限界? 死にたい? 逃げられない! 少女たちとズタボロ最強人型兵器の明るく楽しい末期戦! 作:西園寺兼続
機兵の何が強いって、電磁加速砲のような超兵器を運用できるところだ。アルビオンの主力戦車を正面から撃破するほどの威力を誇り、これがあってこそ緒戦を優位に進められた。
だから機兵と電磁加速砲さえあれば、『カラスの巣』がもうしばらく持ち堪えるくらいなんてことはない。勝ったなわはは。
「砲身の予備がない、だと?」
「はい、ここ最近で使い切ってしまいました」
はい、伏線回収。レニに武器庫を案内させたところ、衝撃の事実が明らかになった。
いや、衝撃というか。彼女の機兵に妙な現地改修が施されていた時点で身構えてはいた。だって、制式装備が使えないからああなっているわけだろう。
電磁加速砲は、通常の火砲よりユニットの消耗が激しい。平均四〜五発の射撃ごとに砲身を交換しなければならない。ゆえに、予備パーツの充足は死活問題だった。
「ソフィーヤ少尉が来られる以前から、電磁加速砲関連の補給物資が滞っていました。そこに最近、敵襲が立て続けにあって……無我夢中で、撃ってしまって……」
レニは武器庫の一角をどんと占める砲身を申し訳なさそうに撫でた。なるほど、こいつ自分の考えで動くとメチャクチャやって、後で後悔するタイプか。指示待ち人間と猪武者のスイッチ式とか勘弁してくれ。
「分かった。その件は仕方がなかった」
この娘のスイッチに手を掛けられるのは私だけだ。二度と暴走はさせない。兵隊としてみれば、指示待ち人間の方が百倍マシだ。
砲身がない以上、多少砲弾の予備があったところで機兵のメインキャノンは一発たりとも撃てない。となれば、代わりの武装を万端にしておく必要がある。
私は機兵のコクピットに据え付けられた機関銃を見上げた。ハッチを閉鎖できないようにしてまで拵えた、不格好な銃座だ。あんなのでも、現状唯一の機動力を備えた火砲だ。次の敵襲があった時、あれを撃てないと困る。
「あれの残弾はどうだ」
「二百発ほどあります」
「素晴らしいな」
「え、あ、ありがとう、ございます」
「絶望的状況への皮肉に決まってるだろ」
計算してみよう。この連邦軍に広く配備されている「同志たちの蓄音機」機関銃は毎分六百発の発射速度を誇るのだが、二百発ならわずか二十秒で撃ち切ってしまう。たったの二十秒でだ。二十秒後、敵は悠々自適に我らが陣地へのピクニックを始めるだろうな。
「よし、決めた。機関銃弾を確保しよう」
「え、と、どうやって……?」
私は困惑するレニに南側の丘陵を指し示した。
「君が先ほど蹴り転がした、装甲車があっただろう?」
あのアルビオン軍装甲車の車載機銃は、「同志たちの蓄音機」機関銃と同じ弾薬を使っている。敵味方で弾薬を融通できるのは奇妙にも思えるが、もともと同じ海外製の機関銃を使っていたのだからあり得る話だ。
「分かったら、機兵を出してくれたまえ」
私たちは学徒兵たちに事情を説明して、再び機兵に乗り込んだ。
「警戒を厳にしろ。敵がまだ潜んでいるかもしれん」
「了解、しました」
まだ硝煙の匂いが立ち込める丘陵を慎重に下っていく。私は後頭部ハッチから頭を出して車長の役目を請け負った。危険なうえに乗り心地が悪い。それでもレニは操縦が上手いようで、覚悟していたほど酷くはなかった。
それで、下を見る余裕ができてしまった。
「死体を踏むなよ。掃除が大変だからな」
アルビオン兵の遺体が、そこかしこに転がっている。それは別にいい。見慣れている。故郷では、というか大抵の街では、冬になれば浮浪者の氷漬けが駅やらトンネルやらに転がっていたものだ。
それより大事なのは、我々の手でこれらの遺体を回収してねば埋めねばならないということだ。放置すれば腐敗による悪臭がそこかしこに広がってしまう。気が滅入る。
にしても、どんな気分だろう。首を括るその瞬間というものは。案外、呆気ないのだろうか。
「――少尉」
ふと余計なことを考えていたら、機兵を立ち止まらせたレニに声を掛けられた。
「ソフィーヤ少尉。十一時の方角、距離七五〇、稜線近くに車影です」
「あ、あぁ……少し待て」
別に私が警戒を怠っていたわけではない。機兵の操縦士は、機兵の頭部に搭載された疑似生体視覚モジュールと己の視界をリンクさせることができる。後部座席から警戒するとしたら、むしろ足元や背後のような、頭部ユニットからの死角になる部分になる。私が上の空で警戒すべきモノを見逃したとかでは、ない。
後部座席に吊り下げられていた、観測用の双眼鏡を手に取る。言われた通りの位置にピントを合わせてみると、こちらからも確認できた。
露天式砲塔に、小口径の砲身。偵察戦車だな。威力偵察用の安い車両として大量に配備されたが、歩兵からの攻撃すら満足に防げないともっぱらの評判。無論、敵対する我らが連邦軍からは好評を博した。つくづく向こうさんも大変である。
「むざむざこちらの貧乏癖を見世物にすることもあるまい。相手はたかが偵察戦車だ、追い払え」
「それは、機関銃を使って、ですか」
当たり前のことをレニが聞き返すので、げんなりしてしまった。まさかまた蹴っ飛ばせと命じるとでも思ったか?
「そうだ、レニ兵長。撃て」
「えっと……了解、です」
短い受領の言葉の後、レニはおもむろに機関銃にかぶりつきになって凄まじい勢いで射撃し始めた。そう、連射である。ジャリジャリジャリジャリ! と音を立てて薬莢キャッチャーに空薬莢が溜まっていく。毎分六百発の発射速度を誇る「同志たちの蓄音機」を、たった二百発しかない我らが命綱を、この娘はなんとも清々しく連射しているではないか。
「待て待て待て! 点射で充分だ!」
あー! あー! 命綱が! 毎分六百発が! ジャリジャリジャリジャリって!
レニが射撃を止めてこちらへ振り向いた。
「でも、追い払えと……」
異を唱える前に止めてくれてどうもありがとう。
「相手車両の防御は機関銃に対してすら不十分なんだ。この状況で、撃たれながら命がけで偵察を続けるわけないだろう?」
「そうなんですか。了解しました」
レニは素直過ぎるくらい素直に返事をした。あぁ、素直なのはよいことだ。新任少尉をいじめない先任兵長なんて、この私には身に余る贅沢だ。帰投したらアンナに頭痛薬を処方してもらおう。胃薬もか。
しかし今一度双眼鏡で敵車影を確認すると、露天砲塔の上で兵士たちがわたわたしていた。誰か被弾したのだろう。
「レニ兵長、君は優秀な面も多分にあるな」
「えっ、ど、どうも……」
あまり嬉しくなさそうにぺこりと頭を下げるレニ。この距離で、観測補助も無しに当てたのなら大したものだ。
「次からは私も具体的な命令をするよう気を付ける。以後気を付けよう、お互いにな」
「はい……」
そうは言ったがおそらく七:三で私が悪い。部下の不始末は上官の責任。新任少尉の見栄を許してくれ。
それから私たちは先刻レニが蹴っ飛ばした装甲車の前に到着した。私が責任を持って降り、スクラップと化した車両のハッチを開けた。
良かったな、赴任初日に敵を撃ち殺した勢いの慣性が残ってて。アドレナリンがドバドバに出ているのが自覚できる。お陰様で、車内の地獄絵図を見ても吐かずに済んだ。
あいにく、砲塔機銃に装填されていたぶんは空になっていた。だが弾薬庫を検めると、一縷の希望に応えて未使用のボックスマガジンが一つだけ出てきた。息を止めたまま、それだけ引っ掴んで退散する。
「戻るぞ……」
「はい、少尉」
レニの返事は素っ気なかった。もっとこう、「お疲れ様です」とか言ってほしかった。欲を言えば、「お疲れ様です♡」が良かった。
なお、『カラスの巣』に帰投してから、今しがたレニが消費した弾薬を数えてみた。五十五発費やしていた。持ち帰ったアルビオン軍のボックスマガジンは百発入りだから、トータル四十五発のプラス。
う~ん、危険を冒してスカベンジに手を染めた割に合わない。おお、神よ、あと中隊司令部よ、寝ているのですか? さっさと増援と補給を与え給え。