限界? 死にたい? 逃げられない! 少女たちとズタボロ最強人型兵器の明るく楽しい末期戦! 作:西園寺兼続
初回1~3話投稿、その後は完結まで毎日19:00投稿です。感想大歓迎です。
だんだんボロボロになっていく巨大ロボと末期戦が好きな異常性癖の皆さんに朗報です。そういう話です。
あと、百合というかガチレズなので苦手な方は注意してください。得意な人はもっとこっち来てください。
「お嬢さ……いや少尉どのは、なんだって憲兵なんかになったんです?」
延々と煌めく沿岸の車窓をぼんやり眺めていたところ、相乗りさせてもらった輸送トラックの運転手がそんなことを聞いてきた。
「誇らしき祖国、バルテルシア連邦に報いるためだよ」
嘘をついた。
本当はふんぞり返って女の尻を眺めていたかったからだ。というのも、我らがバルテルシア連邦軍の軍制では、女の憲兵は女性兵のいる部隊に回されることが多いからだ。つまり風紀上の理由だな。
今向かっている初めての赴任先にも、学徒兵で三名、正規兵で一名の女性がいると聞く。しかも、前者はもちろんのこと、後者も年若い娘だという。うへへ、楽しくなってきたぜ。
「へぇ、そうですかい……誇らしき祖国なんて言葉、久しぶりに聞きましたよ」
運転手はあくびを噛み殺してそう言った。こいつぜんぜん信じてないな。まぁ退屈なプロパガンダであることは、戦場を経験した者なら誰もが察していた。私も士官学校以外では聞いたことがない。
「気を引き締めないか、君。我らが軍は未だ戦争を継続中なのだから」
うへへ、楽しくなってきたぜ……なんて考えていたとは決して悟らせず、憲兵らしい文句を吐いてみる。
「つってもねぇ。ここ、バルサリカ半島が何て呼ばれてるかご存じですかい?」
「知っているとも」
知っているが、答えなかった。
流れゆく道路標識の傍に、風雨で錆び付いた『地雷注意』の看板が立っていた。主要道を外れると忠告の通り地雷が埋まっているはずなのだが、長引く戦禍の中で敷設地図の紛失や敵味方の欺瞞情報の流布などが重なり、正確な状況が掴めなくなってしまった。だが軍の上は、もうそのことを気に掛けていない。
ここは半ば、忘れ去られた戦線だ。あぁ、最高だな。
「すいやせんが、少尉殿。そろそろ降車のお時間ですよ」
トラックは海岸沿いの道路を脇に逸れ、ウォルナ川と呼ばれる川の下流近くで停まった。
「うん? まだ目的の監視所まで三キロほどあるはずだが」
「橋をねー、軍が落としちまったんですよ」
運転手がだるそうに河原を顎で示す。助手席から身を乗り出してみると、確かに鉄橋を爆破した痕跡があった。
「向こう岸に第二中隊が残っているはずだ。なぜそんなことを」
というかその第二中隊が、私がこれから配属される部隊なのだが。
「知りませんよ。落とされたのは最近です。すぐに修理しろって工兵隊がどやされてましたが、あいつらも軒並み迂回戦線に回されてるんじゃないすかねぇ……」
「冗談ではない。どうやって補給しているんだ。いや、そもそもどうやって渡河すれば」
「小舟がいくらか置いてあるそうですよ。ってわけで、降りて頂けませんか」
運転手が尻を浮かせて屁をしたので、私は自分の背嚢とサブマシンガンだけ抱えてすごすごと降りるしかなかった。輸送トラックが転回して元の道に戻っていくのを見送る。
「終わってるな」
北の空に遠い目を向ける。晩夏の青々とした山脈は、バルサリカ半島の付け根からさらに北へ広く連なっている。かつてはあの険しい山々を超えられなかったためこの半島が主戦場だったが、今や向こうに巨大な迂回戦線を築いて、壮絶な消耗戦を繰り広げている。当然、ここから窺うことはできない。
それに比べ、こちらは呆れるくらいに穏やかなものだ。何しろ、運転手のいう小舟とやらは閑散とした岸に野晒しになっていて、渡し守すらいないのだから。
「クソ……味方の背後の橋落とすとかあり得ないだろ……ッ」
悪態を吐きながら舟を川に浮かべる。いくら敵味方に忘れ去られていようと、ここだってれっきとした戦区なんだぞ。「ないと思うけど敵の攻勢が息を吹き返したら死んでね」ということか? いや、どうせこの期に及んでここでの戦闘なんてないだろうからいいんだが。うっすら雲行きが怪しくなってきた気がするぞ。
しかしこの橋跡、残骸に混じって何か輸送トラックみたいなものが沈んでいる気がするんだが。何か、うっかり橋が落ちていることに気付かず、勢いあまって川にダイブしちゃったように見えるのだが。
怖いことを考えながらえっちらおっちら向こう岸に着いた辺りで、土手越しに何か戦闘音が聞こえて度肝を抜かれた。急いで土手を駆け上がると、海沿いの高台に築かれた監視所周辺で煙が上がっていた。
「マジか……」
伏線回収が早すぎる。ふざけるなよボケが。
バルテルシア連邦軍バルサリカ半島戦線第五九監視拠点、通称『カラスの巣』。過去一年の戦闘記録はごく小規模なものばかり。一個小隊と少数の女子学徒兵で運営している、忘れ去られた戦線に相応しいささやかな監視所。今日から私の明るく楽しい憲兵ライフが始まるはずだった小楽土が、今、敵軍の砲煙に巻かれていた。
敵軍――アルビオン同盟軍の青灰色の軍服を着た機甲部隊が、監視所南側の緩やかな丘陵を登っていくのが見えた。数は装甲車一に歩兵が十。通常編成に比して出がらしのような戦力だが、問題は奴らが監視所の喉元に既に迫っていることだった。
「守備隊は何をしている!」
誰も聞いてなくたって、悪態の百や二百は出るというもの。奴らがのんびり登っている丘陵は我らが連邦軍の陣地のはずだ。塹壕だってあるはずだ。奪われたのか。守備隊は全滅したのか。
とにかく今、私は敵軍の背後を付ける位置にあった。赴任する前から『カラスの巣』周辺の戦略地図は頭に叩き込んである。単騎だろうがなんだろうが、ここで黙っている選択肢はなかった。
サブマシンガンにドラムマガジンと銃剣を装着し、まずは全速力で三キロの道のりを踏破する。きつい。四十キロ行軍が当然の軍人でも、三キロフル装備で全力疾走はきついぞ。
痛む心臓を押して塹壕に駆けこむ。幸い、敵は悠々と前進するのに夢中で、背後など振り向かなかった。転げるように塹壕の地面に身を伏せてしばし調息。監視所に続く交通壕を駆け上がる。
敵の最後尾に追いついた。正しい射撃姿勢とかレティクルの設定とかは頭から吹っ飛んでいた。とにかく指切りで引き金を絞る。発射音が壕内に反響する。最後尾の敵兵がつんのめるように倒れた。その前にいた敵兵がおっとり刀で小銃を構えるが、まだ奇襲のボーナスは続いている。続けて連射する。横髪を弾が掠めて、逃げればよかったと後悔する。けれどもう一人仕留めた。
敵部隊がこちらを向いた。装甲車の砲塔も。今度こそ逃げる。横っ飛びに、退避壕へと身を投げる。さっきまで私のいた位置を弾幕が打ち付ける。隣接する交通壕に逃げ込む寸前、後ろにノールックで手榴弾を投げ込む。爆発。敵の悲鳴とかは聞こえなかったので、たぶん足止めにしかならなかった。
頭上で装甲車の機銃が唸る。弾け飛んだ土くれが頬を打つ。「いいいっ」と自分の上ずった悲鳴が情けなくて、でも仕方ないだろう。
次は。さて、次は……まずい。敵の、アルビオン語の怒号が塹壕の中に響き渡る。何も考えられない。味方が来ない。さっきの行動は上手くやれたつもりだが、ワンマンアーミーで敵を蹴散らす訓練などしていない。そんなこと出来る奴がいたらこの戦争を終わらせてくれ。
その時、地響きがした。
巨大な足音が、丘陵の頂点から駆け下りてくる。私に追い縋る銃撃が、止んだ。
ステップから塹壕の外に顔を覗かせると、敵兵が絶叫しながら散り散りに逃げていくのが見えた。唯一、装甲車だけは、私を救出してくれた新手へと砲塔を向けている。
「……機兵」
バルテルシア連邦軍の機甲車両と同じ深緑をしたその味方は、巨《おお》きかった。敵歩兵が一目しただけで逃げ惑うのも分かるくらい、それは威圧的だった。
シルエットはほとんど人に近い。黒々とした人工筋肉帯を叩き込んだフレームを、甲冑のごとき装甲で覆ったマッシブな巨人。体長は直立して五メートルほどはある。
陸戦機甲巨兵「
〈――あの、〉
が、その機兵が拡声器越しに発した言葉は、私を心底当惑せしめるものであった。
〈士官どの、何か……命令を……〉
ずいぶんと可愛らしい女の声色だったのは、この際置いておこう。
士官殿っていうのは、つまり、私のことを言っているのか。わざわざ拡声器使ってるってことは、そうだろうな。
いや、まさかな。
〈私……命令がないと……動けないです〉
しかし我らが誇らしき祖国の最新鋭機は、そう言ったきり木偶の坊みたいに丘の中腹で立ち尽くしてしまった。
逃げ惑っていた敵歩兵が「なんかおかしいぞ」と立ち止まり、冷静に隊伍を組み直し始めた。装甲車がおっかなびっくりというように、機兵に向けて短斉射する。重厚なフレームに弾かれた銃撃が火花を散らす。
だがしかし、機兵は先任軍曹の“教育”を喰らった新兵のように、ただ立ち尽くしていた。
「はあああああああああ⁉」
虚しくも怒りの叫びを抑えきれなかった我が忍耐を呪う。いやでも呪われてるのはこっちだろう。
陣地の後ろの橋がよく分からん理由で落ちてるわ。もう無いだろうと思っていたタイミングで敵軍に攻められるわ。そのミソッカスみたいな攻撃で陣地が陥落しかけてるわ。頼みの綱の最強兵器に究極の指示待ち人間が乗ってるわ。
嗚呼、誇らしき祖国はまさに末期戦の様相を呈している。