先ずは情報収集、と云うわけで、部下の中から人当たりがよく、なおかつ交渉力に長けた者を数名選抜し、町に向かわせる。
彼等が戻るまでの間、私はオースの町役場(?)へ赴き、探検の許可を得なければならない。
聞くところによると、このアビスと云う大穴に挑むには、正式な探窟家としての手続きが必要であり、そのうえで、身分証明である『笛』を授かるのだそうな。
命知らずが大挙して突撃しても良い、と云うわけではないらしい。
そもそも、探検や冒険に許可が必要とは……世界情勢やら政治やらのニオイが芬々である。
財宝なり栄誉なりを求めての探検など、列強と呼ばれる国ならどこでもやっているだろうに。
早い者勝ちの食い潰し合いに、許可も何もあったものではない、と思うのは軍人の単純思考というものなのだろうか?
考えるほどに、無性にイラつくのを感じ、軽くため息。
すかさず、火酒入りのスキットルが差し出されるが、掌でやんわりと押し返す。
「酒は要らんよ。流石にそこまで不機嫌ではないさ。まして昼日中だ」
苦笑する先は、無論、我が有能なる副官である。
断っておくが、私は間違っても酒呑みではない。多少は嗜むが。
「…左様でありますか」
流れるような動きでスキットルは奴の軍服へと消えた。
こうも付き合いが長いと、半ば冗談じみたやりとりが発生するのは当然と云える。
「しかし、少々の酒は頭脳を明瞭にする薬効ありと聞いておりますが?」
「そうまでして吞ませたい理由でも?」
「別段。ただ、閣下に不機嫌でおられては部下が委縮致しますので」
「将軍相手に多少身が竦むのは健全な兵である証だ。貴官はともかくな」
歩みを止めずに言葉のキャッチボールが続く。
目前にそれらしい建物が見えてくる。
この島嶼国家は、そう長い歴史を持っていないらしい。
庁舎たるものは、臣民を畏敬させる雰囲気を纏っているべきだ。
門前に立つ門番らしき若者に来意を告げると、さほど緊張した顔も見せず、そのまま奥へ入って担当の者に言ってくれ、との答え。
……他国の貴人にそれで良いのだろうか…?私が生まれ育った西方文化圏でこんな応対をしたら、間違いなく外交問題。下手をすれば小役人の言葉一つで国境線が書き換えられる大惨事にもなりかねぬと云うのに。
やはり、歴史の浅い国と云うものは文明が未熟なのだろうか?
ややげんなりした顔を副官に向けると、軽く首を振られた。
「閣下、我々の任務は大穴の探検であります。島の切り取りではありませんぞ?」
「…獲ってはいかんか?」
「国際社会が黙ってはおりますまい」
「我が国の領土にした上で、じっくりと攻めるのが一番やりやすいと思うが?幸いここは絶海の孤島。艦隊を呼んで哨戒させ、他国の手出しを赦さぬ状況にしてしまえばこちらの勝ちだ。そもそも、このオースを狙っている国はわが国だけではあるまい?手を緩めれば先手を打たれる可能性すらある。…危機的状況だとは思わんか?」
「思考が物騒すぎます。陛下よりの勅命にも背くかと愚考致しますが?」
「大筋では背いてはおらんだろう、私が受けた命令は『アビスの征服』だ」
「実に香ばしい思考回路をお持ちのようで……」
「言葉を慎め。仮にも貴官は私の副官だぞ?」
「全く以て難儀な立場ですな。若い頃の自分に『さっさと弾に当たってクタバレ』と言ってやりたいです」
とるに足らぬ雑談を交わしつつ、担当部署とやらに向かった。
それはもう恐ろしいほどのあっけなさで、私は『赤笛』を授けられた。
探窟家の一番のミソッカス。初心者の印なのだそうな。
…仮にも私は死と隣り合わせで生きてきた人間である。
侮辱されたような気がするが、これで良かったのだろうか?
思考が物騒ですねw