どうやら金はあるらしい   作:おずわるどー

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【2025/26・第19話】もう一度見る人

九月一日、月曜日。

 

 ノア・プライスは、右インサイドハーフのところに自分の名前がないことに気づいた。

 

 ホワイトボードでは、中央の一つ低い場所へ動いている。

 

 ベルは練習用のマーカーを持ち、選手たちを待っていた。

 

「今日は、アンカーもやってもらう」

 

「右じゃないんですか? ……トップも、そこを見てるってことですか」

 

 プライスが聞くと、コーチは首を振った。

 

「今日は、受ける前の仕事。右でやってることを、真ん中から見てみろ」

 

 プライスは頷いたが、まだ納得はしていなかった。

 

 右の位置にはカールンがいる。

 

 トップチームでその場所を取るのは、今すぐには難しい。だから、別の位置を試すのだろうか。

 

 顔に出ていたのか、ベルが続けた。

 

「右をやめさせる話じゃない。場所を替えれば、今まで簡単だったことも難しくなる。それをやるんだ」

 

「できなくなる方、ですか」

 

「できるところだけ見て、終わりにするか?」

 

 プライスは首を振り、中央へ歩いた。

 

 プライスは中央へ入った。

 

 センターバックの前は、思っていたより広く見えた。

 

 *

 

 最初のパスを受けたとき、プライスは前を向けなかった。

 

 相手の一人が背中へ来る。右へ逃がそうとすると、もう一人がそこへ足を置いていた。

 

 右インサイドハーフなら、後ろへ戻す相手が近くにいる。

 

 今日は、その後ろにいるセンターバックから、自分が受けていた。

 

 プライスは足元で持ち直し、ボールを失った。

 

 後ろのシェイン・モリスが前へ出る。

 

 相手のフォワードは、モリスの肩の向こうへ走った。

 

 一本で、ゴールの近くまで運ばれた。

 

 プライスは追い、どうにか戻った。

 

 笛が鳴った。

 

「ノア、一回戻れ。相手が二人いたぞ。その間で、本当にもらいたかったか?」

 

 ベルが聞いた。

 

 プライスは最初に立っていた位置へ戻る。

 

 モリスがボールを持ち、相手役が二人で中央を閉じていた。

 

「いや、右へ……ここへ動けば」

 

「動いてみろ」

 

 プライスは二歩ずれた。相手役がついてくる。

 

「真ん中、空きます。シェインが行ける」

 

 プライスはモリスの前を見た。

 

 自分がずれれば、センターバックが運べる道ができる。

 

 プライスはモリスへ手を出した。自分へ出す前に、そこを運べる。

 

 再開後、彼は右へずれた。

 

 相手がついてくる。

 

 モリスが前へ出た。

 

 プライスは、そこで初めて戻り、短いパスを受けた。

 

 前を向く余裕があった。

 

 前線のトム・バレットが走った。十六歳のフォワードは、パスを待ちながら何度も中央を見た。

 

 プライスの縦パスが、バレットの前を速く転がっていった。

 

 キーパーが捕る。

 

「強いよ。俺、まだそこにいない」

 

 バレットが言った。

 

「遅れないように出したら、ああなった」

 

「遅れるのも困るけど」

 

「じゃあ、ちょうどよく出せって?」

 

「そう。それ」

 

 バレットは平気な顔で答え、もう一度スタート位置へ戻った。

 

 プライスはベルを見た。

 

「受ける前までは、見えたんです。前を向いてから、トムが走ったら早く出さないとって」

 

「次は、あいつの二歩先じゃなく、近い方へ。最初に前を向けたところは変えなくていい」

 

 ベルはボールを返した。

 

 モリスが、相手役の位置へ入る。

 

「さっきより先に出たら、俺もついていくぞ」

 

「言わなくていいから」

 

 バレットが返した。

 

 プライスは一度、周りを見た。ボールを受け、身体を開く。

 

 バレットが走った。

 

 モリスも動く。

 

 今度は、近くへ出した。

 

 バレットが受けたが、モリスが外側を塞いでいた。シュートを打てず、後ろへ戻す。

 

「今の、打てた?」

 

 バレットが聞いた。

 

 モリスは首を振った。

 

「そっちへ行く足だった。だから、待った」

 

 バレットは自分の足元を見た。

 

「次は、逆もあるから」

 

「それを見て決めるよ」

 

 モリスが答えた。

 

 プライスは戻ってきたボールを止めた。

 

 今のパスは、相手へ渡らなかった。ただ、それでゴールへ行けるとは限らない。

 

「もう一回、同じところからやっていいですか」

 

 ベルへ聞くと、コーチは時計を見た。

 

「二本。今度は、トムが下りたら、ノアが前へ入れ」

 

「俺、戻して終わり?」

 

 バレットが聞いた。

 

「終わるな。もう一回、ゴールへ向け」

 

 バレットは頷くより先に、モリスの立つ場所を見ていた。

 

 *

 

 モリスは十六歳だった。

 

 同じ年代のセンターバックと比べ、まだ身体の厚みが足りなかった。相手のフォワードへ正面から当たると、先に押し返される。

 

 夏の初め、本人はそのことを気にし、家でも筋力の練習を増やしていた。

 

 ベルが知ったのは、脚が張って動きの重い日が続いた後だった。

 

 今は、新たに育成年代を担当するスタッフが、練習と身体の成長を一緒に確認していた。

 

 モリスは、渡された自分用の計画表をロッカーへ入れている。

 

 隣の選手と、同じ回数をやらなくていい。

 

 それが最初は、弱いと言われたようで嫌だった。

 

 しかし、余分にやめろと言われた翌週、脚の重さが抜けた。身体を寄せる前に、もう一歩動けるようになった。

 

 今日はバレットが背中を向けて受ける。

 

 モリスは正面から押さず、半歩横へずれた。

 

 前へ向く道だけを閉じる。

 

 バレットが無理に持ち直した瞬間、足を入れた。

 

 ボールが取れた。

 

 自分より強い相手でも、同じ場所で勝負しなくてよかった。

 

 ベルは遠くから親指を上げた。

 

 モリスはすぐには笑わず、パスを出した後で、少し口元を緩めた。

 

 *

 

 エレナ・パイクがリードへ提出した最初の報告書には、見送った選手の名前もあった。

 

 常勤として迎えられてから、同じチームを続けて見られるようになった。

 

 一試合目で目立った大柄な選手が、二試合目ではあまり動けなかった。足を痛めていた。逆に、最初はボールへ触る回数が少なかった小柄なサイドの選手が、次の試合では相手の前を何度も塞いでいた。

 

 オーウェン・ヒューズ、十五歳。

 

 地元の地域クラブで右サイドバックをしている。

 

 速さは抜きんでていない。クロスも、何本も正確に上げるわけではない。

 

 ただ、味方の中央が外へ出たとき、自分がその後ろへ絞る。誰かに指される前に、空いた場所を見つけていた。

 

「招待しますか」

 

 パイクが聞くと、リードは映像を見直した。

 

「まず、本人と保護者へ説明しよう。見ることと、入団を決めることは分けたい」

 

「ええ。今のクラブにも連絡します」

 

 パイクは頷いた。

 

「以前なら、今日、別の地域へ行っていました」

 

「もう一度見る時間がなかった?」

 

「そこへ行くより、新しい名前を探せと言われることが多かったです」

 

 リードは報告書を閉じた。

 

「今回は、もう一度行ってください」

 

 パイクは手帳へ予定を書いた。

 

 金があることで、同じ選手をもう一回見る、という仕事を選べた。

 

 *

 

 その日のトップチームでは、ヴォルフが初めて練習を担当した。

 

 正式な加入後、最初にしたのは、最終ラインを大声で動かすことではなかった。

 

 マーサー、フェンウィック、オコンネルを呼び、右へボールが出た場面で、それぞれが何を見るかを尋ねた。

 

 フェンウィックは、ウォードの背後を指した。

 

 マーサーは、中央のフォワードを指した。

 

 オコンネルは、自分の外の選手を指した。

 

「三人とも、見るものは合っています」

 

 ヴォルフは三人の間を歩いた。

 

「でも、自分の隣が何をしたかを知りません。ジョージが出たら、ダン。ダンが動いたら、サム。順番を聞いてください」

 

 彼は、フェンウィックが出る前に短く声をかける決まりを置いた。

 

 出る。

 

 中央。

 

 逆。

 

 長い言葉ではない。誰かが動いたことを知らせるためだった。

 

 マーサーは一度やってみて、首を傾げた。

 

「相手が早く入れたら、言う前に出ることもあります」

 

「出ながら言ってください。隣は返事より移動が先。叫び合っている間に、相手は蹴ります」

 

 フェンウィックが笑った。

 

「ダン、返事がないともう一回言うんだよな」

 

「聞こえたなら動けよ! お前が返事だけするからだろ」

 

 マーサーは言った。

 

 ヴォルフも笑った。

 

 次は、フェンウィックが出ると同時に短く声を出した。

 

 マーサーが中央へ寄る。オコンネルは逆側の選手を見ながら、少し内側へ入った。

 

 相手役は中央へクロスを入れられず、戻した。

 

 ブアリは、その前でボールの道を塞いでいた。

 

 自分が一人で全部を見なくても、後ろが動く音があった。

 

 *

 

 九月三日、水曜日、ヒューズと母親が施設を訪れた。

 

 プライスは、廊下で二人とすれ違った。

 

 新しい選手だろうかと思った。

 

 母親は手に紙を持ち、リードから説明を受けていた。学校との連絡、練習へ通う方法、参加する場合の予定。

 

 すぐに入団を迫る話ではなかった。

 

「送り迎えは、毎回は難しいです」

 

 母親が言った。

 

「仕事の終わる時間が、日によって違うので」

 

 リードは頷いた。

 

「参加を続けることになれば、クラブの移動支援を使えるか確認します。来られないことを、本人の意欲の問題にはしません」

 

 ヒューズは母親を見た。

 

 自分のために仕事の話をされるのが、少し嫌だった。

 

 しかし、リードは本人へ向き直った。

 

「今日は、どんな練習か見て、少し入ってもらいます。できなかったことも、後で話そう」

 

 ヒューズは頷いた。

 

 プライスは自分の靴を持ち直し、ピッチへ向かった。

 

 新しい人間が来る。

 

 トップチームだけの話ではなかった。

 

 *

 

 ヒューズは、最初のパスを失敗した。

 

 強さが足りず、相手へ渡る。

 

 すぐに追いかけたが、ベルは、ボールの場所ではなく中央を指した。

 

 ヒューズは足を変え、中へ入った。

 

 相手の縦パスを足へ当てた。

 

 派手ではなかった。誰かが拍手したわけでもない。

 

 パイクは脇で、その場面に時刻を書き込んだ。

 

 プライスがボールを拾い、前へ運ぶ。バレットが裏へ走った。

 

 速く出すと、バレットは一度で右足へ置き、シュートを打った。

 

 外れた。

 

「トム、打つ前に顔を上げろ!」

 

 バレットはゴールを見たまま手を上げた。返事はしなかった。

 

 自分が一番点を取ることを、何より大切にしていた。シュートを打てば、少なくとも何かを示したことになる。

 

 次の攻撃でも、似た場所へ来た。

 

 モリスが先にコースへ身体を入れた。

 

 バレットは打ちかけ、足を止めた。

 

 後ろからプライスが来る。

 

 戻した。

 

 プライスが右へ渡し、ヒューズが外へ走る。

 

 バレットは、もう一度ゴールの方へ向かった。

 

 低いボールが来た。

 

 合わせた。

 

 入った。

 

 ベルは笛を吹かず、次へ進ませた。

 

 バレットは走りながらヒューズを見て、手を上げた。

 

 一度打たなかったことで、自分のシュートが近くなった。

 

 *

 

 練習後、プライスは映像の部屋へ呼ばれた。

 

 ヘイルがいた。

 

 トップの監督が自分の映像を見ていると分かると、急に椅子が落ち着かなくなった。

 

「アンカーはどうでしたか」

 

「きつかったです。右へ出せた、と思ったら、前が空いてて。自分もそっちへ走りかけました」

 

 プライスは画面の中央を指した。

 

「ここへ戻らないと、次、誰もいないんですよね」

 

 ヘイルは頷いた。

 

「右インサイドハーフだったら、どうしますか」

 

 プライスは画面を見た。

 

「走る前に、中を見ると思います。誰かに戻したいのに、俺までいなくなったら……今日みたいになるので」

 

「毎回残る必要はありません。ただ、誰がそこにいるかは確認してほしい」

 

 プライスは頷いた。

 

 ヘイルは一つの場面を戻した。

 

 プライスが受けずに右へ動き、モリスが中央を運ぶ。

 

「これは、いい判断でした」

 

 プライスは膝の上の手をほどいた。

 

「ボールは、受けてないですけど」

 

「その後、前を向いて受けました」

 

 画面が進む。

 

 強すぎるパスが、バレットの先へ流れていった。

 

 プライスは苦笑した。

 

「最後、強すぎました。トムに文句言われました」

 

「そこは練習しましょう。前を向ける場所を作ったことまで、失敗にしなくていいです」

 

 監督も笑った。

 

 トップチームへ上げるとは、言われなかった。

 

 しかし、戻ってからやってきたことは、ここまで届いていた。

 

 *

 

 ヒューズの母親と次に話したのは、リードと生活支援の担当者だった。

 

 サラが、新規の参加者の相談を現場のコーチだけに持たせないよう、窓口を整えていた。

 

 母親は、初日に受け取った紙へ質問を書き込んでいた。

 

「参加を続けても、入団できるとは限らないんですね」

 

「はい。逆に、参加して、本人が今のクラブへ戻りたいと思うこともあります」

 

 リードは答えた。

 

「今日は、そのどちらかを決める日ではありません」

 

 担当者は、通える曜日を確認し、送迎の対象となる区間と集合場所を示した。

 

 母親は一つずつ読んだ。

 

 ヒューズは隣で、膝の上の手を動かしていた。

 

「僕は、来たい。次も来たいです」

 

 彼が言うと、母親は頷いた。

 

「だから、来られる方法を聞いているの」

 

 リードは、本人へ練習の感想を尋ねた。

 

 最初のパスを失敗したこと。

 

 中へ入って一本止めたこと。

 

 バレットへ低く出したら、点になったこと。

 

 ヒューズは、順番を思い出しながら話した。

 

「あの、遅いと思われましたか? 前へ出るとき、中も空いてたから、どっちか分からなくて」

 

「いつ?」

 

「味方が持ったとき。中へ残るか、外を走るか、迷って」

 

「そこは、次に聞いてください。何も考えずに遅れたとは見ていません」

 

 ヒューズは顔を上げた。

 

 パイクが書いた報告が、そこまで伝わっていた。

 

 帰る前に、母親がリードへ尋ねた。

 

「学校には、いつ話せばいいでしょう」

 

「まず、継続参加の日程が決まったら、クラブからの説明も用意します。本人に全部伝えさせる形にはしません」

 

 母親は、持っていたペンをしまった。

 

 ヒューズは立ち上がり、廊下の窓からピッチを見た。

 

 入れるかどうかは、まだ分からない。

 

 ただ、次に来られる日は、もう相談できていた。

 

 *

 

 その翌日、モリスは、バレットと一対一の短い練習をした。

 

 身体を当てて奪う回数を増やす代わりに、相手の前へ入る位置を変えていく。

 

 バレットは、わざと足元へ来ると見せて、逆へ走った。

 

 一度、モリスが遅れた。

 

 次は、身体を寄せる前に半歩空け、相手が向く方向を見た。

 

 追いつけた。

 

 担当者が時計を見て、時間だと告げた。

 

「もう一回、だめですか。今の、もう一回やりたいです」

 

 モリスはマーカーから足を離さなかった。

 

 担当者は首を振った。

 

「予定どおり終える。明日も同じ速さでやりたい」

 

 モリスは少し不満そうに頷いた。

 

 以前は、自分で増やした練習を、誰も全部は知らなかった。

 

 今は、やり足りないと思う日にも、次の日のことを考える人がいた。

 

 ベルは、片づけながら声をかけた。

 

「シェイン、今日は終わり。一本、止め方が増えたろ。明日も同じ脚で来い」

 

 モリスは顔を上げた。

 

 バレットがボールを抱え、待っていた。

 

「明日は、そっち行かないからな!」

 

「今、言った。じゃあ逆だろ」

 

 二人は笑い、建物へ戻った。

 

 *

 

 九月六日、アカデミーの試合で、バレットは前半に二度外した。

 

 一度目はキーパーの正面。

 

 二度目は、近くにいたプライスへ返せば前を向けた場面だった。

 

 ベンチのベルは、腕を組んだまま見ていた。

 

 後半、バレットがまた同じ場所へ下りた。

 

 プライスは、今度は近づきすぎなかった。

 

 フォワードの背中へ相手が来る。

 

 バレットは前へ向くのをやめ、一度戻した。

 

 プライスはボールを受け、そのまま出さず、相手の足が動くのを待った。

 

 バレットが走り直す。

 

 パスが通った。

 

 ゴールへ入った。

 

 バレットはプライスを振り返り、両手を上げた。

 

 試合は二対一で勝った。

 

 二点目は別の選手が取った。終盤はモリスが相手の大きなフォワードに何度も当たられたが、最後の一本は身体を横へずらして止めた。

 

 ベルは、三人をまとめて褒めなかった。

 

 バレットには、戻して走り直したこと。

 

 プライスには、パスを出す前に相手を動かしたこと。

 

 モリスには、当たる場所を選んだこと。

 

 それぞれに、違う仕事を伝えた。

 

 *

 

 プライスの母親は、帰りの車で結果を聞いた。

 

「勝ったよ! トムに出したやつ、あれ入った」

 

「あなたは取ってないの?」

 

「俺は出す方。今日は、あれがよかったんだって」

 

「よかったじゃない」

 

 プライスは窓の外を見た。

 

「それと、来週、またトップの練習に行くかもしれない」

 

 母親が、一度だけこちらを見た。

 

「決まったの?」

 

「まだだよ、まだ! 一回だけ。ベルが監督に話すって言っただけだから、みんなに言わないで」

 

 プライスは、言葉を慎重に選んだ。

 

 母親を喜ばせるために、まだ決まっていないことを大きく言いたくはなかった。

 

「今日は、先に見えたんだ」

 

「何が?」

 

「トムが走る前の、相手の足」

 

 母親は頷いた。

 

 よく分からなかったのかもしれない。

 

 それでも、続きを聞いてくれた。

 

 プライスは、信号を二つ通り過ぎるまで、その一本のパスを説明していた。

 

 家へ着く頃には、母親も、最初に相手がどちらを向いていたかを尋ねるようになった。

 

 プライスは手で二人の位置を作り、もう一度説明した。

 

 話しているうちに、自分が見ていなかった逆側のことを聞かれた。そこは、分からないと答えた。

 

「じゃあ、次はそこも?」

 

「全部見ようとすると、たぶん、また何も見なくなる。ベルに聞く」

 

 母親は笑い、車のエンジンを止めた。

 

 プライスは鞄を取り、次の練習で聞くことを携帯電話へ一行残した。

 

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