ばれ、岩礁には海藻と貝類が付着している。

 浅瀬の地形は場所によって変化し、沖合へ進めば深い海へ落ち込む。これらは、ほかの島でも確認された地形と共通していた。

 だが、南西側の一部では、前回の調査で見つかった棚状地形が、さらに広い範囲へ連続していることが分かった。

 海底の傾斜は長い距離にわたって一定に保たれ、その先で複数の段差を形成している。表面は砂や海藻に覆われ、露出している部分も岩盤と区別しにくい。

 しかし、複数の方向から測定した結果を重ね合わせると、自然の浸食だけで説明するには規則性が強すぎる区画が存在していた。

 *

「測定結果は一致しています。海底地形の一部に、一定の高さと間隔を持つ棚状の段差が確認されました。局所的な岩盤の形状だけでは説明しにくい可能性があります」

 潜水艦隊の報告を聞いた観測責任者は、すぐに人工物と断定することなく、追加の測定を要求した。

「周囲の地質も調べろ。岩盤の成分や堆積物の状態を確認し、自然形成の可能性をどこまで除外できるか整理するんだ。規則的に見えるというだけで、人工物だと判断してはならない」

「了解」

 その間にも、空中観測隊は島の上空を旋回していた。海底の異常が確認された区画と、その真上にある地表の地形を照合するためである。

 床面の表示に映し出された海底地図と航空観測の画像が重ね合わされると、これまで曖昧だった地形の関係が、少しずつ明確になっていった。

 海底の棚状地形が始まる位置は、地表の斜面が海岸へ向かって下がる位置と近い。その先では、深度が変化する方向にも共通する傾向が見られた。

 すべてが完全に一致しているわけではなく、地質の変化や堆積物の影響を考慮する余地は残っている。

 それでも、別々に見れば偶然と片づけられた形状が、空と海の情報を重ねることで、無視できないものへ変わり始めていた。

 *

「……地表と海底が、同じ構造の一部だとしたら?」

 観測員の一人が、表示面を見ながら呟いた。

 すぐに隣の技術士官が応じた。

「まだ仮説にすぎん。だが、検証する価値はある。海底だけでなく、陸上の構造も確認できれば、自然地形なのか、何者かが手を加えたものなのか、判断材料が増える」

 艦長は、二つの地図をしばらく見比べていた。前日の違和感は、ようやく具体的な調査課題へ変わりつつあった。

 島の周囲には、人間の活動を示す港湾や船舶、道路などが見つかっていない。それでも、島そのものが自然にできたものだと結論づけるには、説明できない点が残っている。

「上陸部隊へ伝達しろ。海底の測量結果と航空画像を共有する。南西側の海岸だけに調査を限定せず、島全域を区域に分けて確認させるんだ。特に、中央部の山地と、その周辺の地形には注意を払え」

「了解しました」

 *

 しばらくして、上陸部隊の準備が整った。歩兵たちは必要な測量器具、記録用具、通信機材、採取用の道具を携行し、担当区域ごとに編成を分けた。

 調査対象は敵の拠点と決まったわけではない。したがって、必要以上に攻撃的な行動を取るのではなく、警戒を維持しながら、発見したものを可能な限りそのまま記録することが重視されていた。

 海岸へ到着した上陸部隊は、まず砂浜と周辺の斜面を調べた。上陸地点の安全を確認し、測量の基準となる地点を設ける。

 歩兵の先遣班が海岸線を歩き、漂着物や人の足跡、舟を引き上げた跡、伐採された木々など、人間の活動に結びつく痕跡がないかを確認していった。

 結果は、前回の航空観測と同様だった。波に運ばれた木片や貝殻は見つかったものの、加工された木材、金属片、道路の痕跡、港湾設備、耕作地らしきものは確認できない。海岸から内陸に向かっても、人間が繰り返し利用したと見られる道筋はなかった。

「上陸地点の確認を完了。人間の居住地や人工物の痕跡はありません。内陸へ続く地形は緩やかで、歩兵と機械部隊が進出することは可能です」

 報告を受けた現地指揮官は、部隊の配置を確認した。

「よし。まずは海岸線に近い区域から調査する。森林内部では視界が悪くなる。各班は互いの位置を見失わないようにしろ。目標は土地の把握だ。見慣れない構造物があっても、許可なく破壊するな」

 *

 歩兵たちが森林へ向かう。その後方から、人間タンクの一群が続いた。

 人間タンクは、機械兵器の本体と操縦用車輌に分かれた独特の構造を持っている。丸みを帯びた機体の下部には車輪を備えた台座があり、前方には作業用の湾曲した腕が取り付けられていた。

 頭部に相当する部分には複数のカメラが配置され、周囲を見回すように回転している。本体と操縦用車輌は太いコードで接続され、機体を操る兵士は後方の車輌から操作を行う。

 遠目には、人型の機械が操縦用車輌を牽引しながら進んでいるようにも見えた。

 四十機の人間タンクは、十機ずつ四つの班に分けられていた。それぞれが歩兵の調査班を支援し、移動の障害となる倒木や岩を取り除きながら、周囲の地形を確認していく。

 機械の操作に熟練した乗員たちは、森林の中で機体を急がせることなく、地面の状態や周囲の樹木を確かめながら進んでいた。

 その後方には、十機のガラッパ三号が続いていた。単座式の森林伐採用二足歩行機械であるガラッパ三号は、機体上部に大型のハサミ型カッターやドリル、マジックハンドを備えたマニピュレーターを格納している。必要に応じて装備を展開し、枝や倒木を処理したり、障害物を移動させたりできる。

 ただし、今回は無差別に森林を切り開くために投入されたのではなかった。人工物が地表に露出している可能性がある以上、木々を切り倒すことそのものが、調査対象を損傷させる危険を伴う。

 ガラッパ三号は歩兵の指示に従い、必要最低限の枝葉だけを除去し、通行できない場所に限って慎重に作業するよう命じられていた。

「ガラッパ各機、作業範囲を指定する。視界を確保するための最小限の伐採に留めろ。石造物や規則的な形状を見つけた場合は、手を出す前に報告しろ」

「了解」

 機体の操縦席から返答があり、ガラッパ三号がゆっくりと歩き始めた。

 *

 最初に調べられたのは、海岸から続く平坦な区域だった。地面には草と低木が生い茂り、ところどころに大きな岩が露出している。

 人間タンクの作業用腕が倒木を持ち上げ、歩兵がその下の地面を確認した。周囲には動物の足跡らしきものが見つかったが、人間が歩いたと考えられる規則的な道筋は見当たらない。

 そのまま内陸へ進むにつれて、森林は密度を増していった。大きな樹木が枝を広げ、地表には落ち葉と腐植土が厚く積もっている。

 湿った土の匂いが漂い、木々の間から差し込む光は細く、部隊の進路を断続的に照らしていた。

「この辺りは、かなり長い間、人の手が入っていないように見えます」

 測量班の一人が、周囲を見回しながら報告した。

「少なくとも、現在も人間が暮らしている場所ではなさそうです。ただし、森林が自然に戻るまでの期間は環境によって違います。これだけで過去に人間がいなかったとは断定できません」

 現地指揮官は頷いた。

「そのとおりだ。今の状態だけで過去の歴史を決めつけるな。地表の状態と地形を記録し、ほかの区域と比較できるようにしておけ」

 部隊はさらに進んだ。森林の一部を抜けると、小さな谷間の先に平らな地面が広がっていた。

 そこは周囲の地形に比べて不自然なほど平坦で、樹木がまばらにしか生えていない。雨水が流れた跡はあるものの、地面の形状は広い範囲にわたって均一に保たれていた。

 歩兵たちは警戒しながら周辺を確認し、測量班が距離と高度を計測した。やがて、草に覆われた地面の一部から、人工的に並べられたとしか思えない石の列が見つかった。

「こちら、石材らしきものを確認。地表に一部露出しています。配置に規則性があるように見えます」

 報告を受け、人間タンクの一機が慎重に近づいた。操縦用車輌の兵士は機体の手を伸ばさず、まずカメラで周囲を確認する。

 石材は一つひとつが大きく、地面に半ば埋まっていた。表面には細い線が刻まれているようにも見えるが、苔と土が付着しており、肉眼だけでは判別できない。

 歩兵の調査班は、周囲の草を手作業で分け、石材の形状を記録した。そこには、自然に割れた岩石とは異なる、平らな面と鋭い縁が見られた。

 さらに数メートル離れた場所にも同じような石が見つかり、いくつかは一定の角度を保ちながら並んでいる。

「自然に崩れた岩石の配置とは違うように見えます。少なくとも、同じ形状の石材が一定の間隔で並んでいることは確認できます」

 調査員の声には、慎重さと抑えきれない驚きが混じっていた。

「遺跡かもしれません」

「まだそうと決まったわけではない。石材の配置、周囲の地形、表面の加工状態を記録しろ。構造の全容が分かるまでは触れるな」

 現地指揮官はそう命じたが、彼自身も眼前の石列を気にしていた。人間が作ったものだとすれば、かなり大規模な構造物の一部である可能性がある。

 しかも、森林に覆われた地表の下から、同様の石材が次々に見つかり始めていた。

 *

 さらに数百メートル進んだ先で、部隊は最初の建造物らしきものを発見した。

 それは、周囲の木々に隠れるように立つ、複数の石柱だった。石柱はほぼ同じ高さを持ち、互いに一定の距離を置いて並んでいる。

 基部は土に埋もれていたが、地上に露出した部分は植物に覆われながらも輪郭を保っていた。柱の表面には、複雑な線と幾何学的な模様が刻まれている。

 歩兵たちが周囲を警戒しつつ近づき、測量班が柱の位置関係を記録した。人間タンクのカメラは、石柱の表面を拡大して映し出す。ガラッパ三号は必要な箇所の枝葉を慎重に除去し、柱の全体像を確認できるようにした。

 その瞬間、調査員の一人が石柱の根元へ目を向けたまま、動きを止めた。

「……おかしい」

「どうした?」

「表面の状態です。周囲の森林と地面の状態を見る限り、この構造物は相当長い時間、ここに存在していたはずです。しかし、刻まれた線がほとんど摩耗していません。角も、思ったほど丸くなっていない」

 彼は記録用の器具を取り出し、表面の細部を確認した。

 石柱の外側には苔が薄く広がり、土埃が付着している。長い年月を経たように見えるのは間違いなかった。

 それにもかかわらず、模様の溝は深く、線の端は妙なほど明瞭だった。風雨にさらされ続けた石材であれば、表面の凹凸が削られ、植物の根が継ぎ目を押し広げていても不思議ではない。

 ところが、柱の接合部には目立った崩れがなく、加工面も当初の形状をかなり保っていた。

「これほどの保存状態なら、特殊な石材を使っている可能性があります。もっとも、表面の処理や、地中に埋まっていた期間の影響も考える必要があります」

 技術士官が、柱の周囲を見ながら意見を述べた。

「材料の採取は、現時点では行わない方がいいでしょう。まずは表面の記録と、可能な範囲での非破壊検査を優先すべきです」

「そうだな。無断で傷をつけるな。記録を取り、別の石柱と比較しろ」

 現地指揮官はすぐに命じた。

 *

 新たに発見された柱群は、島の内部に点在する複数の構造物の一部だった。その先には、地表からわずかに突き出た石の輪、半ば地中へ埋もれた壁、周囲の植生とは不自然に異なる平坦な区画が続いていた。

 部隊が進むほどに、単独の建造物では説明できない配置が明らかになっていく。

 石柱群から少し離れた場所では、森林の中に広い円形の空間が見つかった。中央は浅く窪み、その周囲を複数の段差が取り囲んでいる。

 段差は土と苔に覆われていたが、縁の形状は驚くほど整っていた。自然に崩れた地形としては、左右の高さと幅が揃いすぎている。

「円形の構造を確認。直径は推定で百メートル以上あります。周囲の段差にも規則性が認められます」

 測量班の報告に、現地指揮官は眉をひそめた。

「これも自然の地形では説明しにくいということか」

「はい。水の浸食や地盤の沈下で似た形状が生まれる可能性はありますが、周囲の石材の配置と合わせて考えると、人為的に整えられた可能性があります」

 彼はしばらく円形の空間を眺め、静かに命じた。

「全周を測量しろ。地中に何かが埋まっている可能性もある。掘り返す必要はないが、周囲の地形との関係を調べておけ」

 人間タンクは円形構造の外側を移動し、各地点から画像を記録した。ガラッパ三号は森林の一部を慎重に整理し、上空からの観測で確認しやすい範囲を確保する。

 歩兵たちは構造の外周に沿って進み、段差の数、石材の種類、地表に見える刻印の形状を記録していった。

 *

 その過程で、調査隊はさらに複数の建造物を発見した。いずれも森林に覆われ、地面の一部と見分けがつかないほど風景に溶け込んでいたが、露出した部分には共通の特徴があった。

 石材の表面が滑らかで、角が不自然なほど明瞭に残っている。柱と壁の配置には一定の方向性があり、単独の建物ではなく、ひとつの計画に基づいて建設された施設群のように見えた。

 それらの構造物が何を目的として造られたのかは分からなかった。神殿なのか、研究施設なのか、居住区なのか、あるいは現代人の考える建物とはまったく異なる役割を持っていたのか。外観だけで用途を断定することはできない。

 技術士官たちは、刻印の形状や石材の接合方法を比較した。ある柱では、複数の円が重なったような模様が刻まれている。

 別の壁面には、直線と曲線が交差する複雑な図形があり、その配置は文字にも装飾にも似ていなかった。模様の一部には規則的な反復が見られる一方、全体を既知の文字体系や工業上の記号へ当てはめることはできなかった。

「記号のようにも見えますが、文字として読むことはできません。繰り返し現れる形はあります。ただ、何を表しているのか、現段階では見当もつきません」

 記録係が報告した。

「文字なのか、単なる装飾なのか、それとも構造上の意味を持つのかも不明です。周囲の建造物との比較が必要でしょう」

 技術士官は、柱に刻まれた模様を見つめた。未知の文明が残したものだとすれば、その文字や記号を理解することは、建造物の用途を知る手がかりになるはずだった。

 しかし、模様はネオ・アトランティスが解析してきた古代アトランティス文明の記録とも一致しない。彼らが蓄積してきた知識を用いても、解釈の糸口すら見つからなかったのである。

「少なくとも、我々が知るアトランティス系の技術記録とは異なります。既存の資料を基準に判断することは避けた方がよいでしょう」

「……別の文明の遺跡だというのか?」

「可能性はあります。ですが、確証はありません。まずは比較資料を揃えなければ、断定できません」

 *

 調査隊の中には、古代アトランティス文明の遺産に携わった技術者もいた。彼らにとって、未知の古代文明の遺跡を発見すること自体は、決して理解できない現象ではなかった。

 だが、目の前の建造物群には、これまで知っていた技術体系に当てはまる特徴がほとんど見られない。加工精度の高さだけでなく、構造の組み立て方や記号の配置、空間の使い方までが、彼らの常識から外れていた。

 そして、最も不気味だったのは、その保存状態だった。

 調査班は地面の堆積状況や建造物を覆う土壌、周囲の樹木の根の成長などを記録し、遺構がどの程度の期間、現在の環境にさらされていたのかを推定しようとした。

 正確な年代を決定するには、専門的な分析と追加調査が必要である。それでも、地層や植生の状態から考えて、これらの構造物がごく最近造られたものではないことは明らかだった。

 少なくとも、一万年単位の時間が経過している可能性を否定できない。周囲の森林が長い時間をかけて成長し、土砂が堆積して建造物の一部を覆っている。

 それにもかかわらず、石柱の輪郭や刻印は驚くほど鮮明で、壁面の接合部にも目立った崩落がない。

「一万年以上の時間が経過していると仮定した場合、この保存状態は異常です。通常の石材なら、少なくとも表面の摩耗や接合部の変化が、もっと見られてもおかしくありません」

 材料を担当する技術士官が、記録を見ながら告げた。

「ただし、材質も環境条件も分かっていません。地中に埋まっていた期間が長かった可能性もありますし、石材そのものが特殊な性質を持つ可能性もあります。今の段階では、保存状態が異常に良いという事実以上のことは言えません」

「それでいい。分からないものを、無理に説明する必要はない」

 現地指揮官はそう答えたものの、その表情は険しかった。

 *

 これまでに確認した島々には、人間の活動を示す痕跡がなかった。

 ところが、この島では、周囲の地形からは想像できないほど大規模な建造物群が見つかっている。しかも、それらは単なる廃墟という言葉では片づけられないほど形を保っていた。

 長い時間にわたって放置されていたにもかかわらず、建造物の輪郭や加工の跡が鮮明なまま残っていることは、過去に存在した文明の技術力を強く示唆していた。

 調査隊は、その後も担当区域を進み続けた。歩兵たちは遺構の位置を記録し、人間タンクは機体を使って安全に移動できる経路を確保する。

 ガラッパ三号は必要な場所でのみ枝葉を除去し、森林を過剰に破壊しないよう注意を払いながら、部隊の進路を整えていた。

 *

 やがて、島の地形に別の異常が見つかった。

 中央部の山地へ向かう途中、複数の調査班が、山の斜面に不自然な段差が続いていることに気づいたのである。

 最初は地層の違いによって生じた崖や棚のように見えた。だが、異なる位置から測量を重ねると、段差は山の周囲を取り囲むように続き、一定の高度ごとに似た形状を作っていた。

 森林の樹冠越しに見る限り、その山は周囲の山々と大きく変わらない。緑に覆われた斜面は自然な起伏を持ち、山頂付近には岩肌が露出している。

 ところが、斜面の傾きと稜線を測定し、別々の方向から得た地形データを重ね合わせると、山の形状は奇妙な規則性を示した。

 山の基部には緩やかな円弧を描くような地形があり、その外側には複数の段差が続いている。山頂付近の稜線は、自然の侵食によって生じたとは考えにくいほど、広い範囲で平坦に近かった。

 さらに斜面の一部には、地形に沿って細い溝のようなものが伸びている。森林と土壌に覆われているため明確な輪郭は見えないが、溝は一定の方向を保ち、途中で不自然に曲がっている箇所もあった。

「中央部の山地について、追加報告です。斜面と稜線の形状に規則性が認められます。山の基部から中腹にかけて、一定の高度に棚状の地形が続いています。山頂の一部も平坦に近く、自然地形として説明するには不明点があります」

 航空観測隊からの報告が旗艦へ届いた。

「山全体が人工物だというのか?」

 観測責任者の問いに、報告を受けた技術士官はすぐには答えなかった。

「そこまでは分かりません。ただ、自然に形成された山の一部へ人工的な改変を加えた可能性はあります。あるいは、山全体が何らかの構造物を覆うように整えられた可能性も否定できません」

 その説明に、艦長は静かに頷いた。

「地上部隊へ位置情報を送れ。無理に登頂する必要はないが、麓の地形と周囲の遺構を確認させろ。山の表面を破壊することは禁ずる」

 *

 命令を受けた上陸部隊は、各班の進路を調整し、中央部へ向かうための経路を探した。山地へ近づくにつれて、森林の密度はさらに増していった。

 木々の枝が空を覆い、地面には苔と落ち葉が厚く積もっている。その下には、石材らしきものが部分的に露出していた。

 人間タンクの一機が、地表に突き出した大きな石材の近くで停止した。操縦員は本体のカメラを回転させ、周囲の状況を確認する。

 石材の表面は平らで、ところどころに細い線が刻まれていた。線は石の端から端まで伸び、複雑な図形を形成しているように見える。

「こちら、石材の表面に刻印らしきものを確認。周囲にも同様の石材が埋まっている可能性があります」

 報告を受けた歩兵班は、慎重に周囲を調べた。すると、地表の下から露出している石材は単独ではなく、複数の列を形成していることが分かった。

 石材は一定の方向に並び、森林の中を山地へ向かって伸びていた。途中で土に埋もれている部分もあるが、その配置は自然に散らばった岩石のものとは異なっていた。

 ガラッパ三号の操縦員が、現地指揮官へ確認を求める。

「この先は枝葉が密集しています。通行を確保するには、一部の伐採が必要です」

「石材の上には乗るな。周囲の樹木を必要な範囲だけ処理しろ。地面の状態を確かめながら進め」

「了解」

 ガラッパ三号の機体上部が動き、大型のハサミ型カッターが展開した。

 操縦員は枝を切り、地面に倒れた木をマニピュレーターで慎重に移動させる。人間タンクも別の角度から周囲を確認し、歩兵たちが安全に進めるよう通路を確保していった。

 *

 やがて、森林が途切れた先に、山の斜面に沿うように並んだ石柱が姿を現した。

 柱は斜面の下から上へ伸び、ところどころに平坦な石造りの区画が見える。遠くからは土に埋もれた岩の集まりにしか見えなかったが、近づくと、柱と平面が一定の配置を保ちながら連結されていることが分かった。

 その構造物の一部には、円と直線を組み合わせた模様が繰り返し刻まれていた。模様の中心から細い線が伸び、隣接する図形へつながっているようにも見える。

 石材の継ぎ目は少なく、接合部には明らかな金属部品や、一般的な工法で用いられる留め具が見当たらなかった。

 技術士官は、石柱と周囲の地面を交互に見比べた。

「石材の加工精度は極めて高い。これだけの構造を長期間にわたって維持できる工法がどのようなものか、現時点では分かりません。接合部に明確な留め具がなく、内部構造も確認できていない。既存の建築技術だけで説明するには、情報が不足しています」

「内部に金属の骨組みがあるのかもしれん。あるいは、特殊な接合材を使っている可能性もある」

 別の技術者が答えたが、その声には確信がなかった。

「いずれにしても、現時点では推測です。分解する前に、構造を記録する必要があります」

 現地指揮官は、石柱の列を見つめた。

「この島には、想像していた以上のものがあるようだな。中央部の調査を優先する。ただし、全班の位置を把握したうえで進めろ。連絡の取れない班が出るようなことがあれば、すぐに対応できるようにしておけ」

 *

 歩兵隊は、地上の石列が続く方向をたどって進んだ。山の麓へ近づくにつれて、周囲の構造物は大きくなっていく。

 地表に露出した石の壁は、樹木に覆われながらも長い距離にわたって続き、ところどころに広い平坦地が形成されていた。

 それらの平坦地は、単なる自然の空き地とは異なっていた。地面の一部には平らな石材が敷かれ、縁には低い段差が設けられている。

 森林に覆われていたため全体像は見えにくいが、上空からの画像と照合すると、いくつもの区画が一定の方向性を持って配置されていることが分かった。

 調査隊が記録を進めるほど、島の中心部には、単なる古代の集落跡では説明しにくい構造が広がっていることが明らかになっていった。

 とはいえ、遺跡の用途は依然として不明だった。住居と考えられる小規模な建物の跡は見当たらず、一般的な都市に見られる道路網も確認できない。

 円形の平坦地、独立した石柱、山地に沿って続く構造物、それらを結びつける規則的な模様。どれもが高い加工精度を持ちながら、何の目的で配置されたのかを判断できる手掛かりは乏しかった。

「この構造物群は、一般的な居住区や防衛施設とは違うように見えます。ですが、用途を断定できるだけの情報がありません」

 調査員は記録を取りながら報告した。

「遺跡であることは間違いなさそうですが、何のために造られたのかは分かりません。少なくとも、我々が知る古代アトランティス文明の施設配置とは一致していません」

 *

 その報告は、空中戦艦第二号機『デウス・エクス・マキナ』の指揮区画にも共有された。床面の表示には、上空からの画像、海底地形図、地上部隊が記録した構造物の位置が重ねられている。

 そこに映し出されたのは、森林に覆われた山地の周囲に、複数の遺構が一定の配置で広がる様子だった。

 航空観測と海底測量によって見つかった不自然な規則性は、島の中心部に近づくにつれて、より明瞭な形を取り始めていた。

 海底に続く棚状地形、地表の斜面、石柱群、平坦な区画、円形の構造物。それらが無関係なものだと考えるより、何らかの目的を持つ一つの構造群として造られたと考えた方が説明しやすい。しかし、その目的を示すものは見つかっていなかった。

 艦長は報告された画像を確認しながら、静かに命じた。

「中央部の未確認区域へ進め。これまでに見つかった構造物を記録し、すべての班で情報を共有しろ。何があるにせよ、まずは全体を把握する必要がある」

「了解」

 *

 地上部隊は最後の未確認区域へ向かった。

 中央部には、周囲の遺跡群から続く石列があった。石材の多くは土に埋もれ、森林の根がその上を覆っている。それでも、地表に露出した部分は長い距離にわたってつながり、山の麓へ向かって続いていた。

 歩兵たちは足元の石材を踏まないよう慎重に進み、人間タンクは左右から周囲を確認した。

 ガラッパ三号は必要な範囲だけ枝葉を整理し、視界を確保する。森林の奥へ進むにつれて、周囲の空気がわずかにひんやりと感じられた。木々は密集し、地面には苔が広がり、風の音も遠くなっていく。

 やがて、石列が途切れた先に、切り立った岩壁が見えた。

 岩壁は周囲の山肌と同じように苔と植物に覆われていたが、その中央部分だけは妙に平坦だった。

 自然の岩盤が割れてできたものにしては、面の広さと形状が整いすぎている。地表から見れば、斜面が崩れて露出した岩壁の一部にも見える。

 だが、これまでに発見された石柱や平坦地の構造を知る調査員たちは、その場所を見過ごさなかった。

「前方に、平坦な岩壁を確認。周囲の地形と形状が一致していません。人工的に加工された面である可能性があります」

 報告を受けた現地指揮官は、歩兵班へ停止を命じた。

「周囲を確認しろ。壁面へ不用意に接近するな。まずは全体の形状と、周辺に続く構造を調べる」

 *

 人間タンクの一機が、少し離れた位置からカメラを向けた。操縦用車輌の兵士は機体を前進させずに画像を拡大し、壁面にある細かな凹凸を確認した。

 苔に覆われているとはいえ、その下には滑らかな面が広がっているように見える。自然の岩盤ならば見られるはずの亀裂や不規則な凹凸が、そこにはほとんど認められなかった。

 歩兵の調査員たちは壁面の両端を探るように進み、植物の陰に隠れていた輪郭を少しずつ確認していった。

 すると、岩壁の中央部には、巨大な扉のような構造が埋め込まれていることが分かった。

 扉は周囲の岩壁と一体化したように存在していた。外側から見えるのは、縁に沿って続く細い境界線と、表面に刻まれた複雑な図形だけである。

 取っ手らしきものは見当たらず、一般的な扉であれば存在するはずの蝶番や錠前、開閉機構のような部品も確認できなかった。

 それは扉というよりも、巨大な一枚の石板に近い。しかし、その表面には単なる装飾とは言い切れないほど精密な模様が刻まれていた。

 円形の図形がいくつも重なり、その間を直線と曲線が複雑に交差しながらつながっている。模様は扉の中央から縁へ向かって広がり、いくつかの線は壁面の外側へ続いているようにも見えた。

 調査員の一人が、壁面を見上げたまま呟いた。

「……これは、一体何だ?」

 別の調査員が近づき、扉の表面を慎重に観察した。

「少なくとも、我々が知る建築様式ではありません。表面の模様も、文字なのか、装飾なのか、それとも何らかの構造上の意味を持つのか、判断できません」

 技術士官は測定器具を用いて扉の材質を確認しようとした。しかし、表面の組成を測定しても、明確な結論は得られなかった。

 周囲の岩盤と同じ種類の石材なのか、それとも異なる材料で作られているのか。表層の付着物や風化の影響もあり、まだ判断できない。扉の内部に空洞があるのか、どのような支持構造によって固定されているのかも、外側からは確認できなかった。

「内部に機械構造があるかどうかも分かりません。開閉機構らしきものが見当たらず、外部から動作させるための接点も確認できません。構造物の一部なのか、独立した扉なのかさえ、まだ断定できない状態です」

「何かしらの設備がある可能性は?」

「否定できません。ですが、現段階では既知の動力装置や制御装置に似たものは確認できていません。どういう原理で機能するものなのか、見当もつきません」

 *

 調査員たちは扉から距離を取りながら、表面の模様と周囲の構造を記録した。

 壁面の両側には、扉を囲むように幾何学的な溝が続き、その一部は地面に埋もれている。溝の配置は、これまでに発見された円形構造や石柱の模様と、どこか似ているようにも見えた。

 だが、共通する形状があるというだけで、同じ機能を持つとは限らない。

 技術士官は、扉の表面を見つめながら考え込んでいた。

「この模様は、単なる装飾としては複雑すぎるように見えます。しかし、どの部分が何を意味しているのか分かりません。これまでに見つかった刻印と共通する形がある一方、別の部分はまったく異なる配置をしています」

「何かを示す記号なのかもしれんな」

「その可能性はあります。ただ、我々が理解できる記号体系とは一致していません。仮に何らかの機構に関係していたとしても、今の知識では操作方法を推定することはできません」

 現地指揮官は扉から目を離さずに命じた。

「ここを最終確認地点として記録する。扉に触れるな。周囲の構造を測量し、上空と海中の情報を照合しろ。開閉の仕組みが分からない以上、無理に動かす必要はない」

「了解しました」

 *

 報告は旗艦へ送られ、空中戦艦第二号機『デウス・エクス・マキナ』の地図には島中央部の新たな調査地点が登録された。

 航空画像と海底地形図を照合すると、扉が存在する場所は、これまでに見つかった不自然な地形の連続上に位置していた。

 島の外周に見られた棚状地形、山地の規則的な段差、石柱群や円形構造物。それらが中央部へ向かって関係を持っている可能性が浮かび上がっている。

 しかし、調査隊には、それらを一つの体系として理解するための知識がなかった。ネオ・アトランティスは、古代アトランティス文明の遺産を利用し、多くの超科学兵器を運用してきた。

 だが、この島の遺跡は、その技術体系とも異なっている。石材の加工方法、建造物の配置、刻印の構造、扉の仕組み、そして全体の保存状態。どれを取っても、既知の技術から直接説明できるものではなかった。

 彼らが理解できたのは、これが人の手によって造られた可能性が高い構造物であるということ。

 そして、少なくとも一万年単位の時間が経過したと考えられる遺跡群が、驚くほど良好な状態で残されているということだけだった。

 *

 扉は、何の変化も見せなかった。光が走ることも、音が鳴ることも、表面の模様が動くこともない。

 調査隊の機材が検出できる範囲では、外部から明確に読み取れる動力の作動や、開閉に関係する機構も確認できなかった。

 その静けさは、扉が何の機能も持っていないことを意味しない。

 ただ、現時点のネオ・アトランティスには、その機能を確かめるための知識がなかったのである。

 調査員たちは扉を前に、記録と測量を続けた。彼らにとっては、未知の古代文明が残した建造物の一つにすぎない。

 扉の向こうに何があるのか、何のために造られたのか、そしてどのような原理で機能するのか。そのいずれも、まだ分からなかった。

 *

 しかし、この扉を含む遺跡群は、ただの古代建築ではなかった。

 それは、かつて世界を震撼させた古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国が残した遺産だった。

 ラヴァーナル帝国は、魔法と科学を融合させた技術を誇り、他文明とは異なる原理を用いて巨大な建造物や兵器、各種の機構を成立させていた。

 後世の人々にとってさえ、そのすべてを理解することは容易ではない。帝国が世界の歴史から姿を消して久しい今も、各地に残された遺跡は、かつての力の一端を伝えるものとして存在している。

 だが、ネオ・アトランティスは、その帝国の名を知らない。魔法という原理についても、体系的な知識を持っていない。

 古代アトランティス文明の超科学を理解し、兵器を製造してきた彼らであっても、魔法によって成立した機構を前にすれば、構造を把握するための前提そのものが欠けていた。

 彼らが目の前にしているのは、未知の文明が残した巨大な扉。そして、その扉を含む遺跡群の正体を理解するための手掛かりは、まだ何一つ揃っていなかった。

 島の中央に、古の魔法帝国の遺跡が眠っている。その事実を知る者は、この場には一人もいなかった。

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