Re.転生したら甲斐の虎の弟になった   作:淡々鬼

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川中島の戦い

 1548年9月 信濃国川中島

 

 開戦から半日ほどが経過したが、未だどの戦場でも一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

 長尾景虎、高梨政頼、このどちらかが余程の傑物なのだろう。

 2倍のこちらに一歩も退かない。

 

 これまで武田は兄上が家督を継いでいこう負けはおろか苦戦らしい苦戦もなかった。 

 故に我らは強い。

 そんな驕りがあったのかもしれない。

 だが、既にそのようなものは無い。

 

 なぜなら、今、目の前に我らより強い可能性のある敵がいるのだから。

 

 裕福な地に生まれたにも関わらずだ。

 

 武田の軍は何故、強いのか。

 

 その答えは簡単。

 貧しいが故、強くなければ敗れるが故。

 甲斐は貧しい。

 信濃は裕福。

 海のある地域はなおのこと裕福。

 

 ならば我らが奪おう。

 この暮らしから脱却するために。

 

 そのためならば我ら修羅になろう。

 

 それと同時に武士たちも考えた。

 自らが豊かになるためだけにあらず。

 これは民のための戦。

 そのためなら我らは後世に汚名を残そう。

 悪逆と刻まれようとも。

 

 これが武田の原点。

 

 故にこそ、許せないのだ。

 豊かであるにも関わらず、強いことが、貪欲なことが。

 

「戌兄上、太兄上より出陣の許可が。くれぐれも無理だけはするなとのことです」

 

「分かった。次郎。では行って来る」

 

 違うな、先ほどまでの言葉は全て詭弁だ。

 長尾景虎がどれほど強くとも、歴史に名を残していない。

 

 上杉謙信よりはマシなはずだ。

 ならば、上杉謙信が登場する前に越後を奪う。

 

 そのために信濃の支配も確立する。

 全ては兄の天下のために。

 

「幸隆!出るぞ」

 

「御意」

 

 真田幸隆、あるいは幸綱。信濃の国人領主である真田家の当主であり武田家家臣。

 私の部隊の副官をしている知将だ。

 真田という名字からして真田幸村や昌幸の一族だろう。年齢的に父親か祖父かくらいかな。

 

***

 

「面白くありませんね」

 

 景虎様が呟く。

 

 まずいと思った。

 戦に飽きかけておられる。

 

 この方は気まぐれだ、人の視点に立っていない。

 神の視点に立っておられる。

 

 私とこの方が出会った時もそうであった。

 

 あれは5年程前のことだった。

 当時の越後は長尾家の当主であり、儂の宿敵であった長尾為景が死に、その結果として各地で戦が起きておった。

 

 そんな中で一人の子供が儂の城に訪ねてきた。

 その子を見た瞬間、儂は今までどれほど小さい世界で生きていたのかを思い知らされた。

 

 故に儂は決めたのじゃこの子を支えて見せようと。

 

 決して、決して、長尾に降ったわけではない。

 

***

 

 深い霧に包まれる川中島を5百騎ほどの武者が駆けていた。

 

 その一隊の鎧兜は赤に統一され、霧の中でもよく目立った。

 

 この5百の眼前には弓をつがえた3百ほどの兵がいた。

 その後ろには高梨政頼の本陣があり、そこにも4百ほどの兵がいる。

 

 この5百の足元と通り道をよく見てみるとそこは人の血で赤く染まっていた。

 

 彼らの後方に転がる骸の数は10や20にあらず。

 高梨勢2千の内、1千の物であった。

 

「放てぇ!」

 

 赤い武者たちが3町(約300m)にまで近づいたとき、高梨勢の侍大将の声が響く。

 それと同時に数多の矢が彼らに飛来し直撃する。

 

「よぉ~し!このまま殺せ~!我らの勝ちじゃ!」

 

 侍大将が歓喜したように声を上げる。

 

 しかし、霧が晴れた時、彼らが見たのは無傷の5百と自らの死の景色であった。

 

「馬鹿な…」

 

 薄れゆく意識の中、侍大将が見たのは放たれた矢が当たる直前に燃え尽きる光景であった。

 

***

 

 右から勝鬨が上がった気がする。

 さすがは赤備え。

 

 赤備えを率いる武将といえば山県政景を思い浮かべるが、現在、赤備えを率いているのは飯富虎昌という男だ。

 この男、普段はそこら辺にいる飲んだくれの中年男性なのだが、戦になると勘の鋭さと武田家一の速度と攻撃力を持って途端に最強の武将に変貌する。

 

 では政景は何をしているのかというと影も形もない。

 強いているなら同じ政景という名前の人物はいるが、苗字が違うし背も低い。

 確か、飯富政景とか言ったかな。

 虎昌の弟らしい。

 

「皆の者、続けよ」

 

「御意」

 

 既に目の前に敵は見えている。

 数は百といったところか。

 しっかし、思いの外、接敵が早い。

 

「信定様!」

 

 見覚えのある男が声をかけてくる。

 確か、板垣の部隊にいた男だ。

 

 その身なりはボロボロで落ち武者にしか見えない。

 

「何があった?」

 

「はっ、鬼の如く強い部隊がありまして、その部隊が板垣様の部隊を中央突破し、こちらに向かっております」

 

 あの百のことか。

 板垣は甘利と並び、武田の両職を務める男だ。

 未来で言うなら会社の社長を兄上とすれば、副社長に当たる。

 

 温厚な人物であるが、百戦錬磨の老将でもある。

 そんな人物の部隊を中央突破だと。

 

「あの百だけか?」

 

「はっ、それ以外は板垣様と甘利様が抑え込んでおります」

 

「ならば十分」

 

「ここで止めるぞ!」

 

 こちらは3百といったところ、対するは百、勝機は十分にある。

 

「……なんかすごい速度で来てないか?」

 

「……来てますね」

 

「あはははは!あはははは!にゃ~!」

 

「ちぃっ!食い止めろ!」

 

 笑うという行為は本来威嚇だと聞いたことがある。

 

 しかし、ここまで笑いながら襲って来る奴なんざ見たこともない。

 

 というか、後ろの奴らついてきてなくね?

 

「一人だ!囲んで殺せ!」

 

 すっげえ、チンピラみたいなセリフが驚くほどすらすらと口から出た。

 

 う~ん、死亡フラグってやつか。

 

「貴方、強いですよね」

 

「景虎様~!急に出て行かないでください」

 

 後ろの方の連中も追いかけてきちゃったし、こちらは数人が手傷を負った程度か。

 

「幸隆、あれを止めろ。私はこいつを殺す」

 

「お身体は大丈夫なので?」

 

「不味くなったらその時はその時さ、少なくとも調子はいい方だよ」

 

「…信じまするぞ」

 

「ああ」

 

 幸隆が皆を纏めてくれる、私が死んでも問題ない。

 

 景虎に向き合う。

 

 さて、死合うとしようか。

 

「雷纏いて我が敵を討て」

 

 刀を抜く。

 白銀色の刀身。うん、相変わらず綺麗だ。

 青白い稲妻が刀身の周りを走る。

 

「さて、参る」

 

 刀の銘を『纏雷丸』由来はこの刀の玉鋼に雷が落ちた時に雷を玉鋼が纏っていたからなのだとか。

 まあ、兄上曰く、そういう石を加工して作った雷をよく通す魔剣のようなものなのだそうだが。

 

 それはそうとして、この作り笑いか本気で笑ってんのか分からん笑い顔を叩き潰す。

 

「いいですよ!もっと楽しみましょう!」

 

 その顔が狂気に満ちていく。

 それがとてつもなく恐ろしく、同時に私自身を高揚させる。

 

「いいぞ!もっと殺し合おう」

 

 逃れることの出来ない性。

 これが私の本性なのだろう。

 

 それに幻滅することなく、逆にその事実が私を高揚させる。

 

「ゴホッ…ゴフッ!」

 

 突然、口の中が血の味で染まる。

 まだまだこれからというときに、限界が来た。

 

 体調は良かったはず。

 何故?

 

 終わりか?

 まだ、楽しめていない。

 

 なにより、兄の天下を見たい。

 

 ならば、立ち止まれない。

 

「もう、終わりですか」

 

 少し落胆した声。

 

 外道になれども、人の心は忘れるな。

 

 刃を交えればそれは知り合いと同じ。

 

 見知らぬ人間にはどれだけの悪行をしても良いが、知る人間のことだけは泣かせるな、悲しませるな。

 

 誰かの言葉。

 

 祖父の言葉だ。

 今世ではなく、前世の。

 

 私はこれからも兄の天下のために多くの人を不幸にする。

 しかし、目の前の人は悲しませるな。意地を通そう。

 

 例え敵であれ、矛盾していようと。

 

「…まだ…終わらぬ…ここからだ……」

 

 景虎の表情が明るくなる。

 

 分かりやすい奴だ。

 

「勝ちは…知られることなく……ゴホッ…気づかれることなく…策を弄して…築き上げるものだよ…さて…私の勝ちでしまいにしようか」

 

 誰も気づかない。気づかせないことが条件のそれは、一種の奇跡。

 

 それは魔術。

 

 『難知如陰』策は暗闇の中に隠せ。

 

「風林火山には続きがある。難知如陰、動如雷霆。何れも兄上が使わなかった文字だ。兄上の足りない部分は私が、私たちが補う。そんな意思を持って、私の旗印はこの8字だよ」

 

 尤も、聞こえてはいないだろうが。

 

「落ちろ」

 

 景虎が馬から落馬したのを確認する。

 

 安心と同時に血が口に来たのが分かる。

 

「ゴホ…ゴホッゴホッ、ゴフッ!」

 

 クソ、血溜まりに顔がついたところで意識を失った。

 

***

 

 目が覚める。知らない天井だ。

 

 どこかの城か?

 

 喉が痛い、頭が痛い、心臓が痛い。

 

 さっきまで何をしていた?

 景虎と殺し合っていた。

 

 うん、覚えてる。

 

「あっ!目が覚めましたか。信定」

 

 なら、何故、こいつが私の目の前にいる。

 

「コフッ!」

 

 血を吐く。景虎が焦っている?何故、焦る?

 これは幻覚だ。

 多分、ストレスによるものだ。

 ……薄れゆく意識の中でそう思うのであった。




 久々に3千越えた~。目指せ平均5千字です。

 適当な人物紹介

 武田信定
 主人公。数え25歳。武田家一門衆筆頭でありブラコンでありシスコンであり病弱であり魔術師。属性盛りすぎたかな?と思う今日この頃。
 なんとか景虎に勝ったけど吐血した。景虎に会ってからよく吐血するようになった。
 魔術は主に2種類、雷は刀や矢に纏わせたり直接城門に落としたりしてる。自分も感電しかねないので自分自身には纏わないし、相手に直接落とすことも少ない。(多分サーヴァントになったらやる)陰は一種の奇跡を実行する。相手に魔術をかけているのがバレないのが条件、しばらくしたら五感を奪う。(こっちは多分、サーヴァントになったらキャスタークラスにバレたりしそう)ついでに気配を消すことも可能。(別の魔術な気がするが気にしたら負け)

 武田晴信
 お兄ちゃん。武田家当主。史実のような苦戦無く信濃のほとんどを手に入れた。弟の将来が心配。一番上の弟は病弱で結婚しようとしないし、二番目の弟は優秀なんだけどなんか心配。他の弟もなんか心配な心配性。
 多分、苦労人になる予定。
 矢が燃え尽きてたのはこの人のせい。

 武田信繁
 弟。武田家一門衆次席。史実よりも無茶する。兄二人を支えなければという使命感がある。そのうち過労死しそう。

 飯富虎昌
 赤備えの大将。現在武田家最強。この人と弟だけ晴信関係なく矢が燃え尽きるのだとか。

 長尾景虎
 ようやく好敵手を見つけたという表情。
 ついでに初めてを奪われた。

 長尾晴景
 ↑の事実をまだ知らない。
 
 宇佐美定満、真田幸隆
 軍師s。両方とも割と無理難題を押し付けられてる気がする。

 山本勘助
 暗黒微笑。他の軍師と違って主君を振り回す側。

 望月盛時
 晴信に近い頭の良さを持っているが披露する機会に恵まれない。(そもそも作者がそこまで頭良くないとかいうんじゃねえよ?)この人っていつ千代女と結婚したんだろうか。


 前と変わらず型月要素薄いですが今後もよろしくお願いします。
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