クズカス退魔譚   作:こばみご

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またもや見切り発車です。よろしくお願いいたします()


生贄はつらいよ

 幕末あたりの日本に女として転生したのが俺、名をカスミと言う。前世の事は面白く無いだろうし割愛。

 

 さて、今世では捨て子だった俺は、巫女である母に拾われ、現在まで育てられてきた。この世界はどうやら妖怪が実際にいるらしく、巫女を始めとした退魔師たちが日夜奮闘しているらしい。漫画とかでありがちな奴だ。やっぱり心が躍るよね。

 

 一応俺にも才能があったらしく、駄々をこねて母から術を教えてもらったりした。魔法じみた結界術を学ぶのは楽しかったし、初めて妖怪を祓った時にはえもいわれぬ達成感を感じたものである。そのころの俺は、いつか自分が母の後を継ぐんだろう、なんて漠然と考えていたっけ。

 

『私も母さんみたいに、立派な巫女になれるかな?』

『……そうね、きっとなれるわ。でも、貴方は他の事をしたっていいのよ?』

 

 しかし、しかしである。出来ることが増えていくのは楽しいが、それにつれ母が遠くを見ることが増えていった。やんわり巫女にはなるなとまで言ってくるし。

 どうしてか聞いても最初ははぐらかされてばかりだったが……しばらくして、なんだか偉そーな人がやってきた時に、その理由が分かることになった。

 

『ふむ、この年でその霊力……今回はお主が人柱となるが良かろう』

『え?……え!?』

 

 なんとビックリ、俺は生贄に選ばれた!この世で一握りの人間にしかなれないものになれたのだ。人生何が起こるか分からんね。思わず偉そうな人を二度見しちゃったしね。ふざけとんのか。

 

 実態としては、妖怪に贄を食わせるというよりかは、命をかけて弱まっている封印を強化し直すといったもの。なんというか、結構なパワープレイだ。

 

 本当は母がなる予定だったらしいのだが……アラサーの母は全盛期を過ぎ、これから衰える一方なそうで。生半可な贄では大妖怪の封印が上手く出来ないかもしれないとかなんとか。

 母は最後までごねていたが、「いや〜もう決まったことだからさ〜」みたいな雰囲気の偉いババア。俺もやいやい文句を言ったが一蹴された。くそう。

 

『ほれ、術の修行をするよ』

『はあ……良いじゃんか、一日くらい休んだって。そうすぐに封印が解けるわけでもないんだし』

『一朝一夕の努力は、と言うだろ?そうならないためにも毎日やるんだよ』

『それはそっち側の都合だろ。とにかく俺は今日はあいでででで』

 

 それからと言うもの、俺はグレてしまった。母との会話もぎこちない。今世は女だからお淑やかにしよっかなとか考えていたがそれもやめた。入ってはいけないと言われた蔵に侵入しては禁術の教書を読み漁ったりし、かといって封印継続のための術の授業は話半分にしか聞かない。まあそれでも会得出来ちゃったんだけど。今世の俺は結構才能があった。いらねえ〜〜……

 

 俺はこのまま巫女として、程々に危険な妖怪退治をしながらもそれなりに生きていくもんだと思っていた。意外とやる気もあったのだ、だって出来たし。いざって時も、妖怪に負けて死ぬなら仕方がない、なんて思っていたけど……そんな未来も取り上げられてしまった。生贄って、なんか違うじゃんそれは。

 

 しっかし七面倒なのは、集落の人がなんだか申し訳なさそうな顔をして来ることだ。俺より年の食った男女が、そんな顔をしながら優しくして来る。それでいて件のババアに文句を言っているところは見たことがない。口では良いこと言って、裏ではきっと若い女が贄になることを喜んでいるに違いない。気に食わんね。

 

 そんな環境で育ったので、今の俺ははっきり言って余裕がない。笑顔の店員に俺のことバカにしてんのかと文句言えるくらいにはカスとなっている。名は体を表すってこういうことだろうか。

 

 でも仕方がないのだ。だって、どいつもこいつもである。力は無いし、自分が可愛いし、他人に押しつけるし。まあ大体のことは誰だってそうだろうが……しかし一番気に食わないのは、奴らがさも自分はカスではないと言う面をしているところ。その一点において俺は確実に彼等に勝っているのだ!自覚しているというのは何よりも素晴らしきことである。

 

 

 

「この辺りかぁ……」

 

 ……と、頭の中で呪詛を吐き続けているうち、とうとう大妖怪が封印されている祠の近くまで来た。実は今日、生贄当日である。これから封印継続の術を命をかけて行使しなければならない。嫌じゃ嫌じゃ、まだ死にとうない!

 

「カスミ……」

「……母さん」

 

 俺の心情を知ってか知らずか、同行していた母さんが話しかけてきた。これ以上先は一人で進まなくてはならないので、これが最後ということになる。振り返れば、黒の瞳がきらめいて見えた。決意が鈍る。

 

「ごめんね……私が代わりになってあげられなくて。ごめん……ごめんなさい……」

「……」

 

 深い後悔を滲ませて、母さんは俺を抱きしめる。そんな顔を見たくて今までやってきたわけではない。そんなことを言って欲しいわけでも、なかった。でも、仕方がないのだ。

 

「……さようなら」

 

 抱きしめ返して、しばらくそうした後。一言そう言って、俺は祠の方へと向かった。啜り泣く声を無視して。

 

 

 

 よし、逃げるぞ!やってられるかこんなこと!俺はまだ生きていたいんだ!

 

 半分冗談だが、見込みがないこともない。俺だって処刑日をただ震えて待っていたわけではないんだもんね。

 

 俺ってば才能があるので、封印継続の術をちょびっとばかし改良したのだ。封印効率が良くなり、結果、通常では命──もとい寿命を全部削るところ、たったの5割程度で良くなった。大幅なコストカット、半額でお得である。それでも死にかけるが。しかし死なないというのはデカい。

 

 封印だけちゃちゃっとして、あとはこの地を離れれば万事OK。まさか俺が生きているとは誰も思うまい。ここでの人間関係はちょっと……いや大分疲れたので遠くの方へ行こう。そして今度こそ、妖怪退治を生業にしてそれなりに生きるのだ。第二の人生。……いや、第三?

 

「はー、最強の案だねこりゃ」

 

 勝ったな、風呂入って来る。いや先に封印しなきゃだが。生贄とは思えないほどの軽やかなステップをしながら進む。母さんが見たらとうとう狂ったとか思われるだろう。心外な!

 

 さてさて、特徴的な霊木が見えてきた。あの木の下に、目的の大妖怪が封印されている祠がある。樹齢三桁はとうに超えており、霊的な力によって封印をサポートしてくれるそうな。

 

「そう考えると結構いい立地なのか、ここ……ん?」

 

 封印場所をここに決めたご先祖に感心するが……雰囲気がなんかおかしい。いやなんかどころではなくおかしかった。霊木の力が……強い。弱い、ではなく。なんというか、久々に重りを外したようなものだろうか。心なしかスッキリしている。

 

「……これが祠だよな?」

 

 そして、その下にある祠は……ボロボロで、今にも崩れそうだ。何故か焦げ跡がついていて、所々削れている。そして、そんなことよりも重大なことが、一つ。

 

 

 封印の気配がなかった。

 

 

「ほお。今回の贄はとんだ上物じゃな」

「…………。えーっ、とぉ……」

 

 白蛇というと縁起がいい生き物、というのが前世での風説だったが……今世ではそうでもないらしい。たった2匹の大妖怪が、かつて大暴れしたことがあるらしく。そのせいで同じ種族に対する風当たりは、それはもう強いものなのだそうだ。ちょっとかわいそう。で、なんでそんなこといきなり考えているのかというと……

 

 霊木の枝の上。真白の長髪を垂らし、はだけた着物を着たのじゃロリが、長い舌を出しながら、深紅の瞳で俺を見下ろしていた。それも、喜色混じりの獲物を見る目で。そう、ここに封印されしは、かつて大暴れした大妖怪、その片割れであった。名前は確か……

 

「クズハ……」

「なぁに呼び捨てにしとるんじゃ、このガキが」

 

 辺りを禍々しい霊力が漂う。重々しいそれのせいで、息をするのも苦しいくらいで……もしかしなくてもこれまずいんじゃないか?

 

「はあ……まあいい。久々の外じゃ。少し遊ぶくらいで許してやろう、かのッ!」

「ちょ待っ!」

 

 一時代を謳歌した大妖怪さん??なんで封印解けてるんですかこれおかしいじゃん聞いてないんだけどぉ!!!

 

 言い終わると同時、のじゃロリが俺に向かって飛んでくる。板状に張った結界を使ってどうにか蹴りを逸らすが、まともに受けていたらヒビが入っていたかもしれない。

 

 そして今ので祠が完全に壊れた。お前この祠壊したんか!?

 

「む……やはり霊力がほとんどないの。面倒じゃ……お主で回復するとしよう」

「マジかよ〜……もう一日待ってくれてもよかったじゃん」

「なんなら昨日には封印が解けていたぞ」

「マジかよォ〜!」

 

 前回封印かけた人が悪いのか、環境が変わったのか。どっちにせよ俺は遅かったらしい。おいババア!苦労が水の泡じゃねえかどうしてくれんだババア!

 ちなみに、俺が習ったのは『封印継続』の術。コレはあくまで1を100にするものであって、封印しなおしたい時は別途『封印』の術を使う必要がある。俺習ってない。ババア!!!!

 

 何よりヤバいのは、俺は目の前にいるこののじゃロリ━━封印されていたはずの白蛇からどうにか生き延びなければならないということ。仮にも霊力の塊である俺が喰われれば最後、こいつは超復活を果たし集落を消し去ることだろう。……まあそれは別に良いか……

 

「15歳に背負わせる重荷じゃないだろコレ……」

「その荷ごと食ろうてやっても良いぞ?ほれ、近う寄れ……」

「嫌だよ!」

「つれないのう」

 

 くそう、どうしろっていうんだ。誰かどうにかしてくれ。そう考えても、周りには誰もいるはずもなく。

 

 しかし、仕方ないのだ。俺は生贄で、相手は封印されていた大妖怪。生き延びるためには、自分でどうにかするしかない。というか、頼れる人がいない。泣きそう。

 

「……やってやろうじゃねえかチクショーッ!!」

「少しは楽しませるんじゃぞ?」

 

 半ば自棄で俺は飛び出した。大した戦闘経験はないが、漫画とかだと覚醒して上手い事切り抜けられたりするし。それが起こることを期待しておこう。そうでなくとも、この抵抗に意味があると信じて……

 

 不出来な娘ですみません、母さん──

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

「……くそ、しぶといの。阿久多牟之(ゴキブリ)のようじゃ」

「一緒にすんじゃねえ!」

 

 割と何とかなっている。なんやねん。

 

 別に覚醒イベントなんぞなかったが、結界による防御を繰り返すうち、だんだん慣れてきて意外と耐久出来ていた。それと数百年ぶりにシャバに出たせいでのじゃロリの霊力はほぼないためか、妖術を使ってこないのも大きい。つまるところ、今だけは互角だった。がしかし……

 

「仕方ない、かの」

「げ」

 

 相手の手から、炎が揺らめく。妖術だ。ごうと燃え荒れ狂うそれは、放たれるのを今かと待ちわびているようで。そりゃあ、これだけ埒が明かなきゃ使ってくるよね。威力が低ければいいんだが……そんなことないだろうし。

 

「そう無駄使いしなさんな……っと!」

 

 飛び道具を使ってくるならばこちらもと、懐から取り出したお札をばら撒く。取っておいてよかった。本来儀式に使う予定だったそれは、空中でピタリと止まったのち、相手に向かって飛び出していく。白蛇はほう、と一つ呟いたが。

 

 ぱちん、とのじゃロリが指を鳴らせば、毬程度の火球からそれよりか小さな火が飛び出していき、札とぶつかっていく。小爆発とともに札が粉々……どころか跡形もなく燃やされ、いくつか炎が俺をかすめた。みそっかすの霊力でコレかよ。思わず舌打ちが漏れる。でも、まだ策は──

 

「他愛もないの。バレておるぞ」

「っ!」

 

 ばら撒くときに何枚か結界で保護しておいた札を混ぜておき、それを背後から突っ込ませたが……しかし相手には筒抜けだった。見もせずに全て掴まれ、ぐしゃぐしゃにされる。

 

 そりゃそうだ、戦闘技術の部分では圧倒的に相手が上だろう。やっぱり勝てっこはない。なら、今まで通り防御と回避を繰り返し、ガス欠を狙うべきか。そう考えて、一歩を踏み出そうとして。

 

「っ……!?」

 

 足がもつれる。ド単純に体力不足だ。嘘だろ、サボりのツケがこんな時に回って来るなんて。

 驚いて固まっているうちに、炎弾が俺に向かって来た。避けようとするが遅い。いくつかは体に当たり、そのまま爆ぜる。体勢が崩れ、そのまま前に倒れそうになり……

 

 そしてそれを逃す白蛇でもない。彼女はあっという間に肉薄し、パンチをかまして来た。結界で防ごうとするが間に合わず、拳が俺の腹を抉る。重い。幼女のくせに。俺の体は吹っ飛び、何回か地面を跳ねた後、木の幹に叩きつけられた。肺から息が漏れ、体のあちこちが軋む。

 

「……ぐ」

「なんじゃ、もう終わりか?存外大したことなかったのぉ。フフ……」

 

 さっきまで結構苦戦してたやんけ。しかし、一瞬で形勢が傾く。これが大妖怪。痛みが渦巻いて、身体が上手く動かない。ぶれる視界で見上げれば、少しずつそいつが近づいて来る。少しでも長くいたぶってやろうとでも考えているのか。

 

 嗜虐心たっぷりの表情を見るに、碌なことにならないだろうけど……こんなのもう、どうしようも無いだろう。こっちの攻撃は通らないし、防御もろくにできない。

 

「安心しろ、村の者も同じ所に送ってやるでの」

「え……それは絶対に勘弁……別んとこにして……」

「……そ、そうか……」

 

 本当に勘弁してほしいという顔で懇願すれば、何故か困惑の表情で返された。なんでよ。

 

 ……あんなに必死こいて術を改良したのに、ここまで抵抗したのに、結局意味がないのか。くそ、理不尽だ。

 

 そもそもなんだって生贄になんて選ばれてしまったのか。皆を守るためだとか言われたが、俺は別に守りたいとか思ってない。俺からすれば見捨てられたようなものだし。本当に思い詰めていたのは母さんくらいのもので、他の奴は心配の表情に安堵が混ざっていた。さらにその裏から嘲りが滲んでいた奴も。

 

 1人じゃ何も出来ない奴ら。他人が犠牲になって安心しているようなみっともない奴ら。 ここで諦めたら、そんな奴らと同じになってしまう気がする。それだけは嫌である。死んでも嫌わよ。

 

 ……だんだんムカついてきた。今までもだが。どいつもこいつも舐めやがって。俺はあれだぞ、才能はある方なんだぞ。そう思えば、目の前にいる妖怪も倒せそうな気がしてきた。流石に錯覚である。

 

 

 でも、怒りのおかげで1つ思い出した。これなら、一泡は吹かせられる。

 

 

「まずは腕━━お?」

 

 のじゃロリが俺の左腕を掴み、そのまま引きちぎろうとするが……それ以上は動かない。否、動けないのだ。相手を閉じ込めるような結界を、腕に這わせたから。籠手のように覆うそれは空間に固定されており、彼女の動きを大きく阻害する。数秒で破られるだろうが、俺がやりたいことにはその数秒で足りるのだ。

 

「そぉい!」

「あだっ!な、何を……!?」

 

 残っていた二つの札を取り出し、一枚を思い切りのじゃロリの額に叩きつける。たっぷり恨みを込めた。そして、もう一枚は自分の額に。片手で印を結ぶ。

 

「お主、何をするつもりじゃ!」

「『死すらふたりを分かつまい』……ってな!」

 

 衝撃が来るわけでもないし変に光るわけでもない。ただ糸のようなものが俺の身体からにゅっと出てきて、相手の胸のあたりに繋がる。アニサキスみたい。気持ち悪。

 しかしこれこそが俺を生かす生命線という事になる。俺はやれと言われていないことにはやる気が出るタイプだ。蔵の禁術書を漁っておいてよかった。ビバ先祖の巫女々々。

 

「うわ、うお、おお……?霊力が流れてくるぞ。これは良…………いや待て、お主、これは……まさか!」

「おお。流石大妖怪、察しがいいな。俺(・)と(・)お(・)前(・)の(・)魂(・)を(・)繋(・)げ(・)て(・)や(・)っ(・)た(・)。『魂姻の儀』って言うんだってさ」

 

 ゆっくりと溶けていくように見えなくなっていった糸を呑気にも見ていたのじゃロリは、困惑しながらも自分の身体をまさぐった後……それがとんでもないことだと気づき初めて焦りの表情で声を荒げた。してやったりである。

 

 

 魂とは個である。それ一つで完成していて、無理に外部から干渉すると爆発四散してしまうほど脆いのだ。だから肉体という結界によって守られている、のだとか。

 

 俺の使った禁術は、札が張られた者を目標にし、先ほどにゅっと出た糸を介して魂同士を無理やり繋げるものだ。霊力等で抵抗はできるだろうが……コイツは今、それが枯渇している。まさに絶好の機会だったというわけ。

 魂が繋がって体にどんな影響があるのかと言えば、霊力やら生まれ持った特性やらが共有されたりするらしい。が、著者は繋げた時点で満足したのか、そこら辺の記述は適当であった。おいこら。

 

 まあ、ともかく。この術の神髄はそこではないのだ。少なくとも、俺にとっては。

 

「変な気起こすんじゃないぞ。簡単に言えば、俺が死んだらお前も死ぬ」

「んな……!?そんな、それではお主を食えないではないか……!」

「良いんだよそれで」

「……いや、四肢くらいなら……」

「ふざけんな!自死の方法はいくらでもあるんだからな!」

 

 片方が死ねば、この術は解ける……というわけでもない。糸のようなものを介して俺らの魂は共繋がっており、片方が死のうものならもう片方もそれに引っ張られてあの世行きとなる。人同士で繋げた命綱のようなものだ。使いようによっては強制的に道連れに出来るということ。なんとまあ恐ろしい術……蔵に埋めるのも納得である。

 

「面倒な……!さっさと解除せい、するまでなぶり続けてやる」

「死に方くらいは選べる、って言ったつもりなんだけど」

「できるのか?こんな小手先を使うて、喚いてでも生き延びたい癖に」

「実演してやろうか」

 

 俺たちは睨みあう。当然、死にたいわけなどありはしない。俺は生贄じゃない平穏な生活がしたいのだ。でも、それはコイツだってそうだろう。封印から目覚めてすぐ死ぬなんて間抜けなことはしたくないはず。どちらも、こんな場所で死ぬなんて御免だった。

 

 数秒、いや数十秒そうして、どちらともなく目を逸らす。うんざりした様子の大妖怪が、一つ舌打ちを漏らした。

 

「屈辱じゃ、こんなガキにしてやられるとは……」

「……はぁー……生きてる……まだ舞える……」

 

 なんとか……なんとか乗り切れた。力が抜け、その場に寝転がる。疲れた……寿命が縮んだ気がする。実際に縮んでもいるのかもしれない。でも生きてる。今はそれでよかった。

 

「……分かった、お主には手を出さん。だからこの術を解け」

「……解けないっす」

「は?」

「正確に言うと、解除式が作られてないんだよ」

「はぁ?」

「だからそのぉ……術を改良するまでちょーっと待って欲しいんだよね」

「はァ〜〜〜!?」

 

 のじゃロリが信じられないものを見る目でこちらを見てきた。まあ、普通は後始末のことまで考えてから術を作るものだし、当然のリアクションだろう。だが、「魂姻の儀」はまるで考えられていない。どうにかしないと輪廻を超えようが永遠に繋がっていることになるだろう。嫌である。多分、作った人はそれで良かったのだろうが……俺らは勿論良くない。

 

「や、厄日じゃあ……」

「まあほら、封印よかマシじゃん」

「そらそうじゃが……」

 

 まあ、だからこそ術式がコンパクトで素早く発動できたとも言えるから、今はそれはいい。問題は、解除するにはその式を考える必要があって、多大な時間を要するであろうこと。そして……

 

「つまり、目処が立つまでワシに童のお守りをしろと言うことか……」

「コイツが変なことに首突っ込まないように見ておかないといけないんだよな……」

 

 お互い知らぬところでぽっくり逝かれても困る、ということだ。俺だって未熟者だ、妖怪に殺されるかもしれないし……コイツは変な事して退魔師に祓われそうだし。

 

 他に生き延びる方法がなかったとはいえ、解除の目処が立つまではコイツと一緒にいなければならないわけだ。……胃が痛くなってきた。安全は保障されてるけど、大妖怪であることには変わりないしな。パシリとかやらされそう……

 

「ぐう……こんなものがなければ今頃13回は殺しておるのに……覚えておれ……」

「んなこと言わなくても忘れねえよ……」

 

 もちろん、村に帰るわけにもいかない。というか帰りたくない。なので、どうにか解除する手段を考えながら生きていく必要がある。とするとまあ、色々な所を巡るのが手っ取り早いだろう。

 

 そういう事で、俺たち二人の特に当ての無い旅が始まったのだった。片方はカスみたいなガキで、もう片方はクズの大妖怪による、壮大に無計画な旅が。……うう、無事平穏な生活にたどり着けますように……

 

 

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