メイドインアビス・新参の白笛の物語   作:七三式全自動駄文製造機

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 設定なんかも書いたので、もののついでに『外野』目線でのお話をひとつ。


幕間劇 世界は回る経済も回る一周回って金貨に化ける

 軍国のかなりの規模の艦隊とすれ違った、と云う商船隊(と商船に倍する護衛艦隊)からの報告を受け、海商国家のお偉方が顔を見合わせていた。

 

「これは?どうすれば良いのかな?」

口元を歪めながら苦笑する初老の人物。

王国の商務尚書(経済産業大臣)、オーウェン・スタンレー卿。

手元に置かれた報告書をシルクの手袋に包まれた指先で弄び、貴重高価なクリスタル・グラスで作られたモノクルを、これ見よがしに礼服のポケットから取り出す。

「手出し無用、と伝えておけばいいだろう。軍国相手に揉め事なぞまっぴらだ」

憮然とした表情で答えるのは、がっしりとした体躯の男性、歳はスタンレー卿と同じくらいだろう。

兵部尚書(防衛大臣)のマッキンリー卿。当たり前だがフルオーダーの礼服を着ているのだが、やや太り肉の立派な体格のせいか、無理やり感が否めない。

噂では、王宮から退廷するなり上着は脱ぎ散らかし、折角のクラバットまで引きちぎるようにして外してしまうらしい。

「おいスタンレー、貴様まさか、あの連中相手にお宝の横取りなんぞ企んじゃおらんだろうな!?命は掃いて捨てる程あるが、戦費がバカにならんのだぞ!?」

身も蓋もない言葉を吐き散らす旧友に向かって、スタンレー卿はゆっくりとかぶりを振る。

「まさか。いいかね君、軍国はわが国にとって大事な大事な『お客様』だ。お互いに利のある『儲け話』ならともかく、喧嘩をする事なぞ、欠片も考えていないさ」

いかにも金の亡者が地獄から娑婆に戻ってきたような物言いである。だが事実だ。

 

 軍国と海商王国は古くからの付き合いだ。

どちらも西方諸国の中では新興国で、協力したり争ったり、付かず離れずの関係を保ってきた。

 

 500年前に新航路確立で世界中を『お客様』にした海商王国にとって、カネは持っていないが大量の『交易品』を提供してくれる、『国としての体裁を整える前の軍国』は文字通り、『仕入れ費用のかからない貴重な取引先』だったと云ってよい。

 

 もし、黎明期の軍国の人々が人並みに商売欲を持ち合わせていたら、海商王国の現在は成立しえないのだ。

 

 だが、どんな時代のどんな政権にも、対外政策で威勢のいい強硬策を叫ぶ連中はいるものである。

「あの貧乏人の山猿どもに、世界の神秘を取られても構わんのか?利益と云う利益は我が国が独占すべきだろう!国王陛下もそれを望んでおられる筈だ!」

金切り声を上げる青年。宮廷では侍従長の任についているが、どうにも短絡思考のうえイエスマンであるため、おべっか大好きな現在の王以外には嫌われている。

名前はパジェット卿である。

 

 国家が大儲けするようになってからはびこった『海商国第一主義』の影響を余すところなく全身に受け、かつ、乾燥したスポンジの如く吸いきってしまったおバカさんである。

「…では尋ねるがね、もし彼等と争うとなったら、君はどうするのだね?」

モノクルをくるくると軽く回しつつ、いかにも楽しくてたまらん、と云いそうな愉悦顔になり、スタンレー卿はパジェット卿に正対する。目の前の人間の器の軽重を眺めながら、マッキンリー卿が葉巻を取り出した。

海商王国の上流階級なら、こういう時はシガーカッターを用いるのが一般的だ。それも、高名な職人に造らせた芸術品のようなもので。

だが、マッキンリー卿は葉巻にがぶりと食いつき、頑強な前歯で易々と嚙み切ると、葉巻のしっぽを無造作にテーブル上に吐き捨てる。

「言うてみィ小僧ォ…聞くだけは聞いてやるが、もし下らん戯言なら体中の関節が一ヶ所ずつ増える羽目になるぞ?」

「おいおいマッキンリー、若者をそう脅すもんじゃないよ」

やんわりと嗜め、卓上のティーカップに手を伸ばす。

馥郁たる香りを楽しみながらお茶を一口すすり、片目を細めてカップの絵付けや造作を鑑賞する。

「言ってみたまえ。商売をするにはカネとモノが必要だが、言葉を出すのはタダだ」

云うことがいちいち銭ゲバなのだが、この飄然とした軽口(本質はついている)と優雅な所作のせいで、何故か卑しさを感じさせない魅力があった。

「ただし、強硬論を出すなら、私も陛下に推薦状を出すとしよう」

「す、推薦状ですと!?お上に!?」

「左様。『軍国相手の財宝奪取作戦』の最高指揮官として、君を推薦しようじゃないか」

「は?私を?戦いの責任者に!?」

「不満かね?宮廷内の序列では親輔将軍(しんぽしょうぐん。海商王国独特の役職で、国王のお気に入りが『絶対に失敗しない軍事作戦』を指揮する際に与えられる特別職。要は点数稼ぎのボーナス職である)は侍従長なぞよりも遥かに上だよ?実に喜ばしい出世じゃないかね♪」

「じょ、冗談じゃない!戦場にいかなきゃならないじゃないか!」

年端もゆかぬ子供のような反応である。スタンレー卿の目が更に細められ、マッキンリー卿がおもむろに上着を脱ぎ始める。

「二度言わすな、早ぅ答えィ」

威圧を飛び越して殺害予告ともとれる体で、椅子から立ち上がる。

「い、嫌だぞ!私は戦場なんかに往きたくない!私は侍従で宮廷内官だ!」

「えぇ加減にせんかい小僧・・・親輔将軍は現地に出征するンがならわしじゃ。わァが言い出しっぺならオノレのケツはオノレで拭けェ」

苛立ちが沸点に達しているのか、お国訛り丸出しになってきた。

「断る!こんな話はもういやだ!」

体当たりでドアを開け、転がるように部屋から駆け出しながら、パジェット卿は半べその顔を部屋に振り向け「このことはお上に報告してやるからな!」と捨て台詞を吐いて逃げていく。

 

 開け放たれたドアを衛士が閉じるのを眺めながら、スタンレー卿はかぶりを振った。

「全く君というやつは・・・子供を泣かせちゃイカンじゃないか♪こわいこわいおじさんだね君は」

「やかましわ・・・」

なお治まらないお国訛りで、マッキンリー卿は親友に毒づいた。

「ンでェ?実際、どないするんじゃァ?」

「どうもしない。静観だ。現状、我が国に不利益があるわけでもないしね。それに、何かと物入りになるのは軍国のほうだろう?待っていればそのうち『美味しい儲け話』が転がってくるさ♪」

その商機が訪れるのがたまらん、と言いたげにスタンレー卿はお茶を飲み干す。

ティーカップの底の茶葉を見つめ、ふと真顔になってマッキンリー卿を見つめた。表情は硬い。

「見てくれマッキンリー、このお茶ッ葉、君ならどう『ティーカップ占い』に立てるかね?」

大きく広がった最高級茶葉が、ティーカップの底に残っている。マッキンリー卿は面倒くさげにそれを見やり…

「なんじゃア?ごつい鳥が羽根広げたように見えるがのォ・・・天使が羽根広げとるようにも見えるちゅうたら、おまはンは笑うじゃろなァ」

「・・・・・・笑わないとも、天使に見えるならね」

先ほどとは打って変わった老いすら感じさせる顔になり、スタンレー卿は呟いた。

「・・・私には、翼を広げた悪魔にも見えるんだがね・・・・・・」

 

 軍国の探窟が成功するか否か?その結果がどう自分たちにかかわってくるのか?

そう遠くない未来に思いを馳せながら、二人の男は沈みゆく夕日を飽かず眺めた。

あまりに赤く、あまりに巨きく、荘厳さよりも不吉さを感じさせた。




軍国の周辺国のひとつ、世界中に海上ネットワークを持つ大国からのお話。
また、思い付きでこういった小噺も書いていこうと思います。
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